数ヶ月前、Soul ClapのEli GoldsteinとCharlie Levineとランチを共にする機会があった。彼らがベルリン滞在時の定宿としているホテル、Michelbergerで落ち合った我々は、シュニッツェルとモールタッシェンに舌鼓を打ちながら彼らの創作の核になっているエディットについて語り合った。もっと正確に言えば、無許可で作られるブートレッグ・エディットについてだ。Soul Clapにとって他のアーティストの楽曲をリエディットするという行為はDJ／プロデュース両面において大きな位置を占めるものだが、その方法論は常に賛否に分かれるところでもある。2010年にリリースされた"Extravaganza"を例にとると、これはポップカルチャーを再利用し、その中からダンスフロアー的な要素を見事に抽出したトラックであったと同時に、他方ではオリジナルなところなどひとつもない、単なる粗悪な盗用にすぎないとする意見があったことも確かだ。この作品のRA Reviewでも賛否両論を巻き起こしたが、Jack Haightonはこの"Extravaganza"に対し「たしかにキャッチーな曲だ。たった5年前のプラチナ・アルバムをエディットしているんだから当然だと言えるんだけど」と、別角度からの客観的意見を述べてもいる。

成功したDJにはとりたてて珍しいことではないが、GoldsteinとLevineの2人もまたシリアスな部分とリラックスした部分の両方をうまくミックスさせている。エディットに対する姿勢も同様だ。彼らはエディットする題材こそ真剣に扱うが、そのスタンスはあくまでも自由放任的でもある。Goldsteinはこう語る。「だいたい、ルールなんてものは誰が決めるのさ？この音楽の素晴らしいところは、題材を好き勝手に扱えるってとこだろ。俺らがエディットを作っているところに他人がずけずけとやってきて、『ああ、これじゃダメだね。許可が下りないよ』なんて言うのはナンセンスだよ」彼ら自身もそう思っているように、エディットという行為自体はディスコの時代から続いているもので、その行為自体に目新しいものは何もない。間違いなく言えるのは、彼らにとってエディットは今もプロダクションにおける最も重要な基盤であるということだ。「Ice Cubeの"Jackin for Beats"や、Mobyのレイヴ・ヒットだった"Go"を思い出してみろよ。この2つの曲は同じサンプルから出来てるんだ。Twin Peaksのテーマ曲さ」

エディットという行為には、他人の作品を下地にする以上、倫理的な問題が常につきまとうが、Soul Clapの2人はそれが悪いことだとは考えていないようだ。Goldsteinはこう語る。「ヴァイナル・オンリーでリリースしている限りは問題ないと思う。というか、500枚かそこらのヴァイナルをプレスするだけじゃ、利益なんてまったく期待出来ないだろ。じゃあなんでそんな儲からないことをやってんのかって話になるんだけど、そこには少なからず需要があるからさ。みんなが欲しいって思うものを作ってるってだけなんだよね。儲けようと思ってやるようなことじゃない」

いっぽう、Levineはしばらく考え込んでからこう語った。「まあ、僕らが成功したのはエディットのおかげだってことは確かだよね」と。

「それは確かなんだけど、僕らがやっているエディットにしろ、オリジナル・トラックやミックス、DJセットにしろ、それが他のみんながやっていることから大きくかけ離れているってわけじゃない。やってる事は同じだよね」彼らはまた、他人のサンプリング手法に関してはとやかく騒ぎ立てないように務めているようで、そのサウンドが良ければOKだというスタンスを貫いている（とは言うものの、Joel Alterがその近作のタイトルを"Soul Clap"としたことについては若干苛ついているようだ。「俺らも自分たちのトラックに"Joel Alter"ってタイトル付けて意趣返しするかもね」と）

エディットに関するSoul Clapの一連の考え方は至極まっとうなもので、これはとりわけ彼らが属するシーンだけで通用する考え方ではない。こうした自由さを尊重する気風はテクノやヒップホップのシーンはもちろん、ポップ・アーティストの世界でもある種共通した認識として存在している。だが、その合法性についてはまったく別問題であり、エディット自体は40年にも近い歴史を持っているにもかかわらず、いまだにエレクトロニック・ミュージック・カルチャーにおけるもっとも流動的で危うい問題のひとつである続けているのだ。あるアーティストにとっては、エディット作品とは純粋な楽しみのためにごく限られた友人たちとの間で共有されるものであったりするし、またあるアーティストにとっては、そのオリジナルと同等のものとして自らのエディットをアーティスティックな表現のひとつとして定義されるべきものでもある。オリジナルを盗用したとして訴えられるリスクに見合わないとして、エディットを頑なに避けるアーティストもいる。こうした現状を踏まえ、あるレーベル・マネージャーはこう語る。「まるでドラッグの取引みたいなもんさ。それが僕らのシーンにとって或る大きな部分であることはみんな分かっているのに、ひとりの馬鹿なディーラーがその取引の手順を大っぴらにバラしてしまえば、みんな自分にはまったく関係のないことだと素知らぬフリをしてしまうんだ」

エディットという言葉が持つその基本的な意味合いにこそ、解釈の相違が発生する。元来、エディットという言葉はオリジナルの楽曲をクラブ・ユーズ向けに簡素なモディファイを施したものを指していた。Tom Moultonが70年代中盤に史上初のダンス・エディットを作った時、Moulton自身のアイデアにあったものがまさにそれだ。Moultonはこう語っている。「Fire Islandのバーで働いていた頃、ずっとダンスフロアーのお客たちを眺めてたんだ。当時の楽曲はラジオ用に短く編集されたものばかりだったから、だいたいの曲は3分か4分そこらで終わってしまう。でもフロアーにいる人たちはもっと長くその曲で踊っていたいって思ってるわけさ」Moultonはポップ・ソングのリズム・セクションを引き伸ばしてフックをリピートさせたり、サウンドそのものをクラブのサウンドシステムに合わせて強化した新たなヴァージョンを作り、それらはTom Moulton Mixシリーズとして名を馳せた。一見些細な加工にもかかわらず、これらはクラブにおける最大限の効果を発揮し、DJたちはレコードショップで"Tom Moulton Mix"をこぞって買い求めるようになった。

Tom Moulton became famous for his edits in the mid-'70s.

70年代中盤、エディットはTom Moultonの手により世に広まった。当初エディットの作業はオープンリールのテープを鋏でカットすることで進められていたが、その手法の基本的なアイデアはAbletonの時代となった現在でもさほど大きく変わってはいない。Panorama Barのレジデントでもあり、SpectralのA&Rを務めるRyan Elliottはこう語る。「あるトラックを聴くとするだろ。俺の場合はすぐにそのトラックのどの部分をいじろうか考え始めるんだ」彼は常にエディットを施したトラックを作っているが、ほとんどの場合彼自身のDJセットで使うためのものであったり、せいぜい身近な友人たちとの間でシェアするぐらいのものだ。それを自らの名を冠してリリースするようなことはない。ベルリンをベースに活動するDJのBill Patrickはこう付け加える。「RyanやShaun Reevesはいつもたくさんのエディットが収められたzipファイルを送ってくれて、僕らはそれが大好きなんだ。たまに、ちょっと手を加えるだけで大きく化けるトラックもあるよね。Mathew Jonsonの"Cold Blooded"はまさにそういうトラックで、すごく良いベースラインが入ってるのに、オリジナルだとそれが一回抜けると戻ってこないようになっててさ。思わずMathew本人にメールしたくらいさ。『トラック自体は大好きなんだけど、なんであのベースラインをもっと前に押し出さないんだよ！』ってね」ElliottやReevesのようなプロデューサーは、オリジナルをプレイするよりもこうしたベースラインを強調したエディットを自らの手で作り直し、それをプレイするのだ。

以上のような手法は古典的なエディットに忠実な好例だと言ってもいいと思うが、一方で現代のエディットにはより多くのアーティスティックな視点を盛り込んだものも存在する。その代表格がWolf + Lambのエディット専門サブレーベルであるW+L Blackであろう。Soul Clapが手掛けたエディットのほとんどがこのレーベルからリリースされているし、Hot NaturedのLee FossとJamie Jones、そしてNicolas Jaarが手掛けたエディット作品もリリースされている。彼らの作品は名目上はエディットとされているものの、実際はリミックスに近い手法で作られており、オリジナルトラックの面影さえ残らないケースさえあるくらいだ。このレーベルの最新作であるNicolas Jaarの作品を例にとってみると、これはMissy Elliottの"Work It"を素材にしているものの、アカペラ部分以外はオリジナルとかけ離れたものに作り替えられており、とりわけ不気味で抑制された全体のムードはオリジナルとはまったく異なるものだ。彼らの場合、エディットとはフロアーに向けた機能性というよりも、よりアーティスティックな視点による解釈そのものだと言っていいはずだ。

Nicolas Jaarは「僕にとって、エディットを作ることは休暇に出かけるようなもの。普段の制作での頭の使い方とは違うところで、まったく違うものをやってみようって感じかな」と語っている。

また、他のアーティストにとってのエディットとはその創造性の核心により近い存在でもある。ほぼ匿名の、ヴァイナル・オンリー・レーベルながら立ち上げ初年度の2011年には8,000枚もの12インチを売り切ったAnalog Solutionsを手掛けるDJ／プロデューサー Eduardo de la Calleの作品はモダンで発想豊かで、フレッシュなスタイリッシュさを持ち合わせているが、それと同等に彼の作品には過去への参照が大きな部分を占めていると言う。彼は「Analog Solutionsはサンプリングの芸術性にトリビュートするためのレーベルなんだ」と語る。Analog Solutionsからリリースされているレコードのほとんどは、Carl Craig、Aaron Carl、Basic Channelといったクラシックなハウスやテクノのアーティストの作品からのサンプリングで成り立っている。そうした有名なトラックからのサンプルを使っているとは一見分からないときもあれば、明らかにそれだとすぐに分かってしまうこともある。Underground Resistance "Transitions"のスピーチ部分を引用したトラックなどはその最たる例だ。de la Calle自身は、オリジナルを作ったアーティストたちにリスペクトを示すことを重要視している。レーベルのバックカタログをセカンド・プレスする際には、それぞれのスリーブにそのサンプル元を明示するステッカーを貼付けたりしている。ときにはde la Calle自身がMetroplexのスウェットシャツとスキー・マスク（訳注：Mad Mikeのトレードマーク）を身につけた写真が使われることもある。

彼は「スリーブにステッカーを貼った理由は、こうすることで僕を音楽に導いてくれた人たちに感謝を示せればいいなって思ったからなんだ。でも、混乱して考えたり、単に売名行為のための戦略だと思ってしまう人もいるけどね」

"ナボコフだって『ロリータ』を書く時に他の
作家の作品から大きく参照したんだ。ナボコフは
それを遥かに優れた内容に書き換えたけど、
もともとの基礎となるアイデアは他人のもの
だったってわけさ" - The Mole

de la Calleが作るトラックはしばしばエディットと混同されがちだ。実際、ベルリンのレコードショップSpace Hallは彼を「Mr. エディット」と呼んだりしているが、de la Calle自身は一部を除けばオリジナル・プロダクションだと考えている。彼が考えるサンプリングの作法は多くの部分でSoul Clapのそれと多くの共通点を有しており、サンプリングはエレクトロニック・ミュージックの制作において不可欠なものであり、それらはすべてフェアに判断されなければならないと言う。また、オリジナル・プロダクション／リミックス／エディットの間に介在する境界に厳密なものはなく、それぞれが連続体のようなものとして存在している、と。

de la Calleのこうした手法に対し、異議を唱える者も当然いる。あるベルリンのレコードショップはそれが理由でAnalog Solutionsの取扱いを停止したほどだ。しかし、de la Calleのようなアプローチでサンプリングに取り組んでいるアーティストは他にも居る。イギリスのDJでありテープ・エディットの名手であるGreg Wilsonは、エディットにはディスコ以前にも遡る音楽的伝統が潜んでいると語る。彼は「音楽にはエディット的な概念は常に存在していた。60年代の音楽はリズム＆ブルースやブルースから多くの要素を引用していた。古い曲のギター・リフをそのまま使ったりね。こうしたことはこれまでに数えきれないほど繰り返されてきたし、これからもそれは変わらないだろう」と語る。Colin de la PlanteはThe Mole名義がよく知られるプロデューサーだが、こうした音楽における参照と引用の歴史に同意する。「ナボコフだって『ロリータ』を書く時に他の作家の作品から大きく参照したんだ。彼があの作品を書く前に、同じロリータという名前の女の子が登場して、男が翻弄される小説は他の作家によってすでに書かれていたんだ。ナボコフはそれを遥かに優れた内容に書き換えたけど、もともとの基礎となるアイデアは他人のものだったんだ」

Eduardo de la Calleはそのレーベル、Analog Solutionsを通して議論を巻き起こした。

一部のアーティストはサンプリングの容認性はさておき、エディット自体はオリジナルに対し新たな価値を与えるものだと考えている。De la Calleは、過去のシカゴやデトロイトのサウンドに新たなエッジを与えることで、クラシックを「救済している」のだと語る。Soul Clapは冗談まじりに彼ら自身を歴史教師に見立て、ダンスミュージックの歴史を若い世代に伝えているのだと言う。先述のGreg Wilsonは「音楽ってものは古くなるってことを拒否して常に循環しているんだ」と付け加える。同様に考えているアーティストは少なくなく、2006年にフランスのDJ、PilooskiはFrankie Valliの60年代ヒットである"Beggin"のブートレッグ・エディットをリリースした。これを偶然耳にしたFrankie Valliは気に入り、Pilooskiを訴えるどころか彼のレーベルに協力を申し出てこのブートレッグは晴れて正規リリースされる運びとなったのだ。長らく忘れ去られていた過去のヒット曲はPilooskiのエディットによって新たな生命を吹き込まれ、Adidasのコマーシャルにも起用された。ノルウェイのバンド、Madconはそのリエディットを下地にしたカヴァー・ヴァージョンを発表したほどだ。Soul Clapもまた、Laid Backの"Bakerman"でそれに近い経験をしている。最初W+L Blackからホワイト盤としてひっそりとリリースされたこのエディットは、Laid Back側のマネージメントの耳に留まり、Laid Back自身のレーベルからサンプル使用許可を得るとともにLaid Back vs. Soul Clapとして正式リリースのオファーを受けたのだ。

じゃあ、エディットに悪いところなんてないじゃないかと思うかもしれないが、今挙げた2つの例はラッキーなケースだ。エディットが直面する一番の問題は、著作権上の問題だ。ブートレッグ・エディットがオリジナルの著作権を侵害していることは間違いなく、しかるべき理由をもって著作権が存在している以上、オリジナルのアーティストには使用料を支払わねばならない。多くのアーティストがこうした著作権上のトラブルを経験し、サンプルを使用するときはその使用料をオリジナル・アーティストに支払っている。そうしなければ、音楽市場は機能不全に陥ってしまうのだ。

前出のレーベル・マネージャーは匿名を条件にこう語る。「非合法なことをやるには、そのリスクに対してあまりに利益が少なく、建設的なビジネスではないと思う。遠回しな言い方はしたくないのでこういう物言いになってしまうが、エディットやサンプリングは手っ取り早い窃盗みたいなものなんだ。古い音楽に新たな息吹を与えるとかなんとか言って、もっともらしい理由をつけて正当化したがる奴もいるけど、こういうエディットを作っている連中はASCAPやGEMAに著作権受諾料を払っていないし、オリジナル・アーティストに対してもビタ一文支払っていないはずだ。いとも簡単に他者の作品を盗み出しているのさ」

もうひとつ、アーティスティックな側面からの議論も存在する。Tom Moultonがオープンリール・テープを使ったエディットの先鞭をつけた時、彼のエディットはそれ以前には明らかに存在しなかった未知の音楽体験をもたらした（それを意図していたかどうかは今となっては知る由もないが）。これは現代のエディットには失われてしまったマジックだ。DJであり、音楽評論もこなすHard Waxのスタッフ、Finn Johannsenはこう語る。「Moultonが手掛けたエディットのように、深く興味をかき立たせてくれるようなエディットは現代ではもう出てこないね。Moultonの時代はコンピューターが存在しなかったから、ビートマッチングをはじめとしたDJでの機能性は重要視されてなかったと思う。今では、エディットを呼ばれるもののほとんどはただ単にDJの作業を楽にしようっていう利便性重視の物ばかりだよね」また、彼はエディットを巡る議論について「価値はあるかもしれないけど、怠惰な印象を受ける」と語る。「みんな『ずっと存在してきたものじゃないか』って言うよね。確かにそうだけど、大事なことを忘れてる。アーティストとして、何を目指して実現させるかってことが問題だと思うけどね」

あわせて、倫理的な視点から見てみよう。エディット作品はそのアーティストの純粋な作品とは言えないとする論調がある。Soul ClapのR&Bエディットがリリースされた際のHaightonのレビューにおける論点もまさにそこにあった。つまり、ただプラチナ・セラーのレコードを題材にしてちょっと作り替えただけでアーティストの名を冠するに値するのか？という命題だ。Wolf + Lamb周辺に限らず、オリジナル・アーティストの名前をエディットしたアーティストの名前に置き換えてリリースするのはある意味仕方のない措置だとも言える。本来ならば、"Soul Clap - Extravaganza"ではなく、"Jamie Foxx - Extravaganza (Soul Clap Edit)"とされるべきだという意見にも同意出来る。ただ、メジャー・レーベルお抱えの法律家がGoogleを巡回してそのイリーガル・エディットを発見することを避けようと考えたとき、オリジナル・アーティストの名前を冠することはあまりにリスクが大きすぎる。しかも、仮にそのエディット・ヴァージョンがオリジナルとほぼ同等の知名度を得ていたとしたら？どちらにせよ、そこに正当性があるかどうかは疑問だ。

ここで前出の匿名レーベル・マネージャーに再び登場願おう。「僕の意見としては正反対だね。今の多くのキッズは音楽的な知識もなければ、歴史的な経緯を理解する力も持たない。Todd Terryのドラム・ループを使って一発当てた奴がいて、『いやいや、たまたまサンプラーに入ってたサンプルを使っただけさ』なんて言ってたけど、結局それを上回るサウンドを作ることなんか出来ないまま消えて行った。10年くらい前に、みんながもっとサンプリングに対するリスペクトを高めておくべきだったと思うよ。今じゃすべてがタダ同然だし、しかも誰もが手に入れることが出来る。もはや聖域なんてものは存在しないよね」

"多くのアーティスト、とりわけ若い世代にとっては、こうした状況は当たり前のように存在しているものであって、すでに知っているものなんだ"
- Greg Wilson

この記事を書くにあたり、多くのアーティストから取材を拒否されたり、匿名を条件に取材へ応えたアーティストが複数人いたことを記しておこう。過去にこうした無許可のエディットを手掛け、そうしたイリーガルなものに自らの名前が明記されることを避けたいと思うのはもっともだ。しかし、多くのプロデューサーたちが考えていることに反し、たとえ反響は小さいかもしれないが議論すべき理由はある。匿名のレーベル・マネージャーは語る。「このビジネスには過去にイリーガルなサンプルを使ったり、そのことで訴えられ、そのレコードの総売り上げ以上の賠償金を請求された経験を持つ者もいる。だから、もし若いキッズが自分で作ったエディットを持ってきみのところにきても、それが違法なものだということを教えてやってほしい。若い子はだいたい自分でやっていることがわからないものだからね。もし一度インターネットにアップされてしまえば、もう取り返しはつかない」

こうした法的なリスクを確信しているか否かに関わらず、リスナーは少なからずそのエディットをオリジナル・アーティストと結びつけて（あるいはそのアーティストの作品として）認識するものであり、アーティストはそれが別個の作品であることを明記しなければならないかもしれない。Ryan Elliottはこう語る。「通常、みんなはエディットを先に聴いてからその次にオリジナルを聴くと思うけど、必ずしもその順番は同じだと限らないわけでね。誰かのエディットを、その素性を明らかにしないままリリースするのは正しくないと俺は思うね。少なくとも、そのオリジナル・アーティストに伺いを立てるぐらいのことはしておいたほうがいいだろうね」

その一方、こうした議論さえもすべて押し流してしまう、より大きな意見もある。それは「今日の音楽業界のような混乱した状況にあって、何故わざわざ面倒な手続きに従わなければならないのか？」という意見だ。多くのアーティストがレコードをリリースすることで利益を得ようとは思わないようになり、著作権の在り方は現状に即していないにも関わらず闇雲に強化され、YouTubeにはほとんどすべての楽曲がアップされ、違法ダウンロードサイトでは何もかもが手に入る。この現状はしばらくの間は変わりようがないだろう。この無法ともいえる環境の中で、とりわけ誰もが同意出来ないルールに対して高潔な遵法精神を保っていては、孤立を招いてしまうだけだろう。

前出のGreg Wilsonはしかし、この状況を楽観的に説明する。彼にとって現代は「開かれた時代」であり、「西部開拓時代のようなもの」で、アイデア次第では実にエキサイティングになり得る可能性を秘めているという。彼はこう語る。「いま僕らの目の前にあるのは前例のない時代だと思う。ほぼ100年分の録音された音楽というマテリアルがあり、その膨大な蓄積から僕らは引用できる。さらに20世紀終盤から続くヒップホップ以降の時代を僕らは生きているのさ。つまり、2枚のレコードを使ってあるパートのみを引き延ばし、そこにラップを載せたりして、既存の音楽からまったく新しい何かを作り出せるってことは既に証明されているってことなんだ。多くのアーティスト、とりわけ若い世代にとっては、こうした状況は当たり前のように存在しているものであって、すでに知っているものなんだ。そういう新しい視点で音楽を捉えているから、それが彼らなりの表現方法に繋がっているんだ。共通言語みたいなものだよね。」

彼はさらにこう続ける。「旧世代の人たちはこうした状況を制御不能のものとして捉えているのかもしれないけど、これが紛れもない現状なんだ。一度外に出た魔物は瓶の中に戻せない、ってことさ」