ダブステップ、グライム、ガラージ、UKファンキーなど、ベース・ミュージックと呼ばれる音楽を考えると、どうしてもロンドンの街並をイメージしてしまう。だがどうやら、パリの行政区もこういったサウンドの豊かな土壌になっているようだ。フランスの首都のイメージを変えているFrench Fries、Coni、Bambounouといった若きプロデューサー達は、同市のディープ・ハウスやテクノ（そしてEd Bangerスタイルのエレクトロ）のプロデューサー達とは距離を置いた音楽性のシーンを形成しているが、そういったスタイルを拒絶しているわけではなく、彼らは周辺のあらゆるスタイルを取り入れ、アーバンで、タフで、紛れも無くフランス人らしいサウンドを創出している。

そういったアーティスト達は全員、ClekClekBoomに所属している。このレーベルは去年、『Paris Club Music Vol. 1』というコンピレーションを出しており、これは、現在勢いを増しているこのシーンを定義づける作品となった。レーベルの過去作品と新曲が収録されているこのコンピには、シカゴ・ハウスのサウンドやテクノの鋭利さ、ダブステップやUKファンキーのスウィング感などを取り入れた、分類が困難なベース・ミュージックのトラックが収録されており、DJが上手く活用すればフロアの起爆剤として機能するものばかりだ。

Sound PellegrinoやBromanceといったレーベルと並んで、ClekClekBoomはフランス人アーティストの新世代の象徴として現在とても注目を集めている。彼らは自分たちの音楽を、「パリ・クラブ・ミュージック」というとても幅広いタームで表現する。もともとフランスのダンス・ミュージック界のベテラン、Ministre XとBooが立ち上げたこのレーベルは、ただロンドンのトレンドに追従するのではなく、パリと世界のベース・ミュージック界に自分たちの居場所をしっかりと作り出したのだ。

パリのClekClekBoom本部とビデオチャットを開始すると、画面の向こうに現れたのは、素晴らしいレコードコレクションをバックに座った主宰者の3人であった。彼らのオフィスはレーベルのMy Love Is Underground、そしてパリの主要プロモーターの2つ、SonotownとLa Machine Du Moulin Rougeのオフィスのお向かいにある。

太ぶち眼鏡にくしゃくしゃなシャツ、そしてスナップバックという格好のMinistre XことJonathan Chaoulは、大人になったヒップホップ・ヘッド、といった風貌だ。彼のパートナー、BooことAdrien Creuseは、シンプルなブラックのジャンパーを着ている。3人目はFrench FriesことValentino Moraであり、彼は他の2人の15歳ほど歳下に見える。一見して、この3人が友人だとは思わないだろうし、ましてや共にレーベルを運営しているとは想像もしなかっただろうが、ここ5年間ほどパリのアンダーグラウンドから出て来ていた音楽の中の、最もエキサイティングな作品群は、この多様な3人衆が関わっていたのだ。

MoraがClekClekBoomに参加したのは最近のことだが、彼という存在が加入したおかげで、ChaoulとCreuseはようやくエンジンを始動させることができたと言う。Chaoulがプロデュースしたブラジリアン・ヒップホップのトラックのサビから名前をとっているClekClekBoomは、2007年にパリのバイリ・ファンキDJ、Sandrinhoの音楽を広めるためのオンライン・プラットフォームとして立ち上げられた。彼のマネージメントをしていたChaoulは、彼のレコードをリリースしてくれるレーベルを見つけることができず、Creuseとタッグを組み、自分たちでサイトを立ち上げた。

Chaoulが言うには、ClekClekBoomは元々レーベルというよりはブランドであり、特定のリリーススケジュールは設定せずに、音楽をネット上で配信していた。これは、近年のアナログ・ブームの再燃の前であったため、アナログを切る必要性を彼らは感じていなかった。そのうち無名のフランス人アーティストを引き入れるようになり、彼らは徐々に拡大していった。その中の１人が、French Friesだったのである。

「彼はまだ14、15歳ぐらいだったんだけど、彼の作品にはエネルギッシュなヴァイブスがあったんだ」と、Chaoulは言った。

Chaoulはとなりに住んでいるMoraという少年がヒップホップや音楽に強い関心を持っていることを知ると、Chaoulの部屋でタンテを触らせてあげ、そのうち２人は仲良くなっていった。「俺はもともとヒップホップとかダンスホールとかが好きだったんだ」と、Moraは言う。「2人にエレクトロニック・ミュージックのことを教えてもらった。シカゴ・ハウスとかニューヨーク、ボルチモアとか。その頃は何も考えずに色んなジャンルをミックスしていたんだ」

2010年にYounGunZ Entertainmentがリリースした彼の「Arma」など、彼の初期の作品は騒がしいながらもしなやかであり、トラップが流行る前にヒップホップとベース・ミュージックを融合していた。ロンドンに頻繁に行っていたため、彼のサウンドには間違い無くロンドンの影響が見受けられた。Moraがプロデューサーとしてどんどん成長し、ヴァイナル市場も活気を取り戻した頃、ClekClekBoomはフィジカルリリースに手を出すことになった。

「アナログを出すことに関して心配はなかった」と、Chaoulは語る。「しかし、俺たちはどうやって手配するか、どこでマスタリングしてもらって、どうやって良いものを作るか、そういったことを気にしていた。信頼できるパートナーを探していたんだ」

そして彼らは、UKのディストリビューター、ST Holdings（Hessle Audio、Critical Music、Hemlockなど、UKのビッグなベースミュージック・レーベルのホームでもある）をパートナーに選び、ジャケットのアートワークからリリース頻度、マーケティング方法まで、レーベルのイメージに繋がるものをほぼ全て自分たちでコントロールした。リリース第一弾となったのが、French Friesの12 インチ、「Champagne / Hugz」であり、この作品はうねるサブベースとダーティーなヴォーカルサンプルが印象的な、ダブステップとゲットーテックを組み合わせたものになった。この乱暴な視点でありながら、贅沢な音作りのリリースがレーベルのカラーを設定し、その後リリースされたConiのスムーズなハウス作、"Luz In Pool"や、The Townの躍動的なUKファンキー、"The Movement"といったリリースも、まったく異なる角度ながら、同じくハイブリッドなヴァイブスを醸していた。

このレーベルの独創性は音楽的な面だけではない。これら初期の12インチ・リリースは、エレガントで非常にモダンな幾何学的デザインが施されたスリーヴに収まっていた。黒いバックに白い線で統一されたこれらのデザインは、そのシャープなラインが洗練された音楽性を表しているだけでなく、いかにCreuse、Chaoul、 Moraの3人がレーベル運営に対して本気だったのかを象徴している。「音楽に合っていて、時間が経っても時代性を感じさせないものにしたかったんだ」と、Chaoulは語る。「別段ちゃんとしたコンセプトがあった訳ではないんだ。ただ、何かシンプルなものにしたかった」

「何か古典的で、なおかつインパクトのあるものが良かった」と、アートワークをプロデュースするCreuseが付け加える。「リサーチする中で、不可能図形（視覚トリック）というものを発見した。目の錯覚を利用したデザインなんだ。特に最初の4枚のレコードがそうだ。一見シンプルなんだが、じっくりデザインを見ていると何かがおかしいことがわかる。音楽にも通ずるものがあると感じたんだ」

細部にまで気を配った、この全体論的アプローチこそが、彼らのレーベル運営に対する姿勢の感心せずにはいられない所だ。パリのシーンの中でClekClekBoomは独自の軸を中心に回転しており、そこには素晴らしいレコードレーベルには大抵見受けられる、一体感のあるファミリー精神がある。所属プロデューサーはそれぞれ特有の視点でベース・ミュージックを展開しているかもしれないが、彼らの間には共通する何か——アティチュード——があるのだ。

「第一に、ClekClekBoomの皆は友達なんだ」と、Creuseは説明する。「大きなファミリーみたいな感覚さ。いつも一緒につるんでる。皆同じではないし、それぞれ違った背景を持ってる。しかし皆を繋げているリンクはあるんだ」

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「今頃、このインタビューをやっている間も、皆音楽を作っているだろうね」と、Moraは言う。「所属してるプロデューサーの誰かが新曲を持って来ると、皆聴きたがるんだ。そしてそれに触発されて、皆なにか作りたくなる。とても仲がいいんだ」

「ClekClekBoomには色々な人が所属している。20歳の人もいれば、学生もいる」と、Chaoul。「お互い刺激しあっていて、お互いから学びあっているんだ」

「いつもお互いを驚かせようとしてるね」と、Creuseは言う。

「競い合ってるわけではないが……お互いシェアするんだ。そういうものなんだ」と、Chaoulが言った。

ClekClekBoomはとてもローカルなクルーだ。ニュージーランド出身のChaos In The CBD以外、所属アクトは全員パリ在住であり、この街を誇りに思っている。「ベルリンに興味はあるんだ」と、Chaoulは語る。「しかし俺はドイツ人ではないし、アメリカ人でもない。ClekClekBoomで俺たちは、パリに自分たちの世界を作り出したんだ。スタジオもあるし、オフィスもある。友人たちを招いて、同じオフィスで仕事している。他との違いは……」と、彼は一瞬考えてから、続ける。「友情が第一にあるから、だと思う。だから音に統一感があると思うんだ。デザインも何もかも、そうだ。共産主義みたいな感じだ。その言葉は語弊があるかもしれないけど、とにかくファミリーなんだ」

『Paris Club Music Vol. 1』をリリースして以来、ClekClekBoomは常に新しいアーティストを発掘しており、若手のAleqs Notalや有望なデュオNSDOSと新しく契約し、ChaoulとMattias MimounのAethority名義の12インチをリリースした。現在のスリーヴのアートワークはアーティスト達の未来的なポートレートであり、初期作品とは違った趣向になっているが、同様にインパクトのあるデザインだ。だが現在までのリリース作品の中で、ひと際異彩を放っているのが、French Friesのファースト・アルバム『Kepler』だ。これは、クラブでの機能性を重視した今までの作品から大きく一歩離れた、宇宙がテーマの作品だ。ClekClekBoomにとってこの作品は、Night SlugsにとってのJam Cityの『Classical Curves』、あるいはKeysoundにとってのLogosの『Cold Mission』のような、重要作品となった。

「俺にとって、アルバムの価値はクラブでの機能性と何も関係無いんだ」と、Moraは言う。「だからそのことについては心配してない。だが、このアルバムはとてもパーソナルな内容だから、それが気がかりだ。5ヶ月間、俺が１人でスタジオにこもった結果できあがった作品だ。誰とも会話しなかった。非常に奇妙な期間だったよ。頭の中でSFのストーリーを描いて、全ての章に対して音楽を作った。人々はこのストーリーを知る事はないだろうけど。夢みたいなものさ。夢は自分だけが見るストーリーで、夢であったことを全て人に伝える必要はない。奇妙すぎて、パーソナルすぎるからだ」

『Kepler』はそれまでのClekClekBoom作品のどれとも異なった音楽性を有しているが、バラバラの音楽ジャンルの点と点を結び、新しく、特有な方法で方向性を見出して来た野心的なこのレーベルだからこそ作り出す事ができた作品であることに、疑う余地は無い。彼らがリリースしてきた他のレコード同様に、このアルバムには決してやり過ぎ感も、無理矢理やった感も、無い。カテゴリー、ジャンル、トレンドといったものを意識せずに、試行錯誤を繰り返す課程で、自然とサウンドが融合されていった結果なのだ。

「レーベルとして登場してから2年経った今」と、Moraは語る。「俺たちは色々な人に、こう訊かれるんだ。“どういう音楽を作るんだ？テクノ、UKベース、UKファンキー、フレンチ・ハウス？”ってね。そういう風に言われるのが嫌だから、俺たちはこう言うんだ。“そんなのファックだぜ。俺たちはパリ・クラブ・ミュージックを作ってるんだ！”」

ClekClekBoom

レーベルのボス達による、ClekClekBoomの広範囲に及ぶ音楽性をまとめたミックス。ハウスやアシッド、バウンシーなガラージなど、様々なトラックが並ぶ中、要所要所にFrench Friesの『Kepler』の曲がちりばめられている。

Download: RA Label of the Month 1402 Mix: ClekClekBoom
(right click + save target as)
Filesize: 160 MB
Length: 01:06:45
Tracklist
French Fries - Trying To Understand Curiosity
Manaré - Automat
French Fries - Change The Past
Barbara Ford - Frostbite Alternate Version Var 7.
Aleqs Notal - Informal Utility
Chaos In The CBD - Trial Rider
Aethority - Untitled
Coni - The Opposit
Aleqs Notal - Ancient Theory
NSDOS - Meridien S-Dos
French Fries - Bug Noticed
Jean Nipon - Untitled Girl
Coni - Flip
French Fries - This Kind Of Setup
NSDOS - Tropical Data
Coni - Exit To Comfort Zone