「昔と同じような作り方ってわけじゃないんだ」と懐古主義者は主張するが、古くさく手垢にまみれたクリシェは大した意味をなさない。現実として、昔と同じような方法でトラックを作ることは可能だ。そして、それこそが懐古主義志向に潜む問題点でもある。とりわけエレクトロニック・ミュージックというこの分野においては、特定の年代や過去のスタイルに回帰するオールドスクール志向という要素はさほど評価されにくい。いまや過去の歴史はマウスのクリックひとつで手繰ることができるし、Poker Flatのようなレーベルは「forward to the past（過去への前進）」という、単なる懐古主義とは一線を画すコンセプトを打ち出してもいる。

多くの場合、こうしたリバイバル主義は模倣的な域を出ず、そこでは新しい／古いという差異の概念は非常に希薄だと言うべきだろう。しかし、なかには過去のスタイルを参照しつつも、「もし違う方向性で発展していたら？」という別角度の新たな解釈を反映させる者たちも存在する。Absurd RecordingsのサブレーベルとしてスタートしたAcid Testはまさにそうしたレーベルの典型だ。彼らはそのアーティストたちに「303を使ったトラックを作ってほしい」と指定するそうだが、その使い方はアーティストの自由なのだという。

Acid Testの発案者でもあるOliver Bristowが最初にこのプロジェクトを着想したとき、彼はすでにアシッド進化系の旗手であるTin Manとコンタクトをとっていたという（Oliver BristowとTin Manは共にアメリカ西海岸在住）。Tin Manをこのプロジェクトに引き入れるのはごく自然な流れであったはずだ。Bristowはこう説明する。「Acid Testのアイデアの最初は、アシッドに影響を受けたトラックを集めたコンピレーションのつもりだったんだ。ルールは設けず、303を使ったトラックってだけの条件を設定してね。Tin Manは最初5、6曲送ってきたんだけど、あまりピンと来なかったのでそれらはほとんどボツになった。それから次に彼が聴かせてくれたのが"Nonneo"だったってわけさ。」

『Perfume』『Vienna Blue』といったアルバムでも分かる通り、過去数年にわたってTin Manは歌を軸にしたテリトリーでの実験を繰り広げてきた。しかし、この"Nonneo"は彼のより以前のスタイル、つまりダンスフロアを強く意識したトラックである。ほとんどトロピカルとも形容出来そうなビートと長くひねくれたアシッド・ラインを有しながら、過去の伝統的なスタイルとは明らかに違う個性を放っていた。Tin Manのトラックにおける303の使い方は典型的なアシッド・トラックとは異なり、あくまでもタイトなコントロール下に置かれる。

現時点でこのAcid Testを代表するトラックはレーベル1枚目としてリリースされた"Nonneo"のBサイドに収められた同曲のDonato Dozzyによるリミックスだ。Tin Manの名前と共にこのイタリア人DJ／プロデューサーの名前が並ぶのは多くの人々にとって驚きであったに違いない。だが、この2人が一緒にライブしている様子を想像してよくよく考えてみれば、非常に納得のいく組み合わせでもある。実に寡黙な趣を持つ"Nonneo"をリミックスするには、同じくテクノ界で最も寡黙な作風で知られるDozzyはまさにうってつけの人物だろう。Dozzyはそのリミックスワークにおいて通常はあまり多くの手数を加えることはしないだけに、この"Nonneo"での大胆なリミックスは大きなインパクトを持って迎えられた。Philip Sherburneのレビューにもあったように、Dozzyはコンガを加工してすべてをエコーとファズのレイヤーに浸し、オリジナルが有していた闊達とした輪郭をむしろ疲弊したようなものへと意図的に転化させている。

Tin Manがこのレーベルに参加することは至極自然なものに見えたが、その次に続くリリースでAcid Testはさらなるユニークで興味深い展開を見せた。BristowはAcid Testを立ち上げる以前からFacebookを通じてIron Curtisとコンタクトを取り合っていたという。ベルリンを拠点に活動するIron Curtisはこう語る。「レーベルのメンバーにTin Manが名を連ねているのを知って、『俺も参加したい！』って思ったんだ。で、このレーベルにフィットするようなトラックを手持ちのストックの中から探してみたりもしたんだけど、しばらく放ったらかしにしてたんだよね。でもOliverからは定期的に連絡があったし、そこで友達でもあるJool (Edit Piafra)と共同制作でトラックを作ってみることにしたんだ。最初に作った2曲を送って、結果的にそれが僕らのAcid Testでの最初のリリースに収録されることになった。」

はたしてAchterbahn d'Amour名義としてリリースされたそのトラック群は、Acid Testにとって303とは単なる出発点には過ぎないことをはっきりと示した。Curtisはさらに続ける。「俺はジャム・セッションが好きなんだ。Tin ManがリリースしたAcid Testの1枚目を聴いて、俺ならこうしてみようって思う部分がいくつかあったしね。俺らが送ったトラックはすごくスローでさ、なんて言うのかな・・・とにかくヘンなトラックだった。これがリリースされるとは正直思ってなかったね。」

世界中のアーティストたちが参加する他のレーベルと同様に、Acid Testもまた優れた感覚と良好なコネクションのコンビネーションであり、ハードワークの賜物である。Dubplates & Masteringでマスタリングされカッティングされたヴァイナルが届くと、Bristowは自作のステンシルを使ってスリーヴにペイントを施す。Iron CurtisやRecondite（次にAcid Testからリリースを控えているプロデューサー）が明かしてくれたように、Bristowは最初の段階から非常に密なコンタクトを続けるのだという。Iron Curtisはこう語る。「彼は俺らがどんな曲に取りかかっているのかってことに常に興味を持ってくれているんだ。」また、Reconditeはこうも付け加える。「彼はすごくソリッドかつフレンドリーに接してくれる。それはEメールのやりとりだけでも分かるよ。彼は誠実で、ずけずけと踏み込んでくるようなこともしないし、物事を過度に誇大するようなところもない。Acid TestはTin Manをリリースしているレーベルだし、そのカタログに僕が名前を連ねることが出来るのは凄く光栄だよ。このチャンスに感謝してる。」

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まさしく、Reconditeはこのレーベルならではのポリシーにさらなる新風を吹き込むことだろう。彼は2012年に向け、アルバム1枚分ほどのトラックのストックをすでに抱えている。Reconditeはこう語る。「Oliverが最初に303を使ったトラックを作ってくれっていう依頼があるまでは、そういうトラックは作ったことがなかったんだ。Oliverは僕の制作をすごく後押ししてくれて、特に中域から高域の扱い方にはアドバイスを受けた。中高域でしか表現できないある特有のサウンドっていうのがあって、かなり沢山の可能性を秘めているんだ。それこそが303やアシッドの無尽蔵なポテンシャルなんだよね。フリークエンシーのあらゆる部分にすばらしいサウンドが秘められてるんだ。」

Acid Testのリリースを耳にすれば、Reconditeが言わんとするところもたちどころに理解出来るはずだ。Tin ManやReconditeがミニマルでメランコリックな展開を見せる一方、Achterbahn d'Amourは303を最大限に活かし切っている。さらに、Holger Zilskeの"É Preciso Acreditar"における淫靡なメロディ、Achterbahn d'Amour "Your Love"におけるIdjut Boysのステディなリミックス、Skudgeが手掛けた"Trance Me Up"のループ・テクノ・リミックスなど魅力は尽きない。Reconditeはこう語る。「とりわけ90年代のアシッドにはこういうアグレッシブな感じがあったんだ。Acid Testに参加しているアーティストは皆、303を使った音楽にはまだまだ大きなポテンシャルがあると確信してるはずだよ。」

Acid Test Mix

Acid TestのレーベルヘッドOliver Bristowの良き友人でもあるEddie RichardsがAcid Test新旧カタログをミックス。ソフトからハードへ、そして再びソフトに着地する旅のなかで、303が一貫した存在感を放ち続けている。

Download: RA Label of the Month 1201 Mix: Acid Test
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Filesize: 84.1 MB
Length: 00:57:58

Tracklist
Tin Man - Accumulated Acid (Acid Test 01)
Achterbahn d'Amour - Talking Acid (Acid Test 02)
Achterbahn d'Amour - Adult Movies (Acid Test 05)
Achterbahn d'Amour - Your Love (Idjut Boys Version Acid) (Acid Test 02)
Recondite - Sultry (forthcoming)
Recondite - Petrichor (Tin Man remix) (forthcoming)
Tin Man - Nonneo (Acid Test 01)
Tin Man - Nonneo (Donato Dozzy remix) (Acid Test 01)
Recondite - Felicity (forthcoming)
Holger Zilske - E Preciso Acreditar (John Tejada remix) (Acid Test 04)
Recondite - Jaded (forthcoming)
Donato Dozzy - In Bed (Acid Test 03)