シカゴでのクラブ事情について人々に話しかけた時、全員がしっかりとした意見を返してきてくれたが、そこには以下のような葛藤が存在していた。シカゴは活気あるダンスミュージックシーンを持ちながら、クラウドはそこまで熱狂的というわけではなく、むしろ終わった感すら感じる。2008年の金融危機でダメージを受けたが、シーンは良い方向に向かっている。ウェアハウスパーティーやアンダーグラウンドなアフターパーティーが勢いを取り戻しつつあるが、こういったパーティーはツテがないと遊びに行くことは難しい。シカゴはハウスミュージックの生まれ故郷として素晴らしい歴史を持っているが、多くの歴史あるクラブやプロモーターは消滅してしまった。この歴史が今でもローカルのアーティストに対する土壌になっている一方、新しいタレントの進出を阻んでいる。この街は今でも世界中から尊敬を集めているため、地元のパーティーピープルがそこまで感謝していないにも関わらず、大物アーティストを呼ぶことが可能になっている。

そう、つまり、シカゴの人達は自分たちの街の過去と現在に対して正当なプライドを持っているのだが、同時にそこにはもっと良くなるはずだ、良くならなければならない、いや絶対に良くなる！と感じているようなムードがあるのだ。「現時点に限って言えば、かなり調子いいよ」とシカゴの随一の質と最長の歴史を持つナイトクラブSmart BarのレジデントDJ兼ブッキングエージェントのNate Seiderは語る。「状況はかなり健康的じゃないかな。色んなプロモーターがいるし、クラブは自分たちの仕事をきっちり果たせているし」

ここ数年においてシカゴでは毎週パーティーが開かれており、しっかりとした上昇気流がシーンに感じられるのは確かだが、実際パーティーに来る人数は増えているのだろうか？　このようなパーティーは儲かっているのだろうか？またパーティーのバイブは過去と同じように暖かくフレンドリーなものだろうか？地元の一般的なパーティーピープルは今のシカゴに対しては前向きに考えているようだが、その方向性について納得がいかないという意見もかなりあるようだ。

しかし、2008年の金融危機前後から始まる4～5年は厳しかったという点については殆どの人が同じ意見だろう。この時期にシカゴを背負っていたいくつかクラブは消滅してしまった。「Crobarが無くなって、Sonothequeも無くなった」とSeiderは振り返る。「活気が殆どなかったよ。あの時に多くのパーティーや音楽シーンが姿を隠したんだ」また、世代の問題もあったようだ。いわゆる「レイブ」世代の多くが30代を迎えたり、学校を卒業したり、結婚したり、子供を産んだり、シカゴを離れたりした。

シカゴのベストクラブのひとつSmart Bar

その時に店をたたまずに済んだSmart BarやSpy Barといった店たちは、厳しかった時期も諦めずにシーンに残ってくれたという意味で、地元から多くのリスペクトを集めている。そして、客足の鈍り（と警察の介入が強化されたこと）から多くのプロモーターが活動休止状態に陥った中でも活動を続けてきたVolatlのNadia Podolskyのようなアンダーグラウンドなプロモーターに対しても、リスペクトと感謝の気持ちが注がれている。

比較的新しい世代のプロモーターで、シカゴのパーティーピープルとして長年シーンを見て来たMaryrose Moses（MiM）は、「Nadiaは長い間シーンに関わっているの。殆どの人が出来なかったのに、彼女はずっとシカゴのアンダーグラウンドシーンに活気を持ち込んでくれていたのよ。経済的な基盤がしっかりしてないと不可能よね。自分が小規模なプロモーターだったら、1発コケればもう終わりだから」このように語るMoses自身は自分のことを小規模なプロモーターだとしている。彼女のようなプロモーターはシカゴが傾いていた時期に活動をスタートし、ワインバーやラウンジ、カフェなど、認可されてはいるものの小さな規模で、少数の集客でやりくりをしているのだという。

しかし、そのようなサイズ感が可能な今でも「集客」はプロモーター／オーガナイザーにとって、不安と苛立ちの原因だ。以前よりも出歩く絶対数は増えたように思えるが、それが必ず集客に結びついているとは言い難い。「インターナショナルに活動するアーティストにとって、シカゴは訪れる街になりつつあるとは思うわ。でもシーン自体がその流れにまだ追いついていないのね。私たちはSónarやMutekをここで開催したけれど、集客は寂しかったわ。でも数年でどうでも良くなっちゃうようなパーティーはパンパンに入るのよ。長年リスペクトされているものがシカゴに来ても、お客さんは殆ど入らない。凄く残念に感じるわ」実際、プロモーターやオーガナイザーは、シカゴの人達はかつてのようにビッグネームのパーティーだから来るわけではないというムードを感じているのだ。

SeiderもSmart Barのパーティーの集客に何回か戸惑ったことがあるとしたが、このようなブレは経済的な部分が原因なのではないかと推測する。「お客さんは予算が決まっているんだ。遊びに行くのは決して安いわけじゃない。平均的な内容のDJを聴きに行くのでさえ、エントランスに10ドル～20ドルかかる。別にクラブは飲み放題的なお得なメニューを持っているわけじゃないから、もし酔っぱらってダンスしたいって話になれば、もっとお金がかかる」また、シカゴのパーティーピープルの多くは一般的な職について、9時5時の生活を送っているため、遊びにかける時間とエネルギーは限られている。このため、Mosesのような小規模なプロモーターたちはプランニングの際にパーティーのエネルギー配分を考えなければならない。「誰かが金曜日にビッグパーティーを開くとしたら、土曜日の夜はみんな力尽きているってわけ」

原因が何であろうと、数年前のこの「乾季」によって、シカゴのプロモーターたちの多くはマーケットセグメンテーション（市場細分化）の戦略を練る方向へ仕向けられた。彼らは下位層、そしてまたその下位層にあたるより小さなパーティーをオーガナイズするようになり、これによってレイブシーンがクラブへと移行した前世紀末から動きとしてあったシカゴにおけるシーンの細分化が加速することになった。プロモーターは特定のジャンルに絞って活動を行うことになり、例えばVOLATLはデトロイトテクノ、Oktaveはよりエクスペリメンタルなミニマルテクノ路線、そしてMiMはダウンテンポなディープハウスやディスコエディットへと特化していった。実際シカゴのシーンはかなり細分化が進んでいる。長年シカゴに住んでいるテクノDJ、Andrew Schook（Antiphase）は、これを象徴する今夏の出来事を語ってくれた。「金曜日の夜にSmart BarでGuillaume and the Coutu-Dumontsを見て、土曜日に同じ場所でMarcel Dettmannを見たんだけど、客層は全く別と言っても良い感じだったね」

このような細分化はナイトクラブにとっては厄介な問題だ。というのは、小さくてニッチなパーティーでは経営が成り立たないからである。大きなサイズ（ゆえに経営コストが高い）のクラブ、例えばSound BarやExcalibur/Visionのようなメガクラブは、プログレッシブハウスやトランス、そしてトップ40などとにかく集客が見込めるジャンルに絞ったスケジュールを組んでいる。「シカゴがクラブ不足になることはないわ。デカバコから中バコ、小バコまで何でも揃ってる。でも大事なのはそのハコのスケジュールよね。大抵の場合は経済的な理由で組まれているわ。要するにメインストリーム以外をやるリスクを負えないのよ」と長年レイバーとして遊んできた経験を持ち、本人もDJをするシカゴ生まれのElly Rifkin（Kiddo）は言う。

アンダーグラウンドミュージックに貢献する中規模のクラブSmart Barでは、特定のジャンルついている客を曜日ごとに集めるような戦略を取っている。Seiderはただ週末だけ経営しているクラブではないと指摘する。「週5日間、100％アンダーグラウンドな音楽だけがかかってる。トップ40がかかる日はないね」これは簡単なことではない。毎週木曜日はドラムンベースとダブステップ、金曜日はハウスやインディーダンス、土曜日はテクノやインターナショナルなビッグネーム、日曜日はディスコ／ニューディスコ、そして水曜日はローカルDJがローテーションで担当し、地元シカゴのアーティストやジャンルに特化したパーティーを開いている。

このようなニッチなスケジュールの中で、ひとつだけニッチに収まりきらないのがダブステップだ。他のジャンルが200人の集客を目指している中、ダブステップはコンサートホールを埋める集客力を持っており、シカゴでは4500人のCongress Theaterが埋まる。「ダブステップは凄い勢いで伸びたよ」とSeiderは語る。「かなり注目されているね。若い子たちがエレクトロニックミュージックに凄く興味を持つようになってくれたし、いいと思うよ。見ていて嬉しくなるね」ダブステップは、エレクトロニックダンスミュージックに興味を持っていなかったようなリスナーからも支持を得たため、シーンに新しい風を巻き起こすチャンスだと考えているプロモーターも中にはいる。

「今はもう音楽が良ければいいって
話じゃないの。他にも要素が必要なのよ」
Elly Rifkin

例えばSmart Barは上階に系列店であるコンサートホールMetroを構えているという点を上手く利用している。「ある晩、MetroでRuskoを、そして下のSmart BarでJeff Millsをやった時があった。上と下を繋ぐようにして、21歳以上だったらそのまま上が終われば下に来られるようにしておいたんだ。普段だったら来ないようなお客さんがその日は随分下に来ていたね」とSeiderは振り返る。しかし、こういったジャンルをまたぐプロモーションにはリスナー層の限界があると指摘する。「とにかく彼らは若いんだよ。沢山のお客さんが『ああ、21歳だったら入れるのに』（イリノイ州の飲酒年齢）って言っているのを耳にするよ。彼らが聴きたいのは大抵ダブステップのアーティストなんだ」ダブステップは確かに大きなコンサートホールで大金を生み出しているが、そのファン層がアルコールを飲めるクラブやアフターパーティーへ拠点を移すようになるにはあと数年時間が必要だ。

ナイトクラブや他の伝統的なクラブ系施設の外に目を向けると、比較的健康的な経営をしているインディペンデント／アンダーグラウンド系パーティーが存在していることが確認できる。大抵の場合は、ローカルのプロモーターによってオーガナイズされており、通常は許可を受けている小さな施設（バーやカフェ、レストラン）、または無許可の工場や私有地（ウェアハウスやロフト、アートギャラリーなど）で開催されている。無許可系のパーティーの予算は非常に限られているため、インターナショナルに活躍するアーティストを呼ぶのは殆ど不可能だ。MiMのMosesは「勿論ビッグネームを呼びたいと思うわ。でも私が家賃を払えなくなるのであれば、それは不可能な話なのよ」

最近作品が再発されたシカゴ出身アーティストVirgo Four

またこのようなタイトな予算は、プロモーターをよりドメスティックでローカルなアーティストにフォーカスさせるので、海外からシカゴを訪れる人にとっては面白い経験ができるだろう。どんな場合でもアンダーグラウンドなパーティーにとって最も大きな経済的リスクのひとつは、アーティストの確保ではなく、場所を確保し、借り上げ、整え、バーテンダーやセキュリティーを入れ、終わった後に清掃する、そして何よりも最終的に警察に中止にされないことなのだ。これが理由でMiMも最初は許可を受けている施設でパーティーを開催し、法的義務や設備などへの配慮なく活動していたが、最近はよりアンダーグラウンドな活動へ移行しつつある。「アンダーグラウンドなパーティーを開催することを楽しんでいるわ。全体のバイブや空間をコントロールできるからいいわね」

ナイトクラブに比べて低予算で、小回りが効く彼らだが、シカゴのアンダーグラウンドシーンのプロモーターとしての厳しい側面も経験している。数年前の「乾季」以来、どんなに強力なラインナップを組んでも、集客に結びつかなくなってきているのだ。「今はもう音楽が良ければいいって話じゃないの。他にも要素が必要なのよ。自分の活動を支えてくれる人のネットワークが必要なのね」とSchookは言い、「まずはコミュニティを作る、そしてそれからパーティー。既にコミュニティを持っていないといけないの。殆どのプロモーターがここで失敗しているわ」

MosseのMiMは、このようなソーシャルネットワークが基盤となっているパーティーの好例であり、Facebookや口コミを使ってコミュニティ色の強い集客を生み出している。「私のパーティーだと、見渡せば全員知り合いみたいな状態になるわ。週末は彼らと一緒にパーティーして、平日は普通に遊んだり、バーベキューをしたり、音楽を交換したりするの」とMosesは語る。近年は遊ぶ予算が限られているため、もし1週間に1つだけパーティーに行けるとしたら、友達が全員行くパーティーに行くことになる。これがつまり、Mosesや他の小規模なプロモーターが行っているソーシャルネットワーキング系の活動がパーティーの生き残りにおいて非常に重要なポイントだという理由なのだ。

ジャンルの細分化と小規模でのパーティーの登場で、シカゴのパーティーの多くが許可されている通常のクラブから、私有地やアーティストのスタジオ、ギャラリー、オフィス、小さな工業スペース、そしてロフトへと場所を移した。言い換えれば、シカゴのシーンの殆どがアンダーグラウンド化しただけではなく、プライベート化したのである。例えば2009年から2010年の8ヶ月間に渡り、ある3人が所有するウエストシカゴの奥深くに工業用ロフトでほぼ毎週アフターパーティーが行われていた。金曜か土曜にスタートし、日曜夜またはもっと先までパーティーが続いたこのプライベートな空間は、「Club Regret」（後悔）と呼ばれていた。また2000年代初頭では、NaughtyBadFunCollectiveがオールドスクールなレイブスタイルのパーティーを開催していた。Humboldt ParkにあるDJ Sassmouthのアパートの建築途中の地下フロアで行われ、ここは「Rave Cave」と呼ばれていた。

このような地元色の強いパーティーは、通常口コミやFacebookの招待状によって伝えられるため、もしシカゴに来て日が浅かったり旅行で訪れていたりする場合は、遊びに行くことが難しい。もし何もコネクションがない場合の唯一の方法は、通常のクラブへ行き、執拗なまでに社交的に振る舞って情報を集めるしかないだろう。Mosesは「シカゴのアンダーグラウンドシーンは奥深くに隠れているのよ。連れて行ってもらえる誰かを見つけなきゃいけないわ」と言う。このようなパーティーが暖かく、隠れ家的な安心感とシカゴ随一の楽しさを提供してくれる一方、シカゴのアフターパーティー／アンダーグラウンドシーンをコミュニティ的な意味で「点在する諸島」のようにしてしまったとも言える。Little White Earbudsの編集長でシカゴ生まれのSteve Mizekは「排他的な感じがあるね。正しい入り方を知らないといけないというか。もし正面から入って行ったら、侵略者だって思われるだろう」

シカゴのダンスミュージックの細分化はより深い問題へと繋がっている。シカゴの他の事象と同様、ナイトライフの社交性と距離感は今でも続いている超人種差別の歴史によって象られている。レイブシーンが1990年代中盤に白人中産階級の若者たちに受け入れられていた時、黒人（ゲイ）のハウスミュージックシーンは自分たちだけのパーティー、クラブ、「Drag Balls」（ドラッグクイーンのショー）、そして仲間のDJへのサポートを行っていた。この人種的、社会的なギャップは今でも残っており、ノースサイドの白人のダンスミュージックシーンは、シカゴの黒人層が支えるサウスサイドとは全く縁がない。結果として、サウスサイドのハウスミュージックシーンにはサウスサイド出身でない限り関わることは難しいという現状がある。

世界最長の歴史を持つハウスパーティーのひとつThe Boom Boom Room

しかし、ノースとサウスがダンスフロアでひとつになるという例外もいくつか存在する。Boom Boom Roomはシカゴハウス初期のバイブや音楽性を大切にしてきているパーティーだ。「1991年から続いているから、世界最長のハウスパーティーだね。蝋人形の並ぶ古びた博物館みたいな部分もあるけど、あのスピリットを感じたいというのであれば、このパーティーしかないよ」とMizekは語る。また、毎年独立記念日（7月4日）の週末に行われるAnnual Chosen Few House Music Picnicというパーティーは、ノースサイドのパーティーピープルがサウスサイドのパーティーに行ける数少ないチャンスのひとつだ。Mizekは「ノースサイドでプレイしないシカゴのDJは沢山いるんだ。彼らには自分たちのお客さんが付いているから必要ないし、それは全く悪いことではないんだけど、サウスとノースで何かが行き交う感じは殆どない。こうなると、コミュニティ自体が息苦しくなると思う。何故ならノースとサウスの間の敬意の交換みたいなものがあまりないからね」と語る。この部分を説明するいい例はないかというこちらの問いかけに対し、MizekはMike Dunnの名前を挙げてくれた。彼は何年もノースサイドでプレイしていないという。「彼が行ったシカゴの北端はGrand Avenue止まりじゃないかな。でも逆にノースサイドのクラブも別にサウスのDJたちをブッキングしようとしているわけじゃないんだ」

そして、このような細分化は急速に仲間内での連帯感へと変化していっている。ニッチなパーティーへ参加することが、同じような趣向を持つ人同士の緊密なグループ化を促しているのだ。例としてSamone RobertsとNathan Drew Larsenの2人を取り上げよう。彼らはシカゴ出身のDJ／プロデューサーであり、ディスコ好きのグループに加わっている。両者ともにFresh Meat Recordsに関わっており、ディスコ好きの一家に生まれ、90年代初期からシカゴハウスシーンに関わってきた。RobertsとLarsenはディスコ、ポストディスコである80年代の「ダンストラック」、初期シカゴハウス、ニューディスコやディスコエディットに対して深い愛情を捧げている。

シカゴがミニマルテクノの隆盛を味わっていた時、2人は音楽的に行き場がない状態に陥っていたのだが、最近はSmart BarのレジデントJustin LongやFresh Meat Recordsの共同経営者Mazi Namvarのような、同じ趣向の友人を通じてLono Brazil、Specter、Tevo Howard、Traxxのような同じ精神性を持つ人たちの集まるコミュニティやディスコ系ロフトパーティー（Disco Unusual Social Club）に参加している。「シカゴは凄く面白くてワクワクするような時期を迎えていると思う」とRobertsは語る。「シーンに繋がれなかった人たちは四散して静かに自分たちのことをやっていたんだよ。そして今もう一度繋がっている。面白いパーティーが沢山あるし、シカゴには面白いハウスミュージックが沢山ある」とLarsenが付け加える。「みんなはルネッサンス的な何かが起きているんじゃないかって感じているんだ。みんなある意味自分たちのルーツへ回帰し始めているんだよ」

世界的な賞賛を受けた新世代シカゴハウスプロデューサーの1人、Tevo Howard

実際、シカゴの住民以外も近年はシカゴのルーツへの回帰を目指しているようだ。私が話したプロモーターは全員、空港に迎えに行ったビッグネームたちはハウスミュージックの生まれ故郷であるシカゴでプレイすることに興奮していたと口を揃えて語ってくれた。また、Seiderの話では、シカゴ以外のアーティストをSmart Barにブッキングすると、そのアーティストはスケジュールを再調整して、シカゴでのレコードショッピングや観光を楽しめるように1日フリーな日を組み込むのだそうだ。「まだまだシカゴは世界から尊敬されているんだ。マジカルで神秘的な場所としてね。でも当時の面影はもう殆ど残ってない。Warehouseもなくなったし、Shelterもない」とSeiderは語る。

しかし、Smart Barの歴史だけでもインターナショナルなアピールは十分だ。「英国マンチェスターの伝説的なクラブ、ハシエンダと同年にオープンしているし、数多くの伝説的なシカゴのDJたちが長年レジデントとしてプレイしていたんだ」とSeiderは振り返る。今をときめくプロデューサーやDJ、そしてシカゴやデトロイト、世界各地のパーティーピープルにとって、Smart Barは音楽の不朽の巡礼地だ。「80年代中盤にSmart Barに良く来ていたんだって話しかけてくるお客さんは今でも沢山いるよ。当時はおがくずがフロアに落ちていて、良く分からない奴が隅っこでレコードをかけていただけだったってね」しかし、この尊敬に値する重厚な歴史は、同時に大きな責任感として彼らにのしかかってくる。「アメリカ国内に僕たちのようなやり方でやっているクラブはもうそんなに多くないと思う。才能を買ってくれるクラブというのは殆どないし、アンダーグラウンドな雰囲気を保とうと本気でトライしてくれているクラブも殆どない。そういう意味で俺たちは自分たちのポリシーを守ってやっていきたいね」

シカゴ探索用カンニングペーパー

パーティーを見つけるには

シーンがかなり細分化され、アンダーグラウンドなものになってしまっているので、シカゴの素晴らしいアフターパーティーに行きたいと思っている人が良いパーティーに出会うのは難しいだろう。解決方法は簡潔に言えば以下の通り：個人的なコネクション、口コミ、ソーシャルメディアネットワーク、オンラインフォーラム、レコードショップでの会話、フライヤー。以上の順番で良いパーティーへ辿りつける可能性が高い。シカゴに来たけれどゆっくりと時間をかけて探す時間が足りないという人には、次の方法がお勧めだ。シカゴに到着する前の事前準備：知り合いのシカゴ出身者と連絡を取り、何が起きているかを尋ねる。もし特定のクラブやプロモーター、アーティストに興味を持っている場合は、ウェブサイトやFacebook、Twitterをチェックする。Resident Advisorのイベントリストをチェックしながら、NBFCやDeep House Pageのフォーラムもチェックしてみるのが良いだろう。シカゴに到着したら：Gramaphoneなどのレコード屋に向かい、フライヤーをチェックしたり、店員と話をしたりしよう。また5 Magazine, UR Chicago, Chicago Readerのようなローカルマガジンのイベントリストをチェックし、WNUR（89.3 FM）のStreetbeatやWLUW（88.7 FM）のAbstract Scienceなどのダンスミュージックプログラムもチェックしよう。アフターパーティーに行くには：上記の方法でしっかりとリサーチしたパーティーのいずれかに行く。そこでしっかりと遊び、新しい友達を作り、バーからラストドリンクのアナウンスが流れたら、アフターパーティーがどこかにないかを尋ね回ろう。パーティーのラストになれば、必ずダラダラと次のパーティーを待っている人達がいるはずだ。

レコードショッピング

インターナショナルなDJがシカゴに来ると、まず彼らが行うのはレコードショッピングだ。ベストだと言われるレコード店の多くはハウスミュージックが誕生する前から存在しており、レアグルーブ好きにとっては宝の山と言えよう。最近は80年代と90年代初期のハウスファン、またはDJが自分たちのコレクションを売りに出しており、見つけるのが不可能と言われていたようなクラシックトラックを見つける可能性も高まっている。しかし、シカゴのレコードディーラーたちはその価値を理解しているので、それなりの金額を用意しておかなければならないだろう。必ず訪れてもらいたいのはGramaphone Records（2843 N. Clark Street）だ。1969年創業で、若かったシカゴハウスシーンを世界と結び付けた存在だ。また、そこからタクシーを使ってUkuranian VillageのKSATARKE Records（1109 N. Western Ave）も訪れておきたい。ここでは何時間もレコード箱を漁ることになるか、オーナーKevin Starkeに自分にぴったりのレコードを選び続けてもらうことになるだろう。KSTARKEには多種多様なジャンルのレコードがあるが、ディープハウスやレアなディスコのお宝に出会う確立が高い。また、サウスサイドへ向かってMr. Peabody Records（11832 S. Western Ave）へ行けば、古いソウルやディスコ、ハウスなどに散財してしまうことが確実だ。サウスサイドは値段をつけられないようなプレイベートなレコードコレクションが沢山溢れているエリアだが、そういったコレクションの殆どが最終的にこの店に辿り着く。また、サウスサイドのもう1店舗としてはHyde ParkのDr. Wax（この他の場所にある系列店3店舗も含む）があるが、残念なことに2010年に閉店してしまっている。

クラブ

アンダーグラウンドなエレクトロニックダンスミュージックに特化したナイトクラブの数は少ない。Smart Bar(3730 N. Clark St）、Spybar（646 N. Franklin St.）、そして最近オープンしたThe MID（306 N. Halsted St.）の3店舗だ。商業的な路線のメガクラブではVision/Excalibur（632 N. Dearborn St.）とSound-Bar（226 W. Ontario St.）があるが、VIPラウンジやボトルサービス、ボディースプレーの匂いやスプレータン、またシャツの襟が立っている人々に対して許容力がある人なら訪れるのも良いだろう。シカゴで行われているパーティーの多くはクラブではない場所、つまりワインバーやカフェ、アートギャラリーや工業スペース、倉庫、民家などで行われている。「お気に入り」の施設は繰り返し使われることになるが、その人気の移り変わりは激しいので、パーティー情報に常に耳を傾け、シーンの動きに注意しておくのが良いだろう。

歴史の重みは、シカゴ外からやってくるDJたちにも影響を与えており、彼らがシカゴでプレイする時にはクラシックハウスやディスコ、ソウルをセットに組み込んでくる。Todd Terjeのようなディスコ／ジャズに影響を受けているハウスプロデューサーなら話は分かりやすいが、昨年Ben KlockがSmart Barでプレイした際に昔のRelief recordsをかけたのには全員が驚いた。そして、客は思惑通りそのプレイを受け入れるため、DJたちは他の街では感謝されなかったり、特に気にもされないトラックをかけることに喜びを感じるのだ。しかし、自分のお気に入りのテクノDJがシカゴにやってきて、自分の秘蔵のシカゴクラシックをかけることを喜ばない人も中にはいる。Rifkinは語る。「私たちはその人たる所以を味わいに来たのよ。その人が得意とするところをね。その人の音楽を聴きに来たんだから、ジャッキンなシカゴハウスをかけなきゃいけないというプレッシャーを彼らが勝手に感じて、そういうレコードをかけてしまうのは凄く残念だわ」

Rifkinは、ゲストDJのこういった風潮は、シカゴの客層がクラシックハウスにしか反応しないことに問題があると指摘する。彼女のこの考えは、「この土地にはクラシックハウスが大好きという人達がいて、彼らは自分たちの音楽に対する純粋主義者だから他の音楽は聴かない」ということが根拠になっているようだ。しかし、ハウスミュージックにルーツを持たないRifkinのようなDJや音楽ファンにとっては、自分たちのお気に入りのテクノ／トランス／ミニマルなどをプレイするアーティストがシカゴにやってきて、オールドスクールなシカゴハウスをプレイするのは腹立たしいのである。

シカゴにとって幸か不幸かは分からないが、シカゴの音楽的な歴史の重要性について否定する声は国内にも海外にも見当たらない。例えば、昨年Virgo Fourのデビューアルバム（オリジナルは1989年リリース）がオランダのRush Hourから再発され、この成功によってこのシカゴ出身のデュオの未発表デモを集めたボックスセットも発売された（Resurrection, 2011年）。また、今年の春にRush HourはGene Huntを監修に迎えた『Chicago Dance Tracks』というタイトルのコンピレーションを発表、これにはLil Louis、Ron Hardy、Steve Poindexter、Larry Heardなどの未発表曲が収録されている。このようなリリースによってシカゴの評価は高まっており、同時に世界のダンスミュージック市場がシカゴに対して強い興味を持っていることも証明している。

しかしSteve Mizekは、シカゴの持つ特殊な歴史は、今の新しい世代、特にオールドスクールなシカゴハウスを作っていないアーティストたちにとって足枷になるとしている。「シカゴはかなり不安定な状態にあると思う。凄く面白い才能が育っているのに、シカゴはある意味その歴史に足を引っ張られている状態にあると言えるんだ」とMizekは語る。世界中に読者を抱えるLittle White Earbudsの編集長として、Mizekはシカゴから世界に目を向けた意見を述べている。

Mizekによれば、シカゴのハウスミュージックの歴史はこの街に現在起きている音楽シーンの動きを覆い隠しており、ハウスミュージック以外の音楽活動をしているローカルなアーティストたちが世界から注目を浴びる可能性を狭めてしまっており、またシカゴという街自体の音楽的な成長のチャンスも妨げてしまっている。「多くの人たちがシカゴを尊敬しているし、この街でプレイしたいと思っているけれど、僕はこの街における実際のクラブカルチャーや、新しいものに対する欲望みたいな部分は減少傾向にあるように感じている。新しいことをやろうとしたり、新しい才能を育てようとしたりしている場所はどんどん少なくなっている」とMizekは語る一方、シカゴの人たちが自分たちのハウスミュージックの歴史にしっかりとした価値を見出しているのは理解できるとしている。「当たり前のことだと思う。自分の持っているものは後世に残したいからね。でもその歴史が新しい才能を育てる場所を作ってくれたかと言ったらそうじゃないし、シーンから新しいアーティストが生まれてくるのを阻んでいるんだ」

以上がシカゴだ。この街はひとつのストーリーで語ることはできない。Samone RobertsやNathan Drew Larsenと話をすれば、初期ハウス／ディスコの復活、クラシックな感覚を残したニュースクールハウス、そして「マシーンミュージック」への回帰（ソフトウェアよりも、ハードウェアに比重を置いた制作方法で生まれる音楽）について前向きで熱のこもった話を聞くことができる。Steve Mizekと話をすれば、歴史に寄りかかりすぎて、世界で何が起きているのか、そして自分たちの街で何が起きようとしているのかが見えていないシカゴの話を聞くことができる。Maryrose Moses（MiM）を掴まえれば、人数限定のアンダーグラウンドな小さなパーティーを開催することにおけるチャンスとリスクの話になるし、Elly RifkinやAndrew Schookと話せば、ハウスミュージックの街であるシカゴでテクノDJ（またはテクノファン）として活動することの苛立ちについて聞くことになる。そしてSmart BarのNate Seiderに話を聞けば、時の変化に対応しながら長年生き延び、シカゴと世界を文化的に繋ぐ役割を果たしているクラブについての話が聞ける。このようにシカゴというひとつの街から様々なストーリーが生まれているが、「状況は厳しいが、良くなってきている」という点では全員が納得しているようだ。Schookが言う。「俺はかなり楽観的だから今の状況には凄く満足している。でも更に良くなれる可能性も感じているんだ」