ダンスミュージック界において、イノベーター(革新者)がエキセントリックで常軌を逸した人物であることは、意外と少ない。大抵はDominic MakerやKai Camposのように平凡だ。東ロンドンの高架下のカフェで会った2人は控えめで、少しシャイで、いたって普通であった。しかし2009年のMount Kimbieとしての2人の登場は、UKクラブシーンの新時代の幕開けを意味した。明るくてぼんやりとした音世界が印象的な名作、「The Maybes EP」は光を失いつつあったダブステップ・シーンにとってカンフル剤であった。じきに他のプロデューサーもMount Kimbieのサウンドを踏襲し始め、自分たちの音楽にピッチを上げたボーカル、ソフトで金属的なドラムス、そしてメランコリックな味付けを施すようになった。MakerとCamposが“ポスト・ダブステップ”時代の最初のアーティストであったかどうかは別として、ベストであったことは間違いない。

Mount Kimbieの独自性は、彼らの音楽が骨の髄までダンスミュージックだったわけではないことに起因するだろう。MakerとCamposはMount Kimbieを“バンド”と呼んでいるし、影響を受けたものに挙げるのは2000年代のヒップホップ、シューゲイズ、フィールド・レコーディングなど、同ジャンルの他アーティストとは一線を画している。彼らもFWD>>に足を運んでいた者達の一員だが、そこで培ったものを彼らは他とは違う形で生かしているのだ。去年、新しいMount Kimbieのライブに関して少しMakerに話を聞く機会があった時、彼はMount Kimbieの新しい方向性を示唆していた。彼らのデビューアルバム『Crooks & Lovers』は初期のサウンドの最終形態と言える作品であったが、彼らが今月Warpからリリースしたばかりのニューアルバム『Cold Spring Fault Less Youth』は、より曲として完成度を増しており、今まで以上のミュージシャンシップを誇っている。

Mount Kimbie

まずは、「Maybes」に関して訊きたいと思います。あの作品が登場し、時代が変わりました。当時流行っていたものとは違ったものを意図的にやろうとしていたのですか？

Kai Campos: そんなことはないと思うね。違ったことをやろうとか、人とは違った存在になろうとか思ったことはない。あれは、初めて世に出してもいいと思えるレベルのものができたから出しただけだ。たまたま、“Maybes”の冒頭のイントロが2分間のギターループだっただけさ。わざわざ意図的に変わった存在になろうとするのはあまり見上げた目標ではないと思うんだ。素直に自分のサウンドを追求していたら、いつかはオリジナリティが現れるものだと思う。

しかし、当時シーンをリードしていたアーティストのリズムと比べて、より遊び心のあることをしていたという気持ちはありましたか？

Kai Campos: 僕らがやっていることは、人が思ってるほどダンスミュージックに根ざしたものではないんだ。どちらかというとヒップホップの意識に近いものがあると思う。最近のヒップホップはあまり聴いていないが、良く聴いていたころ、特に2000年代前半ごろはすごく変で歪んだサウンドのものがあった。しかしそれはそこまで型破りなことではないし、ダンスミュージックで既成概念を壊すほうが驚かれてしまう。

ダンスミュージックには影響を受けているが、僕たちの音楽のアプローチの仕方に変わったことをやろうという明確な意識があったわけではない。ただ自分達らしい音楽をやったつもりさ。

最初からダンスフロアは意識していましたか？

Kai Campos: あまり解っていなかった。最初はスローなテンポで曲を作っていて、なぜこういった曲がダンスフロアであまり機能しないのか理解できなかった。しかしそれは、クラブで最適に聴かせるためのミキシングの技術や知識がなかったからなんだ。

あの時代に、ロンドンという場所から発信していた事実は、Mount Kimbieというアーティストのイメージに何らかの影響を与えたと思いますか？

Kai Campos: 僕らにとって有利に働いたから、文句は言えないね。

それは露出の仕方がですか？

Kai Campos: ああ。解らないが、もし例えばあのレコードがアメリカのど真ん中のどこかからリリースされていて、40歳の２人組の作品だったら受け取られ方は違っていただろう。

だから僕らにとっては幸運だった。文脈が理解しやすかったんだ。「うーん、これは不思議な作品だけど、産まれた環境が理解できるから共感できる」と、人に思わせることができたんだ。

当時はどれほどロンドンのクラブミュージックに関わっていましたか？ダブステップに影響された、という風に紹介されていましたが。

Dominic Maker: その頃は、ダブステップに一番興味があったと思うね。遊びに行く場所を選ぶとしたら、たいていそういうイベントだった。２人とも学生だったからよく遊びに行っていて、その時得たものがのちに現れたと思う。しかし色々なことがどんどんと起きて、あまり時代の流れなんかは解っていなかった。

そういった音楽的背景から得たものの何が、あなた達を他とは違うユニークな存在にしたのだと思いますか？

Kai Campos: その時点でも僕たちは他の人ほどクラブカルチャーにどっぷりと浸かっていた訳ではなかったんだ。DJをやるつもりは元々なくて、Paul Rose（Scuba）に、「ライブをするのかしないのか、はっきりしておいたほうが良い」と、言われた。その時まであまり深く考えていなかったんだ。しかしライブをやるとしたらバンドみたいなライブをやりたいと思っていて、それ以外は考えもしなかった。

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当時レコーディングやプロデュースを行っていた際に、あなたたちのスタイルを定義づけたものはありましたか？

Dominic Maker: ああ、僕らはポップなメロディを常に探していたね。

こういったメロディはご自身で作曲をするんですか、それともサンプリングが多いですか？

Dominic Maker: キーボードの音を使って作ることが多いけど、僕たちはふとした時に見つけるサウンドでメロディを作るのが好きなんだ。偶然の出会いの音だ。リズムでもメロディでも、意外な所から引っ張って来た音を使って創作するのが楽しい。

では、フィールド・レコーディングは重要な役割を果たしてきたのですね？

Kai Campos: プロダクションに関しては、ファーストアルバムはある意味それまでやってきたことの締めくくりだった。2枚のEP（「Maybes」と「Sketch On Glass」）を終えた頃、僕らはとてもクリエイティブな時期を迎えていて、アルバムを作り始めた時は、すでに完成が見えていた。ここで１つの括りをつけるには良いタイミングだと思った。

ニューアルバムでは、もう慣れてしまったことを一旦忘れた。エモーショナルな音楽だとか、そういったものはそれまでの作品でやりたいだけやった気がしたからね。フィールド・レコーディングに関しては、別に絶対にやらないと決めたわけではないけれど、新作にはあまり取り入れなかったんだ。昔ほどもう興味が湧かなかったから。

ファーストアルバムは２人で描いたビジョンに終止符を打つ作品だったというわけですが、そのビジョンはどうやってお2人の間で明確にしたのですか？

Kai Campos: ただ頷いたり、お互いの表情を見たり、「おおお！」みたいな声を出せば解るよね。（笑）例えばDomが「あのトヨタのコマーシャル見た？」って訊いてきたら僕が「もちろん」って答えたり。そういうことが最初から良くあった。お互い気持ちが通じているんだ。

サウンドが真似されていることに気づいたのはいつ頃でしたか？

Kai Campos: 解らないね。最初に聴いたときは不思議な気分だったけど、そういった曲で有名になったのは無かったように思う。人をインスパイアすることができたのはとても嬉しいよ。しかし、そのせいで余計そういったものへの関心が薄れて行った。アルバムが出た半年後ぐらいに他の人が同じようなことをすでにやっていたんだ。僕らがわざわざまたそういうものを作る必要はない。

Dominic Maker: あの作品の余韻が消えるのを待つことは重要だったと思う。あの時期に他に何か出していたとしたら、自分たちがやりたかった事とは違った形になってしまっただろう。やり過ぎになっていたと思う。

熱を冷ますような感覚ですか？

Kai Campos: ああ。2年ぐらいまったく作曲しなかった時期があったんだが、それが良かったんだ。

Dominic Maker: 休みをとったせいで、余計パワーアップできたんだ。今振り返ってみるとそう思うね。

作品をリリースしていなかった期間、お2人はツアーを頻繁に行っていました。そのツアーでの経験が、ニューアルバムの方向性を形作ったと以前言っていましたが、それはどういった経験だったのですか？

Kai Campos: 曲作りをしばらく辞めていたことが大きかった。作曲と比べてライブはとても違うプロセスだ。ライブでは新しいものを作るわけではなく、すでにあるものの最高なバージョンを常に作ろうとしているような感覚で、それが楽しかったんだ。

スタジオとライブはとても違う環境で、２つのバランスが大事だ。ツアーを終えて、とてもエネルギーに満ちていることに気づいた。あと、自信もついたんだ。ファーストアルバムの曲はわざと曖昧に仕上げている時があった。ある意味、「これはあくまでアイディアの１つで、もし好きじゃなかったら無視してくれ」ぐらいの気持ちの時もあったんだ。

ニューアルバムでは自分たちがやりたかったことにより責任を持つ事が出来て、以前よりもクリエイティブなことができたと思う。前よりも大胆でアブストラクトなものが多いと思うね。

この自信は、ステージ上での振る舞いなどにも影響を与えましたか？

Kai Campos: 観客の反応はあまり気にしないようにしてるんだ。なぜなら、前のほうで叫んでる酔っぱらいばかり目に入ってしまうからね。僕が観客側にいるときは前で叫ぶようなことはしないで後ろのほうに大抵いるけど、だからといって音楽を楽しんでない訳では決してないから。

ファーストアルバムとセカンドアルバムの間に、ライブはどのように変化していきましたか？

Dominic Maker: 現在はドラマー／シンガー／キーボーディスト／ベーシストが居ることが大きな違いだ。そしてレコーディングで使用した機材をライブで使用したりもする。Tempestのドラムマシーンやマルチトラックのテープとか。各々がより表現豊かに演奏できるようになった。そしてTonyがいてくれるおかげでサウンドがよりダイナミックで太くなった。

今回のアルバムはスタジオでレコーディングしたのですよね？

Kai Campos: ああ。South Bermondseyにスタジオがあって、そこに寝泊まりしていた。誰も使用していなかったから僕らはそこに荷物を運び入れて、ベッドルームスタジオの豪華版みたいな環境を作った。非常にシンプルなセットアップだ。スタジオの半分は、ツアーから帰ってきたあと荷物を置くスペースになっていた。

だが例えば生ドラムなんかをレコーディングしたいと思ったら、このスタジオでは小さすぎるし、良いマイクがなかったから100メートル先にあるスタジオを使っていたんだ。ここはStereolabのドラマーのAndy Ramsayが運営するスタジオで、設備が良いんだ。古いStereolabの機材というお宝がたくさんあって、最初は数日間いるはずが結局、数週間そこにいたぐらいだ。

「手の内をすぐに明かすのではなく、抑制して
いる感覚は常にある。これはとても
イギリス人的なことなのかもしれない。」

現在でも即興性を大事にしたレコーディングの仕方をしていますか？

Dominic Maker: ただ実験を繰り返して、どんな感じになるのか試しているだけさ。

Kai Campos: 最初は実験的に始まって、その後しっかりと構成を考えるんだ。

Warpでアルバムを出すと言う事実は、制作していく中で意識していたことですか？

Kai Campos: 制作していた期間の大部分はどことも契約をしていない状態で進めていたんだ。最初は不思議な気持ちだった。制作が上手くいってない時にこう思った。「早くどこかと契約しないと。このアルバムがどういう方向に向かっているのかよく解らないし、むしろアルバムを作れるのかどうかも解らなくなってきた。毎日夜中に起きてふらふらとスタジオに行って作業をしているんだ。目標がないとなぜこんなことをしているのか解らなくなる」ってね。しかし、音楽を制作する喜びをまた味わっていたのは確かだ。

ともかく、最後のほうまで契約無しで作っていた。このレーベルと契約をした理由は、新作が前作とは違うものになると解っていても、純粋に僕らのやろうとしていることに興味を持ってくれていると感じたからだ。前作のちょっとした成功にのっかって金儲けしようとしてはいなかった。

ニューアルバムはよりダイレクトでオープンだとあなたは以前話していました。これは、ミュージシャンとして成長した証だと思いますか？ヴォーカルをより前面に出すようになったことなどが良い例ですね。

Kai Campos: 技術的な進歩というよりは考え方の変化が大きいと思うけど、経験を積んで成長をしたのは間違いない。ファーストアルバムがヒットになることの素晴らしい所は、勉強に費やす時間と場所が手に入ることだ。もし他に仕事をしていたら音楽について本を読んだりする時間やエネルギーが無かったかもしれない。

音楽の制作の仕方に関しては、非常に成長したと思ってる。どんな音楽がグッドミュージックなのかとか、そういった音楽とミュージシャンの関係性とか、以前より理解していると思うね。

これらのアルバムに１つ共通する点は、ぼんやりとした、霞がかかった質感です。なぜこういった質感に惹かれるのか考えたことはありますか？

Kai Campos: 最初の頃、サンプリングをするために音楽を聴いていた時、あまり音楽的ではない部分を切り取って、それで何か音楽的なものを作りだすのが非常に面白いことに気づいた。思いがけない幸運なアクシデントもよくあって、この制作の仕方がすごく好きなんだ。１つの方向から分岐して色々な可能性が見えてくるんだ。

ピアノの前に座って頭に浮かんだメロディを弾くのとは訳が違う。音の断片を色々と加工していくうちに、偶然に面白いアイディアと出会う。あまり音楽的ではない部分を切り取ると、ランダムに雑多な音とか色々と付随していたりするんだ。若干声が入っていたり。そのプロセスからあの質感が生まれたんだと思う。

あと、手の内をすぐに明かすのではなく、抑制している感覚は常にある。これはとてもイギリス人的なことなのかもしれない。

King Kruleとのコラボレーションはどういった経緯で実現したのですか？

Dominic Maker: 彼のZoo Kid名義の曲"Out Getting Ribs"を知っていて、彼の声とか歌詞のストーリー性、そして彼の作曲の仕方が好きだったんだ。アルバムに誰もフィーチャーするつもりは無かったんだが、やるとしたら彼だな、と思った。

彼はあなた方のファンでしたか？

Kai Campos: ああ、そこおかげで物事はスムーズだったよ。誰かを制作に迎え入れるなら早い段階から関わってもらって、僕らが制作しているものを聴かせたかったから、彼にスタジオまで来てもらったんだ。ただmp3を送って、「ヴォーカルをのせてくれ」っていう風にはやりたくなかった。まだどの曲も20秒ぐらいしかできていない段階で彼に聴いてもらって、彼が気に入った曲をmp3で渡した。その後また彼が来たときにヴォーカルを録って、それに合わせて作曲を進めて行ったんだ。非常に楽しくて、簡単だったよ。気まずくなることは無かったし、「本当にやるべきだろうか」と自問する必要も無かった。あまり会話をする必要がなくて、それは良いことだと思うんだ。

お2人はいつ出会ったんですか？

Kai Campos: 2008年か2007年かな？その後すぐにバンドを始めたんだ。

お2人の間にはどういった共通点があったんですか？

Kai Campos: 2人とも金が無くて、同じ建物に住んでて、何かやりたがっていた。

なぜお2人はデュオとして相性が良いのだと思いますか？

Kai Campos: いちいちお互いがやろうとしていることを言葉にして話さなくても通じ合えるところ。あと目標も同じで、音楽だとかカルチャーでリスペクトしている部分も似ているんだ。

大抵の物事には２人とも同意しますか？

Kai Campos: 誰かのライブを見ていて、僕が「これ凄いな」って思ったら、Domもそう思ってるとほぼ確信できる。そして「このアクトひどすぎるな。ムカついてきた・・・」って思ってたら、大抵Domも同じだ。最初のうちから好みの音が似ていて、彼とならやっていけると直感したんだ。