「最初の1年は、自分がどうしたいのかという点と自分の立ち位置について少し悩んだけど、結局のところ僕は奇妙な音楽をリリースしたいんだってところに落ち着いた」Digitalis Recordingsの基本方針についてこう説明したのはレーベルオーナーBrad Roseで、彼は現在オクラホマ州タルサに拠点を構えている。

「適当に歌が入っている支離滅裂なフォーク」、「別次元のガラクタ音」、「泡立つように押し寄せるシンセ」、「地表から直接掘り起こしたような音」－ここ数年にDigitalisがリリースした「奇妙な音楽」をRoseはこう説明しているが、そのどれもが適切な表現と言えよう。「地表から～」の表現はやや言いすぎだと感じるかもしれないが、リリースタイトルのひとつ、『Rocks Will Open』を聴けば、その意味が分かるはずだ。

勿論、全ての人がその意味を理解できるわけではない。Roseが住むオクラホマ州では特にそうだ。テキサス州の真上に位置し、ミズーリ州、アーカンソー州、カンサス州に囲まれた内陸の州が、実は「奇妙な音楽」の温床だと言うのはかなり無理がある。Roseの音楽の好みがインターネットを通じて培われてきたことは当然なのだろう。「AOLのチャットルームで誰かとチャットしていて、彼からレーベルShrimperがリリースしたコンピレーションアルバム『Abridged Perversion』（1993）を知ったんだ。このアルバムにはThe Mountain GoatsやFranklin Brunoの曲が収録されていた。当時の僕は自分の部屋で酷い音楽を制作していたんだけど、このアルバムで他の連中も自室で制作しているんだということを知ってね。それが僕を今の方向に導いてくれたんだ。その後に同人誌の存在なんかを知ってさ･･･」

Roseの話はこの後も続いたが、その後どうなったかは想像がつくはずだ。1：カセットテープのコンピレーションを見かける　2：どんどんアンダーグラウンドシーンについての理解を深めていく　3：自分で同人誌を始める（Roseの誌名は「Foxy Digitalis」）　4：大都市へ移動する（Roseの場合はシアトル）　5：他の土地で有名人になる－さて、Roseと彼の妻Edenの場合だが、シアトルへの移住後、物価が高いことを理由にオクラホマへ戻っている。Roseはオクラホマへ戻ったことについて、良い点は「やりたいことが何でも出来る。自分の周囲にあったあらゆる事象から解放された感覚を得たこと」とし、また悪い点については「島に住んでいるような感じになるところ」と説明している。

しかし、ここ数年は上向きな状況が続いているようだ。「僕たちのライブやイベントをやらせてくれるヴェニューやバーが増えたけど、店側は開催されることを楽しみにしているし、サポートしてくれるようになった。これがここ数年での一番の変化だね。何故なら、昔はマジで誰も来なかったんだ。イベントを開催してもバンド、Eden、僕、そして僕の友達だけしかいなかった。でも、今は実際に音楽に興味を持ってくれている人たちが来るようになったね」とRoseは語る。

しかし、地元での不人気がRoseにとって深刻な問題になったことはなかった。というのは、印刷物及びオンラインで配布された彼の同人誌を通じて、彼は自分のビジョンを、「奇妙な音楽」が好きな世界中の仲間たちと共有することができていたからだ。こうして始められたレーベルの初期タイトル群は、アンダーグラウンドなフォークが中心となっている。James Blackshaw、Christina CarterとTom Carter （Charalambides）、Six Organs of Admittanceなどが一般的なリスナーも知っているような存在だろう。また、Marissa Nadlerのようなテイストの、Xenix Emputae Travelling Band、Anvil Salute、Plat Ypusのようなアーティストもリリースしている。つまり、改めて言うまでもないが、Roseの趣向と交流は広範囲に及んでいる。

「より多くの人たちに、と言っても僕たちの世界では200人ってところだけど、認知されるきっかけになったリリースは、Steven R. SmithのCD-Rだね。僕がFoxy Digitalisで彼にインタビューをしたのがきっかけで仲良くなったんだ。それで彼を信じて、チャンスを与えた。当時は本当に無名の小さなレーベルだったんだけど、120枚が1週間で売り切れたんだ。驚いたよ」

この成功の後、Roseは自分の趣向の全てが反映されたコンピレーションの制作を決定する。『Gold Leaf Branches』と名付けられた3枚組は、ほぼ1年がかりで制作が進められたが、そのうち2ヶ月は曲順の決定に費やされた。「パソコンの前に座ってWinampで曲順を入れ替える作業を何時間も続けたよ」とRoseは当時を振り返るが、その努力は実ることになる。Boomcatがリリース後にRoseに連絡を取り、Boomcat側での在庫の確保が可能かどうかを尋ねてきたのだ。これ以来、両者間に強力な協力関係が生まれ、現在BoomcatはDigitalisの最重要パートナーのひとつになっている。Roseはこの関係について「彼らが僕たちにしてくれた全てのことに対し、僕たちは大きな借りがある」と強調する。

当時、CD-Rでレーベルを運営するということの魅力は、経費が安くなるという環境面にあったが、そこには美学もあった。カセットテープを選択しない限り、CD-RほどDIY感を出せるメディアはなかった。Roseは周囲の人間がCD-Rへの興味を失くし、同人誌のレビュー用にカセットテープでのプロモが送られてくるようになってきたのを見てきたため、約4年前からカセットテープでのリリースも始めているが、カセットテープはそろそろ終わりだと考えている。

それは彼がカセットテープを好まないということが理由ではない。単純にRoseはアナログレコードの方を好んでいるのだ。「リスナーとレーベル側、お互いにとって理想的な状況とは、レコードとデジタルの両方が存在していることだと思う。僕はその2つの方法で音楽を聴いているし」とRoseは話すが、彼のアナログレコードへの愛は、最近のリリースのマスタリングをベルリンのDubplates & Masteringへ依頼し始めたことがきっかけとなって大きく育っているようだ。「様々な方面からレコードのカッティングにおいては彼らが最高だということ、そして彼らならクリアでラウドな音にしてくれるということを聞いていたからね。僕も彼等に頼んでみてそれが本当だということがわかったよ。どうやってそれを可能にしているのか理解できないけど、デジタルマスターよりも音がいい。僕は技術的な部分は全く知識がないから、彼らがどうやっているのかとかは全然わからないんだ。ただ、彼らが誰も知らない何かを知っていると言うのは確かだよね」と説明する。

Dubplates & Masteringが扱っているのは主にテクノとハウスなため、「奇妙な音楽」が好きなレーベルオーナーからそのクオリティが保証されている点は非常に興味深い。しかし、ここ数年Digitalisがエレクトロニックミュージックへの傾向を強めていることも確かだ。Motion Sickness of Time Travel、Roll the Dice、Ricardo Donosoなどがここ最近のヒットアーティストだが、別により多くのリスナーを獲得しようという流れから来る路線変更ではない。このレーベルはRoseの好みの拡大に伴って動いているに過ぎない。

例えば、最近Roseはテクノとヒップホップに入れ込んでいる。現時点ではDigitalisからMain AttraztionzのアルバムやJuicy Jの『Rubber Band Business Mixtape』などはリリースされていないが、リリースの可能性がゼロだとは言い切れない。というのも、Roseの業界内の長年の友人の1人であるType RecordsのJohn Twellsは、昨年アナログレコードで、Clams Casinoの『Instumentals Mixtape』をリリースしているのだ。Roseは「僕の好きなラップアルバムのひとつは、2Pacの『Makaveli』だ。僕はいつもこのアルバムがいかに奇妙なのか説いて回ってる。何しろ喉を鳴らす音から始まる曲が入っているからね」と自分のヒップホップへの情熱を語っている。

しかし、現時点ではDigitalisはエレクトロニックミュージックへの旅を続けていくようだ。ただし、全てがエクスペリメンタルというわけではなく、Paco Salaの奏でるエレクトロニックポップは、今年後半にアルバムがリリースされれば、注目を集めることになるだろうとRoseは強調する。その他のリリースについては相変わらずの「奇妙な音楽」になることが予想されるが、この「ポップな音楽」と「奇妙な音楽」の間に横たわる差は、Roseに言わせれば私たちの想像以上に小さい。

Digitalis Recordings Mix

今月のレーベルショーケースは、Digitalis RecordingsのBrad Roseが担当した。「Roundabout History of Digitalis（Digitalisの概歴）」というサブタイトルが付けられているこのミックスは、エレクトロニックミュージックへの傾向が強い最近の作品、またはリリース予定の作品が多く含まれているが、Six Organs of Admittance、Tarentel、そしてOfなどレーベルのルーツであるフォーク作品も含まれている。

Download: RA Label of the Month 1202 Mix: Digitalis Recordings
(right click + save target as)
Filesize: 163.9 MB
Length: 01:08:18

Tracklist
01. Jurgen Muller - Waterworld (from Science of the Sea)
02. Paco Sala - Gifts of the Bloom (from forthcoming LP, Ro-me-ro)
03. Six Organs of Admittance - Thousand Birds (Live) (from Gold Leaf Branches 3CD compilation)
04. Asha Sheshadri - Pale (from forthcoming Flowers In Glass Cases cassette)
05. Betawave X - On Good Behavior (from forthcoming Ghetto Hymns... cassette)
06. Dylan Ettinger - Ridin' Dirty (from Cutters LP)
07. FRAK - As You May (from Muzika Electronic)
08. Motion Sickness of Time Travel - Luminaries (from Luminaries & Synastry)
09. Roll the Dice - Into the Ground (from Roll the Dice)
10. Soccer Committee & Machinefabriek - Very Well Drawn (from Drawn)
11. Geoff Mullen - ADF 3 (from A Dust Futures cassette)
12. Ricardo Donoso - Probing (from forthcoming Assimilating the Shadow)
13. Tarentel - Untitled #5 (from Live Edits: Italy/Switzerland)
14. Of - Agate Cups (from Rocks Will Open)
15. Discoverer - Tunnels (from forthcoming LP, Tunnels)
16. Milton Cross - It's Been Almost a Year (from Light in the West)