聴いたこともないサウンドを作る。それはいつもエクスペリメンタルデュオMountainsの Koen Holtkamp、そしてBrandon Andereggが目標に掲げている事だ。ギターを様々な手法でアブストラクトな形のものに変えていく、5枚のアルバムを通して、まさにアンビエントミュージックとしてカテゴライズされる存在にまでなった。「ある時、三人の知り合いに言われたんだ。僕たちの音がお手本になっているって。」と Andereggは The Village Voiceのインタビューで言っている。今回のPlaying Favoritesのシリーズをみて分かるように彼らが影響を受けたアーティスト達は、彼ら同様、新しい物に目がない人たちばかりだった。

Charlemagne Palestine
Four Manifestations on Six Elements
1974

Charlemange Plestineの音楽経歴は長く、興味深いですよね。なにか具体的な理由があって、この曲を選んだのだと思うのですが。

Koen Holtkamp: とりわけ彼のピアノ演奏が好きなんだ。この曲を選んだのは、彼がエレクロニックなものとピアノを混ぜ合わせているから。ただのピアノの独奏ではなくて、より広い視野で制作された作品だね。

自身の作る音に似ているという理由の他に、Charlemange Plestineがあなたを魅了する点はなんでしょうか？

Brendon Anderegg: 僕たちにとって、アコースティックギターの音を何十にも重ねる事は、とてもシンプルな旋律を様々な音階を使って重ねて作り上げたあのリッチなテキスチャーに似ていると感じているんだ。あれは、本当にリッチなサウンドなんだ。彼の音楽の作り方が僕たちのギターの音色と関連があるだろうっていうのは、いつも話をしているよ。

Koen Holtkamp: 僕が思うに、僕たちのフィンガーピッキングは、彼のピアノの弾き方にとても影響を受けたと思う。民族音楽よりも大きな影響だった。

お二人の音楽を知らないという人にとって、あなた方の音楽をアンビエント系のジャンルで、他のものと一緒だと感じることもあるでしょう。あなた方と Charlemagne Palestineは、他のアーティスト達とは明らかに違う様々なことをやっていらっしゃいますが、表面的類似性を感じるのは否定できません。今までプレッシャーを感じたり、または自身を他のアーティスト達と識別したいという欲求はありましたか？アンビエントお得意の要素を抜いたりという事は？

Brendon Anderegg: 僕が言いたい事は、どんなジャンルでも色々な音で溢れているよね。一年間ぐらい、楽器音が一切入っていないような曲を聴いていたんだ。当時「なんで、殆どの曲はベースとギターとドラムで一杯なんだ」って感じていたんだ。僕たちデュオは元々サウンドアートに着目していて、二人ともエクスペリメンタルミュージックを大学で学んでいた。ああいったものの要素を学んでいた事もあって、僕たちの音が存在するんだと思う。コンテンポラリー・シンセ界で、他の人たちが何をやっているかなんて考えるのはちょっと嫌だね。そういう事にばかり意識を置いてしまうと、自然に音楽なんて作れないよ。

Mountainsの音楽制作について、今後の予定などはありますか？

Koen Holtkamp: アイディアはあるよ。より多くのアレンジを取り入れた音楽制作をやりたいね、とは話をしているんだ。他の人も参加させてね。でも、まだ話だけの段階だよ。自分たちの事で今は手一杯なんだ。

Luc Ferrari
Presque Rien
1995

Presque Rien はフィールドレコーディングだけで作られたんですよね？

Koen Holtkamp: そうだよ。他のものと比べても、とても繊細な感じだね。あの曲の殆どが様々な場所で録音されていて、それを1つの作品にしたものなんだ。抽象的で物語風というよりも、おとぎ話のような感じなんだ。個人的にも、そういった部分に今とても興味があるよ。この世の中に存在している音を知り、それを記録に残すんだ。

Brendon Anderegg:僕にとって、フィールドレコーディングは、音の中にある様々な詳細を理解させてくれる存在なんだ。自然界に潜む何か特別な事をわからせてくれる。その音を自分の手で複雑な物へともっていく過程がとても面白いよ。

フィールドミュージックをきっかけに音作りをするのですか？それとも音を先に作ってからフィールドレコーディングをするのですか

Koen Holtkamp: どちらでもないかな。最近はフィールドレコーディングを行っていないんだ。でも日常の生活で録音をして、それを貯めていくことはしているよ。

Washington Phillips
The Key to the Kingdom
2005

最近では、クオリティーが良いか否かが判断基準になっていると思います。現代多くの人がそういった忠実性から離れた作品を作っていますが、このレコード（20年代中旬に作成）もそうと言えるでしょう。自分の音源に忠実であることを心がけていらっしゃいますか？Washington Phillipsの作品からはプロダクションの忠実性という点に魅力を感じますか？

Brendon Anderegg: なんて言ったら良いかわからないなぁ。昔の音源には、ある種の懐かしさがあるから、是非は問えないな。とても良いクオリティのもので、聴いてみたいとは思うよ。僕たちも音源の質を最大限に良いものにしようと努めている。僕たちにとって、音の品質はとても重要な事なんだ。音源がロウファイだと、演奏自体が良くても、曲の細かい音が聴こえないっていうこともある。そういった場合は、もうどうしようもないから、その質のまま聴くよ。

Koen Holtkamp: Washington Phillipsみたいな古い作品と、現代の作品には大きな違いがあると思うんだ。個人的には、今の人はひとつひとつのサウンドを作るのにとても時間をかけていると思うんだ。

Washington PhillipsとMountainsとは似ている点があまり見受けられません。彼の音楽に影響は与えられましたか？

Brendon Anderegg: 曲のインストルメンテーションそしてメロディーの要素は、まるで生のギターみたいだ。初めてこのレコードを買った時、マレットを自分たちの音楽で頻繁に使っていたんだ。レコードを聴きながら、ギターを使ってどうやったらあんなサウンドを生み出す事ができるのか考えていたよ。結局、彼みたいな音をギターを使って作り出す事はできなかったけど、あの出来事が僕に多大な影響を与えてくれたのは確かだ。

Oren Ambarchi
Suspension
2001

Brendon Anderegg: 僕たち二人が活動し始めたとき、こういった曲を良く聴いていたんだ。ギターを使って、そのあと音に手を加えるような人たちさ。でもOrenは、コンピューターでの作業なしだったんだ。一体何なのか特定できないような音だ。しかもその音がギターから来ているなんて...僕に大きな影響を与えてくれたよ。どういってギターをアブストラクトな方向へ持って行くか教えてくれた人だ。

Koen Holtkamp: 彼は誰しもが親しむ楽器の可能性を拡げてくれた人だ。

Brendon Anderegg: 曲を作りはじめた当初、今まで聴いた事がないようなサウンドを作れるという事実にただ驚愕していた。もちろん、こういった音楽を本格的に作っている人なら、どういったプロセスを踏んでこのような音に辿りつくのか予測はできるんだけど、ただのリスナーなら、今まで聴いた事のないこの音はどのように作られているのかなんて想像がつかない。当時の僕もそんな気分だったよ。だから、芸術の形態よりも、サウンドに夢中になったんだ。

僕自身、初めてMountainsのライブを見た時、曲中の殆どの要素がギターから来ている事に正直驚きました。ギターはあなたがたにとって、重要なものなのですか？

Brendon Anderegg: ずっとアコースティックギターを弾いているし、音楽作りにおいてもギターを使う事は多いよ。ギターを原材料として使うことは他の楽器の場合と大違いなんだ。長い時間をかけてギターの音を追求しつづけている。

Koen Holtkamp: あとは、ギターそのものの形が好きなんだよね。ノブを使ってチューニングするのも好き。けど、ギターを基にして音を作るとなると、本当に様々な表現方法があるんだ。キーボードのサウンドとも全く違うし、感触もだ。ギターは共鳴するための道具、自分の肌を通して音符が出てきているのが分かるんだ。僕はそこにとても魅力を感じている。

William Basinski
The Disintegration Loops
2003

William Basinski:の作品は、プロセスに重点を置いているようです。それが彼の基礎ともなっているみたいですが。あなたたちも、プロセスを第一に考えるのですか？

Koen Holtkamp: アブストラクトなサウンドという意味では僕たちと彼の音には共通点があると思う。概念的な話をすれば、「The Disintegration Loops」のようにプロセスを軸に作品を完成へと導くという事は僕たちの音楽作りの基礎では必ずしもない。だから僕たちはプロセス指向の音楽を作っているとは思えないね。

Brendon Anderegg: 一つの音を全く違ったものへと変えてしまうという側面があるよね。この曲なんかも、オリジナルと比較してしまうと全く違ったサウンドなんだ。とても美しくて、他の人が使っているような楽器で全く違うものを作ったという感じかな。

Koen Holtkamp: 僕たちは、何かが変わっていく瞬間を観察するのが好きなんだと思うよ。例えばギターやチェロの生の音がどんどんとアブストラクトなものに変わっていくとか。

この曲を聴くと、あなたたちのライブショーを思い出します。何かの音が変化していくのを感じられて。またリスナーの観点から、お二人とも毎回違うことをやっていましたね。ライブ演奏用に既に作曲されているような、それともあれは即興なのですか？

Brendon Anderegg: 事前に作曲したものだよ。曲を作るとき、平坦なものと様々な展開があるものだと印象が全く違うだろ。一方で、僕たちのライブは、レコードよりも展開を多めにしているよ。ライブの方がオープンでアイディアを拡げやすいんだ。

Koen Holtkamp: 同じことをやるのは難しいこともあるから、作曲されたものと即興の中間をやっている感じだ。全体の構造は事前に決めてしまっているけれど、どのくらいの長さにするかっていうのは、イベントごとに全く違うんだ。オーディエンス、スペースそしてサウンドシステムを観察しながら、それに共鳴するようにしている。例えばメロディーは、特に変化が見受けやすいと思うんだ。ある晩はとても激しかったり、とても繊細な時だってある。Mountainsは元々ライブプロジェクトを目的に結成されたんだ。レコードを作るなんて思ってもいなかったよ。パフォーマンスで、ライブでどういった音楽が出来るか、そういったものをフォーカスしていたんだ。

Laurie Spiegel
The Expanding Universe
1980

「The Expanding Universe」 はコンピューターだけで作られた曲。なんと曲中にはパソコンのプログラムで出来たサウンドもある。

Koen Holtkamp: 初期のコンピューターミュージックの魅力は、とても人間的な所。とてもナチュラルで、ロボット的な要素を感じないんだ。

昔のコンピューターミュージックらしさというものは未だ存在していると思いますか？それとも、もう失われたと思いますか？

Koen Holtkamp: まだ存在しているけど、バリエーションが増したとは思うよ。同じテクノロジーを使っている人も沢山いるから同じようなサウンドが沢山ある。70年後半のあの当時、彼女みたいに曲を作っている人は殆どいなかったんじゃないかな。だからこそとてもユニークだったんだと思う。別にもうコンピューターミュージックは面白くないっていう意味ではないし、今でもああいったものを使って面白い事をやっている人はいる。僕たちも最近では、モジューラー系統の機材を使ったり、パッチを作ったりしているよ。こういった所謂システムを作る事で、例えばギターやキーボードで弾いたキーがお互いに作用することができるし、まるでライブパフォーマンスとシステムミュージックがバランスを保ちながら存在しているようだよね。そういう事に最近とても興味があるんだ。

Mickey Newbury
Frisco Mabel Joy
1971

これはカントリーソングであるという事だけしか知らなかったのですが、まさかこんなサウンドだとは思ってもいませんでした。特に始めの三曲なんて、背景に潜む明るいサウンドが何とも言えません。

Koen Holtkamp: 僕のお気に入りの一枚だ。心を打ちのめされるね。プロダクションの観点からいっても、とても面白いよ。殆どのストリングパートがシンセサイザーだと思っていたんだけど、実はボードに直接突っ込まれたペダルスチールの音なんだ。彼はテープが好きじゃないから、これだけの音を録って入れたんだ。

Brendon Anderegg: 同じジャンルでも、ひと味違うんだ。とても気分が落ち込むような雰囲気も持っているよね。

Koen Holtkamp: 心が置いてきぼりになる感じかな。彼の歌い方なんて....

Brendon Anderegg: 僕たち二人ともTownes Van Zandtを良く聴いたよ。こう、気分が落ち込む曲が好きなんだと思う（笑）。

Mountainsの曲には、様々な感情が込められていて、とてもポジティブです。そのような感情は意図的にそれとも、自然と出てきたんでしょうか？

Brendon Anderegg: 自然にてできたものと言えるね。特に曲が長いと、なぜだかポジティブなエネルギーが曲に入ってくるんだ。マイナー系のキーを使うこともあるけれど、多くの場合ポジティブな曲調になるよ。曲のアイディアができてセットを組む時、一番始めにやることはチューニングだ。ギターのチューニングをし直して、気に入ったキーを選ぶんだ。そのキーを軸に曲作りを始めるよ。僕たちのサウンドは、ポジティブとネガティブの丁度真ん中だ。暗すぎず明るすぎず、ちょうど良いバランスを取っていくよ。こういった音楽が大好きなんだ。