LeifことLeif KnowlesとJoe Ellisの2人が運営するレーベル、UntilMyHeartStopsには、どこか嘘偽りの無い誠実さが感じられる。彼らがリリースするレコードは、基本的には、DJ向けの4つ打ちのダンスミュージックだが、パーティー向けとは言いがたい内容だ。大半はダークで抑制されており、アンビエントなサウンドが特徴的だ。どれもレフトフィールドな、超現実主義的なエッジが効いている作品だが、アヴァンギャルドなフリをしているものは無い。多くのレーベルが人に好まれ易い、あるいはフロアで機能する作品をリリースすることに専念する中、KnowlesとEllisは純粋に、レコードで持っておきたいと思った曲で、他の誰も出そうとしていないものをリリースしているだけなのだ。

「他のレーベルがピックアップしないような、ちょっとぎこちないものを出したいんだ」と、Ellisは語る。「レーベル名の案に、awkward silences（ぎこちない静寂）というのもあったんだが、それは、たしかもうとられていた」

UntilMyHeartStops (Ellisは"uhms"と呼んでいる)は、こういった異端なトラックへの愛情が原動力だ。「DJでどのように使っていいか解るまで2、3年かかるような曲って、何か魅力があると思うんだ」と、Ellisは言う。「何だか好きな曲なんだが、どう使っていいか解らなくてずっと放置しちゃうような。そしてある日、突然閃くんだ。そういったトラックが俺とLeifは好きだ。Leifは特に、こういったくせ者をプレイに混ぜるのが上手い。彼はどういうタイミングで何をするべきか、っていうことが凄く良く解っているし、ミックスの技術も素晴らしいから、大抵のDJが使えないような曲を効果的に挿入できてしまうんだ」。そして彼は少し恥ずかしそうに、こう付け足した。「今の、失礼じゃないと良いんだが」

UMHSのリリース第一弾は、とても自然な形で生まれた。KnowlesとEllisはあるアーティストのレコードがもっと欲しいと思い、そのアーティストのレコードを出すために自分たちでレーベルを始めるべきだと思いついたのだ。そのアーティストとは、Joey Andersonであった。

「当時、Joeyは数枚しかレコードを出してなかったんだ。俺たちは彼にメールを送って、彼の音楽がどれだけ好きか、そして彼の曲を出してもいいならレーベルを始めたいということを伝えたんだ」。こうして、2012年の6月に設立されたUMHSは、ダークでタフなEP「3200 B.C. House Dancer」をリリースした。EllisとKnowlesの予想通り、これはわざわざレーベルを立ち上げるに値する作品であった。「Joeyがやる気だったから、後押しされたんだ。UMHS003をやってくれたMatthew Wieckともその頃話をしていたんだけど、この頃全てが始まった。しかしJoeyのやる気がなかったら、1年後もまだ、やろうやろうって話をしているだけだっただろうね」

それ以降もKnowlesとEllisは、自分たちがもっとレコードを聴きたいと思っているアーティストのレコードを出す、というシンプルなアプローチをとった。それは時に友人(Juniper、October、Arnaldo)、また時にオンラインで見つけた人 (Area、Matthew Wieck)であった。「田舎のど真ん中に住んでることの利点は、オンラインで音楽を掘る時間がたっぷりある、ということだ。1日の半分をDiscogで新しい音楽を探して過ごすような生活を送っている。だから、これをポジティブなことにしようと思った。1、2枚しかレコードを出していない良いアーティストを見つけて、彼らの作品をもっと出してあげる。最初レーベルを始めた頃は、SoundCloudでフォロワーが100人以下の人の作品を出す、って決めてたんだ（笑）」

Ellisが「田舎のど真ん中」と言っているのは、UKのウェールズのことだ。田舎町の多いこの地で、彼とKnowlesは生まれ育った。「ウェールズは、土地は広いのに人口が少ないから、同じ考えを持った人と出会うことは比較的簡単なんだ」と、Ellisは言う。彼とKnowlesがエレクトロニック・ミュージックに出会ったローカル・ダンスミュージック・シーンは、知的なサウンドを育む環境であった。クラブやバーでのギグというものは皆無であり、基本的には小さなハウス・パーティーや内密の野外イベントが主で、オーディエンスの半分はDJであった。イベントは年に数回しか行われないため、DJ達はそれ以外の時間を、自身のプレイを磨く時間に充てた。「客を喜ばせるのは大変だったね」と、Ellisは言う。「悪いことじゃないんだ。皆テクノに詳しいから、フェイクなものは一切受け入れられない。大したことない曲をかけたら、すぐに反応で解るんだ」

当時（そして今も）、このウェールズのシーンのキーパーソンは、SteevioというドレッドロックのDJ／プロデューサー／モジュラー・シンセ・マニアだ。彼は奥さんのSuzybeeと共に、Freerotationというフェスを運営している。「Steevioがウェールズのシーンに来たとき、彼にはミステリアスなイメージがあった」と、Ellisは言う。「彼が丘の上でやっているパーティーの噂を良く聞いたよ。プロデューサーは自身のトラックを持って行って、DJにかけてもらえるんだ。彼と最初に会ったのは、ウェールズのどこかの森の野外イベントのサーカステントだった。ああいったパーティーはクレイジーだったね。俺はまだ17、18歳ぐらいだった。ウェールズのもう使用されていない電車のトンネルにサウンドシステムを持ちこんでイベントをやったり。長いトンネルをずっと歩いていくと、奥深くに巨大なレイヴが行われていたりするんだ」

KnowlesとEllisは2人ともDolgellauという町で育ち、同じ学校の出身だが、こういったパーティーを通して、2人は仲良くなった。テクノDJが圧倒的に多い中、彼らは、テクノ作品を多くかけていたにもかかわらず、良くハウスのテンポでDJをしていた。「初期のSurgeon、Svek、Jeff Millsとかを良くかけていたね。あとYoshitoshiとかUSのハウスとか。こういったものを、ピッチ−8にしたテクノレコードと一緒にかけていた。それが俺たちのスタンダードなセットだね」。それ以来、Knowles、EllisそしてEllisの弟Tomは一緒に音楽活動をするようになり、特にKnowlesとTom Ellisは、自分たちが運営するTrimsoundから共にトラックを何作もリリースした。3人は何年も共にDJギグを行い、2007年からFreerotationでレジデントを務めるようになった。

FreerotationはUMHSに近い信念を持っており、ウェールズのシーンのユニークさを体現している。Baskerville Hall Hotelで毎年行われる、600人規模の同フェスは、エレクトロニック・ミュージックのイベントでありながらも、ナイトクラブとは何の関わりも持っていないという珍しい特徴がある。ダンスフロアはカーペットの敷かれた宴会場であり、アウトドア・テントはテクノ・フェスよりも結婚披露宴のほうがお似合いだ。KnowlesとEllisが出て来たシーンのように、このイベントには気取らない、ちょっとオタク気質な人が多く訪れ、DJやプロデューサー率も高い。従来のフェスに存在する、パーティーを盛り上げなくてはいけないという義務感は意図的に排除されており、ディープで冒険的な音が好まれる。

現在では、UMHSとFreerotationの関わりは深い。KnowlesとEllisは毎年このフェスでDJしており、彼らのダークでアトモスフェリックなサウンドはイベントに不可欠になっている。UMHSで今までリリースしたことのあるアーティスト（特にAnderson、October、Juniper、Arnaldo）はFreerotationでも、DJや客として常連だ。

このフェスと、自身のレーベルMindtoursをとても慎重な姿勢で運営するSteevioは、UMHSに多大な影響を与えている。「Mindtoursのリリースには、3年のブランクがあったりするんだ。なぜなら、Steevioはこれだ、って思う作品しか出さないからだ」と、Ellisは言う。「彼は平気で1年ぐらいわざと曲をリリースしないでおいて、時間がたっても本当に好きかどうか試したりするんだ。そういった意味では、彼にとても影響を受けているね。間違いない曲じゃないとリリースしないんだ」

KnowlesとEllisのDIY精神溢れる運営スタイルは、この“物事を急かさずにやる”という信念に起因する。「矢継ぎ早にリリースするようなことはしたくないんだ」と、Ellisは言う。「だからディストリビューションも、スタンピングなんかも自分たちでやってる。ゆっくりとやりたいからなんだ。ディストリビューターと契約したら、今頃3、4作品ぐらい多くリリースしていただろうけど、それは良い事なのかどうかは解らない。ディストリビューターにリリースを急かされて、その時には好きだったけど、時間が経過してみたらそうでもなかった、みたいなトラックをリリースしてしまっていたかもしれないからね」

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彼らがこういった手作業を好むのには、もっと単純な理由もある。こういったプロセスを彼らは楽しんでいるのだ。「過去には、俺たちがトラックを選んで、後は全部やってくれるようなディストリビューションのオファーもあった。そうしたほうが楽なのは明らかだけど、自分たちでやる方が楽しいんだ」。盤のラベルに１つ１つスタンピングしていく作業はとてつもなく時間がかかるが、Ellisにとっては、現在ロンドンで暮らしているKnowlesと週末をロンドンで過ごす良い口実になっている。「達成感がすごいんだ」と、Knowlesは言う。「特にKristina、Phonica、Hard Waxといったレコード店に行って、自分たちでリリースしたレコードが壁に飾られてるのをみると……最高な気分だね」

Ellisにとっては、人々の耳にまだ届いていない音楽を見つけ、リリースするまでのキュレーションの一連の作業が、辞められない理由だと言う。「メールの受信箱にJoeyからトラックが届いていた瞬間とか、Areaがメッセージに返信して、トラックをリリースしても良いと言ってくれた時とか。ArnaldoやOctoberの時でもそうさ。トラックを聴いて、“これをレコードで欲しいな”って思ったのを、実際にレコードにしたときの気持ち。その興奮、そのワクワクが何ものにも代え難いんだ」

UntilMyHeartStopsミックス

ドリーミーなテクノと歪んだハウス、そして時たま顔を出すアンビエント。LeifとJoe Ellisによる1時間に及ぶこのミックスは、UntilMyHeartStopsのサウンドを象徴している。

Download: RA Label of the Month 1403 Mix: UntilMyHeartStops
(right click + save target as)
Filesize: 159.3 MB
Length: 01:09:36
Tracklist
D'Marc Cantu - I Want To Ride
Marcus Mixx - Without Makeup (Ron Hardy Mix)
Iueke - Tape 4.2
Tames - Vivid Elements
Hakim Murphy - BBQ Knobs
Edward - Crossie Pennt
Just One - Revolution
Leif - Effervescence
James Din - A4
Hakim Murphy - Hyperspace Gate
Cyan 341 - Coal Train
Fran Harnett - Seven Pearl
Terrence Dixon - Parkhurst
K Alexi - Dance With Me
Ian Pooley - Flatlet