Laurel Haloはデビューしてからの4年間で、シンセポップ、エレクトロニカ、ヴォーカルトラック、そして最新作ではエクスペリメンタルテクノと様々な作風を披露している。それぞれ筋の通った作品になっているが、おとなしくまとまっているわけではなく、彼女特有の「人を驚かす」部分は消えることなく残されている。たとえば、昨年の今頃Hyperdubからリリースされたデビューアルバム『Quarantine』は、シンセとヴォーカルがフィーチャーされた閉所恐怖症的な作品で、全くダンスフロアとは切り離された作風だったが、先日リリースされたEP「Behind The Green Door」ではDJフレンドリーではないものの、完全クラブ仕様の作風となっている。

「自分の音楽はこの先も流動的だと思う」－2010年にFACT誌のインタビューでこう答えている彼女は、実際の制作作業も一カ所に落ち着くことなく進めている。前述の『Quarantine』がヒットし、RAの2012年ベストアルバムのトップ20、The Wire誌の年間ベストアルバムと軒並み高評価も獲得したことで、ヨーロッパとアメリカを頻繁にツアーするようになった彼女は、ベルリン、ロンドン、そして地元ブルックリンなどにあるスタジオを行き来し、臨機応変に制作するようになった。生活が激変したことで、制作にも変化が生じ、結果としてその時に手元にある機材だけを使いながら、スタジオに飛び込んでアウトボードのコンプレッサーやEQなどで作業するという制作スタイルになっている。尚、ライブアクトとして評価が高まる彼女のライブ用機材は、MPC、Machinedrum、Blofeldのみで、今回のEPも基本的にこの3台だけで行ったとしている。今回はブルックリンにある彼女の自宅兼スタジオを訪ね、音楽やツアー、そして機材への情熱について語ってもらった。

最近は世界各国を飛び回っている関係で、制作も行く先々で行っていますよね。この生活のサイクルについてポジティブに捉えていますか？　それとも厄介だと感じているのでしょうか？

ポジティブに捉えているんじゃないかしら。だいたい、私のブルックリンのスタジオは、やりたいことをやるのに向いていないしね。（自宅のスタジオには）必要な機材が揃っていないから、外のスタジオを使えているのは凄く良いことだと思うわ。全く違った機材やレコーディングができるスタジオに入るのは気分が良いわ。ツアー中に持ち歩いているライブ用の機材だけで制作することも楽しいわよ。

自宅のスタジオか外のスタジオかによって、制作方法は変わりますか？

最近ドラムマシンとサンプラーを使ってレコーディングしたんだけど、その時の流れを聞いてもらえれば理解してもらえるかも。さっきも言ったけど自宅のスタジオのレコーディング環境は完ぺきじゃないから、基本的には自宅ではラフを制作して、2ミックスを作るだけなの。あとはベースやシンセのパッドをその2ミックスにオーバーダブする位なのよね。

だから自宅では単純にアイディアを出して、トラックの基本的な方向性とか、バイヴを得るだけだったわ。そしてその数週間後にHaggerstonにあるスタジオに入って、ドラムとサンプルを全てバラして作業したわ。スタジオには素晴らしいコンプレッサーやEQが備わっているから、個々のサウンドをしっかりと調整したの。それでもう一度自宅に帰ってきて、トラック全体を調整したってわけ。外のスタジオは時間でお金を払わなければならないから、ただ座ってトラック全体をエディットするだけに使うのはもったいないわよね。

毎日決まった時間に制作しているのでしょうか？

そうだといいんだけど（笑）。理想としては、毎朝7時半に起きてジムへ行って、制作を10時にスタートさせて、9時間から10時間やったら終わりにして、あとは映画を見て寝る－これを繰り返したいわ。でも実際は日によって違うのよ。というのは、ライブがあると生活のリズムが乱れるの。ニューヨークでライブがある時は、サウンドチェックの時間がバカみたいに早いし、とにかくスケジュールが無茶苦茶になるわ。でも夜に制作するのも嫌いじゃないわよ。午後2時位に制作をスタートさせて、夜の10時か12時位まで作業していることは良くあるし。

作業に入る前にあらかじめやることを決めておくタイプですか？

基本的には朝起きて、「今日はレコーディングが終わっているこのトラックのラフなアレンジを終わらそう」とか、「このトラック用のパターンを新しく作ってみよう」とか考えるの。だから前もって決めるタイプだと思う。でも1日中同じ作業をやっていると、どうしても訳が分からない方向へ行っちゃう時や、時間を掛け過ぎちゃう時があるわ。だからそこまでのめり込み過ぎないようにしていて、複数の作業を同時進行させてもOKって心構えでいるの。この考え方は本来の私の考えとは異なるけど、ひとつの作業に3時間も費やさなくなる訳だから、良いことだと思うわ。同じ作業に3時間位費やすなんて普段の私なら簡単にやっちゃうから。

あなたの新作はややテクノ寄りの印象を受けました。特別なインスピレーションやフィーリングがあったのでしょうか？

多分ライブでやっていたことを作品にしたかっただけだと思う。この作品をレコーディングするためにスタジオに入っていた時は、パターンを色々組んでみたり、サンプルをいじってみたりしながら、ダイナミックで人をぐっと引き寄せるトラックにするには何が必要なのかを試していたの。あとはダークで空虚なエネルギーをトラックの中に盛り込みたかったわ。冷たいサウンドにしたかったのよ。冷たさという意味ではA2（UHF F/O）と、B2（Sex Mission）は物足りないけどね。ビートに関しては色々なテクノの影響が盛り込まれていると思う。デトロイトやUK、それにジャーマンテクノも少し入っているわ。

制作中はフロアやDJを意識していましたか？

出来上がったトラックを聴いたけど、サウンドシステムでしっかり鳴るクオリティに達していると思うから、人によって色々印象が変わってくるんじゃないかしら。私はフロアを意識していたけどね。「DJがプレイするかしら？」なんて思いながらビートを組んだり、サウンドを整えたりしていたのよ。あとアレンジも「このイントロが必要ね」とか、「こういうタイミングがあると良いかも」とか思いながら作業していた。でもどちらかと言うと、「ちゃんと作曲した感じ」に仕上がっているから、完全なクラブ仕様ではないと思うの。所謂「DJツール」ではないわね。「作曲」的なアプローチできちんとエディットしたけど、今回はそのやり方にライブっぽさというか、自由さを多めに盛り込んだってところね。

以前とは違った機材やアプローチで制作したのでしょうか？

そうね。ライブでハードウェアを使うようになったのはつい最近のことで、完全ハードウェアのセットアップに変更したのは2012年だけど、今回のEPは基本的にこのライブセットの機材だけで制作したの。ライブセットの機材以外ではディストーションとミキシングで使ったダイナミクス系アウトボードだけね。

以前の作品よりもドラムが前面に出て迫力があるように感じました。

制作における絶対条件という訳ではないけど、コンプレッサーの使い方を学んだり、迫力を出すには何が必要かを色々試したりしたからかも。どのサウンドを目立たないようにさせるとか、どれが何に効果を与えているとか。そういうことってかなり重要なのよね。

B2は違うんだけど、最初に作った数曲はミキシングデスクを持っている友人の家でミックスしたのよ。だから邪魔な周波数を取り除けたし、コンプレッサーも多少使ったから、キックやベースがはっきりと聴こえるようになった。スタジオで過ごす時間が長くなってきたのと同時に、プロのサウンドエンジニアと同じアイディアを流用しなくてもトラックのグルーヴやムードを上手く引き出せることが分かってきたの。とにかく音楽的なアイディアを優先すべきで、テクニカルな部分は2番目で良いってことね。他の人たちは逆みたいだけど、私はそうやってきたわ。

「何年間も本当に貧乏だったから、少しずつお金を貯めて、1台ずつ集めていったの」

作品全体のテクニカルな部分のクオリティに関して気を付けているタイプですか？

違うわね。全部独学で学んだし、基本的にやりながら学んでいく感じね。だからテクニカルな部分よりも常に音楽そのものを一番大事にするタイプだと思うわ。でもこういうリズム重視の音楽を作ったり、ライブをしたりすることは、技術的な知識を必要とされるし、その部分は無視できないわよね。無視してしまうとフラットで詰まらない作品になってしまうから。

音楽とテクニカルな部分は基本的には別物だと？

そういう意味で言ったんじゃないのよ。両方を上手く組み合わせることが理想だと思う。機材や、信号の流れを理解できれば、制作の助けになる。だから音楽とテクニカルな部分を上手く組み合わせることが理想ね。数週間前にHaggerstonでレコーディングした時の話で言えば、スタジオにある最高の機材を通した最高のサウンドを聴いて、音楽がより音楽的に感じられたってことよ。

テクニカルな部分はどのように学んだのでしょうか？

エレクトロニック・ミュージックの制作を始めた時にEQ、コンプレッサー、フィルター、位相、ステレオ感の出し方などについて書かれた本を大量に読んだのよ。そういう本はいくらでもあるし、読もうと思えば何冊でも読めるけど、結局は自分の耳がどう捉えるかだと思う。何年も音楽を聴き続けた結果、ようやくサウンドの良し悪しが判断できるようになってきたってところね。

スタジオに入ってエンジニアに質問したり、アドバイスをもらったりすることは凄く助けになっているわ。どの機材が良いかとかもそうだし、誰かに「だから君はこのテクニックを使うべきなんだ」と言ってもらうこともあるわ。でもとにかく時間をかけて聴くことが大事ね。そうすることで耳がどんどん肥えていくから。でも耳を酷使し過ぎて高域が聴こえづらくなるかもしれないから、歳を取ったらダビーな音楽を作るようになるかも（笑）。

耳はケアしている方ですか？　頻繁にリスニング環境を見直したりしていますか？

年々気を付けるようになっているわね。去年の冬に聴覚テストを受けたの。3～4kHzの周波数帯でちょっとだけ聴きづらい部分があったけど、あとは完ぺきだったわ。問題があった帯域は耳にささるようなヴォーカルをかなり頻繁に聴いているからだと思う。でも驚くことに、5kHz以上の高域、例えば10kHz、15kHzに関しては全然問題なかったわ。でも時々耳鳴りがするし、注意するようにしているの。耳鳴りは大音量で聴いていることが原因だと思う。だから小さめの音量でも聴けるように色々試しているところよ。

事前に送ってもらった機材リストによると、あなたはここしばらくAccess VirusとRoland 101を重用しているようですね。この2台を気に入っている理由は？

Access Virusが気に入っているのは、単純にピュアで太いサウンドだからよ。アナログのエミュレーションも備わっているし、モダンなデジタルサウンドも素晴らしいわ。私が使っているのはVirus Desktopね。これを手に入れる前に、旧バージョンのラックタイプを持っていたのよ。基本的に今のも前の奴もプリセットは酷いトランスやドラムンベースやダブステップみたいなサウンドで、使い物にならないのよね。でもそういうプリセットから、モダンな感じだけを残して色々変化させていけば、自分だけの素晴らしいサウンドを得ることができるの。私は自分の音楽の中にそういうモダンなサウンドを少し盛り込むのが気に入っているの。

Roland 101はクラシックな機材だし、ありとあらゆる楽曲で使用されているのは知っているけど、とにかく素晴らしい音色だし、サブベースも見事よね。アシッドサウンド全開だけど、本当に楽しいわ。アシッドサウンドだけに偏らないようにしているけど、とにかくサウンドが最高ね。こういうアナログサウンドとデジタルサウンドを並べてミキシングするのは本当に面白いわ。独特な混ざり方をするから。

シンプルで直感的な機材の方が魅力を感じますか？

場合によりけりね。というのは、例えば旧タイプのVirusはいちいちメニューに入って変化させたいパラメーターのページを開かなければならないから、直感的とは言えないでしょ。こういう練習とちょっとしたコツが必要な機材をいくつか持っているわ。でも私は短気だから、新しいVirusのDesktopやRoland 101のようなノブやスライダーがパネルに沢山ついていて、簡単にサウンドを変化させることができる機材は自分に向いていると思う。

今のスペースに機材を足してスタジオを組んでいくのは時間とお金が掛かったわ…。以前はプラグインやソフトシンセを多用していて、MIDIコントローラーにパラメーターをアサインしたり、Abletonでエンベロープをエディットしたりしていたけど、とにかく我慢が必要だった。マウスでクリックする作業が本当に多かったのよ。ソフトウェア環境が向いている人もいると思うけど、私はイライラしちゃったから、こういう直接機材に触れるシステムになって良かったと思う。

ビートはどの機材で組んでいますか？

最近はElektron Machinedrumのみね。それにAkai MPCでちょっとパターンを加えるって感じかしら。Roland TR505も持っているわ。オモチャみたいな機材だって言われているけど、フィルターやリングモジュレーターを通せば、ザクザクして奇妙なサウンドになるの。

ハードウェアのセットアップになるまでは時間が掛かったと言っていましたね。買う機材は慎重に選びましたか？

何を買うかは特に決めていなかったのよ。何年間も本当に貧乏だったから、少しずつお金を貯めて、1台ずつ集めていったのよ。初めて買った役に立つ機材はMPCね。数年前に買ったけど、最初の半年から1年ほどは訳が分からなかったわ。でも使い込んでいくうちに直感的に扱えるようになったの。使いこなせるようになったら、MPCはマスターコントローラーというか、MIDIセンターとして凄く優秀な機材だということに気が付いたのよ。MPCでMIDIを打ち込むのは本当に楽しいわ。MPCの独特の感覚とサウンドが大好きよ。

その次はドラムマシンを買い足したかったの。実はMPCを買う前に、友達が使ってないからって言って、Elektron Octatrackを貸してくれたの。だから8カ月間Octatrackを使えたのよ。MPCを買って、サンプリングを学ぶ前に、Octatrackを使うことになったわけ。実際使いこなすのはそこまで難しくなかったわ。でもElektronの製品はもう少しマニュアルが丁寧ならばもっと良いのにって思う。Elektronユーザーはみんなそこに不満を持っていると思うわ。

Octatrackを買う予定は？

あるわ。自分で買おうと思っているところよ。2011年に持ち主へ返してから使っていないけど、もう少ししたら買うつもり。今凄く人気で、全員が持っているんじゃないかって位ね。凄く細かい部分までいじれるから、自分だけのやり方で使えるわ。だから「これはOctatrackだ！」みたいなことにはならない。自分だけのサウンドが得られるの。機材を買い集めるという点では、自宅のスタジオをプロフェッショナルなスタジオにできればなと思っているわ。欲しいと思っている機材、昔から気に入っている機材が沢山あるし、Sweetwater（アメリカの機材専門店）をチェックして、「これが600ドル！　こっちは6000ドル！」なんて言っているわけ。でもそういうものよね。その際限のない感じが良いんだと思うわ。好きなだけ掘り下げて、好きなだけお金をつぎ込む。だからちゃんとしたスタジオを組める日を楽しみにしているの。

あなたは長年Abletonを使っていますよね。この先も使い続けるつもりですか？

そうね。Abletonは4年半使っているわ。エレクトロニック・ミュージックの制作を始めた頃は、他のソフトも試してみたわよ。当然Garagebandも試してみたわ。でもなんだか役立たずだって思えたの。役立たずっていうのは言い過ぎかもね。人によってはGaragebandで素晴らしい音楽を生み出せるし。でも私には向いていなかったわ。そしてLogicは全く理解できなかったし、Digital Performerも奇妙でダサいって思えたの。でもAbletonは上手く馴染むことができた。凄くフレンドリーに思えたのよ。ミキシングには理想的な環境じゃないかも知れないけど、時間軸を無視できるし、エディットとアレンジには凄く向いていると思うわ。アレンジメントビューでもクリップビューでもすぐに色々試すことができるしね。昔はクリップビューで作業していたけど、今は使っていないわ。取り込んでアレンジするだけよ。

ということは、Abletonはライブで使っていないのですね？

そうよ。ライブではAbletonは使っていないわ。

現在のライブのセットアップについて教えてください。

今のセットアップはMachinedrum、MPC、Waldorf Blofeld、リングモジュレーターにBoss Space Echo、あとはライブによって使い分けるエフェクターをいくつか用意しているわ。

基本的に今のライブはほぼ即興ということになりますか？

半々ね。トラックごとにサンプルとビートのパターンを組んで用意してあるけど、実際にそれらをどう組み合わせて展開していくかについては全く決めていないの。即興でやっているわ。

ライブでは緊張するタイプですか？

そうね。私はクラシックのピアノを弾いて育ったけど、発表会の日が大嫌いだったの。学校に通っていた頃は人前で演奏しなければならない最終テストがあったけど、その日が本当に嫌で仕方なかったわ。緊張で全身震えてしまう自分が嫌だった。でもライブをやり始めた頃は、ピアノを習っていた頃と違って、他人の音楽を学ぶのではなく、自分の音楽を学べる感覚があったから、なんとなく気分が良かったし、発表会の時よりは気楽だったけれど、最初はやっぱり緊張していたわ。でも徐々に自然にプレイできるようになっていったの。凄くエキサイティングな気分になるのよ。でも今でもライブ前は緊張するわ。やたらハイパーになったり、ウロウロ歩き回ったりするし、吐き気をもよおしたりすることだってあるのよ（笑）。

ステージに上がって、ライブを楽しみにしている観客を見るのは気分がいいわね。だからライブはネガティブなものではなくて、凄く勇気づけられるものよ。昔は人前で演奏するのが大嫌いだったし、両親も「昔は大嫌いだったのに、今は大好きなのね！」って驚いているけど、どうして自分がこんな風に変われたのか、自分では分かっていないの。