15年に及ぶMr Gの活動を今まで追ってきた人は、彼をロンドンの人だと認識していることだろう。実際、彼はもう何年もロンドンをホームと呼んできた。だが、本当のところColin McBeanが首都に居るのは毎週木曜日にレコードやラムのボトルを買いに出かける時ぐらいで、普段はロンドンから電車で1時間ぐらいの所にある古風な趣の町の、小さな2階建てのワンルームマンションで暮らしている。自身のPhoenix GやRekidsといったレーベルから勢力的にリリースしてきた音楽が、テックハウスの真髄だと言われるほど評価されている人物であることを考えると、これは意外なことかもしれない。だが、30代後半に差し掛かってから本腰を入れてソロキャリアをスタートさせたこののんびりな彼は、この地を出ることを考えてもいなさそうだ。

私がMcBeanの家に着いた時、彼はJuan AtkinsとMoritz von Oswaldのアルバム『Borderland』を聴きながら料理していたところだった。ソファでの会話はいたってフレンドリーだったが、その時私は彼に試されている気がした。そして、やっと上の階にある彼のスタジオへと招いてくれた時、それは気のせいではなかったことが解った。「もし君に良い印象を受けていなかったら、君はそこに突っ立っていたことだろう」と、彼は階段の最上段を指差した。今回彼の自宅にお邪魔して解った事は、彼がスタジオでやることなすこと全てに意味があるということだ。この空間のフィーリングを保つことは、スピーカーの配置や音響効果と同じくらい彼の音楽にとって大事なことなのだ。

このスタジオは誰でも足を踏み入れることができる訳ではなく、あなたが認めた人しか入れないとの事ですが、部外者に邪魔されたくないこの部屋のバイブスとは、いったいどういったものなんでしょう？

俺のイカれたハウスミュージックの探究だよ。ベース重視の、狂ったハウスを日夜研究している。毎日、スピーカーを泣かせてるぜ。ギリギリのラインでなんとか作動してるぐらいスピーカーを酷使してる。そんな感じさ。

(窓際の写真を指差す) あれはこの前のアルバムのインスピレーションとなった友人だ。この写真は俺が前住んでいて彼が家賃を払っていた家で撮ったんだ。検査で彼に脳腫瘍が見つかって、俺は音楽活動をストップして8ヶ月間、24時間つきっきりで彼の面倒を見ていた。日本から帰国して、彼に会いに行くと家がめちゃくちゃだった。彼はまっすぐと立てなくなっていて、色々な物にぶつかっていた。

だからすぐに病院に連れて行った。彼の脳にはゴルフボール大の腫瘍が見つかった。7週間、放射線療法と化学療法を毎日行った。毎日病院に通うのは辛かったが、人生観が変わったよ。だからこうやって今も彼にスタジオに居てもらっているんだ。彼もミュージシャンで、彼に受けた影響は計り知れない。特に俺のライブなんかは彼そのものだ。

あなたにとってスタジオは、このような人生における大きな出来事や苦悩と向き合う場所ですか？

例えば彼女と喧嘩して口をきいてなくて、ムシャクシャしてるときにここに来たら、間違いなくその曲は「クソッタレ」とか、「大嫌いだ」みたいな気持ちが込められた曲になる。そういう気分だからな。その時の気分に左右される部分はとても大きい。

疑問を胸に抱いてスタジオに入り、出た時には答えを見つけているような事はありますか？

ああ。気分が良いと思って入って、出来た曲がとてもメランコリックで悲しげだったりすると、「これが今の俺の本当の気分なのか？」と自分に問いかけてしまう時がある。不思議だが、きっとそれが真実なんだ。

では、スタジオの設備についてお訊きしたいと思いますが、まずはどこからスタートしましょうか。

(ミキシング・デスクの下のラックを指差す) こいつが俺の相棒だ！Avalon VT-747SPだ。出力にイコライザーがついたプリアンプなんだ。ヘヴィな代物だぜ。

あなたのサウンドにどういった形で貢献していますか？

これが俺のサウンドそのもの、と言ったら大げさだが、確実にサウンドの重要な一部だ。なんせ、設定はめったに変えないんだ。試行錯誤の末に見つけた今の設定のままにしておけば、ミックスが良くないかどうかがすぐにわかる。一つのチャンネルが大きすぎたらそう教えてくれる。独特な特徴があるから、音を出しすぎてたらそのチャンネルだけ浮いちゃうんだ。あるいはベースが大きすぎたらメーターの目盛りがいつもより2つ増えてる。凄く解りやすいマシンなんだ。買った当初は、コンプレッションがソフトニーで嫌だったがね。良い音が出るようになるまで時間がかかったけど、凄く暖かい音になるんだ。

真空管の効果ですね？

ああ。次の日にミックスをやると解っていたら、前の晩から電源を入れっぱなしにするんだ。そうすれば管が温まって素晴らしい音が鳴る。付けっ放しにすればするほど、音の暖かさと深さが増すんだ。だが時にやり過ぎて音がゴチャゴチャするときもある。

使用し始めてどのくらい経つんですか？

Defected と契約した後に購入したんだ。金をもらったからね。以前どこかで読んでから欲しいと思っていたんだ。Roni Size は違うやつをもってる。俺が評価している多くの人が持っていたから、きっと持っていて損は無いものだなと思ったんだ。

あなたの曲の音の鳴りの秘密に、このマシンのコンプレッションが関わっているようですね。

実は俺の音楽にはそんなにコンプレッションを使用していないんだ。全ては素材のままさ。(ミキシング・デスクの後ろを指す)だからコンプレッサーは向こうに仕舞ってある。Avalonを通して多少の暖かみを加えてるぐらいだ。俺はTodd Terryから多くを学んだ。彼はモノラルでレコーディングするんだ。俺もモノラルで、2トラックでレコーディングしている。クラブではパンニングはあまり意味がないんだ。明らかにステレオスウィープに時間をかけてるような曲を聞くと、そんな細かいことクラブでは聞こえないのに、と思ってしまう。だからそういった無駄な効果に時間を消費にしない。

少し遡りましょう。最初に手に入れた機材は何でしたか？

MPCが最初だったね。これではないんだ。The Adventが解散した時に Cisco （Ferreira）からもらった2000だった。

MPCのどういう所に惹かれましたか？

パソコンの前で長時間作業するのが好きじゃないんだ。パソコン世代ではない。嫌々ながらインターネットを始めたぐらいだ。一日中マウスを使って画面上のブロックをいじってたら頭がおかしくなるだろうね。

しかしMPCも複雑な機械ですよね。たくさんメニューやボタンがあって。

しかしそれが良いんだ。もしかしたら俺は使い方を間違ってるのかもしれない。もともと使い方は知らなくて、独学で使ってる。SónarでAkaiの人と話した時、ライブで俺が使用しているように使ってる人は見た事がないと言われたよ。「どうやってあんな音を出してるんですか？」と聞かれた。音に暖かみを加えたり、リバーブをとったりしているからなんだ。大きいフロアだったら音が反響してリバーブ効果が期待できるからね。

色々な所でプレイして、音の適切な鳴らし方というのを掴んだんだ。MPCは凄く気に入ってるよ。スタジオでドラムを組んでるとき、レベルを気にしないで制作できる。あとで調整できるんだ。先にリズム隊を組んで、あとで動かして調整する。まずアイディアを先に形にするんだ。3つ、4つドラムトラックを組んで、後で聞き返してどれとどれの相性が良いかなどを考えるんだ。

MPCの後に手に入れた機材は？

男の名前を忘れてしまったんだが、ワイト島でとある男が909、808とかの機材をフライトケースに入れて売っていたんだ。たったの1000ポンドで売っていて、俺は「本当か？！」と思って即座に買ったよ。エレクトロ志向じゃないから808は使ってないけどね。次はWaldorf Pulseを手に入れた。その次にJuno 106で、その後Korg MS2000を手に入れた。MS2000は俺の音楽の八割に関わっているね。MS-20の安い版なのは分かるが、俺はこの機材を隅々まで勉強してマスターしたんだ。修理に出したとき音が全部無くなってしまったが、また1から始めた。

その後、そのはじっこにあるRolandがやって来た。もう一つKorgもこの下にあるんだ。そしてカセットマシンも沢山持ってる。カセット特有のコンプレッションが好きで、未だにカセットに録音してるよ。その後にWaldorf Blofeldを手に入れたんだが、正直これは期待ハズレだった。

それはなぜですか？

ボタンが多すぎるんだよ。扱い易いマシンではない。一つの音を作るのに時間がかかりすぎる。頭がイカレるよ。見た目は最高だし、相当良い機械っぽい雰囲気は醸し出してるけど、実際に使ってみると見掛け倒しだと解るんだ。

機材を集めて行く上で、何らかのプランはあったのですか？

全ての機材は何かの用途を満たすために導入したんだ。ただなんとなく欲しいと思って買ったものはない。手に入るまでに1年かかったり、時には2年かかったりもしたから、機材に愛着が湧くんだ。

MS2000は何の用途を満たすために手に入れたのですか？

オシレーターをもっと簡単にいじれて色々な音が出せるものが欲しかった。昔は皆MS-20を使っていたから、俺はMS2000を使おうと思った。扱えるようになるまで時間がかかったけど、ボタンやツマミを操作することの魅力はそこなんだよ。コツをつかむまでいじり倒すんだ。コツさえつかんだら、もうそれは愛用の楽器だ。これをずらして106をここに置いたりもするが、結局MSに戻ってしまう。

この機材こそがこのスタジオの心臓だと思いますか？

俺にとっては、ミキシング・ボードでのイコライジングが全てだ。1つ音を作っているとしよう。エフェクトをかけたりかけなかったりして、MPCにサンプリングする。潰したり、動かしたりして好きに加工する。タイムストレッチとかはしない。それが俺のサウンドの秘密かな。サンプル音の途切れ部分をそのままにしておくんだ。俺の得意技だ。

2つの音を作っていると、その2つの音が重なり合って3つ目の音ができるんだ。2つの音の途切れ部分が重なって新しいパターンができる。そのパターンに合わせてベースラインを作ったり、ハットをいれたりして、ミキシング・ボードでイコライザーをいじって気持ちいい場所を見つけて、その音は出来上がりだ。そして次の音に取りかかる。そうやって絵を描きあげて行くんだ。

「俺は52歳だがまだまだ現役だし、まだまだ
若い奴らに負けねぇ」

2つの音の最後に3つ目の音ができるというのは、タイミングの問題でしょうか？

タイミングによって、ずれているものをずれていないものにすることができる。ずれすぎて新しいリズムを形成しているような。こうやって最後に音の断片が残っているサンプルをたくさん重ねることによって、全く新しいものが生まれるのが面白いんだ。爆音で聴くと、ランダムに音が鳴っているように聴こえる。しかし分解してみるとそれはサンプルの途切れ音だったりするんだ。それも1つのやり方だと思うね。

レコーディングはモノラルで行い、コンプレッサーは仕舞っているということは、ミキシング・ボードでのイコライジングで音の隙間を調整していると思うのですが、イコライジングをする上でどういうことに注意していますか？

キックとベースの関係性が俺の音楽では最も重要なんだ。暖かくて良いキックがあっても、ベースに負けてはしょうがない。キックが主導権を握っていながらも、ベースもそのすぐ下に位置していなくてはいけない。このスタジオはハイからミドルが軽いから、ミドルは多めにしてる。俺は隙間を埋めることに気をつけてるんだ。だから時にイコライジングをして、その音を外して他の音を入れて、また戻してみたりする。

俺は音楽を絵のように考えるんだ。隙間を埋めるように色を足して行く。ベースラインがあったとして、ドラムに合わせて進んでいくものもあれば、複雑に展開するベースラインもある。その場合は他のものをシンプルにする。(A1 Basslineというアーティストのための、制作途中のリミックスのループを再生する)例えばこの曲では、ベースがなかなか凶暴だ。「ワルなレゲエ・ベース」と俺は呼んでる。他のものはこのベースのワルさに合わないとだめだ。他の要素がこのワルさについてこれてなかったら、上手くいかない。

するとミキシングにおいては、1つ1つの音よりは全体像を常に把握している感じですね。

俺はとにかく隙間を埋めることに集中しているよ。

この曲に使用されているライドはあなたの音楽で良く聴くシグニチャーサウンドですね。この音はどこから来たんですか？

909だね。1回サンプリングして以来、ずっと使ってる。何回もサンプリングし直してるんだ。

なぜサンプリングし直すのですか？

毎回サンプリングするごとに、音が丸くなって金属っぽくなる。ロービットレートで、スローでサンプリングするからだ。

制作中のリミックス曲を今聴かせていただいてますが、この曲はどういったアプローチで制作していますか？

昨晩曲のパーツを送ってもらったばかりだ。8月に制作すると先方には伝えたが、昨日曲を聞いていて「これ本当にいいな」って思った。たまに、リミックスを依頼される曲がそんなに良くないときもあるが、今回のA1 Basslineの曲はリミックスが必要ないんじゃないかと向こうに言ったぐらいだ。だが彼は俺のファンで、どうしてもリミックスを希望しているとエージェントに言われたんだ。

それで今日、この部屋を片付けたあと暇していて、自分の曲を新しく作り始めたくはなかったからリミックスを始めた。なんせ、もし自分の曲を作り始めちゃったらそれに没頭してしまって、今日のインタビューはキャンセルしていただろうからね。俺はこう考えた。「原曲は好きだが、もっと違う方向性に持って行こう。俺のフィールドに」。彼はベースライン職人だけど、俺だってベースライン職人だ！だからビッグで存在感があってトリッピーなベースラインになるよう、ずっと作り込んでいたんだ。

原曲を部分的にサンプリングしながらも、基本的にはオリジナルトラックを作っているようですが、リミックスは大概そういったアプローチをとるのですか？

昔はもっと原曲のパーツを活かしたリミックスを作ろうとしていた。やっぱりリミックスを作るなら原曲の主たる要素が入ってなくてはいけないと思うんだ。この曲のストリングスは好きだし、レゲエのヴォーカルサンプルも良い。しかし俺なりのやり方でやらないとダメだ。何しろ、原曲に沿ってやるとそのうちどこかでつまずく。パッドに合わせたベースのチューニングがなかなか上手くいかないとか、自分のキックじゃなくて原曲のキックを使ったせいでドラムに好みのヘヴィさがないとか。音を上げて聴いてみると、「Colin、そんなキックはお前のミックスにいれてはだめだ。外せ」と心の声が聴こえる。だから原曲に合わせすぎないで、始めから自分のスタイルでやり直すんだ。そうすればするほど、このスタジオから良いものが生まれるんだ。

その境地に辿り着くまで時間がかかりましたか？

ああ、長い時間がね。なるべく向こうを尊重して作ろうとしていた時代は、彼女に聴かせると「あなたらしくない」と言われた。彼女はいつだって解るんだ。時に、ベースラインだけをとってそれ以外を変えようとすることもある。しかしそれでも上手くいかなかったりするんだ。アーティストのベースラインのタイミングがちょっとずれていたり、キーが外れていたり。だからどんなパッドラインにしても合わないんだ。

一番良い方法は原曲の重要な要素だけ残して自分なりに１から作ることだ。ビッグネームのリミックスでヤバイ額をもらって、泣きを見る時もあった。ヴォーカルだとかメインの音をそのままにしてアートチックなことをしようとして、2週間後何も提出できるものがないんだ。日に日にフラストレーションが溜まっていって、ある日家に帰って「こんなこともうやってられない」と心を決めて、ダブを作ったんだ。それをゆっくりとヘッドホンで聴いて、「そうか、この方向性か」って気づいたんだ。だから今では、自分のフィールドに持っていくことを心がけているよ。

Mr G Notes

ライブについて教えてください。あなたはMPCとミキサーとメモ帳のみでライブをしますね？

ライブにMPCは必需品だ。自分が慣れ親しんだ方法でライブをやる以外考えられなかった。スタジオでやってることを、ライブでもやってるんだ。だからリラックスして自信を持ってやることができる。だいたい2、3曲目ぐらいに本当にリラックスしだすんだけどな。あとラムでも飲めばね。

そしてただ自分のスタジオでダンスの練習でもしてると想像して、リラックスするんだ。9月に日本で新しいライブをやるつもりだ。新曲をライブでやる時は、まず曲のパーツを、イコライザーの設定などをそのままでCDに焼くんだ。そしてライブの時MPCに録音し直す。MPCに直接保存するのは信用できないんだ。あと、過去にリミックスをしたいと言われて曲のパーツがどこにあるか全く分からないときがあったから、しっかりと別に保存しておかないとダメだ。そして何のCDなのかちゃんと書いておかないとな。89枚のCD、89個のトラックをMPCにロードして曲を再現するんだ。ただ、8つの音しか鳴らせないから省略する音もある。場合によっては複雑なストリングスを無くさないといけないかもしれない。

MPCのミキサーへの出力が8つだから8つの音という事ですね。どうやって残す音と外す音を決めるんですか？

ライブをやってると、全て新曲なのか訊かれる時があるんだ。そんなことはないが、大抵はライブ用に曲を変えてるんだ。8つの音しかなくて、音を部分的に省いたせいで曲として未完成に感じたりする。だから例えばストレートでシンプルだったストリングスを作り直して、ライブ用に新しいメロディを作ってよりダイナミックにしたりする。それはとても重要なことさ。面白い変化をつけることができる。曲をライブにもっていくと、音数が少なくて隙間があるほうが機能的だってことも解る。ライブ用にアレンジした曲はオリジナルとかけ離れてるから最終的に再リリースしたりもするんだ。みんな"House Is A Nation"のライブ版を欲しがる。もともと全然違う曲だったが、 "If house is a nation, I wanna be president（もしハウスが国だったなら、私が大統領になりたい）"という言葉を加えてリスナーを奮い立たせる曲にした。

ライブでは基本的に同じ事をやっていると思いますが、ツアーをやっていく中でライブがどんどん進化してそうですね。

ああ、12か13曲用意してあって、1から13曲目までいつでもいけるようになってる。後半のほうが前半の曲よりBPMが速いけどね。1から13まで普通の流れにしてもいいし、3曲目の半分ぐらいで音数を減らしてイコライザーの仕方を変えたり。展開は決まってなくて全てループだ。

しかしThe Adventを解散した後はもうライブをやらないと思ったんだ。7年間、3つのギグを毎週末こなしていた。狂っちまうと思ったよ。もう旅をするのが嫌で辞めたんだ。そしてこの小さくて素晴らしいスタジオに落ち着いた。そして自分の本当にやりたい事だけをやって、それがまた俺をライブ活動へと導いた。しかし今回は違う。今回最も重要なのはここだ。先月、バルセロナとベルリンでギグをやったんだが、2週間ぐらいスタジオで制作できなかった。その次の週末のライブをキャンセルして、スタジオに入ったぐらいだ。俺の活動においてとても重要なことなんだ。積み重ねて来た経験と培った知恵から生まれる何かを、俺は持ってると思うんだ。

音楽制作においてあなたは競争心が強いように思いました。

ああ、間違いないね。俺は52歳だがまだまだ現役だし、まだまだ若い奴らに負けねぇ。そういう気持ちなんだ。クラブでキッズ達をロックしていると、年齢を訊かれるんだ。52歳と答えると、「うちの親父より歳上だ！」って驚かれる。そして今、俺の音楽人生の中で最も生産的だ。「今ノリに乗ってますね」って言われるよ。

あなたをここまで生産的にした具体的な要因はありますか？

確実にBoiler Roomだね。俺が所属しているレーベル、RekidsがNina (Kraviz)、Matt (Edwards, AKA Radio Slave)、そして俺で1回やる予定だった。だがNinaの都合が合わなくてキャンセルになったんだが、友人のSemtekがたまたまこっちに来ていて、彼にこう言われた。「今度Boiler Roomでギグがあるんだけど、ライブをやってくれるなら君も入れてもらえると思うよ」。俺はソファに座って、考えた。「俺はBoiler Roomをやる自信はあるだろうか？」だが何人かの友人に、最近俺がやってることを人に見せるべきだと言われた。だからやったんだ。サウンドチェックは良くなかったし、動画撮影をする女性に「俺のライブみたことあるか？」って訊くと彼女は「いいえ」と答えたがね。「多分俺を撮影するのは難しいぞ」と言うが誰も聞いちゃいない。

それでライブが始まって、俺は相変わらず踊りまくって、奴らは「クソ、どうやって彼を撮影すればいいんだ」ってなってたよ。あと音をわざとオーバーロードさせたんだ。そのままの音だったら後で、ネットでダウンロードされるだろうと思って。しかしまぁ友達もいたし、パトロンも飲んで楽しんでたよ。壁に面してライブをやるのは慣れなかったが。やることやって楽しんだだけだけど、あれがあそこまで話題になるとは思わなかった。次の日にコメント欄を見てみると、「今まででベストなBoiler Roomだ」なんてあって、「本当に？！」って思っちゃったよ。なんせ、俺はイライラしてたし、パトロン飲み過ぎて後半失敗してたし。しかし俺の音楽活動において最高な出来事になったんだ。

あなたのセットを観ていて感心したのは、どんなにラフな展開でもかまわずぶち込んでいたことですね。若いアーティストはスムーズに展開を作ることを好みます。あなたのセットでは、ブレンドがラフであればあるほどあなたの踊りは激しくなったように見えました。

ああ！イカれてるよな。俺にとっては、間違っていることが良いんだ。粗があって良いんだ。ベースとキーボードが合ってなくても、なぜだか上手くいってる場合がある。とにかく感覚なんだ。どういう組み合わせが正しいのかではなくて、俺にどう聴こえるか、俺がどう感じるかが重要だ。それ以外はどうだって良いんだ。