音楽制作用ツールは過去15年で改良を重ね、殆ど全てのレコーディング作品はデジタル・オーディオ・ワークステーション（DAW）が何かしら関わっている、もしくはDAWだけで制作されています。24トラックテープレコーダーの前面に並ぶVUメーターや、ミキシングコンソールの奥にそびえるメーターブリッジなどの姿は今や馴染み深い光景ではなくなりました。現在の素晴らしいレコーディング用／制作用機材の中でVUメーターの姿を見かけることは稀ですし、VUメーターに似ているRMSメーターの姿をソフトウェアとして見かけることさえも殆どありません。

しかしながら、最高級とされるミキシングコンソールやテープマシン、コンプレッサー（そして言うまでもありませんが、素晴らしいマスタリングルーム）などにVUメーターが備わっているのは「偶然」ではありません。実際ベテランのエンジニアやプロデューサーがVUメーターの針の動きを食い入るように見ている姿はよく見かけられます。その針の動きは、ゲインされた音にどれだけの大きさ（ラウドネス）とエネルギーが詰まっているのか、そしてミキシングレベルが実際はどこに位置しているのかという情報を伝えているのです。

ではVUメーターの役割とは一体何でしょう？　レコーディングを行う際、オーバーロードやノイズ、歪みを避けるために入力信号のレベルを調整しなければいけませんが、これを助けるのがVUメーターの役割です。VUメーターは周波信号の出力レベルを計測します。VUメーターは特殊な弾道曲線を描きながら入力波形の平均値を示し、音の素材の振幅と周波数の変化を同時かつ正確に捉えていきます。例えば人間のスピーチのような複雑な音の波形では、VUメーターはその波形の平均値とピーク値を読み取っていきます。

VUメーターは人間の聴覚に似たようなダイナミクス特性を持つようにデザインされています。スピーチの波形がVUメーターに入力されると、針は入力信号の最大値と最小値の間を揺れながら指し示しますが、ピークプログラムメーター（PPM）は対照的で、平均値を示すのではなく非常に素早い反応で入力信号のピーク値のみを示し続けます。VUの役割は明確で、ラウドネスの上昇時間と下降時間を追っていきます。VUメーターの針の動きの正確な数値を確認することは難しいのですが、ピーク値だけをひたすら追っていくのではなく、ラウドネスを正確に追っていくというその特徴は不可欠なのです。

CDやデータファイル、アナログレコードにはそれぞれ入力レベルのリミットがあり、それを超えるとオーバーロードをしたり、歪んでしまったりするという点は重要な留意事項ですが、VUメーターはそのレベルがどこにあるのかをより正確に伝えてくれるため、私たちはそのリミットを知ることができるのです。

大抵のマスターミックスは歴史的に1/4インチか1/2インチのアナログテープに録音されてきました。各メディアが記録できるレベルにはリミットがあり、これらのアナログテープのリミットは+3VU周辺でした。しかし、このリミットは高出力なテープが後に開発されることで上昇することになりました。また、当時のレコーディングはアナログコンソールを使って行われており、ミックスバスからの出力もオーバーロードや歪みを受けないレベルに抑えなければいけませんでした。ちなみに最新のアナログミキシングコンソールでもこの制限は残っており、最大出力レベルは+5～+6VU周辺となっています。一方、DAWのみ、つまりいわゆる「中だけで処理」すると、より大きなレベルで出力できるのです。

一般的にアナログレコードに落とし込める最大出力レベルは+6～+7VUとされています。近年のデジタルリリースの殆どは約+8VU周辺ですが、実際デジタルフォーマットでは約+10VUまでが可能です。そしてこのような高出力を稼ぐためには、良くも悪くもダイナミクス系を使用することになるのです。

「デジタルで大きく鳴らすのは構いませんが、
どれだけ大きいのか（ラウドネス）を
理解していなければいけません。」

私がこの記事でVUメーターの使用を促している理由は、音楽制作側の多くが、制作時の出力レベルがリミットに触れているか、もしくはそれ以上になっていることを理解していないと個人的に感じているからです。

これは特にPPMメーターのみを使用している、そして「中だけで処理」することに頼っている人に多く見られます。このような制作をしてしまうと、マスタリングエンジニアが作業できるヘッドルームが殆ど余らず、きちんとした作品作りが出来なくなってしまいます。レベルは大きいのに、「ラウドネス」が足りない音源を受け取ることがあるのですが、この意味が分かりますか？　多分分からないでしょう。ラウドネスやプレゼンス（存在感）、パワーは、そこに含まれる音のダイナミクスを注意深く、しっかりとしたスキルを使って調節してミックスにまとめることで生まれ、その結果、音エネルギーとして大きく聴こえるのですが、この場合のマスターミックスのレベルは、実際はその対象となる録音メディアのリミットより下か同レベルで上手にまとめられています。この時にVUメーターを使えば、どこがリミットなのかをより明確に把握することができ、そのリミット内で調整していくことができるのです。

私がとにかく伝えたいことは、ゲインを上手く調整しなければいけないということ、そしてVUメーターがいかにその助けになってくれるのかということです。

デジタルの環境下では、PPMメーターで作業を進めていくことで、余っているヘッドルームは全て使わなければいけないという感覚に陥り、全ての音をできる限り大きくしてしまう傾向があります。しかし、PPMメーターだけでは実際その音のラウドネスがどれほどなのかを計測することは難しいのです。簡単に言えば、ゆっくりと僅かに動くベースラインが鳴っていて、PPMメーターが微妙に触れている時、あなたはその音の大きさが足りないかもしれないと感じ、レベルを上げ、またリミッターをかけることでPPMが十分振れるようにします。しかし、実際そこにどれだけの音エネルギーが詰まっているのでしょう？　この時にVUメーターでチェックできれば、それが約+8VUだということが分かるのです。さて、その後あなたは全ての音をそのレベルに合わせようとするため、全てが非常に大きなレベルになってしまいます。そして今度は各チャンネルのフェーダーやマスターフェーダーを下げて、マスターフェーダーのPPMメーターがレッドゾーンに突っ込まないように視覚的な調整をすることになるでしょう。これは多くの人が経験したことなのではないでしょうか？　そんな経験はないという人がいるかも知れませんが、この知識を持っていて当然の立場にいながら、この経験があると恥ずかしげもなく認めてしまう沢山の人を私は知っています。

デジタルで大きく鳴らすのは構いませんが、どれだけ大きいのか（ラウドネス）を理解していなければいけません。このように大きなレベルで作業をしていると、リミッターやコンプレッサーを不適切に使用して、とにかく全ての音を大きくしようとします。こうなってしまうと、各チャンネルの音が潰れてしまい、結局ただ大きいだけでエネルギーに欠ける音になってしまうのです。リミッターをかけすぎてレベルを稼ぎ出すと、不自然な鳴りと歪みが生じます。またダイナミクスや明るさ、パンチが失われてしまう時もあります。そして私に言わせれば、小さいレベルの方が優れた効果を発揮するプラグインもありますし、通常はそのような設定で使うものだったりするのです。

ソフトウェア版でRMSメーターがリリースされていますので、安価な代替品を求めている人には良いかもしれません。しかしRMSとVUは正確には同一ではなく、RMSメーターの方がより大きな数値を示す傾向があります。ですので、今回の記事ではRMSはお勧めしません。ハイスペックなVUが実現する最高の精度を今回は推したいと思います。また、浮世離れしている訳ではありませんが、VUメーターの魅力はその針の動き方にもあるとも言えます。デリケートに前後に揺れながら数値を指し示す針の弾道曲線には冷静さが感じられ、そのおおらかなリリース動作（数値をヒットしてから元に戻るまでの動き）は、PPMメーターの派手で激しい動きとは正反対です。

では、実際にどこにVUメーターを接続すれば良いのでしょうか？　ベストな位置はモニターコンソールかモニターコントローラーのアウトプットです。ここに接続することで、計測したい音を選ぶことができますし、自分が聴いている音を計測することができます。システム的に違うという人は、モニター用DAC（デジタルオーディオコンバーター）に接続するか、アナログのアウトプットとADC（アナログデジタルコンバーター）のインプットの間に接続しましょう。

市場には私が注目しているモデルがいくつか発売されています。私の好みはSIFAM製VUメーターを組み込んでいるユニットです。このVUメーターは業界のスタンダードと言えるメーターで、ハイスペックで信頼性も高い製品です。Crookwood はこのSIFAMを組み込んだモデルで、私たちのスタジオも最近導入しました。本体価格は295ポンド（VAT別）（約35,900円）で、アッテネートダイヤルが付いています。また、Coleman Audioからも2種類が発売されており、ベーシックなステレオVUメーターMBP2は525ドル（約40,000円）、そしてマルチインプットに対応しているMSP2Vは1100ドル（約83,800円）となっています。両モデルともにVintage Kingで購入することが可能です。