簡単に音楽がリリースできる今、レコードレーベルは旧式のコンセプトで、インターネット時代以前の遺物のように思えるかもしれない。しかし、誰もが簡単にBandcampなどで音楽をリリースできるようになっても、レコードレーベルは今日的な意味を帯びている。プロデューサーとファンの距離が近くなって混在している今、レコードレーベルは点同士を結び付けてくれる存在なのだ。

2013年のベストレーベルに選ばれたレーベルの多くが、この1年間でアーティストを育て、今年を象徴するような作品をリリースしていくことで独自の美学に向かってまい進し、またその美学に磨きをかけていった一方、他のレーベルはスタイルよりもクオリティに力を入れていった。2013年も素晴らしい音楽が数多く生まれ、ここにランクインしたレーベルはそのような音楽を世に知らせるという重要な役割を担った。

20. Leisure System

Berghainの中でも最もオープンマインドなクラブナイト、Leisure Systemによる同名のレーベルは、2013年にたった4枚の作品をリリースしたのみに留まったが、同パーティーの何でもアリ精神を表わすには十分なものであった。彼らは今年Visionistによる凶暴な作品を発表しているが、忘れてはならないのがGerald DonaldによるDopplereffektの復帰作をリリースしたということだ。3曲の凍てつくようなエレクトロトラックが収録された同シングルは、グループ史上最高作となった。

19. UNO

レーベル主宰のCharles Damgaは、UNOのサウンドにおける限界というものをほとんど考えていない。非常に多様な顔ぶれの所属アーティスト達は今年、その観念が無理難題なものではないということを我々に証明してみせてくれた。例えばSFV Acidによる名盤『The Dwell』は、Kallistiのジャングル作品「Arc Of Fire 」とは全く違った趣向のものであった（同レーベルの看板アーティストであるArcaがその名を知られるきっかけとなった作品がKanye Westの『Yeezus』であることにはあまり触れないでおこう）。しかし、彼らはせわしなく活動し続ける。だからこそ、UNOの音楽を聴き逃すことはできないのだ。

18. Morphine Records

数年間目立った動きのなかったRabih Beainiのレーベルは、2012年から再び勢いを取り戻した。Morphineが本格的に花開いたのは今年であり、アメリカ人アウトサイダーのMetaspliceやContainer、そして12月にはMadteoによるサプライズ作品を発表している。しかし、Morphineの今年1番の功績は、フィラデルフィアのシンセ・マニアCharles Cohenの難解なアルバムをリリースしたことだろう。収録曲である"Dance Of The Spiritcatchers"は後にMorphosis自身によるリミックスも発表されるなど、同アルバムを含む3枚の回顧的なアルバムは既にクラシックとなりつつある。

17. Innervisions

近年の人気ダンスミュージックには、オーバーサイズで興奮しきったような音楽が多く見られる。しかしInnervisionsは、これまで通りに活発な動きを見せているが、より繊細なサウンドに傾倒していった。今年彼らが発表した楽曲、例えばTen Wallsの「Gotham」やAgoriaの「Scala」は、誰もがクラブのフロアで一度は耳にし、踊ったのではないだろうか。ダンス向きであると同時にディープでもあるこれらのトラックは、ピークタイムを過ぎた時間でもクラウドを踊らせ続けることができる。

16. R&S Records

R&Sは、レーベルを再開して以来驚異的な数のレコードを発表し続けている。革新的なA&Rポリシーと多忙なリリーススケジュールからも分かるように、新たなアーティストと契約する度にレーベルはますます視野を広げている。2013年は、ドラムンベース(dBridge)やハードコアに影響を受けたベースミュージック(Tessela)、インダストリアルテクノ (Paula Temple) 、そしてステッピングエレクトロニカ(Alex Smoke)の作品に加え、レーベルの設立30周年を迎えたコンピレーションを発表し、我々はその歴史の長さを改めて感じさせられた。

15. PAN

PANのアーティスト達の間に見られる唯一の共通点は、他とは違う音楽を作りたいという野心のみである。今年、レーベルボスのBill KouligasはRashad Beckerに声をかけソロアルバムを出したほか、Helena HauffやF#x（Rashad Becker名義）、そしてRegisとRussell Haswellのプロジェクト Concrete Fenceなどによる素晴らしいレコードの数々を発表した。しかしKouligasは、とっておきの作品を年末に残していたようだ。PANにとって2013年最後のリリースは、ダンスシーンの奇才、HeatsickとNHK'Koyxenによる新作だ。

14. Warp Records

新旧アーティストの作品を発表したWarpにとって、2013年はここ数年で最高の1年だった。Oneohtrix Point Neverの傑作アルバム『R Plus Seven』や、誰もが待ちわびていたBoards Of Canadaの復活アルバムを発表し世間を賑わせた。更に、Jamie LidellやAutechre、Mount Kimbie、そしてGrizzly BearらによるLPをリリースし、老舗レーベルである彼らは今も昔も変わらずに冒険的であることを世に知らしめた。

13. Acido Records

2013年、Acido Recordsは4枚のEPをリリースした。彼らが名の知れたアーティストをフィーチャーすることはなく、プロモーション作品の制作を受け付けることもない。DJフレンドリーと言うわけではないが、彼らはヴァイナルのみで作品をリリースしている。では、なぜAcidoがここにランクインしたのか？それは彼らのレコードが素晴らしく、功名でアブストラクト、そして他の誰にも真似できないようなサウンドだからだ。このご時世でも、たったそれだけの理由で十分なことだってあるのだ。

12. Opal Tapes

ミドルズブラ拠点のOpal Tapesの作品は小難しいものが多いが、2013年は彼らの音楽がたくさんの人の耳に届いたようだ。Ptriciaによるフロア向きの『Body Issues』や、OOBEの幻惑的でスロウテンポなトランス作品をはじめとし、新鋭アーティスト達によるノイズやテクノ、アンビエントを縦断したようなカセット作品達を数多く発表した同レーベルは、2013年最もエキサイティングなレーベルの1つとなった。

11. Pampa Records

このレーベルはいつでも斬新さを保っているが、Pampaの音楽を聴くといつだってノスタルジックな気分になる。今年発表されたレコードを見てみると、IsoléeのEPや、レーベルボスであるDJ Kozeによるヒットアルバム、そしてEfdeminとMatthew Herbertによる同アルバムのリミックス盤などが挙げられる。様々なアーティストが同レーベルから作品を発表しているが、彼らのような昔馴染みのアーティスト達を超える存在はなかなか現れない。

10. Rvng Intl.

RVNG主宰のMatt Werthは、アルバムプロジェクトに惜しみなく時間を費やす。2013年には、Stellar OM Sourceによる万華鏡のようなテクノ作品や、Max Dの「House Of Woo」（そして彼の最新ミックステープ作品も同様に）など、数々のハイライト作品が世に送り出された。また、Fardlandの強烈なデビュー作や、Blondesによる傑作LP、さらにニューヨークのアヴァンギャルド・パーカッショニストDavid Can TieghemによるFRKWYSシリーズの最新作などが発表された。

09. Spectrum Spools

アメリカのエクスペリメンタル・アンダーグラウンドシーンにおける近年の大きな波は多くの素晴らしい産物を生み出してきたが、それを代表するのがEditions MegoのサブレーベルであるSpectrum Spoolsだ。オハイオを拠点とするこのレーベルは2013年、数枚のレコードを発表しただけにも関わらず、それらの作品は大きな話題を集めた。Unicorn Hard-Onの「Weird Universe」や、Donato Dozzyの「Plays Bee Mask」などエキゾティックな名曲の存在を無視することは不可能だろう。

08. The Corner

我々が今年4月にAnthony Parasoleにインタビューを行った時、彼はThe Cornerがテクノという範疇に納まるものではないと主張した。ところが2013年にこのレーベルから発表された作品は、今年1番と言っていい程ハードでドス黒いクラブトラックの数々で、巨大なナイトクラブ以外の場所でプレイされることは想像し難いかもしれない。しかし、例えあなたが毎週末何千人もの観客の前にプレイする人間でなくとも、Fred Pの捻りの効いたEPを含むThe Cornerの傑作レコードの数々を欲することだろう。

07. Tri Angle

Tri Angle Recordsは、2010年の設立以来レーベルに付き纏っていたトレンディなイメージを払拭するのに成功した。同レーベルはもっと評価されるべきだし、彼らは簡単にはカテゴライズされないようなアーティスト達と関わり続けてきた。今年はUKのアーティストForest SwordsとThe Haxan Cloakによる2枚の傑作アルバムのほか、ドラムンベース・エクスペリメンタリストFisによるブレイクスルーEPを発表している。

06. The Trilogy Tapes

Will Bankheadが2012年に設立したTrilogy Tapesはこれまでカセットのみで作品をリリースしていたが、今年はヴァイナルでのリリースに踏み切った。Bankheadはハウスやテクノの先を示唆するテイストを持っており、Anthony NaplesやTuff Sherm、_moonrakerなどといったアンダーグラウンドシーンの奇才による作品を世に送り出している。Will Bankhead本人はひたすら裏側の人間として活動し、アーティストのサポートや素晴らしいスリーブのデザインなどでレーベルのイメージ形成に尽力している。

05. Keysound Recordings

Martin ClarkのKeysoundはダブステップの最盛期を経たロンドンのクラブミュージックにおける「隙間」を探し続けていたレーベルだが、大胆なアプローチを誇る若手アーティストを新たに加えることでまたそのひとつのピークを迎えることになった。グライムを分解したかのような手法が際立つLogosのアルバム『Cold Mission』や、E.m.m.aの色鮮やかなビート、そしてEtchやWenのザラついたトラック群などにより、Keysoundは今年も好調を維持することになった。

04. Hyperdub

Hyperdubは今年も持ち味である「進化」を続けた。今年は新人を1人（Terror Danjah & Championを加えると2組）加えただけだが、IkonikaのニューアルバムやLaurel Haloの素晴らしいテクノなどがこのレーベルを更なる領域へ押し広げ、また新人DJ Rashadの強烈なEP2枚と過去最高のフットワークアルバムのリリースにより、Hyperdubの世界的な評価は着実に高まり続けた。

03. Houndstooth

Rob BoothはfabricのニューレーベルであるHoundstoothを立ち上げるにあたり、「新鮮で挑戦的なレーベルにする」という明確なビジョンを持っていた。その後11カ月が経ち、14枚のリリースを重ねたHoundstoothはそのビジョンを具現化させることに成功したと言って良いだろう。今年1年の活動すべてがハイライトと言えるが、特に最近リリースされたSpecial RequestとAkkordのアルバム、そしてCall Superの2枚のEPはワンランク上の快作に仕上がっている。革新を貪欲に追い求めるその姿勢で、Houndstoothはこの先も長期に渡り傑出した存在であり続けるだろう。

02. L.I.E.S.

「2013年の12月にまだ人気があるかだな。分かるだろ？」－昨年L.I.E.Sが1位に輝いた後にRon Morelliはこう言ったが、Morelli率いる2013年のL.I.E.Sは29枚をリリースした。その多くは奇妙で悲しく、作品によっては聴くのが辛いと感じるものもあった。しかし、そのすべてが特筆すべきクオリティであり、挑戦的なオリジナリティを誇っている。

01. Livity Sound

Livity Soundの特徴はその厳格な姿勢にある。1年にわずか数枚しかリリースしない彼らは、数よりも根気を好み、またその作品は最低限の情報しか発表されないミニマルなスタイルでリリースされる。Peverelist、Asusu、Kowtonが生み出すサウンドはディープなベースラインと形だけのトライバルなドラムという骨格だけのビートで構成されており、非常に今っぽいテクノ的な趣を持つが、そのアプローチには独特のタイムレスな響きがある。

尚、この3人はそれぞれ独自のサウンドを提供しており、Peverelistがダブ的なサウンドを、Kowtonが様々な要素散りばめらたパレット的なサウンドを、そしてAsusuが4つ打ち的なサウンドを担当している。彼らにとって2013年は今までで一番アクティブな年となり、4枚のシングルと、新曲が4曲収録された2枚のコンピレーションがリリースされた。このコンピレーションはハイプもギミックも感じられない魅力的なトラックが楽しめる2時間となっているが、これこそが彼らが今年1位に輝いた理由と言えるだろう。そう、彼らは酷い作品を1枚もリリースしていないのだ。