メルボルンの冷えた木曜日の晩、SeekaeのメンバーがEast Brunswick Clubの控室のテーブルを囲んで座っている。今夜は両日ソールドアウトしている2公演の初日だが、20代前半のメンバー3人、Alex Cameron、John Hassell、George Nicholasは奇妙な程落ち着いているように見える。シドニー出身のこのトリオはここ最近世界中から注目を集めている存在だ。ちょっとひねりの効いたベースラインがビート好きに、心地の良いボーカルの歌声はシンガーソングライター好きな人たちに、そして彼らの乱雑とも言えるプロダクションワークがエレクトロニカ好きにアピールしているのだ。

当然のことながらSeekaeは前述したどのジャンルにも当てはまらない。しかし、それこそが彼らの特徴だ。彼らがシドニーでMount Kimbieのライブサポートを務めたという事実は彼らが一体何者なのかと思ってしまうが、彼らに対するイメージは間違えて捉えやすい。ダブステップが急速に現れるかと思うと、すぐに生ドラムセットの柔らかな音色、もしくは8ビットノイズ、シューゲイザーなギター、もしくはBrainfeeder的なビートの下に埋もれていく。

しかし、Cameron、Hassell、Nicholasの3人はただの好事家の集まりではない。彼らはその幅広い影響とサウンドを冒険心に溢れる形に見事にまとめ、アルバム『+Dome』という形で今年初頭に発表している。そして彼らの『+Dome』を聴くと、別に悪く言うつもりはないのだが、Mount Kimbieの『Crooks & Lovers』が融通の利かないコンピュータミュージックに思えてしまうのだ。

4月に行った国内限定ツアーは熱烈な歓迎を受けたが、8カ月後にはオーストラリアのインディーミュージックにおける彼らの人気は更に高まるだろう。また『+Dome』がSeekaeのブレイクスルーアルバムだと賞賛する声に惑わされ、ついつい『+Dome』が今作同様複雑で魅惑的なデビューアルバムに続く彼らのセカンドアルバムだということを忘れてしまいそうになる。

そのデビューアルバム『The Sound of Trees Falling on People』は2008年にリリースされた。Cameronは「このアルバムはライブ用に作ってたトラックの集まりなんだ。トラックは時間と共に色々変化していったけどね。1年程ライブをしていて、レコードを作るには十分な曲数が揃ったってことに気が付いたんだ。Georgeは海外の大学に行く予定だったから、とにかくリリースしようって話になった。CDを作って、ラジオ局に送ろうって考えてたんだ」と振り返っている。

結果、『The Sound of Trees…』は彼らの予想以上のインパクトをもたらすことになった。シドニーのコミュニティラジオ局FBiや他の地元の音楽メディアがこぞってアルバムをプッシュし、ノイズとアブストラクトに寄った作品だったが、地元の音楽ファンからのサポートを受けた。このアルバムはコンテンポラリーなエレクトリックミュージックの混合物に対して、非常に分かりやすい道案内を果たしたのだ。

Cameronは「コミュニティラジオが当時探していたニッチなスペースにちょうどよく僕らの音楽がハマったんだ。スタートした時のタイミングがラッキーだっただけなんだと思う」と謙虚に説明する。しかしこれを機にすぐに地元のレーベルRice is Niceと契約することになった。Rice is Niceはデビューアルバムも再発、人気の第2波を生み出した。

しかし、彼らのサクセスストーリーはここで終わらなかった。ファーストアルバムを再発した頃、SeekaeはAustralia Council for the ArtsからSoundclashという助成金を受け取ったのである。「思いつきで申し込んだんだけどね。多分もらえないけど、やってみようぜ！って感じで」とNicholasは当時の驚きを振り返っている。

1年前は自宅のパソコンからCDを焼いていた彼らが7000AUD（オーストラリアドル）強という思いがけない収入を手にしたことについては、Nicholasが次のように説明した。「この助成金は『+Dome』の制作の大半につぎ込まれたんだ。3人で半年間スタジオを借りることができて、マイクも買ったんだ。実家の自分の部屋で音楽を作るより、本格的なレコーディングをしようってことになったんだ」

政府からの助成金の恩恵を受けたSeekaeは、オーストラリアに優れたインディー系ミュージシャンたちがいるということを証明することになった。そしてこのトリオはこうして受けた恩恵を別の形で返している。Nichlasが語る。「2年ほど前に104 Beat Collectiveっていう活動を始めたんだ。僕たちと似たようなビートメイカーたちが毎週集まって、ビートを作ってプレイして、毎月それをミックステープとしてリリースするっていうアイディアだった。でも僕たちは最近Seekaeで忙しくなってきてるから、仲間たちと疎遠になってるんだ。以前はかなり関わってたんだよ。今はかなり大きな集まりになったよね」

3人ともこの勢いのある地元のアンダーグラウンドシーンの重要性は理解しているが、同時に地元のシーンにつきものである、その保守性にも気が付いているため、視野の狭い制作は行わず、地元からの影響と、海外のサウンドを見事にバランスよく混ぜ合わせた制作を行っている。AlexはUKベースとポストダブステップを引き合いに出しながら、「僕たちはイギリスの友達から沢山音楽を送ってもらってるんだ。Georgeの学校の友達なんだけど、彼はいつも新しい音楽を見つけて送ってくれるんだよ」とその理由について語っている。

オーストラリアに住んでいる多くのアーティストが孤立感を味わっているのは理解できることだ。そしてそれは地元に対する熱いプライド、または他国へ移りたいという熱意となって現れるが、Seekaeにはそのような表現は必要ない。彼らの独自性と創造性は軽々とシドニー、英国、そして米国西海岸へと広がっている。そしてこれが先に行われた英国ツアーでジャーナリストや観衆を魅了した理由なのだろう。Great Escape Festivalのレビューのひとつには、彼らには派生物としてのイメージは全くなく、「ここ10年において最もオリジナル性に富み、かつヒプノティックなデジタルミュージック」をプレイしたと書かれている。

やや大げさな表現になってしまったが、このような感想はこのトリオのライブの感想としては共通したものだ。これはこのトリオが、異なったキャラクターを持つ3人の集合体だという点が一役買っている。Nicholasはシンコペーションの強いビートに頭を振り、Hassellはレイヤーの折り重なったサウンドに沈み込む。そして背の高いCameronが穏やかにドラムセットに身を委ねる。そのような彼らが生み出すライブはレコードで聴ける彼らとは全く異なるものだ。Cameronはこの点について次のように語る。「ライブは僕たちが問題だと思ってた部分を修正するようなものなんだ。僕たちはレコードの音を完ぺきに再現しようとするんだけど、結局、おいおい、なんでこっちをレコーディングしなかったんだよ！っていう形になっていく。トラックによっては全く新しいグルーヴや新しいリズムが生まれて、レコードにしたら良かったなと思えるものになるんだよね」

そしてNicholasがこれに続く。「僕たちの音楽は凄く複雑に絡み合っているから、それを上手くまとめてプレイするということに対して、いつもある種のプレッシャーがあるんだ。MIDIデータでのプレイと、自分が実際にキーボードをプレイすることを合わせて考えると、常に妥協を強いられる。音質的な部分を取るのか、それともライブでの実現性を取るのかっていう選択が一番難しいよ」

ここでHassellが初めて口を開く。「演奏できないってわけじゃないんだよ。レコード通りに演奏したくないってことなんだ。ライブとして面白くしたいからさ。レコード通りにプレイしようとすると、実際に僕たちがキーボードで演奏できる部分や、MPCでプレイできる部分なんかが制限されちゃう」

ここで私は何故Seekaeが素晴らしくダイナミックなライブをするのかという疑問に対して答えが見え始めた。彼ら3人はライブに対してそれぞれ独自の哲学を持っているのだ。Cameronは「僕はレコード通りにプレイすべきだと思うんだ。お客さんは何がどう演奏されているのかが見たいんじゃないかな。そう思わない？」とNicholasに尋ねる。

これを受けてNicholasは「そう思う部分はあるよ。あくまで部分的にだけど…。僕は再現性にそこまでこだわる必要はないと思う。自分がやりたいことと、ライブとして良いものにするという間のバランスを見つけることが大事かなと。レコードのプレイを延長するような形でプレイするのは構わないけど、慎重にやるべきだよ」と答えている。

このインタビューの後すぐに、Seekaeはステージに立ったのだが、ステージにはラップトップ複数台、microKORG、ドラムマシーン、MPC、Roland SP-404が置かれていた。ドラムキットはかなりの頻度で使用され、エレキギターも少しばかり使われた。その他の「生」楽器はプラスティックのメロディカだったが、他の楽器に引けを取らない活躍を見せていた。

ライブで使う機材の数を増やさなきゃいけないというプレッシャーは感じているのだろうか？

「勿論。でも関係ないね。僕たちはそうしたくないからね。他のグループみたいに自分たちを犠牲にしたくないんだ。大体そこまでできる程自分たちにテクニックがあるとも思ってないしね」とNicholasはにべもなく返答した。

いわゆるテクニックの部分は別として、このトリオは進化を続けている。Cameronは「制作の面でもっと色々やりたい」と発言している。日本、米国、そして2度目の英国ツアーを控えた彼らがどのように制作の時間を生み出すのかは非常に興味深い。しかし、各自の自室からスタートしたSeekaeにとって、スタジオを借りるスケジューリングの心配はないだろう。「エレクトロニックミュージックのいいところは、どこでも曲が作れるってことさ。でも場所によっては難しいかな」とステージに向かいながらNicholasが語る。「例えばホテルの部屋は大丈夫だけどさ、自転車に乗りながらとかはまず無理だよね」