今回の特集では、トラックにおけるドラムパターンのプログラミングを向上させるための方法を見て行きます。ダンスミュージックのトラック制作においてビートが最も重要な要素であることは言うまでもありませんし、プログラムしたリズムのパターンとサウンドが、その音楽のスタイルを決定づけると言ってしまっても良いでしょう。今回はドラムパターンをより良くするために様々な方法を探っていきますが、特定のジャンルを紹介するのではなく、一般的なパターンの作成とより実践的なテクニックを紹介していくことで、リズムプログラミングを全体的に見て行きます。あなたの好きなジャンルが何であろうと有用に感じられるはずです。

まずはBPM120のシンプルなパターンから始めましょう。ご存じかもしれませんが、殆どのDAWソフトではグリッドを使ってパターンを組んでいきます。グリッドは小節を任意の値で区切った線のことで、この線に沿った形でノートを配置していきます。通常1小節は16分音符で区切られており、つまり1拍の中には4つのノートを配置することが可能です。

基本的なビート：Battery 3を使った基本的なパターンです。キック（C1）、スネア（D1）、ハイハット（F#1）の3つのサウンドが使用されています。

パターンの発展系：最初のパターンには何の仕掛けもありませんでしたので、今度は少し配置する場所を加えて、もう少し自分のビートにしてみましょう。ここでは4小節のパターンを組んでいますが、オリジナルのパターンのどこにサウンドが新たに配置されたかが理解できるはずです。

これでパターンはやや複雑になりましたが、全てのノートが同じベロシティで出力されているため、依然としてパターンはフラットでありきたりなものになっています。大抵のサンプラーやドラム系プラグイン（Battery 3、Stylus RMX、Geist、Punchなど）では、ベロシティを変化させることが可能です。上のスクリーンショットを確認すれば理解して頂けると思いますが、打ち込まれているノートは全て同じ色になっており、これは同じベロシティで鳴ることを意味しています。

ベロシティの追加：このクリップでは、各ノートのベロシティを調整していますので、強調したいサウンドがはっきりと聴こえ、そうではないサウンドは小さく聴こえるようになっています。このように調整することによって、パターン全体がダイナミックに聴こえるようになります。

これでベロシティの効果がお分かり頂けたと思います。ベロシティを調整することは、プログラミングに人間らしさをもたらしたいと思っている時に特に有効です。しかし、グリッドにノート情報を打ち込む時は、ベロシティが一定になってしまうだけではなく、各ノートはグリッドにぴったりと合わさってしまいます。つまり、完全にクォンタイズされたパターンになってしまうのです。しかし、この時にスウィングやシャッフルを使用することで、パターンをより面白いものに変化させることが可能です。もしお使いのプラグインが対応している場合は、スウィングのクォンタイズ値を変更させることで、各ノートの配置されている位置をずらします。

スウィングの追加：今回は先ほどのパターンに少しスウィングを加えています。

プログラミングに対する理解を深めるため、ここではパターンを2小節にしてみましょう。パターンをより生き生きとしたものにする方法の1つに、エフェクトの使用があります。エフェクトを使用することで、各サウンドに対し個別のトラックを用意することの重要性が理解できるでしょう。

リバーブの使用：ここではパターン全体にリバーブを加えています。

3つのサウンドは1つの同じインストゥルメントから出力されているので、全てのサウンドに対して1つのリバーブしか使うことができません。リバーブはスネアには効果的に働いていますが、ハイハットは少しぼやけてしまっていますし、キックにも効果が無く、何を聴かせたいのか分からないサウンドになってしまっています。しかし、このトラックを2回複製すれば、スネア、ハイハット、キックを別々のトラックとして扱うことが可能になるので、エフェクトも個々に調整することが可能になります。トラックを複製し、次に各トラックで出力されるサウンドを1つに限定した後で、各トラックのエフェクトのセンドレベルを調整していきます。

サウンド別にトラックを用意：今回はスネアにリバーブをかけ、それよりも少ない量をハイハットにかけています。キックにはかかっていません。

サウンドを3つのトラックに分けたので、今度はトラック別にインサートエフェクトをかけることも可能になりました。

インサートエフェクトの使用：ここではビットクラッシャーをキックにかけ、少し存在感を加えています。またスネアに僅かなディレイをかけることで、スネア間の隙間が埋まっている他、ハイハットはフェイザーをかけることで、少し動きが出ています。

パターンに厚みを加えるためには、複数のサンプルが同時に鳴るようにします。これはビートのレイヤリングと呼ばれており、プログラミングされたパターンに重さや厚みを加えるテクニックとして良く知られています。

複数のスネアの使用：ここでは4つのサウンドを組み合わせ、スネアとクラップが混ざったようなサウンドが生み出されています。その中の1つは他のサウンドよりも長く鳴るスネアですが、これを加えることでゲートリバーブのような効果が疑似的に生み出されています。こうすることで、先のようなリバーブエフェクトを加えなくても、ミックスに厚みを与えることが可能です。

また別の効果的なテクニックとしては、オーディオファイルとして書き出したドラムトラックのリバース（反転）の使用が挙げられます。オリジナルのパターンにこのリバースしたサウンドを加えることで、ビートにフェードインの効果を生み出すことが可能です。

スネアのリバース：まず組み合わせたスネアをオーディオファイルとして書き出し、それをリバースします。その後、フェードインの最大値のタイミングでプログラムしてある通常のスネアが鳴るように、そのリバースしたファイルを配置します。

このアイディアが気に入った人は、ちょっと気を配るだけで、全体に大きな差を生み出せることを忘れないようにしてください。まず、リバースしたオーディオファイル全体を使わないようにすることが大切です。つまり、リバースしたオーディオファイルの最後の部分（つまり元のスネアの最初の部分）を通常のスネアが鳴る直前でカットするようにします。こうすることで、リバースしたオーディオファイルと通常のスネアが一緒に鳴ることが回避できます。また、このようにオーディオファイルの最後の部分をカットして配置した後は、その最後の部分に軽くフェードアウト処理（長さは10ms程）を施して、クリックノイズが入らないように注意しましょう。

尚、もしあなたのDAW環境が対応している場合は、このフェードアウトの代わりにスローダウン（もしくはレコード・ストップ）エフェクトを使用することが可能です。DAW環境が対応していない場合は、リバースしたスネアのオーディオファイルを使用しているサンプラーに-24セミトーンの値でピッチベンドをかけるようにしてみましょう。ピッチベンドのオートメーションを書き込むことで、スローダウンするような効果を得ることができます。

スローダウンの追加：どちらの方法で行うにせよ、スローダウンはこのクリップのような効果をもたらします。

このようなリバース系のテクニックは、スネア（または自分が組み合わせて使用しているサウンド）に長さと重さを加えることになり、ドラムパターンのバックビートを強調することになります。コマーシャルなダブステップのトラックを聴けば、このような長尺のスネアを使うテクニックが非常にポピュラーであることが理解できるでしょう。このようなトラックのスネアはかなり重要視されているのです。

スネア系のヒットに長さを加える方法は他にもあります。ゲートリバーブや（プラグインを持っている場合は）トランジェントデザイナーなどがそうです。まずはゲートリバーブから見て行きましょう。長尺のスネアを得るためには、まず長いリバーブをかけて次のダウンビートまでサウンドが十分に持続するように設定します。そしてリバーブの後に今度はノイズゲートを加え、スレッショルド値を設定します。ここで設定したスレッショルド値によって、どの程度の音量でゲートが開いてサウンドを通過させるか、そして逆にどの程度の音量でゲートが閉じてサウンドを通過させないかが決定します。

ゲートリバーブの追加：スレッショルド値は色々と試しながら見極めていきましょう。ダウンビートのタイミングで閉じるように設定できれば、スネアにパワーと重さを加えることが可能です。

トランジェントデザイナーはリアルタイムでサウンドを分析し、長さをコントロールすることが可能です。このエフェクトは、入力信号をアタック成分とサスティン成分に分けて認識します。そしてエンベロープジェネレーターを使って、アタック部分のサウドのエネルギーをサスティン部分へ流し込むことで、そのサウンド全体を大きく聴こえるように変化させます。

トランジェントデザイナーの追加：先ほどのパターンからリバーブエフェクトを外し、トランジェントデザイナーを追加します。

各サウンドに個別のチャンネルを用意し、それぞれにエフェクトをかけて好みのサウンドに仕上げたら、今度はそれらをひとつのグループにまとめたバスチャンネルを用意し、グループ全体のサウンドを調整していきましょう。分かりやすく言うと、下に用意したクリップのように、グループ全体にコンプレッサーをかけることで、全体のメリハリやパワー、それにエネルギーを得られるのです。今回はGeistを使用して、ピッチシフトしたタムとグリッチ系のパーカッションを元のパターンに加えてみます。

グループのコンプレッション：最初のクリップでは、メインアウトから全てのサウンドが出力されています。次のクリップでは、全てのトラックがバス2にアサインされており、そこにはUADのコンプレッサー、Fairchildがインサートされていますので、全てのサウンドにメリハリとパワーが生まれていることが理解できるはずです。尚、グループでコンプレッサーをかけることに意味を感じないパーツがあれば、それは勿論メインアウトから出力させることができます。そして3番目のクリップではキック以外の全てのサウンドにグループとしてコンプレッサーがかかっています。キックはメインアウトから出力されており、コンプレッサーはかかっていません。

この方法を応用すれば、ドラムパターンに様々なバスを設定することが可能です。もしメインのドラムパターンに対して追加するパーカションのパターンがあるのであれば、そのパーカッションのような追加サウンド用グループとメインのドラムパターン用のバスという具合に別々にグループを設定します。このようにグループごとにまとめた上でエフェクト処理を施したサウンドが下のクリップです。

ここではRob PapenのPunchを使ってシェイカーとパーカッションループを新たに追加していますので、元からあるGeistのパーカッションループとタムを合わせた計4つのレイヤーが基本となるパターンに対して存在していることになります。また、クラップと低めのスネアも追加されており、パターンに厚みを持たせています。パーカッションのトラックには自然なアコースティックが多く含まれているため、これにコンプレッションをかけて前面に押し出すとダイナミクスが圧縮され、サンプル間に存在するアコースティックが強調されて立体的な音になります。また、メインのドラム用バスの他にパーカッション用のバスも用意し、FabFilterのPro-Cコンプレッサーをかけることで、自然なアコースティックサウンドがミックスの前面に来るように処理します。

複数のグループの作成：最初のクリップでは、全てのサウンドがメインアウトから出力されています。次のクリップではドラムのグループバス（Fairchildのコンプレッサーがかかっています）、3番目はパーカッションのグループバス（Pro-Cのコンプレッサーがかかっています）となっています。そして最後は両方のグループを同時に出力しています。最初のクリップと最後のクリップを比較すれば、複数のグループに分けてコンプレッサーをかけることがどのような違いを生み出すかを確認できるはずです。

全てのプロデューサーは様々なテクニックを使ってドラムパターンを自分独自のものにしようとしています。特定のジャンル用のテクニックを使用している人がいれば、単純に実験しようという意志を持って使用している人もいます。今回このようにいくつかの重要なテクニックを紹介しましたが、これは全体のほんの一部に過ぎません。このようなテクニックに磨きをかけていけば、プログラミングしたパターンのクオリティが劇的に向上するはずですが、自分だけのオリジナルなテクニックを加えることで、サウンドのクオリティは更に優れたものになるでしょう。