「いまどきネット上にミックスやポッドキャストがいくらでも拾えるのに、いまだに旧来のコンピやミックスのパッケージにこだわるなんて…」とは、ここ数年よく聞かれる言い草だ。今年はもちろん、来年もそうした風潮は変わることは無いだろう。しかし、マーケットにおける断層線と言うべきものを探る作業において、こうしたコンピやミックスの存在はいまだ有効だ。今年のRAトップ20コンピレーションには、Fabric、!K7、Ostgut Ton、Kompaktといったレーベル群によるおなじみのシリーズがリストを埋める中、いくつかの新鮮な動きも見られた。

ミックスに対してお金を払って手に入れるとき、信頼できるレーベルから買いたいと思う気持ちは理にかなっている（そうした公式なリリースでは、著作権ライセンスなどのクリアランスがとれているのは言うまでもない）。ミックス・コンピのそうした枠組みによってマーケットが維持され、DJやレーベルがさらに新鮮なアプローチで活動を続けることを可能にしてきたという側面も確かにある。以上のような事柄を念頭に置きつつ、今回我々はトップ20にランクされた作品に携わったアーティストやレーベルスタッフたちにその成功秘話や今後の展望を訊いた。

20. Various Artists - Mosaic Vol. 1 [Exit]

このコンピ収録曲はほとんどがExitからシングルとしてリリースされる予定だったんだ。でも全部をシングルとしてリリースするのはスケジュール的に無理ってこともあって、結果的にこうしてコンピという形で発表することにしたんだ。音楽を提示するための場としては、コンピでもポッドキャストでも本質的には変わらないと思う。そこに入ってるトラックがつまらなければ、結局無視されちゃうし。僕らみたいな音楽を提示して理解してもらう為には、こうしたコンピもポッドキャストも等しく有用だよ。"Autonomic（自律的）"というタイトルもそこからきてるんだ。それがひとつのジャンルの呼び名のようになっているのはちょっと意外で可笑しいけどね。
- dBridge

19. Nicholas - Back on Track: Nu Groove [Needwant]

NU Groove音源のライセンス管理をしているBurrell兄弟がマスターを用意するって方向で最初は話が進んでたんだ。でも、彼らは契約金だけ頂いてあとはトンヅラさ。仕方ないから、結局僕の所有する12インチをマスターにするしかなかった。幸い、ほぼ全てのカタログを持っていたからね。そのうちの幾つかは盤状態もかなり酷かったんだけど。Little Louis Vegaのミックス・コンピも持ってたんで、それも部分的に使った。僕が選んだトラックは、Bass NoirやTech Trax Inc.は別としてメジャーじゃないものが多かったかも。とにかく、オリジナルのトラックの良さを殺さないよう細心の注意を払ったつもり。このコンピが売れるかどうかはかなりリスキーではあったけど、あまり考えすぎたり悲観的にならないよう心がけた。とにかく楽しもう、ってね。
- Nicholas

18. Various Artists - IOTDXI
[R&S Records]

このコンピに入っているサウンドはどう呼んでもらっても構いません。勿論UKベースミュージックでも良いのですが、私自身レコードショップで10年間働いていたので嗜好としてかなりジャンル越境的ではあります。スタイルやジャンルの区分けが全く無駄とまでは言いませんが、少なくとも私たちがリリースするものには関係ないですね。CD1は過去18ヶ月間に発表されたレコードのダイジェストのようになっていて、いっぽうCD2では未発表のトラックで構成されています。Pitchforkがこのアルバムを「CDの体を成していない」と評したのは可笑しかったですね。私も「当然、これはアルバムじゃない。ただトラックを集めただけだ」と反論しましたがね。CD2は私たち自身も楽しんで制作しましたが、CD1の選曲にはかなり神経を使いました。
- Dan Foat, Label manager

17. Marcel Dettmann - Conducted
[Music Man]

『Conducted』では、新旧関係なく俺のフェイバリットばかりを集めた。Bluemoon Productionなんかは数年前に俺がBerghainの為にミックスを作るときはライセンスが下りなかったんだよね。ここに収録されてるトラックは、これを制作していた当時の俺の気分がかなり反映されてると思う。ここ数年、ツアーでいろんな場所を巡っていろんな人たちに会い、新しい音楽を耳にする機会もたくさんある。すごくインスパイアされてるね。俺なら毎年でも新しいミックスCDを作れると思うよ。
- Marcel Dettmann

16. Ata - Live at Robert Johnson Vol. 7
[Live at Robert Johnson]

僕自身は、ミックスCDを聴くよりもクラブに行ってその場でDJのプレイを聴くのが一番だと思う。収録時間に制限のあるCDというメディアだからこそ、このシリーズにLive at Robert Johnsonというタイトルをつける必要性があったんだ。80年代にはよく友達同士でテープを贈りあったものだけど、このCDにもそうした親密なムードを持たせたかった。ライセンスの取得はほとんどEメール経由でやったんだけど、すごく楽しかったよ。Discogsも役に立ったし、国を越えた友人同士の繋がりはなにより素晴らしかった。ごく僅かだけど、中にはまったくレスポンスのない人もいた。でも、それはそれで仕方ないとも思うんだ。
- Ata

15. Robag Wruhme - Wuppdeckmischmampflow [Kompakt]

昔、Get PhysicalからBody Languageシリーズ用にミックスCDを出す話があったんだけど、結局僕が締め切りを守れなくてボツになったんだ。同じ轍はもう踏むまいと今回のミックスの制作には力も入ったし、なによりリリースされることが僕には大事だった。Michael Mayerがこれを気に入ってくれてリリースまで運べたのはラッキーだったね。制作当時、僕はインターネットも無く電話も繋がりにくい僻地に住んでいたので、すごく心細かった。マスターにしたって、町の郵便局からKompaktに送ったんだ。オールドスクール・スタイルだね！収録曲のライセンスがすべてうまくいったこともラッキーだった。すでにミックスを録り終えた段階だったので、やり直すとなると厄介だったからね。Robag Wruhme名義でミックスCDを作ることはもうないかも。
- Robag Wruhme

14. Various Artists - Back & 4th [Hotflush]

俺はこのコンピの選曲作業すべてに携わったわけじゃないけど、このコンピの目的—つまり、ニューカマーたちにチャンスを与えるというアイデアは十分理解していたつもりさ。Boddika、D-Bridge、FaltyDLを中心に、新たなフレーバーを加えた。Scubaが俺の"Axis"をピックアップしてくれたのも嬉しかったね。この曲は初めて俺自身満足出来た仕上がりのトラックなんだ。俺という人間やその嗜好がトラック固有のムードとして余すことなく表現出来たって気がするよ。でも、このコンピで俺個人の一番のお気に入りはBoxcutterのトラックなんだ。あいつはプロダクションの水準も高いし、いつも刺激を受けてる。あいつの凄さはそのトラックを聴けばすぐに分かるはずさ。
- Incyde, Label Manager

13. Various Artists - Laid Compilation [Laid]

12インチを10枚リリースするごとにコンピ的なものを作ろうってアイデアがもともとあったんだ。ターンテーブルを持ってない人もいるし、PCだけで音楽を聴く人もいるでしょ。そんな人たちにも僕らの音楽が届けばいいな、って。いざ選曲してみると、思った以上に整合性のとれたものになったから、そのままリリースしようって話になったんだ。親レーベルでもあるDial同様、僕らも限られた信頼出来るアーティストたちと共に12インチやシングルを作り、アートワークやその他の業務もすべて自分たちの手の届く範囲でやってる。こういうコンピを制作するのはある意味気軽な作業と言えるけど、そういう気軽な発表の場があることも大事なんだ。
- Carsten Jost

12. Lawrence - Timeless [Cocoon]

テクノシーンには、家族経営の延長のような側面が多かれ少なかれ存在すると思ってる。家族や近い親戚がいて、遠い親戚もいるけど、結局みんな繋がってるだろ。Cocoonは僕にとって親戚のようなものだし、このCDがリリースされるのもごく自然なことなんだ。彼ら独特のユーモア感覚が僕は好きだし、彼らもDialやSmallville、Laidを愛してくれている。過去にもCocoonのコンピに僕らのトラックが収録されてるし、僕自身もトラックを提供したことがある。今回彼らのためにミックスCDを作ることになって、僕はRAへ最初に提供したポッドキャストのことを思い出してたんだ。すでに20年以上もの歴史の厚みがあるテクノやハウスを1時間弱の時間軸で表現するのは大変だったけど同時にエキサイティングでもあった。僕が入れたいトラックをCocoonがすべてライセンスしてくれてラッキーだったよ。
- Lawrence

11. Prosumer - Panorama Bar 03
[Ostgut Ton]

このCDに入ってるエクスクルーシブ・トラックに関しては、こないだSoundstreamが「Sound Sampler Vol. 1」を出したからその秘密は徐々に明らかになってるんじゃねえかな。俺はSoundstreamの大ファンで、このミックスの制作を口実に彼の古い未発表トラックを聴ける機会ができたんで随分な役得だった。彼が過去数年に創ったトラックを何度も繰り返し聴いたんだが、どのトラックもあまりに凄すぎてそこから限られた数だけ選び出すなんて作業はマジで骨が折れたもんさ。Steffiの "Sadness"ってトラックは、彼女が俺に最初に聴かせてくれたトラックなんだけど、俺は一発でハマっちまってさ。すげえ感動的なトラックだから、リリースされるのを待ってたんだがこうして俺のミックスにエクスクルーシヴで収録されることになってマジで嬉しかったな。
- Prosumer

10. Various Artists - 116 & Rising
[Hessle Audio]

2010年の終わり頃には既にこのコンピのアイデアがあって、それからすぐに動き始めた。これまで僕らが一緒に働いたことの無い人たちにアプローチして、僕らのコンセプトに興味があるか訊いてまわったんだ。幸い、全ての人たちが賛同してくれたよ。タイトルに関しては、僕ら3人がディストリビューターとこのプロジェクトについて打ち合わせした帰りの電車の中で浮かんだんだ。その頃僕はProdigyの『Experience』を聴き直していたんだけど、その中に"Everybody in the Place (155 & Rising)"って曲があるでしょ。僕らのコンピ収録曲の中で最も遅いBPMが116だったから、それにひっかけて『116 & Rising』ってタイトルが浮かんだってわけ。ジョークめかしてるけど、同時にこのコンピや僕ら自身をうまく言い当ててるんじゃないかなとも思うんだ。
- Pangaea

09. Motor City Drum Ensemble - DJ-Kicks [!K7]

俺が最初に聴いたDJ-KicksシリーズはKruder&Dorfmeisterだった。たしか1996年ごろかな？覚えてねーけど。当時12歳の俺は、新聞配達のバイトをやりつつ、ジョイントを吸いながらK&DやNightmares on Wax、あとCarl Craigも聴いてた。いざ自分でDJ-Kicksを手掛けることになって、俺は200以上のトラックを聴き返したよ。ここ数年、ライセンスの作業はどんどん難しくなってきてるだろ。ソウルやディスコの隠れた名曲なんかでさえもすべてメジャーレーベルの著作権管理下だしさ。それでも、Sun Raだけは絶対に入れたかった。あとRobert Hoodもね。俺がどこからやってきたのかを示すと同時に、何かクレイジーなことにトライしてみたかったんだ。
- Motor City Drum Ensemble

08. Jackmaster - Fabriclive 57 [fabric]

Fabricにはライセンス作業を専門にこなす部署があるんだけど、俺の選曲には彼らも苦労したんじゃないかな。要するに、DJ Funkのトラックのことなんだけどね。俺は間違った手順でやったからこそライセンスを勝ち得たと思ってる。つまり、普通はライセンスがすべて揃ってからミックスの作業に入るだろ？俺の場合は全く逆で、まずミックスしてしまってから先方に聴かせて反応を探るんだ。それでも、3回か4回は録り直ししたけどな。多くの人が俺やBen UFOのDJの秘訣を探りたがるけど、特別なことはなにもないと思う。思うに、今のDJというアートフォームにおける本質はそれを鳴らす場所やタイミングを敏感に判断するってことなんじゃないかな。若いDJがもっと表舞台に出てきたらエキサイティングだろうな。
- Jackmaster

07. Wolf + Lamb vs. Soul Clap - DJ-Kicks [!K7]

マイアミに行く直前の段階でこのミックスはほとんど完成してたんだけど、レーベルから「おい、俺たちはみんなを驚かせるようなものをリリースする為に頑張ってるんだから気合いの入ったものを送ってくれよな」なんてプレッシャーかけてくるもんだから、それからさらに1ヶ月かけてその選曲や内容すべてを精査し直してさ。そうやってタイトに練られたすべての素材が出揃って、俺らのミックスマスターEli (Soul Crap) の職人技によってひとつの巨大なミックスが完成したってわけ。でも、こんなに反響の大きなものになるとは予想してなかったな。みんな、俺らの狙い通りの部分を受け取ってくれたんだね。
- Zev Eisenberg, Wolf + Lamb

06. Pearson Sound - Fabriclive 56 [fabric]

いくつかのトラックがライセンス上の問題で収録出来なかったのは残念だったけど、だからといってその曲を俺がブートレッグ化して収録しても意味ないだろ。まあ、その他のトラックのライセンスについてはうまくいったし、ほとんどのレーベルオーナーやプロデューサーたちが協力的だったのはありがたいよな。Fabricでやったリリース・パーティはめちゃくちゃ良かったよ。昔の学生時代の友達や、音楽を通じて知り合った仲間がみんな大集合してくれてさ。Fabricに初めて行ったのはほんの数年前だったんだけど、そのRoom 1でヘッドライナーとしてプレイすることなんて夢のまた夢って感じだったよな。
- Pearson Sound

05. Marcel Fengler - Berghain 05
[Ostgut Ton]

制作するにあたり、僕は50近くのトラックを選び、それからライセンス交渉に入りました。たとえば、Hans ZimmerやMassive Attackの曲は最終的にライセンスが許可されず、収録出来ませんでした。このミックスにはディレイやリヴァーブが追加されています。ライブ感を与えたり、ある部分を強調する為に、そうしたプラグインをいくつか使用しました。エフェクトが重なり合ってレイヤーになっていたりもします。ミックス中にエフェクトを使ったりもしましたが、ミックスダウンの際にも追加しました。その効果は全体で活かされていると思います。このCDをリリースして以降、それまで声のかからなかった場所からもブッキング依頼が届くようになり、多忙な日々を過ごしています。沢山の人々と僕の音楽やセットを共有でき、非常に素晴らしいと思っています。
- Marcel Fengler

04. Scuba - DJ-Kicks [!K7]

昔からDJ-Kicksシリーズのファンだったし、ここ最近リリースされてるものも凄く良い内容だよね。だから!K7から最初に僕のところに依頼があったとき、二も一もなく引き受けたよ。でも、それから3ヶ月くらいレーベルからは何の音沙汰もなくてさ、やっと連絡があったと思ったら2週間以内に仕上げてほしいって言うんだ。それからはまさに火の車って感じでさ。僕が表現したいと思っていた幅広いスタイルやフィーリングをひとつのミックスの中に調和させるって作業はめちゃくちゃ骨が折れたね。とにかく濃密で、地獄のような2週間だったよ。どうやら僕は締め切りやプレッシャーに追われていたほうが良い作品を創れるみたいだね。もちろんこのミックスの仕上がりにも満足してるよ。
- Scuba

03. Dixon - Live at Robert Johnson Vol. 8 [Live at Robert Johnson]

Robert Johnsonではオープニング・ナイトでもプレイしました。正式オープンを控えた前日にも、親しい身内だけを招待してAtaと私でプレイしたんです。ミックスCDをリリースする予定はもともと私にはなかったのですが、Live at Robert Johnsonのシリーズ最後となる作品を私にという彼らの願いとあっては、断る理由などありません。このミックスのために、Barntの"Collection"という曲のエディットを創りましたが、非常に興味深い仕上がりになっていると思います。私が創るエディットは主にDJでプレイするためのものであって、クリエイティブな側面はあまり重視しません。しかしこれに関しては、アレンジを追加し、ビートレスのヴァージョンに仕上げました。オリジナルの持つ美しさがより際立ったと思っています。
- Dixon

02. Ben UFO - Rinse: 16 [Rinse]

ネットでいろんなミックスがタダで手に入るこのご時世にわざわざミックスCDをリリースするってんだから酔狂だよな。このミックスを作るときに参考にしたのは、Optimoみたいにいろんなジャンルのレコードをごちゃ混ぜにして、荒っぽい多様性ってもんを提示してるミックスCDだった。こういうアプローチでこそミックスCDをリリースする意義が生まれると思ってるからさ。『Rinse 16』での俺の選曲はそこまで幅広いもんにはなってねえと思うんだけど、ちょっとは近づけられたんじゃねえかなとは思ってる。いろんな多様性を持ったサウンドに一本の筋ってもんを通して、ひとつのミックスとして一体感のあるもんにしたかったんだ。
- Ben UFO

01. Four Tet - Fabriclive 59 [Fabric]

最初にFabricへ行ったときに観たのはDaft Punkだった。クラブがオープンして初めての週末だったと思うんだけど、とにかく衝撃を受けたのを覚えてる。Trevor Jacksonも一緒に行ってた。その日は別の場所でWarpのアニバーサリーもやってて、Boards of CanadaやAutechre、そしてSquarepusherのライブを聴いた。そしてTrevorと僕がタクシーに乗ってFabricに行くと、Daft Punkがプレイしてたんだ。完璧でしょ。

このミックスに関して言うと、沢山のトラックをヴァイナルでプレイしたよ。全体に一貫したサウンドの質感を持たせたかったからね。僕にとっては、完璧にクリーンなデジタルサウンドをとるのか、もっとヴァイナル的なサウンドの質感をとるのかは大問題だったんだ。極端な例だけど、すごくざっくりとした粗いサウンドから急激にクリーンなサウンドに移ると、すごく不自然でぎくしゃくして聴こえるでしょ。そうならないように、一貫した質感で安定したリスニング体験ができるよう心がけたんだ。音量のレベル設定にも同じことが言えて、いまのマスタリング技術だととにかくすべてがピーク付近で飽和してるでしょ。僕は、それとは違うダイナミックな感触が欲しいんだ。無音からラウドになるその過程で、いろんなものが動きまわるのがわかるような。
- Four Tet