Dance Maniaほど長寿で、コンスタントに良質な作品をアウトプットしてきたインディペンデントなダンスミュージック・レーベルは少ない。Lil' Louis、Farley Keith Williams、Marshall Jeffersonの初期ハウスサウンド、Robert ArmaniやDJ Rushによるスピードアップしたよりハードなサウンド、そして近年リバイバルが起きているゲットー・ハウス・サウンドなど、Dance Maniaは時代の移り変わりと共にサウンドも進化してきたレーベルだ。

Dance Maniaのルーツはシカゴのソウル・シーンにある。Willie J. Barneyは25歳の頃、Barney's Swing Shopという名のレコード屋を開いた。そして1960年代初頭、彼はBarney's One Stop Recordsというディストリビューション会社を立ち上げ、シカゴの西側に店舗も構えた。様々なメジャーレーベルの商品を取り扱うディストリビューターであったため、Barney’sの従業員がレコード会社へ商品を取りにいき、それを町の小さなレコード店へ届けるのであった。

1965年にBarneyは、Four Brothers Productionsというレコードレーベルをスタッフの1人、Jack Daniels (のちにMercury RecordsのA&Rとして働いた人物)と共に設立した。このレーベルの最大のヒット作は、G.L. Crockettの"It's A Man Down There"であり、Billboard誌のR&Bチャートの第10位にランクインした。更に彼はそのレーベルの傘下にBright Starというレーベルも始めたものの、どちらも2年以上は続かなかった。

Barneyは息子達に家業を継ぐよう説得した。そして1980年、イリノイ州ペオリアのBradley大学でビジネスと会計学の学位を取ったRay Barneyが、ディストリビューション部門のマネージメントを引き継いだ。彼は当時22歳であった。「主にアメリカの中西部の流通を扱っていた」と、彼は思い出す。「独立小売店に流通させていたんだ。うちで扱っていたのは主にメジャーレーベルの音楽だ」

Ray BarneyはVince Lawrence、Jesse Saunders、Duane Bufordと出会い、Jesse’s Gangとして一緒に曲を作るようになった。特に彼はキーボーディストのBufordと仲良くなった。ある日、Bufordが"What's That"という曲を作曲し、 Saundersが出版を手伝った事があった。この時、BufordはDance Mania Recordsという名前を使った。

「その頃、自分でレーベルをやりたいと思うようになったんだ」と、Barneyは言う。「Duaneが最初のレコードをやると言ってくれた。それで、レコードレーベルの名前をどうしようか悩んでいたんだが、彼が“この名前を使えよ”とDance Maniaを提案して、俺は“悪くないな”と返事したんだ」。そうして生まれたのが、Duane And Co名義の「Hardcore Jazz」(1986年)だ。808ビートにシンプルなベースライン、そしてJames Brownのシャウトが響き、それに返答するかのように時に女性のうめき声も聞こえる"J. B. Traxx"などを収録したこの1枚で、Dance Maniaは誕生した。

Dance Maniaというレーベルは大きな会社の一部であったため、リスクが少ない状態で営業ができた。「Dance Maniaは、ディストリビューターとしてやっていたことに付随する形で始めたんだ」。彼が説明する。「すでにスタッフがいたし、基盤もできていた。すでに倉庫があったし、パソコンもあった。すぐにビジネスにとりかかれたんだ」

同時期、Barneyは父親のレーベル、Bright Star Recordsを甦生させ、Darryl Pandyの「Climax」をリリースした。「Love Can't Turn Around」がヒットしたばかりのVince Lawrenceのプロデュース作であった。「その頃は歌モノをBright Starで出して、トラックモノをDance Maniaで出すつもりだったんだ」と、Barneyは言う。「しかし結局、全てDance Maniaで出すようになった」

短命ではあったが、Bright Star Recordsも名曲をリリースしている。例えば、On The Houseの「Pleasure Control」などはMarshall Jeffersonがプロデュース、Ron Hardyがミキシングを担当したクラシックだ。その12分近いダブバージョンは、ミニマムなベースラインにリバーブの効いたヴォーカル、ドラムスがぶつかり合う良作だ。Bright Starの3作目はParris Mitchellの初ハウス作品、「You Can't Fight My Love」であった。

「ギャングのメンバーなんかが、女の子とダンスするためにクラブに行くんだ。」 -- DJ Deeon

シカゴのBeverly出身のMitchellは、音楽一家に育った。「うちの祖母はゴスペルのピアニストで、父はトランペットを吹いて、母はちょっと歌をやっていた」と、彼は言う。MitchellはVanderpoel Performing Arts小学校へ通い、後に American Conservatory Of Musicにてギターを学んだ。

MitchellはKevin Irvingと一緒にThe Mixxという名のバンドを組んだ。彼らはHerb KentのPunk Outでかかっていたものに影響された。この番組はThe TimeからCulture Clubまで、幅広いアクトの音楽を流すラジオ番組であった。「当時はニューウェイヴと呼ばれていたけど、基本的にはユーロ・ディスコだった」と、Mitchellは言う。そしてMitchellとIrvingは、WBMXやWGCIといった局のラジオ番組を通して、「当時のシカゴの人が皆そうであったように」DJによってミックスされたエレクトロニック・ミュージックの魅力に気づいた。1985年にThe Mixxは解散し、IrvingはChip Eと共に活動をするようになった。

その後Mitchellは独自にダンスミュージックのデモテープを制作したが、Chris Westbrook、別名Bam Bamに連れられ、D.J. InternationalのRocky Jonesに会いに行った時、デモテープを聴いてもらおうと集まった大勢の若者がいたのをみて、意気消沈してしまった。その代わりに、Mitchellは新しいバンドRomeoを結成し、Chicago Trax Recording（同名レーベルとは無関係）というスタジオでレコーディングを行った。そこのエンジニアに彼はVictor Romeoと呼ばれるようになった。

MitchellはVince Lawrenceを通して出会ったドラマー/キーボーディストのDane Roewadeとコラボし、"You Can't Fight My Love"をレコーディングした。そしてデモをTrax RecordsのLarry Shermanに渡したが、「契約がうまくいかなかったんだ」と、Mitchellは言う。その後LawrenceがMitchellをBarneyに紹介し、テープを聴いたBarneyは彼にリリースのオファーをしたのだ。

Bright StarはさらにRagtymeのシングルを2枚リリースしている。のちにAtlanticと契約しTen City名義でヒットを飛ばしたグループだ。"Fix It Man"という曲は、ユーモラスな下ネタのオンパレードだ。“俺がFix-it man（修理屋）さ。ここに立ち、手には工具（男性器）を掴んでる”。"I Can't Stay Away"は、Frankie Knuckles、Ron Hardy、Lil' Louisという豪華な人選がミックスを担当した。

同じ頃、Dance Maniaからもいくつか大ヒットが産まれており、レーベルが軌道に乗り始めていた。Hercules (Marshall Jefferson)の"7 Ways"や、The House Master Boyz and The Rude Boy of House (Farley Keith)による"House Nation"などのビッグヒットのおかげで、レーベル運営がうまくいったのだとBarneyは言う。「運が良かったんだ。こんなにも才能豊かな人達と巡り会えて。改めて振り返ってみると驚くね」

Dance Mania入門編

Dance Maniaのリリース作品の量は膨大だが、初心者でも心配はご無用。解りやすく時代ごとに、重要なアーティストなどを紹介していこう。

クラシック期 (1986-1988)
初期ラインナップはハウスミュージックのパイオニア達が勢揃いだ。Hercules 名義のMarshall Jefferson、The House Master Boyz & The Rude Boy Of House名義のFarley Keith、そしてYellow Houseなどは特に押さえておきたい。Lil' Louisの"Video Clash"は大ヒットだったが、"Frequency"や、"How I Feel"といった名曲も忘れてはいけない。

アシッド/ヒップ・ハウス期 (1989-1990)
今でも色褪せないハウス/ヒップホップのクロスオーヴァー作品は少ないが、この時期のアシッドトラックなどはまさにそうだ。Gary "Jackmaster" Wallace、Vincent Floyd、Da Posse (Hula & K. Fingers)などが良い例。

トラックス期 (1991-1993)
他のシカゴのレーベルがシンプルなリズムトラックをリリースするのを辞め出した後も、Dance Maniaはストイックにリリースを続け、レーベルのトレードマークとなったサウンドが後にゲットー・ハウスの基盤となった。Robert Armani、DJ Rush、Glenn Underground、DJ Funkといったアーティストのこの時期の作品が特にそうだ。そして忘れていけないのは3.2.6.、Tim Harper、The Dance Kings名義のVictor Romeo、そしてRhythm II Rhythmなど。

ゲットー・ハウス期 (1994-1999)
最もコンスタントに作品を量産していたのがこの時期だ。DJ Funk、DJ Deeon、DJ Slugo、DJ Milton、Jammin Gerald、Wax Master Maurice、Traxmen (Eric Martin、Gant-Man、Paul Johnson)、Drew Sky、Parris Mitchell等がどんどんとヒットを飛ばした。リイシュー盤なら全てコレクションすることも可能だろう。

Barneyはアーティストと誠実に接したため、Dance Maniaはアーティスト間で人気があった。「うちで出しているアーティストには、皆成功してほしかったんだ」と、彼は言う。「全て俺の手柄にして、俺だけ儲かろうとなんて考えていなかった」。Dance ManiaがBarneyにとっての主たる仕事ではなかったおかげで、彼は1枚1枚のシングルの売り上げなどあまり気にせず、多少リスキーな事にも手を出すことができたのだ。

88年から90年頃にかけて、ヒップ・ハウスにしばらく手を出した後、Dance Maniaのサウンドは変化し始めた。Robert Armani、DJ Rush、Traxmenといったアーティストがリリースする作品は、どれも以前よりハードで速く、テクノ寄りであった。これは果たして意図した変化だったのか？「俺の考えだった、と言いたい所だが」と、Barneyは答える。「実際にはアーティスト達が俺に提出してくる楽曲が、その頃クラブだとかダンスシーンで流行っていたサウンドなんだ、と俺が彼らを信用したことが大きいんだ」

時代の変化に気づき、新しくスタジオとDATマシンを手に入れたばかりのParris Mitchellは、そういった時代のサウンドを取り入れたレコードを制作した。この時期にKevin IrvingとThe Dance Kingsとして「Climb The Walls」(91年)、The Track Stars名義の「Computer」(93年のJammin GeraldとのスプリットEP)などを出している。

93年と94年、Mitchellは3400 Ogden Ave.にあるBarneyの店で働いていた。上の階にはディストリビューションのオフィスがあった。そこで働くことで、MitchellはDance Maniaのトラックを好んでかける新世代DJ達に多く知り合うようになった。「皆遊びに来ていた」と、彼は言う。「Paul Johnsonだとか、Eric Martinなんかもよく来ていた。DJ Funkは常連だ。週に2、3回は来て、チルしていたよ」。 DJ Funk、Jammin Gerald、Waxmaster Maurice、DJ DeeonといったDJ達が当時のミックステープ・シーンを盛り上げていた。

Deeon Boydはシカゴ南部のComiskey Park裏のプロジェクト（註：低所得者用の住宅団地）にて育った。彼は友人達とWBMXのHot Mix 5を良く聴いており、エレクトロニック・ビーツに魅了されたDeeonはそのうちDJを始めた。「Kraftwerkにすごく惹かれたんだ」と、Boydは言う。すぐにMattel Synsonicsというドラムマシンを手に入れ、アカペラなどを上に被せて遊んだ。Boydはあまりクラブ遊びはせず、ガソリンスタンドのアルバイトでお金を貯め、レコード店のImportes Etcでダンスミュージックのシングルを2枚ずつ買うのであった。DJとしては主にプライベートなパーティーで回していた。「そのうちだんだんこの界隈で知られるようになったんだ」と、彼は話す。「そして、ある日El Rukn TempleでDJの仕事をもらったんだ」。彼は1986年から89年までそこでメインDJを務めた。

El Ruknは、Blackstone Rangersの元リーダー、Jeff Fortがリーダーであり、Moorish Science Temple of Americaという宗教グループと関わりのあるイスラム教のグループであった。元は映画館であった豪華な建物を本部とし、赤のフェズ帽を被り、黒いローブに身を包み、首にメダルをつけた彼らは、政治活動やコミュニティ活動を行った。「彼らは大きなダンスルームを持っていた」と、Boydが思い出す。「街のあちこちから人が集まっていたよ」

90年代の前半、Boydは共済組合や児童クラブなどが主宰する大きなパーティーでDJを行いながら、プロデュースも始めた。「Roland 606や303なんかを手に入れて、トラックをカスタマイズするようになったんだ。パーティーにはシカゴのサウスサイドの色々なプロジェクトから人が遊びにくるから、それに合わせて曲をカスタマイズするんだ」と、彼は語る。「その頃、俺たちはミックステープをよく作っていて、そういったテープがすごく人気だった」

Boydによると、ギャングスタ・ラップの影響もあり、ハウスミュージックに過激な歌詞の曲が登場するようになり、そのおかげでゲットーの男たちがハウスを聴いてもダサくない、という風潮になったらしい。「ギャングのメンバーなんかが、女の子とダンスするためにクラブに行くんだ。”Where the Hoes”みたいな過激な歌詞のゲットーハウスが登場して、そういった曲が女の間で流行ると、男も真似して聴くようになるんだ」

「ゲットー・ハウスは・・・ビッチのために作っていたんだ」と、DJ Slugoは5 Magazineでのインタビューで語っていた。「あれはクラブで女とエロいダンスをするための音楽なんだぜ」

当初、Boyd達はミックステープをプロジェクト近辺で売っていたが、そのうち需要が高まったため、彼らはテープをたくさん作り、中国人が経営する小さな店に置いてもらった。「自分の名前なんかを表記したスタンプを作って、カセットにステッカーを貼ってその上からスタンプを押すんだ。そしてそれを中国人の店に持ってって置いてもらう。数日後には売り切れちまうんだぜ」

BoydがRay Barneyと知り合ったのは、Armandoが彼のミックステープの未発表曲の１つを勝手にサンプリングして、The Traxxmenの「Nothing's Stopping」（Muzique Records、1994年）収録の"Yo Mouf"で使用していたことが発覚した後だった。「Armandoと会った時、彼は謝ったよ」と、Boydは言う。「最終的には無事解決した」。BarneyはBoydにミックステープをもってくるように言い、聴いてみると、すぐにBoydの作品をリリースすることを決めた。

その後BoydはDance Maniaから30枚ほどのシングルを4年の間にリリースしている。「他のヤツラにキレられた時もあったよ」。Boydは説明した。「なんせ、一度に4、5枚の12インチ分の曲をマスタリングに持ち込むからね。すぐに曲が出来上がって、溜まっていくんだ。Rayに何も言われなければいつまでも曲を作っていた」

Chuck Chambers、別名DJ Funkも、当初はDJとして活動を始めており、Farley "Jackmaster" FunkやFast Eddie等に影響を受けていたと彼は言う。そのうち、TR-808を使用し自身のトラックも含んだテープを作るようになった。「20年前、一台の808は2千ドル（約20万円）した」。Chambersが思い出す。「高い代物だったな」

なぜそのうち、スピードの速い、余分な要素を削ぎ落としたシンプルなトラックを作るようになったのかという質問に対しては、Chambersは笑いながらこう答えた。「そういう気分だったからさ。それが俺だ」。DJ Funkの"Pump It"や"Work It"は大ヒットとなった。彼のEP「Street Traxx II」が、“ゲットー・ハウス”というフレーズが最初に登場したレコードだと言われている。「俺がダンス・ミュージックをやっていた頃はうちのネイバーフッドはハードコアだったぜ。ニガーやギャングスターやビッチや売春婦ばかりだ」と、Chambersが語る。「違う環境に育ったが、それでも俺たちはダンスミュージックをリスペクトしていた。俺たちの育った環境は、そう簡単に理解できないかもな・・・とにかくゲットーだったとしか言いようがない」

「なぜかゲットー・ハウスがかかると、人はお互いを押したりしてアグレッシブに踊り出した。」 -- Waxmaster Maurice

Maurice Minor、またの名をDJ Waxmaster Mauriceと言う彼も、ミックステープを通してDance Maniaに発掘された。「音楽に救われたと言っても過言ではないな」と、Minorが言う。「俺の地元はすごく悪い地域だったんだ。だから他のヤツラがみんなギャング同士で争ったり、撃ち合ったりしている間、俺はレコードを掘っていた。Importes、Peaches、Coconutsなんかに良く行っていた」

90年代前半、彼のテープは人気を集めた。「最初の頃はレコード店に行って、カセットを10個買っていたが、いつのまにかTDKやMaxellのカセットを何百個も買うようになっていたよ」。彼のテープはレコード店や小さなモールなどで売っていた。「俺たちの音楽は至る所にあった。クラブ、人の車の中、美容室や床屋。あちこちだ」と、Minorは言った。

Minorは始め「おもちゃのような」機材で制作していたが、ドラムマシン/サンプラーのSP-1200を手に入れると、彼の音は変わった。「SP-1200を手に入れて人生が変わったよ」。彼は言う。「あのマシンでちゃちゃっとやってヤバいものが出来ちゃうんだ。“Waxmaster In This Motherfucker”とか、“Who You With”、 “Scratch Trax”といったクラシックはどれもあの機械で作ったんだぜ」

ある日、MitchellはMinorの"Project Shout"を彼のミックステープで聴き、正式にリリースするべきだと感じた。「俺がプロデュースをしてリリースすることを提案したんだ」と、Mitchellは言う。「結局、俺のテイストを加えて、リリースにこぎつけることができた」。同曲は後にDaft Punkの"Teachers"のベースとなった事や、彼らのBBC Radio 1 Essential Mixに収録されていた事で再評価された。（最近Daft PunkはMinorとMitchellにプラック（註：額に収まった金のディスクの賞）を贈ったらしい）

BarneyはMitchellにこの新しいスタイルを取り入れるよう促した。「Rayは“トラックだけでいい。音楽的な、ハウスっぽいやつじゃなくてもいいから、とにかくトラックを作ってくれ”と要求してきたね」。Mitchellは思い出す。「少なくとも俺にはね。彼が何か過激なリリックを思いついたとしたら、それを俺に言って、俺がそれを基に作って、すぐにプレス工場、って感じだった」

Barneyは自身の音楽の好みではなく、ビジネスの観点からこういったリリースの仕方を行っていたと主張する。「俺の音楽の好みを求めて人々はパーティーに行っていたわけではない。ビジネスと好みを別けて考えていたんだ」。家では、BarneyはStevie Wonder、The Spinners、Gladys Knight and The PipsなどR&Bを好んで聴いていた。

Top: Waxmaster Maurice. Bottom: Jammin Gerald.

レーベルの正式なリリース作品ではなくとも、BarneyはMinorや他のアーティストのテープ制作やディストリビューションを手伝った。「Dance Maniaのアーティストにはミックスを作るようアドバイスしていたんだ」と、Barneyは言う。「そしてミックスにDance Maniaの曲を使用することも勧めていた。曲の効果的な宣伝方法だったからな」

Barney’s One-Stopから約3マイル（4.9km）離れた4711 W. Madison St.にあったティーン・クラブ、FactoryはDance Maniaのトラッキーなスタイルの楽曲をプレイすることで有名であった。Greg The MasterとQuick Mix ClaudeといったDJが当初からプレイしていた。1990年のChicago Tribune紙に、その頃Heads Or Tailsと呼ばれていたこのクラブを説明した記事がある。「このクラブではギャングメンバーは帽子を防弾ガラスのケージに預けなくてはいけない。店には“帽子禁止。ギャング禁止。中立な領域”と書かれた看板がある」

Gerald Henderson、別名Jammin Geraldはそこで91年からスピンしていた。その頃彼はハウスからヒップホップ、マイアミ・ベース、レゲエ、R&Bまで何でもプレイしていた。だがそのうちGeraldは、ビートトラックのほうが客の反応が良いことに気づいた。「その頃俺は“It's House”、“Time To Jack”、“Virgo Tracks”、Adonisの“No Way Back”ぐらいしか持っていなくて、それでは足りなかった」と、彼は言う。「だからドラムマシンとCasioのSK-1を使って自分でトラックを作ることにしたんだ」

毎週、HendersonはDJプレイ用に作った自分の新トラックを4、5曲プレイした。「毎週、客が増えていったよ」と、彼は振り返る。「ダンスフロアは大きかった。曲によって、スラム・ダンサーのサークルができたり、フットワーカー達のサークルができたり、スピーカーの前でハウスヘッズが発狂したりしていた」

ある時、Hendersonの曲が入ったテープをGreg The Masterからもらい、Barneyはもっと聴きたいとHendersonに言った。HendersonはBarneyに5曲の新曲とFactoryで人気だった"Get The Ho"のリミックスを渡した。

不運なことに、1993年の12月31日、Factoryで火事があり、オーナーの"Big Tom" Lewis (元ディスコDJ)と奥さんのThelmaが亡くなるという事件があった。彼らは70年代にスポーツジムだった建物をクラブに改装し、同じ建物に住んでいたのだ。

音楽の進化と共に、ダンスも変わっていった。BoydはRonnie Sloan率いる若いダンスクルー、House-O-Maticsのためにトラックを作っていた。「彼らが俺のお気に入りのダンスチームだったんだ。俺がDJを始めて有名になる前から彼らはパレードや学校のタレントショーなんかでパフォーマンスを行っていた。彼らには独特の存在感があった」。Boydが思い出す。「奴らが初期のフットワークをやっていた。いろんなスタイルのフットワークだ。ブレイクダンスも、ポッピンも、ハウス・ダンスやフリーキー・ダンシングもやっていた。様々なダンススタイルを組み合わせて踊っていたんだ」

もちろん、クラブの中では細かいことは関係無い。「あの頃は壁をよじ上ってるようなヤツラもいたぜ」と、Minorは言う。「ヒップホップがかかると皆手を動かしたり、頭を揺らしたりするんだが、なぜかゲットー・ハウスがかかると、人はお互いを押したりしてアグレッシブに踊り出した。スラム・ダンシングみたいだったぜ。フロア中をスピンしたりして、ワイルドだった」

80年代後半から90年代前半の頃は、House-O-Maticsに男女のメンバーがいたが、現在のフットワーク・シーンは男性ダンサーがメインの世界になっている。「今ではフットワークは新しいジャンルみたいになってるね。まったく異なるサウンドだ」と、Boydは言う。「昔よりテンポが速い」

95年から98年ごろは、Dance Maniaにとってピーク期であった。毎週のようにDJ達がテスト盤のためにオフィスに出向き、多くは毎回新しい音楽をDATで持ち込んだ。「俺はアーティストに対して公平に接していた」と、Barneyが語る。「それが功を奏して、元々ささいなきっかけでスタートしたものが、こうやって雪崩現象のようにどんどんとビッグになっていったんだ」

ところが税金問題や、音楽業界の移り変わりなど様々な要因が重なり、BarneyはBarney's One StopとDance Maniaの運営を停止することを決心した。Barneyのディストリビューション・ビジネスと提携していた店の大半も90年代の後半には店を畳んだ。3400 Ogden Aveにあった倉庫は99年に無くなり、ただの空き地と化した。

「その後は音楽業界から足を洗って、他の事に挑戦してみたんだ」。Barneyは言う。「しばらくパソコン業界にいた」。現在、彼は兄弟のReynaldoが音楽ショップを昔経営していた建物で、New Life Health Foodのマネージメントを行っている。建物の風化した看板には、「Barney's Music Distributors, Records Cassettes & CD's at Everyday Low Prices（Barneyの音楽ディストリビューション。レコード、カセット、CDをお求めやすい価格で提供）」や、「Dance Mania Productions, The Dance Traxx Headquarters of Chicago（Dance Mania Productions。シカゴのダンストラック専門店）」と書かれていた。

レーベルが無くなった後、DJ FunkがBarneyの同意の上Dance Maniaのサイトを立ち上げた。その後「Dance Mania Inc」とラベルに表記されたリイシュー盤が浮上し始めたが、Barneyは関わっていない。

今年の2月、BarneyがDance Maniaを甦らせるつもりだというニュースが出回り、話題になった。数枚のEPがすでにヴァイナルリリース用にマスタリングされており、ヨーロッパでの流通の話も進んでいる。BarneyはDJ Funk、DJ Deeon、Marshall Jefferson、Parris Mitchell、Robert Armani、Traxmanなどと改めて契約を交わしているらしい。深刻な体調不良に悩まされたりしながらも、Boydは現在も音楽活動を続けている。DJ Funkは近年のEDMアーティストがDance Maniaのスタイルを真似して大金持ちになっている現状を良く思っていないが、彼が「今まで作った中で最高の出来」だと自画自賛するニューアルバムがもうすぐリリースされる。

Minorは現在、モーターサイクル・クラブなど、近所のソーシャルグループのためにテーマソングを作っている。「俺は自分のことをスーパースターだとは思っていないが、スーパースター的な経験ならしたぜ」。Minorは語る。「女が俺を見て叫んだり・・・ネイルに俺の名前を書いてる女とか、首に俺の名前が入ったチャームをつけてる女に囲まれたりしたな」

Parris Mitchellは90年代にJanet Jackson、Jewell、k-osなどメジャーレーベルのアーティストと制作を行った。現在もリミックスなど制作を続けており、彼のアルバム『Life In The Underground』は、Ghetto House Classicsから再発されたばかりだ。Planet Muのフットワーク系のリリースのおかげで、最近世界的にDance Maniaのゲットー・ハウスへの関心が高まっている。そしてBarneyはその期待に答えるつもりだ。「業界に戻るには、今が良いタイミングだと思うんだ。特に海外からの要望が熱くて、そのチャンスを掴むことにした」と、彼は言う。「今年の夏頃までに新しいDance Mania作品が登場するぜ。期待していてくれ」