Move Dの名でよく知られるDavid Moufangは、ハウスミュージック界でカルト的な人気を誇る存在だ。そして、その理由を理解するのは決して難儀なことではない。彼のDJスタイルは、遊び心に満ち溢れていると同時に非常に洗練されており、ハウスパーティーからフェスティバルに至るまで、どんな場面にもハマる。一方彼のプロダクションはというと、繊細かつ意識が持っていかれるようなサウンドで、シンセオタクやテクノマニア達の間で絶大な支持を得ている。また、Moufangはソロ活動のほか、故Pete Namlookとのユニットや、東京で開催されるRainbow Disco Clubへの出演を控えるJuju & JordashとのMagic Mountain Highなど、様々なコラボレーション・プロジェクトも行っている。2014年は、MoufangがMove Dとして活動してから20年目の節目の年だ。我々は、先日ベルリンを訪れた彼に会い、キャリアや彼に深く影響を与えたミュージシャンについて尋ねた。

*この記事はRAExchangeでの彼との会話を抜粋し文字に起こしました。

2014年はMove D 20周年の年ということで間違いないですか？

'93年頃にいくつか作品をリリースして、その後にホワイトレーベルで何枚か出している…もっと前のことかもしれないけど、それはMove D名義ではなかったね。Move D名義では'92年に他のプロデューサーと一緒に1枚リリースしたんだが、初めてクールな曲を発表できたのは1994年だった。だから20周年で合っているよ。ファーストアルバムを出したのも20年前だったね。

自分では、当時と今のMove Dとでは違うと思いますか？

いや、僕は思わないけど、周りはそう思っているかもね。でも、僕は昔と同じ人間だ。20年経った今も、同じ音楽が大好きだしね。いつになっても新しい音楽は気になるし、もしかしたら古い曲の好みは微妙に変わってきているかもしれないけど。90年代は、今よりブレイクビーツやテクノが好きだった。だけどハウスはいつだって僕の中にあったし、ミニマルテクノが台頭した時代、ハウスの存在はより重要だったんじゃないかと思っている。僕は当時、もっとエモーショナルな音楽が聴きたくて仕方がなかったんだ。テクノパーティーのダメなところは、DJが女の子達に十分気を使えていないところだと僕は思う。彼らは大体、男子向けのプレイをするからね。そういうパーティーはあまり好きじゃないんだ。例え音楽が少しハードだとしても、女の子達が盛り上がっていれば男達もハッピーだろうし、完璧だと思うんだよね。

Move DというDJに対する世間のイメージは、ワイワイと賑やかなハウスパーティーのヴァイブスがあるだろうと私は思います。しかし、過去数年のあなたのレコードを振り返ってみると、非常にスペーシーでチルアウト、サイケデリックな作品が多いですよね。

2足のワラジみたいなものかな。僕のプロダクションとDJは、全く方向性が違うから。

DJはサービス業。他の人に楽しい時間を過ごしてもらって、それでお金を貰っているんだ。皆を楽しませつつ、自分も馬鹿になりすぎない程度に楽しみたい。お客さんの為に心を込めてプレイすれば、彼らが普段聴かないような音楽でも皆ちゃんと消化してくれる。

作曲については、何でもかんでも他人の曲や他人の言うことを聞いているようじゃ、まずダメだ。僕は、クラブでのライブパフォーマンスはとてもリスキーだと思っている。危険にさらされることによって、それを聴いたお客さんに勘違いされてしまう可能性もある。ある素材を編成しなければならないからね。だからこそ、僕はMagic Mountain Highが大好きなんだ。このプロジェクトは、そういう危険を避けるようにして始まったものなんだ。例えばドラムロールだってまだ使っているし、それでダメだったら他の音を追加すればいい。まあそれは、始めたばかりで何をしたらいいか分からない頃にやっていた、安っぽいやり方なんだけどね。

プロデューサーとしてのあなたの志向は、Magic Mountain Highでやっているようなサイケデリックな音に寄ってきていますか？それとも、またクラブチューンを作ったりするのでしょうか？

クラブチューンはずっと大好きだよ。気に入った曲があった時は、それをクラブミュージックというよりも、良い音楽として捉えている。チェスの試合みたいなもので、とても厳しいけど、すごくスマートな部分もある。挑戦するにはいいなと思っているよ。でも、僕は自宅ではダンスミュージックやエレクトロニックミュージックを聴かないんだ。家に2台のターンテーブルを置いたことなんて今まで一度もないし、練習したこともない。レコードを買った時に聴くか、他のDJを聴きに行ったり、オンラインでミックスを聴くぐらい。でも、それもほとんどしないよ。もっと他のものからインスピレーションを受けるようにしている。

DJビジネスにうんざりしているっていうのがあるかもしれない。他人が何をかけているのかを知りたいとは思わないし、Beatportのトップ40なんてチェックしたこともない。僕が気に入る曲なんてあるわけないと思うから。だからずっと避けているし、そういう音楽に浸りすぎないようにしているんだ。素晴らしい曲はクラブ以外でもよく聴こえるだろうけど、基本的にはクラブ向けに作られた音楽であって、クラブこそがそういう音楽がかけられるべき場所だ。家じゃないだろ。僕は家ではもっと違う音楽を聴いている。Fela KutiやSerge Gainsbourgからインスピレーションを受けて、それを自分がやっているエレクトロニックミュージックに落とし込むんだ。Atom Heartの最新作や、他のスマートで現代的な曲もあまり聴かないね。そこら辺にだってネガティブな影響を受けかねないからね。もし聴くことがあるとしたら、素晴らしいミュージシャンと一緒にいる時。そういう時は、自分の原動力になるからね。そういう意味では、20年前はもっと色々やりやすかったかもしれない。当時は、テクノといえばSven VathスタイルかUKベーススタイルしかなかったけど、ジャンルはとても厳密に分かれていて、その後すぐ消えていったサブジャンルもたくさんあった。だから1994年当時、クールな音楽を作ることは僕にピッタリだと自分で思っていた。デトロイトっぽくもあり、もっとエレガントで、黒くソウルフル、かつ、少しトリッピーでアンビエント、リスニング向き、みたいな感じでね。

当時はすごくサウンドが新しかったし、だからこそ今も尚評価されているんじゃないかな。でも今は、前よりずっと大変な環境になってる。なんだって見つけられるし、どんな組み合わせを考えたって、誰かが先にやっていたりする。逆に、今何が起きているのかをしっかりチェックしていれば、あれこれやらなくても済む。Magic Mountain Highをやっているもう1つの理由、そして僕がMagic Mountain Highに対してこんなにワクワクしている理由は、他に同じことをやっている人がいないからさ。Liveやハードウェアなんかを使っていても、結局みんな既に完成しているトラックを、何が起こるかを完ぺきに理解した上で演奏しているだけだ。でも、僕たちがインプロをやっている時は何が起こるか分からない。たまにしばらく行き詰まってしまうことだってあるよ。でも、それが逆にオーディエンスを駆り立てることもある。彼らには、僕たちが行き詰まっている様子や、僕たちの表情が全部見えるんだ。みんなヤキモキしているが、そこからマジックが起きる瞬間がある。それは僕たち自身にとっても良いサプライズだし、もしお客さんが皆オープンマインドであれば、クラブでもすごくいい感じになる時がある。そういう瞬間が本当に好きで、ずっと求めていたものなんだ。なんていうか、既に完成しているものをリクリエイトする意味ってあまりないと思うんだよね。今でも、20年前でもそれは同じことだ。

あとは、少しやりすぎだなって思うものもある。すごく良いことではあるが、巨大なハイプに値するだけのことを彼らは本当にやっているのか疑問に思う時もある。僕は20年前から音楽をやっているから好きな部分はたくさんあるけど、同時に音楽は圧倒的な存在でもあるから。具体的な名前はここでは言えないけど… 35歳以上の人だったら誰のことを言っているかわかるかもね。

あまりクラブミュージックっぽくない曲を出して、それらを演奏する良い機会にも恵まれているあなたは、ある意味ラッキーだと思います。

それは最近のことだよ！さっきも言ったように、僕は今までずっと2つのことを並行してやってきた。90年代は、やっていることがもっと矛盾していたよ。あの頃は今よりずっとチルアウトな曲を作って、今よりずっとハードなDJをしていた。だから、僕をDJだと認識している人たちは僕のプロダクションを知らなかったし、その逆もあった。その頃に比べると今の僕はだいぶ分かりやすいんじゃないかな。WorkshopやUzuriから出しているレコードは自分のセットでもかけたりするし。すごく新鮮な気分だし、いいことなんだろうけど、自分のDJセットでセルフプロモーションはしたくないんだよね。今まで自分のレコードをチャートに入れたこともないし。

それは僕が望んでいるものではないんだ。僕は例え、DJとプロデューサーのどちらかで失敗しても何とかなる。来年になれば、DJとしての人気はなくなっているかもしれない。でも、僕の曲を20年間聴き続けてくれている人たちがいることを分かっているし、彼らが急に僕をフォローしなくなるなんてこともきっとない。逆に言えば、90年代は曲を作ることが第一で、それが僕の主な収入源だった。ギグは二の次で、楽しかったけどそんなにお金は貰えなかった。でも今は、それもすっかり変わったね。

今は、お金を稼ぐ為のブッキングを取る為にレコードを作っている。レコードを出してもお金にならないからね。例えば僕がDJだけ、もしくはプロデューサーだけで活動していたとしたら、この状況の変化によってもっと大変なことになっていたと思う。2足のワラジを履いていて良かったよ。

理想としては、毎週末ビッシリ埋まっているあなたのギグのスケジュールの中で、もっとMMHを優先したいと思っていますか？

頻度はバラバラなんだけど、今年は既に2回Magic Mountain Highのライブをやった。今はまだ2月の始めだから、実は結構な頻度でやっていることになる。ライブの為に機材を揃えるのは大変で、しかも家に機材を持ち帰ってくるとどこかしら壊れていたりする。例えばDJだったら、1週末に3つのギグをこなしてもそんなにストレスは感じないんだけど、Magic Mountain Highのライブをそれと同じくらいの頻度でやるのは無理。ずっと大変だからね。僕はDJを仕事だと思ったことは一度もないし、飽きたこともない。楽しいし、DJならいつでもやるよ。ターンテーブルとシステムと針さえきちんと揃っていればね。まぁ、いつも全部完璧に揃っているわけではないんだけど。例えお客さんが5人しかいなくても、いい音さえ鳴っていれば、自分自身の為、そこにいる5人のお客さんの為にプレイするし、その時間を楽しむことができると思う。DJの方が楽だよ。ライブも同じくらい好きだけど、ずっとストレスが大きい。笑ったり踊ったりすることはほとんどなくて、代わりに汗をかいて、もがきまくっている。だからこそ面白いんだけどね。

DJするにしても同じことが言えるのでは？

基本的には同じことだよ。1万人の前でプレイするのだって、別に怖くない。前にやったことがあるし、面白いよ。お客さんの表情が見えないと、ちょっとやりにくいこともあるけどね。

例えば、フロアのエネルギーが高いか低いかは、なんとなく分かるけど、そこで他人とリアルな繋がりを持つことはすごく難しい。でも、Freerotaionぐらいの規模のフロアだったら、前の方にいる50人、80人くらいのリアクションは確認できるし、お客さんもこちらに話しかけてきてくれる。僕はDJのステージが大っ嫌いなんだ。大きかろうが小さかろうが嫌いだけど、もし小さいヴェニューにステージなんかがあったら、もう最低だ。例えばウィリアムズバーグにあるOutputみたいな。もしかしたら今はセッティングが変わったかもしれないけど、あれはひどかった。ステージがめちゃくちゃ高い所にあって、DJの顔なんてほとんど見えない。あんな小さいクラブなのに。あれは良くないと思うよ。Panorama Barみたいな感じで、お客さんと同じ目線にある場所でプレイするのが1番だ。それだけは譲れない。

本当に良いパーティーやフェスティバルには、親切でフレンドリーなお客さんが付いていると良く言いますよね。

他のフェスティバル（Freerotation以外）もたくさんあるよ。でも、親切さだけじゃなくて、いかにその環境を大切にしているかも重要だ。ゴミを拾ったりとかね。Freerotationが終わった後の会場が、戦争が起こった後みたいな悲惨な状態であることはまずない。素晴らしいことだと思うよ。クロアチアみたいな、コマーシャルになりすぎたところは別として、ドイツやイギリスのフェスティバルのお客さんは本当に素晴らしい。そういうお客さん達には、こっちも元気づけられるよ。

いつも自分に言い聞かせていることがあるんだ。僕は、地球上で最高のプロモーターと、最高のお客さん達の為にプレイするんだから、しっかりやらなきゃダメだって。特に今は、前よりも注目されているし要求されることも多いから、良いモノと悪いモノを選りすぐるのも大変だよ。僕の親友のFred Pがちょっとブレイクして、大きなパーティーに呼ばれるようになった頃があったんだ。その時、彼は僕に電話をかけてきて、「全然ダメだ。ここ3回のパーティーは、7000人の前でNina Kravizなんかと一緒にプレイしたんだけど、お客さんの気持ちを掴むことができなかったし、お客さんも僕が何をやっているのか理解できていなかったと思う」って言ったんだ。彼はすごく落ち込んでいたけど、皮肉にもその頃が彼のキャリアの中で1番稼いでいた時期なんじゃないかと思う。

ギャラが高いから良いパーティーなわけではない、むしろその逆だと僕は思っている。金のかかったパーティーにブッキングされても、空港への迎えにジャガーやフェラーリをよこされた時点で「ここはどこだ？こいつは誰だ？僕は今何をしているんだ？」ってなるよね。ギャラが高いからと言ってすぐ受けるのは良くない。僕は絶対にそういったことは避けたい。

だからこそあなたはずっと音楽を続けられているんでしょうね。

基本的に誰にでも言えることだと思うよ。Dieter Bohlenにもね。彼だって、自分がやっていることに信念を持っているからこそ大きな成功を収めているわけだし、何かを誤摩化しているわけでもない。彼は彼なりに、自分の中から湧き出てくるアツいものを表現しているんだ。ファンも、そんな彼がリアルだと思う。彼はきっと、自分の世界の中で生きているんだろうね。でもみんなそのうち気付くさ。周りが見えていなかったら、ゆくゆくはダメになる。シーンのアイコン的な人たち、僕なんかよりずっと重要な人たちは、そこに対してもっと厳しいんだと思うよ。また話が戻るけど、DJとプロデューサー、両方を上手くこなせる人間はそうそういない。大体は良いDJであるか、良いプロデューサーであるかのどちらかだ。例えば、Theo Parrishはどう考えても素晴らしいプロデューサーだし、素晴らしいDJだけど、大半の人はそこを両立できないだろ。Alex（Omar S）の場合はまた違って、僕も驚かされたよ。何年か前に彼のプレイを聴いたことがあるんだけど、DJはまぁまぁって感じだった。でも、彼のプロダクションは本当に素晴らしいし、今はDJとしてもだいぶ成長したね。

Alexは、僕だったら絶対やらないようなことをやってのける。例えばRobin Sの”Show Me Love”をかけたと思ったら、次は全然違う音楽をつないだりする。すごいエネルギーだよね。1時間テクノをかけた後に、そういうチージーで柔らかいハウスをかけるんだ。彼がプレイしている時のお客さんの表情を見ているとすごく面白いよ。彼は本当に才能のあるDJだ！彼の音楽も考えも、お客さんの楽しませ方も全てが素晴らしい。しっかり考えているんだと思うよ。彼は良いDJに成長したし、良いプロデューサーだ。いや、前からそうだったのかもしれないけど。

「成功するには運もあるけど、いかにその人に筋が通っているかが大事」

高いギャラに釣られない、ブレイクしすぎないようにするなど色々な話をしてくれましたが、それらを実際に出来ているあなたやOmar Sのような人はラッキーだと思いますか？

色んな要因があるけど、チャンスは絶対あると思うんだ。僕の周りには素晴らしいアーティストがたくさんいるけど、中には成功していない人たちもたくさんいる。それは何故か？成功するには運もあるけど、いかにその人に筋が通っているかが大事だと僕は思っている。僕は今まで、最初はすごく良かったのに周りに祭り上げられた結果クソみたいになった奴らを何人か見て来た。一度悪い話が広まってしまえば、全て台無しになることもあるんだ。

それと、素直でいることもすごく大事。もし、周りの人に偽りの笑顔を向けたり、ちっとも笑いかけなかったりしたら、何もうまくいかないよ。人間は素直でいるのが一番だ。この業界で生きている僕たちはみんな、自分が1番好きなことをして生計を立てている。本当に恵まれているよ。神の存在を心から信じている聖職者や、人々の病気を治したいと本気で思っている医者と同じでね。充実感もあるし、感謝の気持ちでいっぱいだ。

今の時代に決まったやり方なんてないけれど、僕は今自分ができていることに対してすごく幸せだと感じている。別にチャートで1位になるのが目的なわけじゃないんだ。だって、一度でも1位になったとしたら後はそこから落ちるしかないし、1位になったからってだけで途端に批判し始める奴らもいるだろ。今年の例で言えばDixonがそれに当たる。去年は誰だっけな… とにかく、僕はそんなのゴメンだよ。チャートに入ったとしても、端っこにいる方がずっとマシ。でも、ここ5年連続でランキングに入れて光栄だとは思ってる。色んなアーティストが入ったり外れたりして、色んな変化もあった。おかげで自信がついたし、満足している。すごくありがたいことだよ。

数年後の自分を想像できますか？

2012年に亡くなった、僕の友人Pete Namlookについての話をしよう。僕は、彼と一緒に仕事できるのが本当に楽しみだったんだ。きっと、僕たちがもっと年を取って、70歳くらいになった時には、今よりずっといい仕事ができるだろうと思っていた。僕の人生全てが変わってしまったような気分だったよ。僕の知る限り、彼は健康的な生き方をしていたし、当然彼の方が僕より長く生きるだろうと思っていたから、彼が亡くなった時はすごくショックだった。本当に惜しい人を失ったよ。

僕たちが作り上げた音楽は、全てが素晴らしいわけではない。高い評価を得た作品がある反面、僕自身はあまり気に入っていない作品というのももちろんある。でも、今となっては彼はいなくなってしまったし、また全部聴き直しているんだ。安っぽいストリングスも、彼のへたくそなヴォーカルも、今は大好きになった。それが、彼が僕や他の人たちに残してくれたものだからね。もう、本当に悲しくてたまらないよ。

あなたとPeteの関係はどんなきっかけで始まったのですか？

結構大変だったんだよ、ライバル同士だったからね。僕たちはちょうど同じ時期に、アンビエントアルバムを作っていたんだ。2人とも’92年にファーストアルバムをリリースした。彼は『Silence』、そして僕は、Deep Space Networkのパートナーとの『Earth To Infinity』。だから、最初の頃はよく互いに張り合っていた。

ある時から、Faxが好調になって来て、同時に彼も大人気になった。多くのメディアで取り上げられ、ロンドンのSunday Timesの紙面では彼の記事で2ページも使っていた。その記事には、誰もが死ぬ程このレーベルからリリースしたがっているとまで書かれていたよ。そのおかげで彼の自尊心、自己認識が高まって、僕のことをライバルとして意識しなくなったんじゃないかな。最終的に僕たちは友達になった。僕の初期の作品はFaxからのリリースだったけど、彼との共作ではなかった。実現するのには時間がかかったんだ。最初の頃はよく喧嘩していたのを覚えてるよ。彼は自分の信念に対してすごく率直な人で、同時にすごく短気だった。それも彼が亡くなった原因なんじゃないかなと思ってしまうぐらい。かんしゃく持ちって言うのかな。彼が電話越しに誰かを怒鳴りつけている時なんて、本当に彼の頭が爆発してしまうんじゃないかと思った。あれは健康的ではなかったね。

あなた達の間に起きたクリエイティブな化学反応は、何故上手くいったのでしょうか？

僕は誰かと一緒に仕事をしたいと思ったら、まず最初に相手がOKしてくれるかどうかを考える。僕じゃ物足りないんじゃないかな？って。例えばJuju & Jordashの時は、彼らはヤバい音楽が作れればそれでいいだろうけど、僕がそこに加わることを彼らが受け入れてくれるだろうか？って心配だった。

Peteの場合は何も心配することはなかった。彼は何事に対しても柔軟だったから。彼は、全てを僕にコントロールさせてくれた。26枚のアルバム中23枚は、僕のスタジオで2人で数時間ジャムセッションして作った。彼が帰った後に僕が素材をエディットしていたんだけど、僕がどんなことをしても、彼はそれに対して何の疑問も持たなかった。「僕の最高のストリングスに何てことしてくれたんだ」とか、「全部カットしてしまったのか」とか、「お前なんかクソ食らえだ！」なんて、一度も言われたことがなかったよ。正直、そう言われるのをずっと待ってたんだけど、結局彼は何も言わなかった。そういう意味では、Peteは昔から寛大な人だった。何も考えずに、やりたいようにやらせてもらってたよ。彼は彼で曲を作っていたけど、例えその曲を使わなかったとしても何も文句は言わなかった。ちなみに、さっき話した僕が気に入らなかった作品っていうのは、『Koolfang III』なんだ。アルバムの中には、Peteの人生の出来事に関係している作品がいくつかある。1つは彼の古い知人が死んだ時に作った。そして『Koolfang III』は、彼が大失恋した時に作ったものだ。何もかもがアルバムに反映されてたよ、例えば彼が彼女と話す時に喋っていたドイツ訛りの英語とかね… あれはどうかと思ったんだけど、仕方がなかったんだ。その時ばかりは、この曲を使いたくないとは言えなくて、アルバムにその曲を入れたんだけど、結果としてすごい反響があった。Faxの作品リストを見たことがあるかい？ものすごい数の作品をリリースしていたんだ。たくさんのアーティストがFaxからリリースし、彼らはとてもスマートだった。誰がどのアルバムでどんなことをしているかを常に考えていた。すごく面白くて、センスに満ちあふれたコミュニティだったよ。

でも、残念ながら彼は晩年落ち込んでいたんだ。全盛期だった90年代ほど仕事がうまくいかなくて、それが自分では受け入れがたかったんだろうね。