もし仮にあなたがStefan Marxの名前を知らなかったとしても、ここ数年の最も良質なハウスに対してある程度の注意を払っていたら、彼の手掛けたアートワークはかならず目にしているはずだ。ここ5年以上ものあいだPlayhouse、Mule Musiq、Endless Flight、そしてStefanが専属デザイナーとして全てのアートワークを手掛けるSmallvilleといったレーベル群のジャケットをエレガントに彩ってきたのがStefanによる作品なのだ。自身のデザインカンパニーLousy Livinを率い、スケートボーディングをこよなく愛するStefanの作品はもちろんレコードジャケットのみに留まらず、彼はTシャツやスケートボードのデッキ、本、版画、彫刻なども幅広く手掛けており、そのどれもが一目で見てStefanの作品だとわかる個性を放っている。今回RA10周年パーティーのモスクワ編における限定版ポスターのデザインをStefanへ依頼するにあたり、RAのRoss JacksonがSkypeで彼をキャッチしてそのとめどなくあふれるアイデアの源泉を辿った。

「ポケットにはいつもペンを忍ばせるようにしてるんだ。もちろんデスクトップでもどこでも、すぐにペンを取れるようにしてあるよ。まずノートを開いて、シンプルなモチーフを書き留めていくんだ。僕にとって、イラストを描くことは非常に自然な行動で、たとえば旅行している最中でも飛行機を描いてみたり、自分の似顔絵を描いたりしてる。スケッチブックと僕のいちばんのお気に入りのペン、PentelのStylo MLJ20が仕事道具ってわけさ。ペンで描いた時のはっきりとした白黒のコントラストが好きなので、鉛筆は使わない。あと、ちょっとしたミスタッチもあえてそのままにして活かすのが好きかな。だから、鉛筆で下書きしてそれをペンでなぞるようなことはしない。いつでもペン1本で一発勝負さ。ちょっとぐらいミスタッチがあったとしても全く構わない。それも作品の一部だからね」

「僕が描くイラストの多くは、引用から成り立ってる。僕の好きなバンドの詞なんかをモチーフにしてね。僕は詩人じゃないから、なにもないところから言葉を思い浮かべたりはできない。好きな曲の詞のなかから、心にひっかかるセンテンスをピックアップして、その時々で僕の生活を取り巻く状況とコネクトさせるんだ。これだけだと詞をイラスト化する作業ってとこだけど、僕はさらにそこへ自分自身のフレーズも混ぜていくんだ。音楽こそそこには入ってないけれど、レコードはそこにあるって感じで楽しいよ。僕がイラストのモチーフにするバンドは、僕が10代のころに好きだったバンドばかり。Pavementとか、Ariel Pinkとかさ。たとえそのバンドを知らない人が僕の描いたイラストを見たとしても、そのイラストで引用されて書かれた詞は見る人の生活にもきっとどこか共通する部分があるはずで、そこがおもしろいところだね。あと、僕のまわりにいるアーティストの作品から引用することもあるよ。Lawrenceの作品からはいくつか引用したことがある。僕の作品自体は白い紙かキャンバスに描かれる。その下に描いたテキストも含めて、全てを黒く塗りつぶすんだ。とにかくインクは沢山使うね」

「Tシャツのデザインをはじめたのはまだ10代で学生だったころ。その頃からスケートボードにハマってたんだけど、スケートボードのシーンっていろんなブランドがあってそれぞれに特別なデザインスタイルやイメージがあるでしょ。最初はプレーンな無地のTシャツに直接イラストを描くところから始めたんだけど、まわりの友達もそれを欲しがるようになってね。しばらくしてからお姉ちゃんにお金を貸してもらって、シルクスクリーンでTシャツを刷り始めたんだ。いま僕が自分の会社Lousy Livinでやってることとまったく変わってないけどね。Lousy Livinでは毎年2シリーズのTシャツを作ってるんだ。もちろんいまはそれが立派な商売になってはいるんだけど、どこかまだ趣味の延長でやってるような気分もあるよね」

「Lousy Livinを通して、ハンブルグのスケートボード関連のブランドとも仕事をするようになった。そのひとつがCleptomanicxっていうブランドで、僕が最初にデザインしたデッキは彼らのところから発売されたんだ。僕のアート作品が知られるようになって、ヨーロッパ全体のスケートボードシーンと繋がりが出来て、小さなブランドとも連絡を取り合ってる。ロンドンにMark Fosterっていうスケーターの友人がいるんだけど、彼がやってるLandscape Skatebordsにもデッキのデザインを提供することになってる。アメリカのスケーターブランドとも仕事をしてるし、こうやって好きな分野で仕事が出来てハッピーさ」

「カラーの作品は自宅のスタジオでやるようにしてるんだ。カラーをやるにはそれなりの道具が必要だからね。
使う道具は主に水性の絵の具とインク、エアブラシ。取りかかる前はあれやこれやとアイデアを練るんだけど、いったん描き始めるとそれほど好き勝手に描くわけじゃないんだ。それでもインスピレーションの作用自体に変化は無いけどね。トピックやテーマはその作品によってそれぞれ異なるけど、それもどんなメディアを使うかによって変わってくるからね」

「ジャケットのデザインに関しては、その音源を聴きながらアイデアを練ることもあるし、まったく聴かずに描くこともある。たまに、ミュージシャンの友人たちが僕のスタジオへ遊びにきて、たまたまそのとき目にした作品を彼らのリリースに使わせてほしいって頼まれることもあるよ。Julius SteinhoffやPeter Kerstenの場合は、彼らが僕のところへミーティングに来たついでに僕の作品を見て、彼らのサウンドにフィットしそうなアートワークを選んだりするんだ。Christopher Rauがアルバム『Asper Clouds』をリリースするとき、僕はどんんなデザインをジャケットに持ってくるべきか凄く悩んだのを憶えてる。というのも、その音楽がすごくスペシャルで興味深いものだったから、正直どうすればいいかわからなかったのさ。Christopherがうちのスタジオへ遊びにきたとき、例によって僕の描いた作品をぱらぱらと見ていたんだけど、夕暮れの光景を描いたある1枚の画に彼は心奪われたんだ。結局その画をジャケットに使うことになった。人によっては作者である僕自身の思いもよらないところに心打たれたり魅力を感じたりすることもあるわけで、Christopherはまさにそのケースだったと言えるよね」

「子供の頃は、とにかくレコードジャケットを夢中になって眺めていたっけ。とくに、Iron Madenのジャケットデザインが好きで、結果的にIron Madenの大ファンになった。8歳か9歳くらいのことだったと思うけど、Iron MadenのTシャツがお気に入りでよく着てたな。彼らの音楽というより、あくまでもジャケットデザインが好きでしょうがなかったんだ」

「IsoleeことRajko Müllerは僕の親友のひとりで、僕と同じくハンブルグに住んでる。お互い知り合う以前から、彼は僕のデザインしたTシャツなどを通して僕のことを知ってくれていたみたい。2005年に彼が『We Are Monster』っていうアルバムをリリースするときにジャケットのデザインを僕に依頼してきたことがきっかけで仲良くなった。恥ずかしい話だけど、当時そのアルバムが彼にとって久々にリリースされるアルバムで、とても期待されている作品だったってことも知らなかったし、彼がどれほど偉大なアーティストかってこともよくわかってなかった。当時はAtaがPlayhouseのアート・ディレクション全般を統括していたので、まず彼に連絡をとってみたんだけど彼はすべて自由にやらせてくれてね。おかげで僕がはじめて手掛けたジャケット・デザインはすごくうまくいった。いざそのレコードがリリースされると、もの凄い評判になったね。Mule MusiqのToshiya Kawasakiが僕にアートワークを依頼してきたのもそれからだった」

「Julius Steinhoffともすごく仲が良いよ。2004年に彼がSmallvilleのレコードショップをハンブルグでオープンするときに、彼から店のロゴデザインを頼まれたんだ。しばらくしてショップ主催のパーティーもやるようになって、ごく自然な流れで僕もそのフライヤーのデザインも担当するようになった。ご存知のように、やがて彼らはショップの名前と同名のレーベルを立ち上げることになるんだけど、当然のようにそのジャケットデザインなんかも僕がやることになってね。立ち上げ当時、SmallvilleはPlayhouseやMule Musiqのように有名じゃなかった。だからこそ、僕らは妥協することなく自分たちの好きなようにやろうって決めたんだ。個人的には、レコードジャケットのデザインは一連のアート作品のようなものだと考えてて、しかもそれが印刷複製されるっていうところにもおもしろさがあると思ってる。幸い、僕がデザインを手掛けたSmallvilleの作品はそうした価値を得ていると思う。でも個人的にCDは嫌いだから、CDのジャケットデザインはやりたくないね。僕はとにかくアナログの12インチのサイズが大好きなんだ。CDは大きさが足りないし、プラスティックのケースに覆われてて紙に直接触れることができないから味気ないよ」

「今回作成したRA X パーティーのためのポスターでは、スモークとストロボライトに囲まれて踊っているシーンをチョイスした。ハンブルグでは一時期スクワッター（不法占拠）パーティーが頻繁に行われてて、そこでは地下の狭いフロアーで凄く強いストロボの光りが明滅してて、スモークマシンからはずっと煙が吐き出され続けてた。とにかくクレイジーで、ものすごいヴォリュームで音楽が鳴り続けてた。当時僕もそのシーンをモチーフにしたシリーズを描いてたんだけど、今回のポスターデザインにもそのインスピレーションを活かしてみた。ロンドンのパーティー行ってたLawrenceも、ポスターは素晴らしい仕上がりだったって言ってくれたよ。素敵なチャンスを与えてもらって嬉しいよ」

RA Xについて

Resident Advisorの10周年を祝い、世界10都市で記念パーティを開催します。それぞれのパーティでは異なるヘッドライナーを招き、その驚くべきラインナップはパーティ当日になるまでアナウンスされません。

このパーティに伴い、各都市での開催ごとに私たちの愛して止まないデザイナーたち10人にそれぞれポスター制作を依頼し、その各ポスターはスクリーンサイズの限定版として各パーティーで販売される予定です。ひとつのデザインのポスターにつき、制作する枚数は限定75枚。ぜひ、このユニークな芸術品とも言えるポスターをゲットしてください。モスクワでのパーティーについてはRAのイベント経由でポスターとチケットの予約が可能です。