RaimeがBlackest Ever Blackと契約していなかったとしても、多分彼らは似たようなダ―クなサウンドを標榜するレーベルからリリースしていたことだろう。Joe AndrewsとTom Halsteadが繰り出す音楽はひたすらダークで、「陰鬱」に関わる全ての類似語が当てはまるようだ。過去3年に渡り、彼らはLabel of the Monthでも取り上げたBlackest Ever Blackから独特のEP群をリリースし続けている。彼らの楽曲には緊張感があり、また最小限に絞りこまれた音数が増減されながら見事に展開されるが、彼らのお気に入りのレコードもまた同様の方向性を持っている。RAのTodd L. Burnsが、Unsound Festivalに出演するためにポーランドを訪れていた彼らを訪ね、彼らの好きな音楽と彼らが作る音楽との共通性について語り合った。

Takehisa Kosugi
Catch Wave
1975

小杉武久はインスターレーションなども手がける日本人アーティストですが、どうやって知ったのでしょう？

Joe Andrews: ひたすらレコードを掘ったんだよ。掘り続けただけさ。レコード屋に行くと、自分が必ずチェックするコーナーってあると思うんだけど、俺の場合はアヴァンギャルドやエクスペリメンタル、インダストリアルのコーナーなんだ。そこで見つけて聴いてみようと思ったのさ。彼が何者なのか知らなかったからね。

私も聴いてみたのですが、非常に感情豊かなサウンドで驚きました。

Joe Andrews: そうなんだ。凄く綺麗な感じや凄くアヴァンギャルドな感じもあって、同時に凄く人を惹きつける感情的な部分や、スピリチャルな部分さえある。スピリチャルなものというのは凄く簡単に入り込めるけれど、音楽の場合はちょっと難しいんだ。何故なら上辺だけになってしまう時があるからね。ニューエイジみたいにさ。

自分たちの作品でもそういう心配をする時がありますか？

Joe Andrews: 勿論！

Tom Halstead: 2人で活動していることが助けになる。お互いを制止できるからね。

「うーん、ちょっとチージーじゃないか？」みたいな感じですかね？

Tom Halstead: 警報が鳴り始めるって感じだよ。「おいおい…」

「何だこれは？」みたいな？

Tom Halstead: 「トランス作っちゃったよ！」みたいなね（笑）。

Joe Andrews: どう構成していくか、他のパーツとどう共存させるか、そして組み合わせた時に全体としてどういう意味が生まれるかというのが大事なんだ。最近のEarthの2枚のアルバムのようなものかな。現在の彼らにはチェロが加入しているけれど、全然浮いた感じがなくて、必要不可欠な存在に聴こえる。

The Danse Society
There Is No Shame In Death
1981

Joe Andrews: このレコードはKiran（Sande。Blackest Ever Blackのボス）のために作ったミックスに入れたんだ。お互いどういう音楽が好きなのかについて話し合ったんだけど、彼も似たような音楽が好きで、俺達がのめり込んでいる音楽に興味を持っていたんだ。でも俺はこのレコードについては、「（Kiranは）好きじゃないかもな」と思っていたんだ。でも実際は彼のお気に入りの1枚だったのさ。だから俺たちが同じ方向を向いていることを感じられた1枚だね。「Kiranは分かってるな」って感じだよ。

この曲は12分程ありますが、あなたたちの作品はこの曲と同じ位の長尺でもおかしくないのに、実際はかなり短いですよね。アルバムに収録されたトラックの大半も5分程度でした。自分たちの作品におけるアレンジの重要性について教えてください。

Tom Halstead: 凄く大事だよ。何回もチェックして、精度を高めていく。だから短い曲になるし、休憩できるような時間を与えないようにしている。将来的にこういうアプローチが変わる可能性もあるけれど、アレンジには凄く時間をかけているし、僕たちにとっては凄く重要な作業だと思う。

Joe Andrews: 俺たちは伝統的なミニマリスト的手法を守っているところがある。俺たちはあるべきでないものは要らないというスタンスなんだ。余計だと感じたら、それは取り除く。厳しくチェックしていくのさ。「これはいらない、これもいらない、これも…」みたいな感じだね。自分たちがどこに一番説得力を持たせたいのかを見極めていく作業に近い。たまに取り除き過ぎてしまう時もあるよ。常にサウンドと戦っているんだ。正解なんてないね。

The Sickness
Corpsemonger
1981

Joe Andrews: このトラックはレコードを買う面白さを表現している。何て言うか…

Tom Halstead: 窓口みたいなものさ。

Joe Andrews: ああ。レコードを見つけて、そのレコードが興味を持っている他の部分へ導いてくれる時がある。これはパンクのレコードなんだけど、スローで悲しいパンクなんだ。俺はパンクにそこまで詳しくなかったから、このレコードを聴いた時、「ああ、ここから俺はパンクを聴き込めるぞ」って思えたんだ。

Tom Halstead: 底に溜まっているような存在だよな。

Joe Andrews: そう、沈殿物みたいな存在なんだ。聴いた時に、「こういう音楽は他にも沢山あるのかもしれないし、特定のジャンルがあるのかもしれない」って思った。わかるだろ？「俺はこれからこのジャンルを聴き込むぞ」って感じたから、それから色んな場所でレコードを掘るんだけど、同じだと思えるようなレコードに出会えない。だからこのレコードは俺が好きな音楽だというだけではなくて、自分が知らなかった他の音楽を見つけようという気持ちにしてくれた音楽という意味でもピックした。でもまだ今のところはこの曲しか見つけてないってわけさ。

Hildur Guðnadóttir
Erupting Light
2009

Hildurはチェリストですね。

Tom Halstead: そう。彼女はかなり変わった演奏をするチェリストなんだ。ちなみに俺達のアルバムの製作時もチェリストと一緒にレコーディングしたよ。

何故チェロなのでしょう？

Joe Andrews: 最近チェロを重用しているアーティストは沢山いる。Demdike Stareも今日のライブで起用するみたいだし、Bobby Krlic（Haxan Claok）もこの前のアルバムで起用していた。だから俺達もチェリストとのセッション、ドラマーとのセッション、ギタリストとのセッションをしたんだ。アルバムに収録されているサウンドの多くはギターの音だよ。まぁ30分位ギターにノイズを出してもらって、それを整理して俺たちが気に入った部分を2秒程抜き出していった。

Tom Halstead: それでそれを大切にしまっておくんだ。

Joe Andrews: それで、その後またスタジオに戻って、別のセッションをやる。俺たちは自分たちの制作方法を変えて、もっとそこに活気を与えようとしたんだ。もっとエネルギッシュな感じにしたかったんだ。でも結局アレンジの段階で制限する感じになったけどね。

それは面白い話ですね。というのは、私がアルバムを聴いた時、「これは過去の作品より有機的だ」なとすぐには思わなかったんですよ。

Joe Andrews: それは良かった。というのは、別に有機的な作品にしようと思っていたわけじゃないんだ。制作方法を変えるってことが目的だったからさ。さっき話したような2秒間のサウンドを見つけた時は制作方法を変えた喜びを凄く感じるし、そういったサウンドを探し続けることは凄く楽しい作業だ。

Les Rallizes Denudes
Enter The Mirror
1977

Joe Andrews: 心地良いサウンドからスタートして、ディストーションでゆっくりと燃え尽きていくようなサウンドだよね。俺達のアルバムの数曲でもこういうことをやろうとした。その中の1曲は特にだね。

これはライブですよね？　この曲を聴くための理想的なスペースはどこでしょう？

Joe Andrews: 変わった場所だと思う。でも最近ロンドンのPurcell Roomでプレイしたけど、理想的な空間だったね。

Purcell Roomはどちらかというと座って聴くような小箱ですよね。こういう曲をクラブでかけても機能するのでしょうか？

Joe Andrews: クラブミュージックじゃないね。全然クラブミュージックじゃない。キャリアの最初の頃はクラブでプレイしたこともあったけれど、こういう曲だとみんな立って見守るだけで、体を動かすようなことはない。だから、みんながダンスしているような深い時間帯にこれをプレイすると、その場にあるパワーを取り除いてしまうんだ。

最近ロンドンで開催されたBlackest Ever Blackのパーティーに行ってきたんですが、内容がしっかりと作りこまれていて、かなり楽しめましたよ。メインルームは「立って見る」ためのもので、セカンドルームは「ちょっとしたレイブ」になっていました。様々な音楽が楽しめましたよね。Regis、Source Direct、Vatican Shadowが続けてプレイしましたし、Kiranはレーベルとパーティーの力で点在する存在を結びつけていました。

Joe Andrews: そういう点と点の結びつきで、俺達も最初繋がったんだ。自分に近い存在というのがいるだろ？　そういう存在は自分たちと違うジャンルでも同じような感覚を与えてくれる。過去5年間、そういう点と点が至るところで結びついてきたと思う。凄く充実した時代を迎えていると思うよ。境界線が以前よりも曖昧になってきている。俺たちが若かった頃…

Tom Halstead: もっと若かった、だろ？

Joe Andrews: （笑）。そうそう。俺たちがもっと若かった頃は、ジャンルというのはもっと厳しいものだったよ。ヒップホップだったりグランジだったり、何か特定の好みがあれば、そのジャンルに居続けなければならなかった。でも今は様々なジャンルを飛び越えて活動しているプロデューサーが沢山いる。色んなジャンルでこういう活動が起きていて、多少奇妙だとは思う部分もあるけれど、自由になってきていると思うよ。

確かに素晴らしいことだと思いますが、このような「表面的に全てをやることで、逆に深みに欠ける」現象が生じていると思います。様々なことをやってしまうことで、ひとつの厚みが生まれないというか。

Joe Andrews: そうかも知れない。でもそれは作り手や供給する側よりも受け手の問題だろうね。何かの製品や文化なんかを生み出そうとしている人たちは、自分たちが生み出していることや物についてしっかりと考えていると思う。だからそこには正当性や信頼性が存在しているんだ。だからたとえ関わる時間が30分だとしても、しっかりと関わっているのであれば、問題ないと思う。

いい意見ですね。あらかじめ用意していたかのようにさえ思えました。

Joe Andrews: （笑）。多分何度もこのことについて考えたからだと思うよ。

Omni Trio
Thru The Vibe
1995

Joe Andrews: FACTにジャングルのミックスを提供して以来、ジャングルについて必ず質問されるんだ。嬉しいね。

このジャングルが特に気に入っている理由は何でしょう？

Joe Andrews: ヘヴィーなリズムとストリングス、シンセだね。

Tom Halstead:ちょっと他にはない美しさがある。

Joe Andrews: 本当になんていうか…　魔法みたいなんだ。Omni Trioなら何曲でもここに挙げられるよ。

Omni Trioはジャングルより前にエクスペリメンタルなトラックを作っていましたよね？

Joe Andrews: そうなんだ。Nurse With Woundと何回かコラボレーションをしたみたいだけど、ちょっと違うって思ったみたいだ。彼のトラックの中にはフロア向きと決して言い切れないものがある。ドロップへ強制的に進んでいく感じがないというか、トラックの構成が本当に見事だ。俺はよく散歩する時にヘッドフォンで聴いている。勿論大きな音で鳴らしても機能するけれど、街を歩いている時にもちゃんと楽しめる。

Jeff Mills
Metropolis
2000

Joe Andrews: これを選んだ理由は2つあって、まずはデトロイトだということ。デトロイトっていうのは俺達にとって全てを意味する。音楽に対するイデオロギーとコンセプトが大きなインパクトをもたらしたのはデトロイトだった。俺はその現実逃避的な部分に完全にのめり込んでいた時があったよ。もうひとつの理由は、19歳か20歳位の時にQueen Elizabeth HallかどこかにJeffを聴きに行った時があって、その時に彼はMetropolisの曲をエディットし直したトラックをかけていた。ダンスミュージックがアートとして存在できるんだと初めて納得できた時でもあったよ。家への帰り道で興奮していた自分を覚えているね。俺は凄く刺激を受けたんだ。

Jon E Cash
Kamikaze
2004

これを最初に聴いた時のことを覚えていますか？　ラジオか何かで聴いたのでしょうか？

Tom Halstead: いや、ホワイト盤だったと思う。

Joe Andrews: ああ、ホワイト盤だったね。グライムにパワーを感じて、一時期はまっていた時があったんだ。昔はロンドンのUptown（Records）で壁一面に並んだホワイト盤を眺めていたよ。凄い時期だったね。もう次から次へと1日も経たないうちにレコードが作られていくんだ。PlayStationで作って、カットして、売ってみたいなね…。

Tom Halstead: そうそう。新鮮だったから凄く面白かったよ。このレコードは特にサウンドが素晴らしいんだよ。何なのか未だに分からないんだけど、俺は凄く好きなんだ。クレイジーなベースシンセの音がさ…。

Joe Andrews: Jon E Cashは大量にリリースをした。一時期なんて本当に次から次へとリリースしていたよ。俺たちはジャングルと同様にグライムについてもいくらでも語れるよ。Danny Weedとかね。でもJon E Cashは独特だった。凄く冷たい感触で、凄くパワフルなんだ。隙間もあって、どのレコードも似たように聴こえる部分もあるけど、俺はそれでも買い続けたよ。聴くと胃がグッと締め付けられるような音楽だね。彼は常にそういう感じだった。

Bohren & Der Club Of Gore
Mitleid Lady
2009

このレコードはYouTubeで聴きましたが、それでも凄いヘヴィーだなということは理解できました。

Tom Halstead: ディープで、暗く淀んでいる液体のような感じだよね。

私はヴォーカルが入ってくるものだと思っていたのですが…。

Tom Halstead:結局入らないまま終わるよね（笑）。

そうなんです。あなたたちの作品と凄く似た、おどろおどろしい雰囲気の曲だと思いました。「この映画、最後に誰が死ぬんだろう…。ひょっとして全員死ぬのか？？」というような感じです。あなたたちにとってそういうムードを生み出すこと、そしてトラックにそれを埋め込むことは簡単なことなのでしょうか？

Tom Halstead: かなり大変だよ…。

Joe Andrews: 前にも話したけれど、自分たちで制限するからね。バランスの問題なんだ。トラックを前進させたら、今度は後退させる感じさ。

Tom Halstead: テンションを高めたり、恐怖心を煽ったりするようなシンボル的なサウンドやサインってものがあると思うけれど、俺達にとっては「キープ」することに意味があるんだ。そうすればリスナー側が露骨に感じたり、予想したりし過ぎることがないからね。まぁ相手に見せながらも、それを目の前に置いて放っておくことはしないってことさ。見せておいて、それを引っ込ませる。だから相手は何かにちゃんと触れている感覚を得ることができないってわけさ。こういう形で様々な要素を盛り込めば、露骨過ぎだと想われることがないんだ。