Mike Parkerは思想家だ。80年代にアート系の大学を出た彼は、現在ニューヨークのUniversity of Buffaloでファインアートを教える傍ら、自分の作品を鋭いまなざしで捉えるプロデューサーとしても活動している。インタビュー中の彼は決して多弁ではなく、長い沈黙の後、彼は伝説の存在であるEMSスタジオのTristram Caryの言葉を引き合いに出した。ドキュメンタリー『What The Future Sounded Like』の中のその言葉は、Parkerに大きな印象を残したと言う。

「手短に言ってしまえば、音楽とは構造化された音のことだ」

「構造化されている」という言葉は、Parkerの作品を説明するのに適している。彼の作品におけるすべてのサウンドは、その空間、そしてその周波数帯にぴったりと配置されており、そこからずれていくことはない。そしてこの特徴がユニークでヒプノティックなMike Parkerサウンドを生み出しており、彼のすべての作品にこの特徴を見出すことができる。そして本人もこの特徴が批判の対象となっていると同時に、多くの支持者を生み出していることを認識している。

最近リリースされたアルバム『Lustrations』もその部分に大きな変化はなく、自身のレーベルGeophoneからCD-Rでリリースされたデビューアルバム『Dispatches』から12年の時を経て発表されたこの作品は、ドイツ屈指のテクノレーベルPrologueからアナログ3枚組でリリースされた。この事実は彼が表だった活動を控え、その特殊な音楽性の限界を探している間も、ファンが増えていったということを表している。

まずアルバムですが、このリリースはレーベル側のアイディアだったのですか？　それともあなた自身のアイディア？

Prologueがアルバムはどうかって言ってきたんだ。いつだったかは正確には覚えていないけれど、去年のことだね。それで秋と冬の間に、学校や旅行などの合間を縫ってレコーディングをしたんだ。

タイトル『Lustrations』に込めた意味は？

これは大昔の言葉だから、普段耳にすることはあまりないだろうね。僕はアートの歴史の本や、クラシックの本、またはローマ史の本を読んでいた時に何回かこの言葉に触れるチャンスがあった。初めてこの言葉に出会ったのがいつかは憶えていないな。でも、沢山の意味を持つ言葉だし、別の言葉に見える時もあるから面白いと思ったんだ。「イラスト」（illustrations）って単語に少し似ているよね。僕は紙にドローイングをするから、そういう読み違いも面白いと思った。あとこの単語の中にはlust（欲）って言葉が含まれているから、いい意味でみんなの頭が混乱するだろうって思ったんだ。

本来は、僕がさっき言った通り本当に昔の言葉で沢山の意味を含んでいる。その多くは「浄化」に関わるものなんだ。僕はこの言葉が生まれた時と同じく、現代もみんなは生活のストレスを浄化したいはずだと思っている。だからBerghainのような場所へ出向いて、リラックスすることで自分を浄化するわけさ。どの音楽にもそういう効果があると思うし、僕の音楽もそうだ。だからこのタイトルにしたんだ。

このアルバムはDJ向きの内容ですし、更にアナログ3枚組というフォーマットを考えると、Berghainに合いますよね。

アルバムのトラックはDJ向けに作られたものだよ。それは疑いのない事実だ。ファーストアルバムのようなアンビエント感は盛り込まないようにしたんだ。このアルバムはDJ専用というわけではないけれど、DJを意識して作った。彼らのことをイメージしながら作ったんだ。アルバムを通して聴いてくれる人もいるだろうけれど、少なくともアナログバージョンはDJがミックスできる内容になっている。このアルバムは僕のファンに向けられたもので、DJ限定というわけじゃないけれど、DJがミックスしたり、他のトラックを前後に挟んだりできるように色々考えたよ。

『Lustrations』はアルバムなのでしょうか？　それともDJツール？　もしくは両方の意味合いを持っているのでしょうか？

そこはたいした問題じゃないんだ。これが1枚のアルバムとして捉えられようと、アナログ3枚組として捉えられようと、一向に構わない。ファーストアルバム『Dispatches』とは違う。『Dispatches』のアルバムとしてのまとめ方、そして収録されたすべてのトラックは、最初から最後まで通して聴けるようなホームリスニングというコンセプトが元になっている。だから僕はCDでリリースした。でもこのアルバムは違う。これは僕のファンに向けた作品だけど、DJのことを意識して作られたものなんだ。

僕のようなアーティストは時としてトラックがシンプル過ぎる、もしくはどの曲も似ているという批判を受ける。でもその点については長年言われているし、たいして気にしていない。第一、ミックスされるために作られたトラックもあるわけだからね。どのトラックがそうなのかはここでは言わないけどさ（笑）。似ているトラックがあっても、それをミックスしていくことで新しい何かが生まれる可能性があるんだ。

DJを意識して作ったと言っていましたが、今のような考えを元にすれば、ライブセットも可能ですよね。

面白い話なんだけど、このアルバムに収録されているすべてのトラック、そして僕が今までリリースしてきたすべての曲は全部ライブレコーディングしたものなんだ。どのトラックもマルチレコーディングじゃない。ミキサーにすべてを立ち上げて、それを2トラックのレコーダーに録ったんだよ。エディットしたのは尺の部分だけだね。たまにトラックが長過ぎると感じる時があるから、そういう時に少しエディットをするだけさ。古いやり方だと思うけど、トラックのレコーディングには基本的にはコンピューターは使用しない。自分のスタジオで昔ながらのDATテープに録って、それからコンピューターにデータを移す。その上でエディットが必要ならばやるけど、大抵はフェードアウトみたいな形で終わらせる。そういうエディットをしたトラック以外はスタジオでそのままレコーディングした作品だ。

ということは、ライブをやる可能性があるということですか？

90年代はライブをやっていたよ。でもライブのためにはスタジオから機材を半分ほど持ち運ばなければならない。それが嫌でね。ただし、何も確実なことは言えないけれど、やっても良いかなという気持ちはある。ツアーから帰ってきて、ライブをやるための技術的な部分だけでも取り掛かりたいと思っているんだ。個人的にはやりたい気持ちはある。でも今は沢山のことを抱えているからね。僕は音楽だけをやっているわけではないから。ライブをやりたいと思うけれど、機材の数を絞りたいと思っているんだ。それは先週末にBrendon Moellerから沢山のことを学んだことも影響しているね。デトロイトで彼は僕の前にライブをしていて、素晴らしい内容だった。機材は4つで、まとめてカバンひとつに収まるサイズだった。でも出音は素晴らしかったし、パワフルだったから僕は色々チェックしたんだ。僕も少ない機材でパワフルなサウンドを生み出せるようにしたい。セミモジュラーシンセを持ち歩くわけにはいかないからね。ライブでは実用的とは言えないからさ。

あなたの作品すべてに共通している独特なサウンドについて教えてください。

僕は自分の音楽に空間性を持たせようとしているんだ。どのサウンドが前に来て、どのサウンドが後ろに下がるべきかを常に考えている。すべてのサウンドが前面に来ているような音楽があるけれど、あれは好きじゃないね。僕はサウンドの距離感に注意しているんだ。あとは素晴らしいマスタリングエンジニアも必要だ。Prologueはその部分を理解してくれているね。

このアルバムの最初のマスタリングはVoices From The LakeのNeelがしてくれたんだ。僕のサウンドを彼は良く理解してくれている。僕は空間性をミックスに与えたいからそういう人は凄く大事だし、ライブレコーディングしていくわけだから、サウンドをどう配置するかには常に気を付けているよ。

僕はヘヴィーなサウンドが好きなんだ。たとえばAncient Methodsはすごくザラザラしているし、好きなトラックがいくつかあるね。彼らのサウンドは空間をちゃんと意識している。ノイジーだけど、金属音をすごく上手にアレンジしていると思うよ。

あなたのDJも作品と同様、サウンドが入ってきては消えていく控え目な感じですよね。

言いたいことは分かる。最近僕が手掛けたポッドキャスト（Smoke MachineとElectric Deluxe）は、僕がどういう風に音楽を聴いてきたか、そして僕がどう変わってきたかが反映されている。僕はそういう部分をミックスに持ち込みたかったんだ。DJを始めた頃のトラックをプレイするのは、凄く新鮮だったよ。DJを始めたのは大学のラジオ局がきっかけだったんだけど、当時の僕はこういうトラックをプレイしていたんだ。

テクノがアブストラクトでエクスペリメンタルな音楽への入り口になる時はよくありますが、あなたの場合は逆ですね。

そうだね。80年代にCarnegie Mellon Universityで学生をしていた頃は、ノイジーな音楽を作っていた。Morton Subotnickが大好きだったし、50年代、60年代の初期エレクトロニック・ミュージックを聴いていた。今は多くのテクノファンが時代を遡って、そういう音楽を聴いているけれど、素晴らしいと思うね。Louis and Bebe Barronの『Forbidden Planet』のサウンドトラックはエレクトロニック・ミュージックの歴史において需要な作品だけど、僕は大好きだよ。他にもChris and Coseyのアルバム『Trance』を始め、当時のその手の音楽には凄く大きな影響を受けたね。

あなたはMovementへの出演を終えて戻ってきたばかりですよね？　自分が認知されているのを感じられたのは嬉しかったのではないですか？

デトロイトは素晴らしかった。最高の経験だったよ。あのフェスティバルはこの手の音楽の北米での可能性が試される場所なんだ。現場の様子を見て、凄く勇気をもらえたよ。素晴らしい人たちに沢山出会えたしね。興味を持てるアーティストたちと話す機会に恵まれたよ。Brendon Moellerは僕と同じ世代だったし、彼の他にも沢山のアーティストと話をした。デトロイトでプレイするのは初めてだったし、Movementは年1回しか開催されないというのもあって、素晴らしい経験ができた。サウンドも素晴らしかったね。

あなたは日本のフェスティバルLabyrinthへの敬愛を常に口にしていますが、私の中ではMovementのようなフェスティバルとは対極に位置するフェスティバルだと思っています。勿論、両方とも素晴らしいフェスティバルですが、あなたはその両方に価値を見出していますね。

Labyrinthは何とも比較できないよ。Labyrinthに敵うイベントはないね。あのようなフェスティバルは存在しない。比較は無理だ。

Movementは違う意味で好きだね。巨大なサウンドシステムが積まれたメインステージのトリはSquarepusherだったけれど、ライブは非常にエクスペリメンタルな感じもあった。メインストリームな感じは全くなかったよ。矩形波を使った凄く奇妙な即興をやっていて、観客は凄く盛り上がっていた。横にいたBrandonに、「Bob Moogがここにいたら、笑顔になっていただろうね」って言ったよ。Squarepusherをあの時間帯にあのステージでやらせるのは凄い度胸がいることだと思った。

あと素晴らしいと思えたのは、若者が沢山いたということだね。僕みたいな古い人間も大勢いたけれど、若者の数の方が多かったし、彼らは新しい音楽に触れていた。若者が来なければ、終わりだと思うから凄く良いことだと思ったね。僕たちみたいな古い人間がバーに数人集まって、この手の音楽をプレイしていても、闇の彼方へ消えていくだけだからさ。