Matt Werthは2002年からニューヨークで暮らしており、音楽とアートの異種交配によって生まれているこの街の豊かな歴史に対し非常に意識的だ。彼のこの姿勢は、60年代、70年代のダウンタウンのシーンの名残だろう。その頃の芸術家はアートに関わっていたミュージシャンや音楽を好み、当時は、ダンス、詩、映画、文学、音楽、全ての分野のものが1つのクリエイティブなスープのように混ざり合っていた。10年もの間、RVNG Intlを運営しているWerthは、自身がインスピレーションを受けたキーとなるものの1つとして、Lovely Music Ltdを挙げている。40年近くに及び、そうしたクリエイティブな要素が混ざり合う拠点であり続けている前衛レーベルだ。

鋭く知的でありながら気楽な雰囲気を持つWerthの人間性は、自身のレーベルにおける難解な方向性とは相対するように思える。スタイリッシュなシャギーのヘアスタイルでゆったりとした口調で話すWerth。アーカンソー州のリトルロックで思春期を過ごした彼は、ハードコアなミニコミ誌を収集したり、ドラッギーなサイケバンドでベースをプレイしていた。彼の指揮のもとRVNGは進化を遂げ、レーベルにはMaxmillion Dunbarによる恍惚とした煙たいハウス・ミュージックから、Julianna BarwickとIkue Moriによるアブストラクトな実験音楽までもが共存し、Julia Holterによるエレガントな音色がStellar OM Sourceによる荒々しいテクノと一緒にレーベルという場を分かち合っている。バックカタログを眺めてみれば、ディスコ・トラックの次にパンクやエクスペリメンタル・ロックが続いていることに気付くだろう。

RVNGを現代におけるLovely Music啓蒙レーベルとして考えてみることが出来るかもしれない。主に音楽をリリースするための手段ではあるものの、このレーベルは直接的、そして間接的な方法でアートの世界へ進出している。前者の例としては、マンハッタンのギャラリーWhite ColumnsでのJulianna BarwickとIkue Moriによるライブをアルバムとしてレコーディングしている。一方後者では、一貫して用いられている印象的なスリーブ・デザインや、映像作品にも力を入れていることなどが挙げられる。

Lovely Musicはミニマル・ミュージックや実験音楽の重鎮たちのホームとなっていたレーベルだった。その中にはSteve ReichからJohn Cage、Pauline Oliveros、Peter Gordon、そしてPhilip Glassまでもが含まれる。「彼らが発表するものは冒険的だっただけではなく、音楽家たちが循環するシーンにしっかりと根ざしたものでもあって、僕が素晴らしいと思っているのは、その点なんです」とWerthは話す。「レーベルのカタログを見れば、異種交配が行われてることが分かります。とても素晴らしく魅力的ですし、異なる音楽家がコラボレーションし、互いの才能によってレーベルに貢献している他、自分達のネットワークに根ざしながら完璧に混ざり合い、創造的で生産的な音楽カタログとなっています。僕にとって、このレーベルはニューヨークにおけるアートと音楽の世界が1つになっている見事な例として捉えています。」

Werthが最初にアートの世界と関わりを持ったのはKevin O'Neillだ。彼はニューヨークのアーティストであり、今日までRVNGのリリースのアートワークを手がけている。「彼はモダン・アートに対する自分自身のアイデアとコンセプトを持っていて本当に革新的な人です」とWerthは語る。「Kevinや、White ColumnsギャラリーのMatthew Higgsのような人たちを通じて、信じられないような素晴らしい芸術との関わりを深める機会を得ることが出来ているのだと思います。"アートと音楽の間に存在する扉"が閉ざされているときが実際にはありましたが、今では、その2つの間にある文脈で行われるコラボレーションを行うのに、とても適しているときだと感じています。ニューヨークにいると、驚くほど才能のある人や様々な形で実験を行っているアーティストをあちこちで見かけることが出来ますよ。」

RVNGにおけるA&Rのアプローチは、多少なりともWerthの友達の輪から薦められたものから発展している。「僕の友人は最高です。みんな、とても良いセンスをしています。新しい音楽へと導いてくれるような人たちに囲まれているんです。僕は音楽の話が本当に好き過ぎて、音楽のことになると不快に感じられてしまうほど話し込んでしまうんです。どんなに別の話していても、新しい音楽については話題の1つになりますね。」

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イタリアのプログレッシブの雄、Sensations Fixや、シンセサイザーの探求者であるHarald Grosskopfらの作品を再発したアーカイブ的なプロジェクトのような例外を除き、通常のRVNGのリリースを見つけるのに、レコード探索の労力はそれほど必要ないものだと彼は話す。「これまでやってきたアーカイブ作品でさえ、そうした会話から生まれたものだと言えます」とWerthは加える。「アーカイブ作品は会話から進化したものです。会話の中で何かが僕の耳を刺激したなら、僕はさらにそれを追い求めるようになるでしょうから。」

Werthの姿勢はとても謙虚だ。そのため、RVNGの全リリースに注がれている努力は大したことではないように思うかもしれない。徹底的なキュレーション性とレーベルの管理業務に加えて、彼はレーベルのプレス･リリースのほとんどを自分で書いている。実際のところ、それをプレス･リリースと呼ぶのでは足りないかもしれない。なぜならそれはエッセイのようであり、ラブレターのようでもあるからだ。彼の熱意が一つ一つの言葉に注がれ、たとえ奇妙なプロジェクトであったとしても、それを読む人たちに作品について考えることを促している。

RVNGの音楽観はニューヨークの過去と現在を紡いでいるものだが、その起源はニューヨークから100マイル南下したフィラデルフィアにある。Werthはアーカンソー州のリトルロックにある実家からこの街へと引っ越し、90年代後期にジャーナリズムを学んでいる。「サイケデリック・バンドでプレイしながら、本当に馬鹿げた音楽を作っていましたね」とWerthは回想する。「フィラデルフィアには、音楽という漠然としたものを全てひとまとめにしてしまうような風潮がありました。僕はそこからたくさんのことを吸収し、意識が拡張していくような音楽を体験してきました。フィラデルフィアは1つの共同体のような街であり、エレクトロニックミュージックとクロスオーバーするカルチャーもたくさんありました。2つの異なるタイプの音楽カルチャーが互いに連携し合って発展していったのです。」

1998年頃、フィラデルフィアにてWerthはDavid Piankaと出会っている。2人はPiankaが主宰していたパーティーMaking Timeを大きくしていく方法を探し始めたのだが、パーティー名をRVNGと改め、そのパーティーをプロモーションしていく手段としてミックスCDの制作を開始したのだった。「Daveは僕よりも素晴らしいパーティーメイカーです。彼は僕よりも深い時間までスタミナが持ちますからね。なので、彼はイベント制作を継続したのですが、一方、僕はレーベル面でRVNGを展開させていきたいと強く思っていました。」

WerthとPiankaはミックスCDを制作し続け、2005年には、画期的なミックスとなったTim Sweeneyによる『Rvng Prsnts Mx 3』がリリースされた。クラシックなUSパンクやハードコアに対する愛に満ち溢れたJD Twitch（Optimo）のミックスや、Mike SimonettiとDan SelzerによるCrazy Rhythmsのミックスがそれに続いている。さらにアナログ盤でのエディット・シリーズ「Rvng Of The Nrds」もリリースされ、Lovefingers、Pilooski、Greg Wilson、そしてJacques Renaultによるディスコがかった、ひねりの効いたトラックが2006年から2010年の間に発表されている。時が経つにつれ、RVNGはWerthのものだと考えたPiankaは別のことをやるためにRVNGを去っていった。

RVNGの進化は続いた。世代を超えたコラボレーションという野心に満ちたシリーズ、FRKWYSは現在も続いており、若いアーティストと上の世代のアーティストをつなげている。FRKWYSの発足と時を同じくして、Werthは前衛音楽にさらなる興味を持つようになる。ダンス･フロアの境界線の先に行きながらも、ダンスの要素を完全に放棄するようなことのない音楽だ。「数名のアンダーグラウンドなアーティストと一緒に仕事をしたいと思っていました」と彼は語る。「クラブから遠ざかり、DIYの領域に踏み込んだんです。それはニューヨークのアンダーグラウンドの隅っこにあるような領域でした。」

FRKWYSの最初のリリースでは、レフトフィールド・ミュージックのアイコンであるChris & CoseyとJG Thirwellが、ニューヨークのバンドExcepterをリミックスしている。「Chris & Coseyとの会話はとても素敵なものでした。彼らこの作品を記念碑的なものにしようとしていることが、ハッキリとしましたからね」とWerthは回想する。「彼らがリミックスを送ってきたとき、ただただ、そのクオリティに喜びました。そして思ったんです、"もっとやってみるのはどうだろう？"って。」

以降のFRKWYSのLPでは、Laurel Halo、Daniel Lopatin、James Ferraro、そしてDavid Bordenと共に制作しているSam Godinの4人を迎えたシンセ・オタクな内容のものから、伝説的レゲエ・グループであるThe Congosとパートナーを組んだSun Araw、実験音楽家として崇拝されているAnthony Mooreと共同制作したArpなどを発表している。「僕がやってみたいと考えている組み合わせから動き始めるのが通常です」とWerthが語る。「僕はきっかけを作るだけ。そして、それによってアーティスト同士が共鳴した場合に、続行することにしています。」

2010年、RVNGはPink Skullによるアルバム『Endless Bummer』をリリースしている。いまだにレーベルにおける最も過酷なアート/音楽プロジェクトとなっているこの作品では、WerthとO'Neillは、1つ1つ手作業で1000個の異なる"Bummer / 嫌悪感のするもの"をプレスしている。"腐ったキャット・フード"、"足菌腫（水虫のような足の病気）"、"核戦争"などがレコード・スリーブに押されている。「このコンセプトには、いくつかの異なるアイデアが折り重なっているんです」と彼は話す。「というのは、このアルバムは『Endless Bummer』という名前なので、僕たちは嫌な気持ちになる1000個のことを考えました。その目的というのは、僕たちが延々とそのアイデアをスリーブに押し付けていくことになる、ということです。『Endless Bummer』のコンセプトが、この過程にも当てはまっているのです。333枚目をやる頃には、その作業を終わりにしたいと本当に思いましたが、それは出来ませんでした。"Bummer"というコンセプトに従わなければならなかったからです。」

この2年間、Werthは、BlondesやJulia Holter、Holly Herndonといった才能を立て続けに紹介してきている他、昨年には、レーベルは4枚の傑作アルバムをリリースしている。Maxmillion Dumbarによる『House Of Woo』は、この世の問題を全て溶かし去るような楽観的な作品であり、その後にリリースされたSteller Om Source『Joy One Mile』では、Christelle Gualdiのルーツであるコズミックから遊び心に溢れたデトロイト・テクノへと移行する新たな方向性を提示している。GardlandとBlondesのLPは、ファンクの要素が十分に注入された突出した仕上がりで、共に息遣いが聞こえるほどの活き活きとしたダンス・ミュージック作品となっている。

その全ては、今までで間違いなく最も力強い1年をレーベルが迎えることへと、結実する。これまでの各アルバムには、クラブ仕様のトラックが収録されていたが、フロアとの関係をもっと深くつなぎとめているものがある。緩やかにではあるが、Werthが"脳のダンス・サウンド"と定義するものだ。彼は加える。「形式上、アーティストを次々と入れ替えることや、時としてお互い全く相容れないもの同士だったこともありました。しかし、こうした深く瞑想しているようなダンス･ミュージック作品に対してであったり、ダンス･ミュージックの解釈をしていく上で、それぞれアーティストは貢献し合っているのです」。そうした音楽、そして、RVNGの名の下に発表される全てのものをつなぎ合わせるために機能している存在こそ、ニューヨークが誇る伝統を継承し、音楽話が大好きなアーカンソー出身の男、Werthなのだ。