イタリア産のハウスミュージックの動きは、その生産性や評価がこれまで常に不安定で気まぐれなものだった。過去にはJestofunkなどのアーティストが世界中のチャートを賑わしたりもしたが、'00年代初頭には再びシーンが沈黙化し、4つ打ちのダンスミュージックにおいては深く長い歴史を持つこの国の新世代アーティストたちは雌伏の時間を過ごしてきた。

「最近は90年代の最もイタリアのハウス・シーンが活況だったころの雰囲気が戻ってきているよ」と語るのは、Bosconi Recordsのボスを務めるFabio Corcosだ。「プロダクション手法という面では、90年代と2010年代ではブラックホールのような隔たりがあると思う。Marco PassaraniやDonato Dozzyみたいな（作家性が確立されている）アーティストはたぶん別だと思うけど。」

Corcosの発言には説得力がある。フロレンス地方北部、トスカーナの丘陵地帯で彼が運営しているレーベルは、最良のイタリア産テクノ／ハウスを送り出すべく立ち上げられた。Corcos自身、Fabio Della TorreというDJネームのもと、テクノやハウスにどっぷりと浸かって今日まで過ごしてきている。

6月の麗らかな日曜の午後、Bosconiのレーベル・オフィスにはこの地域で活動するアーティストやその友人たちが顔を揃えていた。2台のターンテーブルは眼下に広がるこの地方独特の息を吞むような起伏に富んだ地形と向き合うように設置されていて、食卓にはパンツァネッラ、プロシュート、パッパ・ディ・ポモドーロ、カチョなどがふんだんに供され、キャンティ・ワインが酌み交わされていた。このスタイルこそ、Bosconiのレーベル・ヒストリーの根幹にあるものだ。Corcosたちはこのスタイルで10代のころからパーティを繰り広げ、そこで繋がった友人たちの輪がレーベルにとっての原動力となっているのだ。ちなみに、Bosconiというレーベル名も彼の自宅周辺に広がるオリーブ農場にちなんでつけられたものだ。

このレーベルの中核を成しているのはA&Rを務めるRufus Niccoloをはじめ、Martino MariniことMass_Prod、Andrea Giachetti、Antonio Pecori、Stefano Meucci (The Clover名義でライブを展開している)、そしてLife's Trackというプロジェクトを手掛ける傍らそれぞれソロとしても活動するHervè CortiとMarco D'Aquinoといった男たちだ。

「RufusやHervèとは、一心同体という感じだね」と語るCorcosは、レーベルのA&Rに関する判断はかならず彼らの意見を聞いて決定するという。「そもそも僕らは友だち同士で互いに影響し合ってる仲だってこともあるけど、ごく自然な流れでこうなってるとも言えるよね。」

こうしたレーベルの基盤が完成される以前、BosconiはCorcosと多岐のジャンルにわたって活躍するプロデューサーEnnio Colaciの出会いによってスタートした。Corcosはちょうどベルリンでの留学中に当地の爆発的なテクノ・シーンを体験して帰国した直後で、一方のColaciはMinimonoというマルチメディア・アート・プロジェクトに参画していた。以降、この2人はミニマルテクノ最盛期においてMinimono名義のもとプロダクションを展開した。

MinimonoというプロジェクトはもともとTelegraph Records（ひねりの利いたマイクロハウスを数多く手掛けていたパリのレーベル）と密接な関係にあった。初期のMinimonoによる作品には、過剰にエディットされたマイクロスコピックなサンプル群とシュールなアトモスフィアに対する偏愛が溢れていた。したがって、CorcosとColaciがBosconiを立ち上げた当初、初期のリリースをBruno PronsatoやJohn Thomas & Barbara Thomasといったアーティストたちに委ねたのは自然な流れであった。

レーベルの立ち上げ当初から、Bosconiのサウンドはハウスミュージック特有の豊かさを軸に展開してきた。それは、クラシックなアプローチに触発されつつもスタンダードなクラブトラックにさらなる屈折性を織り込もうとする試みでもある。このアプローチはときに洗練というよりもよりざっくりとした手触りのプロダクションに向かうことを意味しており、それらはダンスミュージック・シーン全体におけるアナログなプロダクション志向も反映していた。UKの才人Altered NativesやデトロイトのデュオThe Oliverwho Factoryといったアーティストの参加は、このレーベルにおけるハウスミュージック志向をより強化させる存在でもあった。「自分の国以外でどんなことが起こっているかに注意を配るのは、僕にとってほんとうに大事なことなんだ」とCorcosは語る。

しかし、彼がこれまで契約したイタリア国外のアーティストで最も重要な存在はA Guy Called Geraldだろう。サレントで開催されたエレクトロニック・ミュージック・フェスティバルStreamfestで知己を得た両者はそれぞれの音楽観における共通点を見出し、CorcosはとりわけGeraldのライブセットに感銘を受けたという。そこから発展した作品がベルリンのKunsthaus Tachelesの閉鎖と時を同じくして発表された12インチ「How Long Is Now」である。Kunsthaus Tachelesの壁面に描かれたGeraldの肖像はベルリンの再開発への抵抗を示す象徴的なエンブレムになっていた。今もGeraldは頻繁にフロレンスのCorcosのもとを訪れ、今後のBosconiでのリリースについて新たなアイデアを交換し合っているという。

Fabioはこの関係性について「彼にとっても、僕らは新鮮な存在なんだと思うよ」と語る。「もちろん他にも新しいレーベルはどんどん生まれているし、僕ら自身も自分たちが新しい存在だとは思っていないんだけど、それでもおそらく彼にとって僕らの存在は新鮮なんだと思う。」

この「新しさ」という言及は、イタリア国内のダンスミュージック業界を取り巻く障壁と密接に関連付けられるだろう。イタリアのハウス／テクノ・プロデューサーたちの現状は今でこそかなり健全なものになってはいるが、かつてはそうではなかったようだ。当地のクラブ・シーンについて尋ねられたCorcosは、イタリア国外の人たちにはこの問題は理解しづらいかもしれないが、と前置きして語る。「RalfやAlex Neriといったイタリアの古株のDJたちについて僕がどうにも気に入らないのは、彼らが音楽へ情熱を注ぐのをさぼったまま過去の成功体験に頼って金稼ぎに終始してるってことなんだ。音楽からたくさんの恩恵を受けたのなら、単にビジネスに身をやつすよりも自らのアイデアをより純化して音楽に還元すべく努力しなきゃいけないと思うんだよね。」このFabioの発言は、イタリアのクラブ・シーンにおいて慣習化したヒエラルキー構造を反映しており、ごく少数の限られた有名DJのみが利益を貪り、若い世代がブレイクスルーする機会を阻害している現状ゆえのものだ。

Corcosは続けてこう語る。「国際的なアーティストになってイタリアでプレイしたいと思ったら、イタリアのブッキング・エージェンシーと契約しなきゃいけないんだ。というのも、イタリアではクラブを巡業する興行サーキットってものがあって、そのサーキットはエージェンシーによって牛耳られているからなんだ。僕はレコード業界については多くのことを理解しているつもりなんだけど、この閉鎖的な仕組みだけは理解しようとは思わない。こういうブッカー連中こそ、音楽を阻害してる存在なんだよ。」

しかしながら、そんな状況でもBosconiは新たなタレントを発掘しようという努力を怠らない。そのひとつの結実として、Hervè CortiとMarco D'AquinoによるLife's Trackというプロジェクトが挙げられる。2011年にBosconiからデビューしたこの若手デュオはハードウェア中心のプロダクションを志向しつつ、そうした手法面よりも作品性におけるアイデアそのものを重要視したリリースを臆することなく展開している。

「Mass_Prodはすでに名前の知られたアーティストたちよりも、若手の連中が作るプロダクションに耳を傾けようとしてたんだ」とCorcosは語る。「たとえば、Mass_ProdはMarco D'Aquinoとのコラボレーションでもすごく良い仕事をしてた。HervèはMarcoの友だちだったから、その繋がりがきっかけになって僕らのレーベルに参加するようになったんだ。要するに、レーベルに貢献すればかならず見返りはあるし、それがレーベルを少しずつ前に進めてくれるってことなんだよね。」

Life's Trackはすでに30近いトラックを複数のレーベル群から発表している。CortiはHerva名義としてもBosconiファミリーの中核的存在へと成長し、さらにDelsinからも作品をリリースしている。彼のソロ・プロジェクトはLife's Trackでの初期衝動的なジャムとはまた異なり、さまざまなテンポやスタイルを行き来しながら、サウンドシステムよりもヘッドフォンでのリスニングに適した実に精巧なディテールを有した作品を手掛けている。

若く瑞々しい才能を示しつつ、CortiはDJとしての才能も発揮している。レーベルパーティでは彼はCorcosとバック2バックを展開し、自信に満ちたクリエイティブな片鱗を見せつけながらレコードを次々にプレイしていく。

Cortiの音楽には若手プロデューサーには似つかわしくないほどのメロウさと確かな洞察がある。彼のアルバム『Meanwhile In Madland』はダウンテンポの小品とアブストラクトにひび割れたハウスによって紡ぎ合わされており、BosconiのサブレーベルExtra Virginにおける新たな水準の高さを確立させている。

Extra Virginはもともとディスコ・リエディットやライブ・インスト的なオーガニック志向を持ったサブレーベルであったが、今ではBosconi本体のダンスフロアー志向からはこぼれ落ちるものを丁寧に拾い上げるオフシュートとして機能している。Bosconiはさらなるオフシュート・レーベルの用意も進めており、それはSquirtsと呼ばれるより荒削りなカラーを持ったサブレーベルだ。簡潔に言えば、Bosconiよりもさらにテクノへ特化したものになるそうだが、Fabioは今後のこうした展開はできるだけオープンなものにしていきたいと説明する。

「Squirtsはもともとはテクノにフォーカスを絞ったサブレーベルのつもりで立ち上げたんだけど、すでに別の方向性になりつつもあるね。テクノに限定せず、エクスペリメンタルやアンビエントの要素も含んだよりアグレッシブなサウンドを提示するためのプラットフォームになっていくと思う。」

SquirtsではCorcosやHashという謎めいたプロデューサーによる粗さを多分に含んだテクスチャーを持った作品にフォーカスを当てる一方、親レーベルであるBosconiはレーベル史上最大となるビッグ・プロジェクトに着手している。『Bosconi Stallions』と銘打たれたボックスセットにはレーベルゆかりのアーティスト陣が一堂に会し、同時に新進気鋭のイタリア人プロデューサーたちを紹介する絶好の機会となっている。Bosconiの5周年を記念するこのリリースでアーティストとレーベルの音楽的発展の歩みを記すと同時に、今後を担う新世代をも紹介しようというのである。

Corcosはこう語る。「アーティストがほんとうに心からやりたいと思っていること以外はやらせたくないんだ。もちろん、それぞれに固有のスタイルってものがあるけどね。Nicholas とNick Anthony SimoncinoがBosconiから出したファースト・リリースなんかも、彼らに成し得る最もフレッシュなアプローチが表れていたと思うし、僕自身にとっても期待通りの作品になったと思う。」

このコンピレーションにはいくつかの驚きが用意されている。Altered Nativesはいつになくアトモスフェリックなテクノへと転じ、Nicholasはパワフルでダビーなハウスを披露している。こうしたトラックは、Corcosが理想とするアーティスト自身のクリエイティブ性の追究のためのレーベル像を確かに反映している。

Corcosはこう締めくくる。「アーティストは自分自身がやりたいことに対し自由な状態でなければならないと思う。でも、アーティストはある時点で自分自身を見失いそうになることもあるよね。僕がMinimonoでTelegraphで作品を作っていた時、彼らは僕らが自分の仕事に集中できるようにサポートしてくれた。それと同じことを僕はBosconiのアーティストたちにもしてあげたいと思うし、アーティスト同士が交流したりしながらほんとうに彼ら自身が良いと思えることをやっていければいいなと思うんだよね。」

Bosconi Records

BosconiのボスであるFabio Della Torreが過去5年間のBosconiにおけるクラシックなハウス志向を反映した18トラックをシンプルにミックス。

Download: RA Label of the Month 1307 Mix: Bosconi Records
(right click + save target as)
Filesize: 220 MB
Length: 01:31:44
Tracklist
Rondenion - Beginning Of The Ring [BoscoEXV005]
Rufus - I Was Back From Nigeria (Crowdpleaser remix) [BoscoEXV001]
I.F.M. World Is Changed [Bosco014]
Mass prod - Don't Be Anger [Bosco008]
The Oliverwho Factory - Together (Altered States mix) [Bosco016]
The Clover - Feelings [Bosco010]
Rondenion - Like A Child [BoscoEXV005]
Altered Natives - Heavenly Melodies [Bosco013]
Minimono - Little Liars [Bosco006]
Alex Picone - Dry Scream [Bosco024]
Quitèfrùt - Absoluca (P&D remix) [Bosco003]
Corcos - Reliable & Immature (Gari Romalis remix) [BosQRT003]13. Ricardo Miranda - No Sound [Bosco017]
100Hz - The Field [Bosco004]
Fabio Della Torre - Thrilled (Eduard De La Calle remix) [Bosco020]
A Guy Called Gerald - How Long Is Now [Bosco021]
Life's Track - Life's Track 04 [Bosco015]
Riccio - Dreamin' [BoscoEXV004]
Le Macchine - Eternal Sample [BoscoEXV012]