Blackest Ever Blackというレーベル名は、よほど真剣にその名を付けていなければほとんどお笑い草のようにも聴こえてしまいかねない。FACT magazineのエディターでもあるKiran Sandeが主宰するこのロンドンのレーベルはしかし、非常に真剣で頑なまでにポーカーフェイスを保っている。彼らの使命は、「リスナーに何かを感じさせる」 —— それに尽きると言えよう。そして、これまでこのレーベルからリリースされた4枚のレコードは確かにそれが嘘偽りの無いものだと証明している。Raimeはダブの影響を受けた4/4テクノトラックを披露しつつ、他の誰にも似ていないサウンドを創り出し、Tropic of Cancer（Camella LoboとJasperことJohn Mendezによるプロジェクトだ）は黒いレースと蠟燭を連想させる漆黒のサウンドを仕立て上げる。このレーベルから次にリリースを控えているのはかのRegisによる実に10年ぶりとなるソロ・リリースのほか、10月にはRaimeによる新作が予定されている。同じく10月には初のレーベル・パーティーが予定されている。RAのTodd L. Burnsがレーベル主宰者のKiran SandeにEメールを送り、この謎めいたレーベルの秘密を探ろうと試みた。

あなたがBlackest Ever Blackを立ち上げようと思った理由はなんだったのでしょう？既存のシーンにあなたのレーベルが埋めるべきギャップ——それが妥当な表現かどうかはわからないのですが——がもし存在したと仮定すれば、それは何だったと考えますか？そしてRaimeというアーティストはどのようにして発掘したのでしょう？

誰だって何か新しいことを始めるときは、個人的な動機に基づくものだろ？俺の場合、罪悪／嫉妬／報復といったネガティブで攻撃的な感情がその動機だと言ってもいいね。もちろん、こうしたネガティブな感情がレーベルにとっての恒常的な推進力だとは言わないけど、そのきっかけのひとつになったこと自体は否定できない。まあ、動機はそれだけじゃないよ。言ってみりゃBlackest Ever Blackはあるひとりの男がタバコを止めようとする、その葛藤と苦しみをサウンドに置き換えたようなものなのさ。ともあれ、自分でレーベルを始めたいってアイデアはもともとあったんだけど、当初はこういうレーベルにしたいっていうアイデアもそれほど固まってなかったし、最初に考えてたレーベル名もくだらないもんだった。でも、ある親しい友人を通じてRaimeの音楽と出会ったときからすべてのアイデアが固まったって感じになったね。奴らのトラックを聴いてとにかく凄くショックを受けて、「これは俺の手で世に出さなきゃ」って思ったんだ。で、幸いにも俺の周りには興味も野望も物の感じ方もひっくるめて同じ方向を向いて共感できる友達もいたし、じゃあいっちょやってみるかって感じでいよいよレーベルが動き出したんだ。

俺たちはひとくちに同じ嗜好やバックグラウンドを持っているというわけじゃないけど、総じて分裂症的で見栄っ張りなところがある。もっと重要な共通点は、俺たちみんなが同じような不満を抱えながら生きてるってことさ。現代のインターネットの喧噪よりも、地球そのものが持つ力に癒しや救いを感じるんだ。ドゥーム・メタルやドローン・メタルみたいな音楽に魅力を感じるのもそのせいかな。俺はもともとインダストリアル・ミュージックが好きで、いまのBlackest Ever Blackとも共通するダークな性質を持った'70年代〜'80年代前半の音楽にハマりきってた。それがRaimeの音楽に出会ってさらに加速させられたんだ。俺自身の嗜好とRaimeの創る音楽をこれから現代にコネクトさせて、世に問う…っていう作業はまだまだこれからさ。使い古された言い方に聴こえてしまうのは承知で言うけど、アンダーグラウンドから這い上がろうとする音楽ってのはまるでタイムトラベルみたいなもんさ。リスナーはその時間軸のなかで自由に行き来できるんだ。

ゴスやインダストリアル、ポストパンク影響下のハードエッジでエクスペリメンタルなレコードにおいて、ドラムサウンドや攻撃的なシンセ、狂ったリヴァーブでリスナーを驚かせるのは常套手段みたいなもんでさ。まあ、せいぜいB面の埋め合わせみたいなインストで入ってたり、ひどい出来のアルバムに1曲でもそういうのが入ってたら新鮮だけどね。でも、可聴音域ってのはその音楽の一部分でしかないからさ。ドゥーム・メタルに関して言えばときには過剰な音としての存在そのものだったり、その内容やストーリーこそが本質なんだ。俺が言ってるのは言語的にもヴィジュアル的にも豊富な隠喩が含まれた種類のレコードのことなんだけど、そういうレコードは音楽自体が何らかのアイデアを提案してるし、特定の何かを意味してるって思うんだ。たとえばSNDのレコードは完全なインストで隙間だらけの音楽だけど、Christian Deathのリリックと同様に魅力的だし饒舌だろ。言葉がなくたって、サウンドの存在そのものや質量で十分表現できるってことさ。まあ、ミニマリズム的な生活のおかげで俺自身もちょっと「レス・イズ・モア（構成要素が少なければ少ないほど表現力は増す」的な思想にとらわれすぎてるってとこもあるけどね。繊細さだったり影の部分だったりに着目したいんだ。

何かが行き過ぎている、って疑問に思ったんだ。それまで自分がその一部だと思い込んでいたダンス・カルチャーに対して突然吐き気を催すような嫌悪感を感じてしまったんだ。本来ダンス・カルチャーは保守的なものに対抗する進歩的な思想を持っていたはずなのに、没個性に陥ってしまった。ナチュラルでパーソナルな表現を置き去りにしてね。その音楽が優れていれば、"B15587"とか"Wad"だとか一見訳の分からないタイトルをつけても何の咎めもないだろ。ハウスやダブステップのプロデューサーが創る音楽がほんとうは何のために創られているのかを厳しく追究する奴もいない。それが「何のために」という目的で創られているものじゃないし、そうあるべく創られたものじゃないってことを俺たちは暗黙のうちに了解してるからさ。でも、しばらくすると結局みんなそういう「何のために」っていう中味を知りたがるようになるもんなんだ。違うかい？いまのところ、俺個人としては挑発されていたいし、夢を見ていたいし、愚かに混乱させられた状態のままでありたいんだ。

"俺は挑発されていたいし、夢を見ていたいし、愚かに混乱させられた状態のままでありたいんだ"

Greil Marcusがかつて書いた、パンクに関するすごく真摯なエッセイにあったと思うんだけど、その中で「音楽には人の振る舞いを変える力があって、それを個人ごとにあてはめてみると結果として各個人の生活様式そのものが疑問にあふれたものに見えてくる」っていう一節があったんだ。俺はBlackest Ever Blackからリリースされてるレコードがそうやって個人の生活そのものを変えてしまえるだけの力はまだ獲得していないとは思うけど、長期的にはそうなれたらいいなって思うし、それが目的だね。野望っていうか、それに狙いを絞っていきたい。ハウスやテクノに限らず、現代の音楽を聴いていると、たしかに寛げるし、秩序があるんだけどそれ以上でもそれ以下でもないし、驚きはないんだよね。リスナーを不安にさせたり混乱させたりするより、安心させようって感じだろ。愚痴っぽく聞こえるかもしれないけど、いまのシーンにはエンジニアはたくさんいるけど、本物の音楽を創るアーティストがいないんじゃないかって思うよ。

とは言っても、ダンスミュージック—いや、ボディ・ミュージックと言ったほうが正確かな、批評家じみた呑気なリスナーが取り残されちゃうから—は俺にとって最も重要なものであり続けている。実質的に俺の興味対象はすべてダンスミュージックを通して屈折したかたちで反映されてるんだ。新鮮なアイデア、もしくは少なくともそれに近い感覚が感じられる新しいクラブ・レコードを聴くことに勝る愉しみなんてないよ。まあ、そういうレコードに出会えるのは年に2度か3度あれば多いほうだけどね。4/4っていうフォーマットに基づいたテクノっていうのはダンスミュージックとしての機能性という点ですごくタイムレスなもので、これからも無くなることはないと思う。ダンスするという機能性において、これ以上のものはないからね。でも、そういう枠組みの中から積極的にチャレンジしてたり、危なっかしく感じるものって年々少なくなってるのは事実だと思う。つまり、どう生きるべきかいう自由を提示しているというより、「こうあるべき」っていう窮屈な生き方を提示してるだけのものに映ってしまうんだ。

ボディ・ミュージックのついでに言うと、Blackest Ever Blackのサウンドに最も大きな影響を残しているのはジャングルだね。とりわけRaimeに関して言うと、'93〜'94年ごろのジャングルが及ぼした影響はめちゃくちゃデカいと思う。Raimeの2人は今も当時のジャングルが大好きなはずだよ。もちろん2人それぞれちょっとした好みの違いはあるにせよ、パンとバターみたいなもので彼らにとっては欠かせないものなんだ。とにかく彼らのなかにはジャングルが染み込んでるし、それがいくら古びたとしても彼らのソウルそのものなんだろうね。彼らが創るトラック、創りたいトラックに関わらず、そこには'93〜'94年ごろのジャングルからの影響があるのは間違いない。彼らはDilinjaのレコードで使われてるブレイクについていくらでも話し続けることが出来るし、Source Directが当時のジャングルでベストだったかどうかについても飽きること無く議論出来るはずさ。個人的にはSource Directは当時のジャングルでもベストと言ってもいいと思うね。Raimeの2人は賛成しかねると思うけど。ともかく、Raimeが創る音楽は当時のジャングルが切り開いた地平の延長線上にあるといってもいいと思うよ。当時のジャングルは最もハードでファストで、複雑で直感的でダークで、非人間的なフィールドという点では音楽が到達することの出来る最高到達地点だった。もう17、8年前の音楽ではあるけど、現代の音楽にもその潜在的な遺伝子は確かに残ってるはずさ。当時のジャングルの半分でも拮抗し得る、面白くて反抗的な音楽を創ることは、現代のプロデューサーにとっては大きなチャレンジでもあると思うよ。

俺は常にクラブミュージックにおけるあらゆる変化に対し貪欲にフォローしようとしている。「進化」よりも「変化」という言葉を使ったほうがこの場合より正確だと思うね。でも、いろんなトレンドが花開いては衰退していったり利用されたりメジャーのシステムに組み込まれてつまらなくなっていくという繰り返しを見るにつけ、歳を重ねるごとにちょっとガッカリするところは否めないな。この平凡な時代に生きるなかで何かを感じたいと願うならば、結局は自分で探し求めるほかないのさ。Raimeのトラックみたいに、さまざまなシステムの残骸のなかで自分を奮い立たせ惹き付け、自分の直感を刺激してくれるサウンドなり言葉なりイメージなりを一生懸命探り出すんだ。そう、郊外に住む若者が白昼夢で魅了されるような何かをね。それを探し求めるうち、幸運なら人間の本質たるべきものさえ見つけられるかもしれない。

あなた自身はどんな音楽的背景のもとに育ったのですか？最初からテクノにハマっていたのですか？それとも、あなたのお父さんが'80年代のゴス・レコードの立派なコレクションを持っていたとか？

一番最初に思い出せるのは、姉貴がかけてたRichard Claydermanのテープかな。ジャケットがどことなく不吉なやつだったね（嘘だと思うなら「Rondo Pour Un Tout Petit Enfant」のジャケットを見てほしい）。あと、お袋がキッチンでMichael Crawford主演の「The Phantom Of The Opera」を聴きながらウルウルしてたり、親父が学校への送り迎えのときにGlen Campbellの「20 Golden Greats」をクルマでかけてたりとかさ。俺が今でもオーケストラの大げさな感じとか、感傷的なコード進行とか陰気なロマンティシズムに対して嫌悪感を憶えるのもこういう環境に対する反発って部分もあるのかもしれない。俺は'83年生まれで、10代の後半になるまでインターネットなんてもんに触れる機会は無かった。どんなレコードを買えばいいのか音楽誌を隅々まで読み込んだり、友達を情報交換したり、ときには他人と手紙のやり取りやカセットテープを交換したりしてさ。でも、いざインターネットを手にしてみると、エロ画像を探すのにだけ夢中になったりしてね。

俺の音楽遍歴はおそらくあなたが想像してるのとそう変わりはないと思うよ。まあ、ありきたりと言えばそうなるのかな。でも、これを言うと意外に思われるかもしれないけど、実はエレクトロクラッシュは個人的にはけっこう印象深かったんだ。

これまでのところ、Blackest Ever BlackからリリースされているレコードはRaimeを除けばSandwell Districtとの繋がりが強く感じられますが、その理由は？

別にとりたててSandwell Districtに義理みたいなもんがあるわけじゃないけど、彼らのやっていることは尊敬に値するし、実際彼らは良き友人でもあるしね。でも、もしBlackest Ever Blackと深い繋がりがあるレーベルをひとつ挙げろって言われれば、それはDownwardsだよ。例えるなら2匹のまったく種類の違う猛獣って感じかな。Downwardsの何がそんなに魅力的か、って？それはあのレーベルがまったくピュアな意図の下に運営されてるってことと、あとはトラックのタイトルがいつも格好良いってことかな。昔、Morrisseyはとにかく近寄り難い雰囲気を持っていて、どうしたって無視できない存在感を放っていたって言うだろ？それになぞらえて言えば、俺にとってはまさにRegisこそ「無視できない」男なのさ。実は俺以外の人間ではじめてRaimeの音楽に注目したのがRegisだった。これはめちゃくちゃ嬉しかったな。RegisはただRaimeの音楽を褒めてくれただけではなく、テクスチャーやキャラクターという視点から直感的にその本質を見抜いたんだ。AC MariasとDeath In June（Regisは「Douglas Pの才能が涸れてなきゃ、今頃きっとこういう曲を作ってただろうな」って言ってくれた）を引き合いに出してね。たとえばShackletonやDemdike Stareなんかを引き合いに出されることはよくあるけど、それとは違う例え方がいかにもRegisっぽいんだよね。

2009年にTropic of Cancerが出した10インチシングル『The Dull Age/Victims』を聴いたとき、俺はこういう音楽こそ俺がリリースしたいものだって思ったんだ。で、RaimeのEPをリリースしたらJuan (Mendez)とCamella (Lobos)がそれを気に入ってくれてるって話を聞いてね。それからすぐに彼らにコンタクトをとって、Tropic of Cancerをうちのレーベルから出そうってプランがまとまったのさ。

これまで4枚のレコードを世に出して、我ながら充実したリリースを重ねてきてると思うけど、うちのレーベルらしい個性ってものはまだ確立されてるとは思えないね。次にリリースが決まっているのはRaimeの「Hennail」ってレコードで、それからYoung Huntingっていうスコットランド出身の若いデュオのEP、Dominick "Prurient" FernowのVatican Shadow名義によるもの凄いSM趣味の作品とか、あとはまだシークレットにしておきたいリリースがいくつか控えてる。あと、個人的にもずっとお気に入りのレコードでイギリス東部のフォークミュージックをきわめてモダンにアレンジしたレコードがあるんだけど、その再発を手掛けることも考えてる。気難しくて神秘的なブリティッシュ・ポップで、複雑怪奇なテープ・ループやプリミティブなシンセ、吐息、奇妙な室内楽が混ざり合った作品ってとこかな。

"あなたにとって興味深いレコードの存在を知ったときと実際にそれを手にして聴いたときと、どちらがより興奮する瞬間だったのでしょうか？"

Blackest Ever Blackのレーベルイメージにユーモアが介在できる隙間はあると考えていますか？

どんな世界にだってユーモアはあるさ。真剣に僕のレーベルをフォローしてくれている人なら、きっと暗闇のなかでうっすらと顔をのぞかせる可笑しみに気付いてくれてると思うよ。まあ、どの程度のユーモアかにもよるよね。Blackest Ever Blackのリリースの大半はシリアスでポーカーフェイスなものだし、もちろん俺はそれを誇りに思ってるよ。なぜなら、それらはそうあるべきものとして存在しているし、何をも意味しないことこそが目的だからね。単純な意味性というものを突き抜けたいんだ。友達みたいにべったりした関係ではいたくないからね。

ティーンエイジャーの頃はどんな音楽誌を読んでいたのですか？

まあ、'90年代中盤にはすでにイギリスの音楽誌は黄金期をとっくに過ぎていたからね。主にNME、Melody Maker、Mojoを中心に、あとはロンドンで海外誌が手に入りやすかった頃にはアメリカのSpinやMagnetも読んでた。すべてメインストリーム系の音楽誌ばっかりだね。専門的な雑誌は知らなかった。プロスペクト・センター（注：ロンドン市内のショッピング・モール）の中にあるWH Smithって書店に置いてるような雑誌ばっかりさ。ガキの頃はブリット・ポップ全盛だったから、お決まりのようにSelectを定期購読してた。NMEやMojoと同様、Selectは玉石混合のおまけCDやカセットがついてて、学生臭い記事が特徴で当時はそれがすごく魅力的なものに思えたのさ。実際そのおかげでいろんな音楽に出会うことが出来たしね。Bentley Rhythm AceやCastなんかのクソみたいな音楽に耐えられる忍耐力やそれをやり過ごせるだけの賢明さがあれば、ほんとうに素晴らしいものを見抜く力が養われるのさ。.

こういう雑誌から俺が学んだことは、逆に雑誌なんか信用しないで自分自身の推測と想像力を活かしたほうがいいってことだね。SelectにGongの10タイトル近い再発盤の広告が載ってて、ひたすらタイトルやジャケットを眺めては「Gongってバンドはどんなサウンドなんだろう？」って想像してたのを憶えてる（結果的に、その想像はあてが外れたんだけど）。大げさでもなんでもなく、今と違って当時はインターネットで検索してすぐにどんなサウンドか分かるような手段もなかっただろ。だからその記事に書かれている言葉がすごく重要な意味を担っていたし、ときにはその全てでもあったんだ。

16歳とか17歳になるころには、The Faceが俺にとって最も重要な雑誌になっていたね。まあ、当時の俺からしたら理解できない記事ばっかりで、多少背伸びして読んでたところはあるけど。当時のロンドンにおけるゾクゾクするような音楽シーンの活気や、クラブ、ドラッグ、ファッション、様々なセクシャリティーの在り方なんかが生々しく書いてあって、夢中になって読んだものさ。The Faceの音楽レビューのコーナーはたった2つのコラムだけで構成されてたんだ。ひとつはシングルで、もうひとつはアルバム。あとは雑多なリリースがリストアップされてて、それぞれに短いコメントだけが添えられてるんだけど（今考えてみると読みにくいことこの上なかった）、その膨大なリリース量にはとにかく圧倒されっぱなしだった。もちろんそこに載ってる全てのレコードをすぐに聴くことなんて出来ないから、1年ぐらい後になってようやく聴くことが出来るなんてこともザラだったね。そうやって出会ったレコードのなかで今でも心に残っているのはWookieの"Battle"ってレコード。記事に書いてある通りの素晴らしいレコードだったよ。記事の通り、っていうケースは実はかなり稀だったけどね。今の時代じゃ考えられない話さ。

Blackest Ever Blackはいつかリリースを止める日がくるのでしょうか？

もちろん。でもいつ止めるかなんて予定はいまのところないけどね。こないだある友人に言われたんだけど、「あまり長居をしすぎないことも大事だけど、同様に自分のやるべきことが終わっていないのに去るべきでもない」って。いつ止めるかをずっと考えてるのもそれはそれで不安の種になるし、それはどれぐらいのペースでレコードをリリースしていくか考えるのも同様に不安だよね。ほとんどのレーベルはだいたい10枚かそこらの12インチをリリースすると勢いを失っていくものだけど、そこからビジネスを続けていくことだけに執着すると、リリース自体の質が徐々に置き去りにされていくんだよね。正直に言うと、Blackest Ever Blackがそうなっていくとは思えないけどね。まあ、些細な慣例なんて気にしちゃいないし、たとえそれが人生のサイクルの一部であったとしてもさほど気にはしない。Somerset Maughamが小説家という仕事について語った言葉があるだろ。「たったひとつかふたつの傑作を書けばそれでもう十分だなどと思ってはいけない。そもそも、傑作というものは40もしくは50以上のあらゆる作品を書いて作り上げた基礎の上に立ってこそはじめて成り立つものだ」ってね。

あなたはレーベルオーナーとしての顔と、FACTの編集者としての顔がありますが、そのふたつの間で葛藤や摩擦が生じるようなことはないのですか？

Jon The Postman（注：マンチェスター在住のパンクロッカー。実際に郵便配達夫としても働いている）がミュージシャンとしても郵便配達夫としてもうまくやってるのと同じさ。問題ないよ。

Blackest Ever Blackはどのようにして衰えたり利用されたり、はたまた大きなシステムに組み込まれて飽きられたりすることを避けているのでしょう？

うーん、果たして避けることが出来るのかどうかはわからないけど、もちろんベストは尽くすさ。ディレクションをミスしないように、しかも誤摩化しなくね。たしかに、くだらない儲け話を持ちかけてくるようなくだらない連中も最近は近づいてくるけど、どちらにせよ誰がウチのレコードを買うかなんてことはこっちは選べないわけだしね。結局、レーベルの運命は俺がどうしたいのかってことや、何が出来るのかってとこにかかってくるわけだよ。そうすりゃくだらない連中も自然と手を引いていくだろうと思うし。このインタビューでの俺の傲慢さを目にして、こういうくだらない連中が遠ざかってくれれば儲けもんなんだけどな。

最近読んだ本を3冊教えてください。

え？マジでそんなこと知りたいと思ってんの？今読んでるのは故Michael Dibdinの本で、いみじくも「Dark Spectre」ってタイトルさ。作者の名前はいかにもイタリアの主婦層向けの探偵小説シリーズ物のそれっぽいけど、実際は違う。アメリカで発生したWilliam Blakeを崇拝するカルト宗教に関する本さ。超暴力的で、息苦しいほどの緊張感がある。実のところ、まだ200ページかそこらを読んだだけで、この先読むのに飽きちゃうかもしれないけどね。たぶんそうなるかも。それより前に読んでたのは、たしかGeorge Mellyの「Revolt Into Style」って本。いや、Andrea Dworkinの「Pornography: Men Possessing Women」だったかもしれない。古典的なフェミニストの論客が書いた本で、俺みたいなタイプの人間には非常に深い罪悪感を感じさせるんだ。

俺はもちろん本が好きではあるけど、どっちかって言うと読書家というよりは収集家に近い。ほとんど集中力を持たない、救い難い道楽者とも言えるね。だいたい1冊の本すら読み終えないうちに、他の本もどんどん読み始めてしまうから、だいたいいつも5冊ぐらいの本を同時進行で読んだりする羽目になるんだ。今のところ個人的に最も興味深い題材は完全犯罪の殺人事件に対する英国大衆の多大な関心の在り方で、Colin Watsonの「Snobbery With Violence」やJulian Symonsの「Bloody Murder」を読みつまんでいるところだよ。来月ポーランドで行われるUnsoundフェスティバルではWilliam Bennett(現Cut Hands、元Whitehouseのメンバー) との対談プログラムが控えてて、ヴードゥー密教やtransparent concession（注：William Bennett独自の音楽理論）について頭に叩き込まなきゃならないんだ。めちゃめちゃ大変だよ。

Blackest Ever Black Mix

今月のLabel ShowcaseではBlackest Ever Blackの主宰者、Kiran Sandeによるミックスをお届けする。Blackest Ever Blackのバックカタログからのみ選曲し、RaimeやTropic of CancerやYoung Huntingといったアーティストたちによるダークなサウンドを紹介する。

Download: RA Label of the Month 1109 Mix: Blackest Ever Black
(right click + save target as)
Filesize: 91.9 MB
Length: 40:50

Tracklist
01. Raime - This Foundry (Regis Version)
02. Young Hunting - Spiritual Abandonment (Demo Excerpt)
03. Tropic of Cancer - Temporal Vessels
04. Raime - We Must Hunt Under the Wreckage of Many Systems
05. Raime - If Anywhere Was Here He Would Know Where We Are
06. Young Hunting - Separation
07. Vatican Shadow - Cairo Sword Unsheathed
08. Regis - Blood Witness (M.J. Harris / Karl O'Connor live version, 8.2.11)