300枚限定プレス、デジタル版のみのボーナストラック、180g重量盤ヴァイナル、ハンドスタンプ仕様、フリー・ダウンロード、豪華なゲートフォールド・デジパック仕様・・・こうした付加価値を載せたリリースがセールスを賑わせている事実は、レーベル運営が儲かる仕事であるかのような印象を一見窺わせる。しかしその実態として、この2011年にレーベルを運営するということはまさに労多くして益少ないものである。その裏を返せば、音楽に対する愛が無ければレーベル運営などという儲からないビジネスは到底やっていけないはずだ。今年のTop 20レーベルのリストにおいても、どのレーベルも多種多様な規模でそれぞれフォーカスしている対象が異なっているが、やはり全体として浮かんでくるのはこうした音楽本位なポリシーを持つレーベル群によってシーンが着実に成長を遂げているという事実だ。

20. NonPlus+

Nonplus+を運営するAlex GreenとDamon Kirkhamの2人はジャンルが何であろうと、彼らが単純に気に入ったものしかリリースしない。もっとも、そうしたポリシーはどのレーベルも最初は持っているものだ…ディストリビューターが口出ししてくるまでは。幸いNonplus+に関しては今年もActressやLowtec、Boddika、Salsa Apocalypso（Neil LandstrummとJD Twitchのコラボ）など、ジャンル越境的なリリースを意欲的に展開できた。Instra:mentalによる野蛮で美しいミックス、『Resolution 653』も忘れてはいけない。なんとも素晴らしく混乱したレーベルだ。

Lowtec - Looser

19. Idle Hands

リストルのストークス・クロフトをうろついていて、幾ばくかの現金があればIdle Handsでレコードを買っておこう。もともとレコードショップだったIdle Handsがレーベルを立ち上げたのは2009年のことだったが、その当時まだChris FarrellはRooted Recordsの従業員だった。この2つのショップが取り揃えているレコードを見てもわかることだが、Idle Handsもまた既存のジャンルに決して当てはまらないレーベルだ。それは2011年にこのレーベルからリリースされたレコード群—AnD、Kowton、Kevin McPhee、Szare 、Outboxx—が如実に証明している。

Szare - Volya

18. Tri Angle

Tri Angleがレーベルとしてスタートした当初は「ウィッチ（魔女）・ハウス」などとホラーじみた紹介のされ方をしていたが、その呼び方がフェアであるかどうかはさておき、このレーベルが近年比類の無いオリジナリティを確立したのは確かだ。Holy Other、How To Dress Well、oOoOOらはダークで煙たい、複雑なエモーショナルさを有した音楽性を体現した。たしかに非常に暗いテイストだが、それこそこのレーベルの持ち味である。

Holy Other - Feel Something

17. Modern Love

このマンチェスター発レーベルの進歩の変遷は興味深い。Modern Loveが最も精力的にリリース展開していた2007年頃はフロア向けのウェアハウス・テクノが中心で、エクスペリメンタルな要素はほとんど窺わせなかった。それからだんだんとリリースの内容が変化し、Miles WhittakerやDemdike Stareなどの実験的でダークな作風が主流となった。その間も、Andy Stottは彼自身の独創的なハウスを密かに研ぎすませていたわけだが、2011年にはようやくエクスペリメンタルとフロア向けトラックの完全な調和が花開いた。これこそこのレーベルが目指す独自性であったのだろう。

Andy Stott - New Ground

16. Clone

2009年にCloneがレーベル活動を一時休止するというニュースが流れたとき、たちの悪いジョークのように思えたものだ。その数ヶ月後に6つものサブレーベルを立ち上げたときも、そのアイデアがうまくいくとは到底思えなかった。しかし、レーベルオーナーSergeはやはり先見の明を持っていた。現在、Clone Basement Seriesはいまやタフなテクノにおいて欠かせない存在だし、Clone Jack for Dazeも好調なリリースを展開し、Clone Crown Ltd.からはDexter "Space Booty"の大ヒットも生まれた。そしてDrexciyaのリイシュー・シリーズも新たに始まった。実に喜ばしいカムバックだ。

Dexter - Space Booty

15. Dial

昨年4枚のアルバムを含む大量のリリース攻勢を展開したDialだったが、今年はそれもやや沈静化し、個々のリリースに集中する戦略をとった。それは功を奏し、Roman Flügelによる渾身の一作『Fatty Folders』は多方面から賞賛を集めた。Romanの繊細なサウンドはDialのカラーにさらなる彩りを与え、このレーベルの審美眼の確かさを改めて証明した。もうひとりのスター、EfdeminもまたPigon名義での12インチや昨年のアルバム『Chicago』のリミックスシリーズで健在を示した。なかでもDJ Kozeがリミックスした"There Will Be Singing"は今年最も愛されたトラックのひとつだ。

Lawrence - The Swan

14. Ostgut Ton

Ostgut Tonほどのリリース量を誇るレーベルがその反面今年はとりわけ目立った印象を残せなかった。それが率直な感想だ。これはレーベル側に要因があるわけではなく、むしろ私たちが彼らの高いクオリティに慣れてしまっていることに起因するのかもしれない。どちらにせよ、今年もOstgut Tonはその母体であるBerghain/Panorama Barの特性を反映した強固なリリース群を展開した。なによりも、Ryan ElliottのOstgut Ton初リリース作のタイトル「Rocksteady」は強烈だった。

Planetary Assault Systems - Rip The Cut

13. Smallville

Smallvilleのカラーがハンブルグを反映しているとしたら、すごく繊細な街だということになる。2006年のスタート以来、Smallvilleは汗まみれのダンスフロアよりもホームリスニングでこそ親しまれてきた。パーティをロックするというより、むしろ包み込むのだ（2009年top 5トラックにランクインしたSTL"Silent State" がその好例）。Stefan Marxによるアートワークを纏い、今年もMoomin、Lawrence、Smallpeopleらの実にジェントルな作品が届けられた。そこに予測不可能な要素はないが、そんなものは必要ない。Smallville独特の繊細で柔らかなサウンドは決して擦り減ることはないのだ。

Smallpeople - Black Ice

12. Pampa

予測不可能で同時にファニーさもあり、いかにもドイツらしいひねりが加えられたリリースを展開するPampaは、まるで最盛期のKompaktを思わせるところがある。DJ KozeとMarcus Finkによるこのレーベルは、さらにRobag WruhmeとAdaといったアーティストを起用し、両者による素晴らしいアルバムをリリースした。今年はIsoleeもこのレーベルから渾身のアルバムをリリースしたし、これからLawrenceもPampaからの12インチリリースが予定されているそうだ。噂によるとWolfgang VoigtもまたPampaからリリース準備中だとか？

Die Vögel - Fratzengulasch

11. 50 Weapons

50 Weaponsは愛すべきレーベルだ。あるアーティストがビッグになり、そしてその周りにいる皆を楽しく巻き込む—そんな古き良き時代のインディレーベルの在り方さえ思い起こさせる。リリースされる作品が広いジャンルに跨がっているので、追っかけるのもひと苦労だが、そのリリース群はどれもインパクトに溢れている。いろんなアーティスト同士が繋がってさらにファミリーが大きくなる、そしてパーティがさらに楽しくなる。これこそModeselektorが目指したレーベルの在り方であり、50 Weaponsはまさにそのための最適な土台なのだ。

Anstam - Handsome Talks The Talk

10. Delsin

Ellen AllienはMorphosisのアルバムを「狼が月にキスしているよう」と評し、Craig RichardsはConforceの『Escapism』を「天地の出会うところ」と表現した。Mike Dehnertの『Framework』はそうした詩的な表現が介入できない無慈悲さを持っていたが、Morphosisに関してはまさにそうした詩的な要素を多く含んだ作品だった。Delsinにおける重要作としては今年John Beltranの過去のアンビエント作品を集めたリイシューも挙げられる。Delsinはかつてそのサウンドの方向性が保守的すぎるとの批判もあったが、今年の彼らにはあてはまらないはずだ。

Conforce - Shadows of the Invisible

09. R&S

30年もの歴史を持つ名門R&Sは昨年ついに最前線への復帰を果たした。その復活の要因のひとつにはJames BlakeやSpace Dimension Controllerといった外部の若い才能を積極的に起用した事実がある。『IOTDXI』に代表されるように、今年もR&SはUKベースへの傾倒をさらに深めたが、Derrick May やModel 500などのリイシューを通してテクノのルーツへの尊敬も忘れていなかった。今後もSpace Dimension ControllerやPépé Bradockのアルバムがリリース予定だそうで、やはりR&Sの復活は一過性のものではなさそうだ。

Pariah - Left Unsaid

08. Hot Creations

Clockwork "It's You Again"、Danny Daze"Your Everything"、Miguel Campbell "Something Special—これら今年を代表するトラックは、すべてHot Creationsからリリースされた。この3つのリリースは勿論このレーベルにおける今年のハイライトでもあるのだが、その他のリリースも当然重要だ。Lee FossとJamie Jonesは独創的なベースライン、煌めくサンプル、親しみやすいヴァイブといったレーベルカラーを今年の9枚のリリース全てにおいて磨きあげてきた。VisionquestやCrosstown Rebels といったレーベルとの親交も実を結び、共に2011年のシーンを彩った。

Hot Natured - Class

07. Visionquest

Visionquestの連中はお調子者で悪戯好きで、すぐ服を脱ぎたがる（Seth Troxlerだけだが）ところがあり、いかにも最近のバカな若造の集まりにしか見えないのだが、そんなやつらがこれほどシリアスな姿勢でレーベル運営に取り組んでいるのは意外でもある。ほとんどが当たり前のようにアップビートなトラックばかりだが、Footprintz「Utopia」のように90BPMのダウンテンポも決して除外しない包容力もある。彼ら独特のヴァイブはBurning Manなどでの乱痴気騒ぎによって培われたものだが、レーベルとしてのVisionquestは退屈な現状を打破しようとするアーティスティックな感性に満ちている。

Laura Jones - Live a Little

06. Stroboscopic Artefacts

2011年においてテクノとインダストリアル、IDMを結びつけた立役者がこのStroboscopic Artefactsだ。2009年の立ち上げ以来、彼らは一貫してダークなフロアトラックをリリースしてきたが、今年はさらにアルバムにフォーカスを移し、Lucy『Wordplay for Working Bees」そしてXhin『Sword』という2枚のアルバムはテクノにおける既存のフォーマットから真に解放された自由な感性を見せつけた。現在も並行して展開しているMonad seriesも合わせ、Stroboscopic Artefactsは急成長を遂げている。

Lucy - Lav

05. Hotflush

その豪華なレーベル・コンピが示すように、Hotflushにとって2011年は省察と雌伏の年でもあった。とはいえ、このレーベルはGeorge FitzGeraldやBrailleといったニューカマーとPaul Woolford & Psycatron、Roskaといった古参が共に活躍し、今年も進歩を止めることはなかった。SepalcureやSighaにしろ、Hotflushからリリースするアーティストの名前を見ても当然だ。Scubaはいまやハウス、テクノ、ベースミュージックそれらを繋ぐリンクをHotflushの上で形成している。それはScuba自身のDJセットからも窺い知ることができるだろう。

Sepalcure - Pencil Pimp

04. Running Back

TLB: 今年、ほかにやり残したことってある？

GJ: うーん…俺らのレコードにもっとR&Bサンプルを入れたらさらに売れたのになあ、とは思うけど。

TLB: まあ、心配しなくてもそれは来年Tiger or Woodsがやってくれるだろうね！

Matthew Styles - Don't Call Me Again

03. Planet Mu

Mike Paradinasは今年初めのインタビューで「ひとつのことに固執するってことは本当に退屈なんだ。俺自身飽きっぽい人間だからさ」と語っていたが、Planet Muからリリースされる幅広い音楽性を考えれば、彼の目利きの的確さには驚くべきものがある。たしかに、そのレコード全てが大ヒットというわけではないが、Planet Muはシカゴのフットワークを世界に紹介しつつ、MachinedrumやKuedo、そしてFaltyDLといった今年を代表するアルバムを数多く残しているのだから、外野の批評など何処吹く風といったところだろう。

Chrissy Murderbot feat. DJ Spinn - Bussin' Down

02. Rush Hour

今年の初め、Rush HourはVirgo Fourの未発表トラックを30曲収めた作品のリリースをアナウンスしたが、そのアイデア自体に驚きはなかった。しかし、彼らがどのようにして25年前の未発表トラックを掘り起こし、リリースまでこぎ着けたかを想像するとその努力は計り知れない。シカゴやデトロイトの考古学的リリースを展開するRush Hourは、まさしくジャズにおけるKen Burnsのような存在になりつつある。同時に、Tevo HowardやTom Trago、Nebraskaをリリースすることで同時代的なシーンや地元アムステルダムのシーンに対しても積極的に関わっている。まさに唯一無二のレーベルだ。

Tom Trago - Space Balloon

Maceo Plex – Your Style (Maceo Plex Re-Visit)

01. Crosstown Rebels

昨年我々がジョークめかして書いた文句が再び脳裏をかすめる。それは「Damian LazarusのCrosstown Rebelsがディストリビューターの倒産によって過去3度もレーベル存亡の危機に立たされたことを思えば、彼がLazarus（訳注：ヨハネ福音書に描かれる、イエスの足に香油を塗ったマリアの兄ラザロ。イエスがよみがえらせた男）というアーティストネームを名乗っていることは単なる偶然とは思えない」というものだが、これは別に新約聖書の話ではない。Crosstown Rebels復活のプロセスは、まずカリフォルニアから始まった。数年前Lazarusはカリフォルニアにショップを開き、そこで彼独自のA&Rスキルを磨くとともに、将来のヴィジョンを固めた。LazarusはトロントのArt Department、Wolf + LambのDeniz Kurtel、Hot CreationsのJamie Jonesといった人々とそのクルーを繋げ、さらにMaceo PlexやDinky、Dan Berksonを加えて新たなファミリーを形成した。前述のWolf + LambやHot Creationsのように明確なスタイルはまだ定義出来ないものの、各アーティストの個性が混ざり合うことで生まれた、これぞCrosstown Rebelsらしさといった独自性は確かに存在する（Crosstown Rebelsからは今年、Mathew JonsonやNico Purman、Quenumの12インチもリリースされている）。それはCrosstown Rebelsに関係のあるDJやアーティストの名前が並んだ今年のRA Top DJリストやTop ライブアクトのランキングを見ても分かるはずだ。Crosstown Rebelsは非常に多面的な魅力を持った底の知れないレーベルであり、その独自性にふさわしい形容詞はいまだ我々も見つけられていない。