東京をベースに活動するクリエーター、Den（Tokuto Denda）。自身のレーベルNETAを始動させて作品をリリースするほか、カッティング・エッジなダンス・ミュージックを展開する定期イベントFUNKTAXIのオーガナイズなど、精力的な活動を続けている。彼の音楽家としてのプロフィールを紐解くと、ドラマーとしてミュージシャンのキャリアを開始し、Nine Inch Nailsを始めとしたインダストリアル系のバンドの影響、さらには90年代後半には国内のレイヴ・パーティーなどを体験し、徐々にエレクトロニック・ミュージックへと傾倒していく。その後はイギリスへ留学し、ベルリンへと移住。足かけ7年にわたって海外でDJやトラック・メイクのスキルを磨きながら、Marco ShuttleやMark Henningらとともに活動し、ロンドンのレーベルMulti VitaminsからEPもリリースしている。また渡欧時には創作活動以外に、ミュージシャンとレーベルの有機的な協力関係を目の当たりにしており、そういった経験を日本に持ち帰って発信するという思いが、今の彼を揺り動かす原動力の１つになっているようだ。

これまでにop. discやAutoreplyなどのレーベルからリリースしている彼の作品からは、徹底したミニマリズムに加えて独特のグルーヴや音圧など、ビートに対するなみなみならぬこだわりを感じる。話を聞くほどに、ダンス・ミュージックを介した彼の独特のリズムの表現は、元ドラマーという出自からくるものであることが分かった。ここではDenの“ドラマー視点”を培った背景や音楽制作の理念にフォーカスしていきたい。

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ドラムをはじめた理由は？

父親が楽器を演奏していたので、家にはアコースティック・ギターやヴァイオリン、マンドリンなどの楽器があり、ギターは父から教えてもらっていました。ピアノも習いましたが、曲のメロディを弾くのは好きだったけど、いわゆるバイエルのような練習は嫌いでした。中学校の頃に友達とバンドを始めましたが、父親はカントリー＆ウェスタンの愛好家だったので、家にはエレキ・ギターがなくて、欲しいと頼んでも買ってもらえなかったんです。それが理由でドラムにまわされたのが最初のきっかけですね。イギリスやアメリカのハードロック・バンドのコピーをやったり、たまにオリジナルの曲を作ったりしていました。

どんなドラマーが好きでしたか？

Motley CrueのTommy Leeですね。彼がドラム・ソロをやるときにAkaiのパッドを使って、いろんな音をトリガーさせたり、曲を鳴らしたりしながら演奏していて衝撃を受けました。彼のようにシンプルにグルーヴするドラミングが好きで、Led ZeppelinのJohn Bonhamの魅力にはあとで気づきました。と言うのも、昔のレコードのサウンドは当時の録音技術ということもあり、自分が若いときに聴いていた最新の音に比べると、音圧が少ない印象があったので、あまりピンとこなかったんです。それよりもハッキリとしていてツブ立ちの良い……プロデューサーで言うとBob Rockが作るようなドラムのサウンドが好きでした。

エレクトロニック・ミュージックに興味を持ったきっかけは？

同じ世代でダンス・ミュージックをやっている人と比べると、僕がエレクトロニック・ミュージックへ興味を持つようになったのはわりと遅い時期でした。きっかけはMinistryやNine Inch Nailsのようなインダストリアル・ロックの影響があり、そのころ活動していたバンドでもエレクトロ系の機材を導入するうちに、だんだんとテクノも聴くようになりました。あと、同じ頃からレイヴにも足を運ぶようになりましたが、毎週末のようにパーティーで遊ぶのではなく、純粋にそこで流れている音楽を聴きに行っていました。もともと生演奏の世界にいたから、どうやってこういう音を出しているのかに興味があったので、ライブをやっている人の手元をずっと見ていたりしていました。そのうちにDAWを使ってバンド系の音を作っている友達などを参考にしながら、見よう見まねでRoland MC-303やAKAI MPC 2000などを買って制作を始めました。

MPCはビートを作ってみたくて導入したのですか？

というよりも、サンプリングに興味があったんですよね。テクノ好きな友達がアニメの声などをサンプラーに取り込んで、パッドを叩いて鳴らしていたのが面白そうで、自分でもやってみたいなって思ったんです。その頃はバンドの延長線上で曲を作るためにこれらの機材を使っていましたが、バンドの人間関係に煩わしさを感じることもあって。その点、エレクトロニック・ミュージックは一人で好きなように作ることができることに魅力を感じるようになりました。次第にレコード屋に通うようになってDJも始めて、よりダンス・ミュージック方面にシフトしました。ギターを入れるのやめてみたり、ビートだけで構成される音作りにしたり、自分が買っているレコードのトラックっぽいものに近づいていきました。僕はリズムをそのままサンプリングして再構築する、ヒップホップのスライス的な手法は知らなかったので、最初はリズムを構成する音を１つ１つサンプリングしてから手で打って、あとから修正するという感じでした。

2003年から約7年間、ロンドン、ベルリンで活動されていましたね？

はい、2003年にロンドンに移り住んだのですが、向こうで知り合ったアーティストは、みんなDJをやりながら音楽も作っていたので、そういうところに制作欲を刺激されました。ベルリンへ行ってからはもっと制作方面にフォーカスしました。変な言い方ですけど、ベルリンはロンドンよりも“本気”で音楽を作っているミュージシャンが多いので、いろんな制作機材や音楽の情報を交換をしながら、誰かの中古機材を買い足したりしながら、制作の環境を向上させていきました。

今のスタイルでもある、ミニマルなサウンドにはどのように辿りついたのですか？
　
いろんなダンス・ミュージックを聴くうちに自然とそうなっていったんですが、その根源には、僕はドラムをたたいていた時期があったからだと思います。やっぱりドラマーは音楽を聴くときにもまずリズムに耳がいくし、聴く人をグルーヴさせて踊らせてこそですから。いろんなダンス・ミュージックのレコードを聴くうちにグルーヴを突き詰めていったら、最終的には“リズムだけ”になったというか。ミニマルの良さが分かっていったんです。例えばStudio1の作品を初めて聴いたときは衝撃でしたよ。すごくミニマルなのにこんなにも踊れるのかって。

その後、今の音楽制作の機材スタイルに落ち着いていった経緯は？

今でも試行錯誤していますが、僕は昔から音源やシンセなどのハード・ウェアをまずコンソールに立ち上げて、MIDIで機材を鳴らしながら制作しています。だから“このドラムの音が欲しいな”って思ったら、その都度機材を買い足していきました。そういう意味でもバンドっぽい作り方だなと思います。感覚的にはMTRにいろんな楽器をつなげて録っていくのと同じだから、自分としてはこのやり方が理解しやすかったんです。アタマの中にあるイメージを具体化するには、いろんな機材が立ち上げられていて、それを選びながら作っていくというか。テクノやハウスのアーティストがTR-909のようなリズム・マシンを一台だけ使ってビートを作っていくのとは発想が違うので、例えばJeff Millsのようにリズムマシンを楽器のように扱える人に憧れもありますし、それと比較したら僕の制作は雑だと思います。僕は実際に機材のツマミを弄ってフィジカルな操作で音を調整したいし、バンドのようにラフにやるスタイルにいつも共感していたタイプなんです（笑）。だから、最近のハードウェア・リバイバルは僕にとってはありがたいですね。

制作の過程を教えてください。

まず最初に8小節くらいのループを、自分が納得するまで作り込んでいきます。4小節とか2小節のループだと聴いていてしんどいというか、もう少し長いループでじっくり展開させるのが好きですね。リズムが決まったら次は音色選びで、よく使っているのはMFB 522、キックはJomox MBase11、ハットはRoland TR-606、Novation Drum Stationのマラカス、あとは裏拍のアクセントにはKorg Electribe、ベースはKorg Prophecyの拡張カードに入っている音を使ったりと、それぞれの機材に入っている自分の好きな音をセレクトしています。最近はLiveに内蔵されているタムなどサウンドも音質が向上したので使うこともありますが、キックやハット、スネアなどの重要なパーツはハードウェアの音ですね。それらを使ってできたものがラフで、さらにコンピューター内でタイミングや音色を追い込んでいきます。

DAWは何を使っていますか？

ここ2～3年は制作時にはAbleton Live、ミキシングにはStainberg Cubaseを使っています。Cubaseでミックスした方がパキっと音が上がってくる気がします。マシンで鳴らしたそれぞれの音色にはコンプやEQ、リバーブ、ディレイを使うくらいでシンプルです。キックに関してもコンプをサラっとかけて終わりだし、トラック数も少なくて、たまに“こんなに少なくてもいいんだろうか？”って不安になることもある。そういう意味でもまだアタマの中はバンドの頃と同じなんじゃないかなって思います（笑）。今流行っているモジュラー・シンセも、僕にとってはあんまりバンドっぽくないからピンとこないんですよね。フィジカル的にも自分が出したい音に到達するまでが大変なんじゃないかなって思いますし。

ダンスに特化したフロア・ユースな印象ですが、マシン・ビートっぽい機械的なニュアンスが少ないところもDenさんらしさだと思います。制作するトラックはクラブで踊るためのものだと意識して作っていますか？

そうですね。やっぱりそれもドラマーの視点なんですよ。こういったトラックを制作しているのも、お客さんを踊らせたいと思って作っているので、その結果、踊るためのツール、つまりはフロア・ユースっぽい感じになるんだと思います。というか、僕にとって曲を作る原動力はそれしかないです。今の僕の音楽はミニマル・ミュージックにはなっていますけど、実はミニマルに対するこだわりもそれほどなくて、ハウスでも何でもいい。それに、テクノっぽいマシンを走らせたような機械的なビート感はあまり好きじゃないので、作っているビートは意識してレイドバック気味にしています。そうすると生っぽくなるし、自分も生ドラムのリズムやグルーヴが原体験にあるから、やっぱりそういった感触が好きなんです。僕の理想を言うと、100チャンネル以上あるコンソールに、各ブースにはラテン・パーカッショニストやドラマーが常にスタンバイしている環境があって、生演奏をレコーディングして、それをもとにして自分なりの4つウチの音楽として表現してみたいですね。