Motor City Drum Ensembleはとにかくぶっ飛んでいる。ケルン在住の若いハウスプロデューサー、彼はドラムマシンRoland TRに夢中だ。（最近808を売ってしまったらしいが）彼のコレクションはそれだけに留まらず、Emu, Novation, Korg, Casio そして Veromonaにまで至る。Plessowの評判はドラムだけではなく、そのサンプル力だ。「The Raw Cut」シリーズでは、ソウル、ジャズそしてファンクレコードからサンプリングしており、モダンハウスクラシックの一部となっている。モダンという言葉から想像できないかもしれないが、彼はまたアナログ機材も数多く所有している。しかしながら先月末、彼を呼び出した際に聞いた話によれば、サンプリングという音楽方法をやめ、シンセサイザーによる実験の連続にふけっているようだ。

ドラムがキッカケで音楽の道へ進んだと聞きました。それはいつ頃だったのでしょうか？

16か17歳の時だよ。4人兄弟で、うちの家族のルールは必ず楽器を弾くことだったんだ。どんな楽器でも良かったんだけど、とにかく僕はドラムに一目惚れした。子供にとって、あんな音量も見た目もデカイ楽器って魅力的だろう？

では、少年時代はずっと？

そうだね、十年間くらい。面白いか悲しい事なのかは分からないけれど、それからドラムを売って、プロ専用のモニターを買ってしまったんだ。Genelecsだった。今もの凄くドラムが恋しいよ。実は、また買おうか迷ってるんだ。

モニターの他には、何を買ったんでしょう？

イースターの時に叔父から、もの凄く安いシーケンサーを買ってもらったことはあるよ。あれは90年代だったね。テレビのCMでも「ミュージシャンになってみないかい？さぁ、プロデューサーになる時だ！」なんていう歌い文句で売られていたやつ。 Magix Music Makerといって、もの凄く安くて正直めちゃくちゃつまらないんだ。でも、良い点もあったよ。eJayや90年代もののシーケンサーとかもあったんだけれど、MagixはSamplitudeの一番シンプルなものだった。つまり、なかなか良いソフトウェアだったわけだ。ただ、付属のサンプルを使うべきじゃないっていうだけ。自分で色々なサンプルが入れられるから、とても安いアレンジ品だったってこと。

では、どのようなサンプルを使っていたのですか？

最初は色々なものを取り込もうとしていた。11歳の時は自分で買ったCDや兄のジャズ系のCDなんかをサンプルとして使ったよ。あとドラムの先生からもらったドラム専用練習CDなんかも。しばらくして、DJがレコードからサンプリングをするという事を雑誌か何かで見たんだ。それからはレコードを買いあさったね。

その時をきっかけにして、音楽に対して本気になったと？

そうだね。でも当時DJカルチャーについてあまり多くは知らなかった。むしろ興味の矛先はプロダクションだったんだ。僕の生まれ育った街（シュヴェービッシュ・グミュント）にはクラブなんてなかったし、シーンはもちろん無かったよ。レコードショップやGroover とかDe;Bugのような雑誌がちらほらあっただけ。僕の興味はむしろDJ Shadowみたいになる事とか、当時のNightmare On Waxのような音を作ることだった。ああいったサンプリングの多いアブストラクトなヒップホップビートを作ろうと必死だったね。
パートナーのJoachim Tobiasとタグを組んで、Inverse Cinematicsというバンドを作ったんだ。その後友達を通してシュットゥットガルトのレコードレーベルとの契約に至った。彼等にはトラックが入ったCDを4、5枚渡して、一曲気に入ったものを選んでもらったんだ。結局コンピレーションにその曲も収録され、それが僕らの初めてのリリースだったよ。2000年くらいだったと思う。
それからというもの、僕のモチベーションは上がりまくりだったんだ。クラブとの出逢いだよ。初めてDJカルチャーに触れて、レコードがどういう風に使われてるかっていうのを初めて見たんだ。クラブに行って気づいたことがある。自分の表現したいもの全てを曲に入れなくても良いんだという事をね。

あなたのドラムによるアンサンブルについてお聞きしたいことがあります。初めて使ったドラムマシンは何でしたか？

TR-626。安いROMみたいなもの。でも505みたいにとてもクラシックなサウンド…例えばシカゴ系のベースドラムやクラップが入っていて、707を超お買い得セールで購入したかんじだよ。

今ではTRシリーズの殆どをお持ちですよね？

うん。前は全部持っていたんだけど808は売っちゃったんだ。

TRシリーズはそれぞれ使い分けをされているんですか？

あぁ、もちろん。909が僕のメインの機材だよ。808を売った理由はMIDIが無かったことかな。909はJunoのアルペジオと一緒に音を作ったりできるし、909に搭載されてるシーケンサーはどんなタイプのドラムマシンにもマッチするんだ。だからMIDIを使って他のシンセサイザーも操作することができるという点で僕も909を頻繁に使っている。909が持っている「あの」感覚を感じる事ができるし、とってもセクシーだ。606のハイハットもお気に入りだよ。TRシリーズは殆ど全て使用した事もあるし、色々手を加えたこともある。909の愛用者は一杯いるけど、オリジナルで他の人とは違うサウンドを生み出すこともできる。

オリジナルなサウンドを作るコツは？

ボコーダを入れたり、コンプレッサーを入れる。Facebookとかで頻繁に「どうやったらあんな生っぽい音が作れるんですか？」なんて聞かれたりする。909を使っている奴らからも。別に難しいことなんかないだけどね。ただ、安いコンプレッサーを通してトリガーしたり、テープで録音するだけなのになぁ。もっと生々しい音も色んなやり方で作れるよ。

他のドラムマシーンも使いますか？

例えばEmuから発売されているDrumlatorかな。安いLinnDrumみたいなもの。でもLinnDrumに音はそっくりさ。クラップもしょっちゅう使うし、Vermona DRMというこれまた変てこりんな小さい機材があるんだ。とてつもなく可笑しい音を出すんだ。

どんな感じなんですか？

Rolandのドラムとは180度違うんだ。キックとドラムがおならの音をしているみたいだよ（笑）

他の音と重ねて使用したことはありますか？

実はあるよ。全ての音を一つにまとめようとしたんだ。ドラムマシン全てを同時に使えるようにね。でも、それはまた難しい話だ。 Schneiders Bueroが行っている方法があって試してみたんだけど、100％正確ではないし。理想型が瞬時に出来上がってくれていたら良いのになぁ。

ジャズからもの凄い影響を受けたと聞いたのですが、最近でもかなりの頻度でジャズのレコードをサンプリングしているんですか？

MCDEを使ってだと2つの方法があるけど、続けるかは分からない。「The Raw Cuts」シリーズの全てはサンプリングがベースになっていて、その時レコードからのサンプルを全てCubaseに入れたんだ。一方ではシンセなどを使った、よりエレクトロニックな音がある。だから、僕がレコードショップにどのくらい行くかで、サンプリングの量も変わるんだ。まだ懲りずに行ってるけどね。

「Raw Cuts」では、サンプリングしか使っていないということですか？

いや、ドラムマシンも使ったよ。それ以外のメロディー的要素の部分は全てサンプルだ。

使ったサンプルの例を教えていただけますか？

Raw Cutsの二番目の曲は、お気に入りではないけれど、 Frankie Hooker & Positive People “This Feelin'"のリエディットだね。あの一曲だけが、サンプルに頼ったものだったと思う。他の曲ではベースドラムに重点を置かないようなサンプリングをしたよ。サンプリングをしていても、オリジナリティーを出したいんだ。けれどたまに、どのレコードを使ったか当ててくる人たちもいて、驚いたりするよ。

サンプリングの際、一小節全てを取るんですか？それとも本当に一部だけ？

全部を取るよ。一秒くらいのシェイカーの音の時もあるし、8小節まるまる使うときも。肝心なのは自分の作る曲に合うか否かだ。習慣にしていることなんだけど、2週間に一回、その時期に買ったレコードを全部聴いて自分が好きだと思った箇所は全て録音するんだ。だからサンプルのコレクションはかなりのものだよ。

どのようにして、そういったサンプルを利用するんですか？

「Raw Cuts」で頻繁に行ったことは、サンプルを完璧に調節すること。オクターブとかをね。特に Fender Rhodesのものとかは、ダブルオクターブにした。一つのトーンしかなければ、自分でコードを弾くんだ。サンプルだから、長さも調整しないといけない。タイムストレッチはしないよ。そのままにしておく。

以前読んだインタビューでは、ずっとハーモニーを習得したい気持ちがあるんだとか。

僕のピアノの腕は素人並みだよ。ピアノのレッスンをいつか絶対に習いたいとは思っているけどね。将来的に自分の想像している音楽を自分の手のみで作り出したいね。間違いと練習の連続だけれど。ハーモニーやコードの弾き方は分かるけれど、演奏はできないんだ。ソロで弾いたり、不協和音なんかは作れない。つまり今の僕は、30分くらい練習してやっと弾けるっていう感じかな。即興は得意じゃないんだ。

コードは、、全くそれとは違うだろ？マイナーセブンであろうがなんだろうが、自分の表現したい音の事は理解できているよ。基礎的なマイナー・メジャーだけじゃない。時として、そういった音楽理論から遠ざかることもしているよ。音楽を作っている人たちのルールみたいなものを無視することは良い時もあるよね。

60, 70年代の雰囲気を形にしようとしてると言えますか？

それはあるね。ああいう年代のもつ音楽に対する美学だけじゃない。ああいった特別なサウンドを掴むことが僕の目標でもある。つまり、一回で全てを録音したいんだ。ミュージシャンを呼んで全て一回で音楽を作りたい。アナログ機材にもすごく興味があるよ。ローズピアノもね。一回で録音するのが夢なんだ。

ビンテージ風のサウンドを作るために、post-production（＝編集過程）でやっていることは？

僕が持っている大きな問題っていうのが、最近皆がやっている"post-なんちゃら"っていうやつだよ。MIDIとCubaseまたはシーケンサーだけで全てをやってしまうこと。それには直接的な、生々しいものっていうのが伝わってこない。僕は、もう手を加えようがないものを作ることが好きだ。ミキシング、コンプレッサー等という意味でのポストプロダクションでは、僕は正直上手な方ではないんだ。もうすこし詳しく勉強したいけれどね。

それはエンジニアサイドを主にやってると？

そうだね。「Raw Cuts」では、良い意味で適当だったおかげで、特別なものになったんだと思うよ。クリーンで完璧っていうものは無視したんだ。

シンセサイザーについての話をしましょう。DX7があなたのMCDEコードの定番なんですよね？

お気に入りのシンセサイザーだよ。最近Floating Pointsとも話をしていたんだけど、ツアーも最近は多い分、そのお陰で機材も沢山買えるようになるんだけど、これまた時間もないんだ。DX7は以前の方が使っていたけれど、それでも素晴らしいシンセサイザーだよ。他のものとは全く違う音がするし、色々なものに対応できる。80年代のハウス系サウンドなんかも突然できちゃったりして、「わぁ！これか！」っていう風になる。

それを使いこなすのに時間はかかりましたか？FMは他のものと全く違うと思います。

スクラッチからパッチをプログラミングすることはできないよ。だから、僕のやることは、自分の持っているパッチを編集するだけ。気をつけていることは、インターネット上にあるもの何でもかんでもアップロードしないことだね。基礎を分かりさえすれば、それほど複雑なものではないんだ。インターフェースも良くないしね。でも80年代のシンセ全てに言えることだろう？

他にはどういったシンセサイザーを使われることが多いのでしょうか？

僕はいつもそうなんだけど、様々な機材をとっかえひっかえ使用するんだよ、常日頃から。僕の定番で今思い浮かぶものといったらMatrix 6かな。

こういったフレーズでは、これを使う！といった事は？

それはあるよ。例えば、Monorailに関していえば、ベースラインは殆どRolandのMc-202を使っているよ。あれはSH-101にシーケンサーが付いたものと考えてもらって構わない。DX7はね、[Sequential Circuits] Prophet VSを使って多くのサウンドを作ってるよ。あれは、ベクターシンセのようなもので、Prophet5と同じフィルターを使用しているんだ。だから最近DX7を使わないんだよね。

Doepfer Modular Systemもお持ちだとか。モジューラーシンセサイザーについては詳しいですか？

そんなに沢山は持っていないよ。Junoを持っているとしよう。それの基礎を理解して、VCOをVCFと一緒に使う仕組みとかVCAと他のものを接続させるとかね。モジューラーも一緒。自分で組み替えなければいけないというだけだよ。だから使っている。Doepferの特徴として、あれの持つ音はとてもクリーンなんだ。テクノに持ってこいのシンセだね。今よく使っているけれど、リリース音源なんかはないよ。

モジューラーシンセは、ハウスミュージックに属したものだという考えはお持ちですか？

まぁ、時と場合によるね。モジュラーを使う人って殆どテクノやアブストラクト系の音を作るよね。あと、掲示板や知り合いからモジュラー系の大きな機材を買うけど、殆ど皆が機材オタクだ。あぁなってしまうのも分かるよ。カッコイイ音をあのシンセサイザーから生み出すのには本当に時間がかかるんだ、特に大きな機材を扱う時は大変さ。Doepferにも限界があるよ。オシレーターとフィルターも2つずつしかないから、そこまで複雑でもない。それでもやはり大きな機材だから、何時間も睨めっこしないといけないんだ。同じものは二度と作ることができないしね。

アイディアや曲が出来るのは早い方ですか？

そうとも限らないよ。セッションを多く取れるような機会があれば、じっくりと色々な事を試してみる。とくにモジュラーや、ちょっと複雑な仕組みをしたシンセサイザーとかね。DX7のプラグラミングには、相当時間がかかるし。

一日中、スタジオで作業をするとしましょう。どんな流れになるんでしょうか？

何かやらなければいけない事があれば、それをやる、リッミックスとかね。なるべく早く終わらせるようにするかな。生産的なアプローチ、曲作りを例に挙げれば、まずベースドラムから作りはじめるとかね。何か自分の為にやる場合は、リラックスしながらローズピアノでハーモニーの確認なんかをするよ。
決められたコードやピアノがあれば、MIDIを使ってシンセサイザーに全て入れてしまって、シンセの中のかっこいいサウンドを探して、そこからドラムマシーンを通して音楽を建設していく。サンプルも入れたりもするね。100％同じアプローチなんてないよ。ジャムセッションも大好きだ。

ツアーを通して自分の音楽制作にどのような影響が出ましたか？

自分の時間をしっかり持って、音楽的方向性がはっきりしないまでは、何もやらないことにしたんだ。だからリミックスの依頼が来たのはパーフェクトだったよ。何かをやらなければいけない状況に追い込まれるし、すでにアイディアが存在しているから。アイディアにくっついていきながらも、様々な実験ができる。

使わないようにしているサウンドなどはありますか？

あるよ。「Raw Cuts」の7、8、9、10や、安っぽい決まったフレーズを使ってお金を稼ぐみたいな事はしたくないね。ネタが一つしかない芸人みたいになってしまうからね。