近年、スタジオに導入可能な安価でコンパクトなハードウェアシンセサイザーの需要が大きく、ハードウェア、ソフトウェア両方の大手も参入している。減算合成方式のシンセサイザーを生み出したMoogは創設以来、初めて価格が1000ドルを切るシンセサイザーMinitaurやPhatty シリーズを展開しており、Korgは名機MS-20の廉価版の制作に尽力し、またARP Odysseyのリメイクに取り組むなど、クラシックなシンセサイザーを次世代のエレクトロニックミュージシャンの手元に届けようと努力している。またソフトウェアシンセで定評のあるArturiaも、3機種のハードウェアシンセ、Bruteシリーズを展開しており、長年ハードウェア開発に携わってきたかのようなクオリティーを提供している。

ソフトウェアシンセは安価で、コンピューター側の機能をフル活用できるが、実際に楽器を演奏する感覚には敵わない。またユーザーの多くは生き生きとしたアナログサウンドを好んでいるはずだが、ソフトウェアシンセではある程度近づけても、完ぺきな再現は不可能だ。以上を踏まえ、今回は今にふさわしいハードウェアのモノシンセ7機種を選んで紹介する。（価格は米ドル）

MicroBrute / Arturia / $349

MicroBruteはBruteシリーズの第2弾で、オモチャのようなルックスだが力強いサウンドを誇る。2オクターブのキーボードが付属したコンパクトなデザインだが、CVパッチベイが備わっており、サウンドに多様な変化を加えたり、CV対応している他の機材と連動させたりすることが可能だ。オシレーターは1基だが、8つのノブを使ってユニークなサウンドが生み出せる。波形は三角波、ノコギリ波、矩形波が備わっており、各波形はMetalizer、Ultrasaw、Pulse Widthで大幅に変化させられる。また基本的にはサブオシレーターとして機能するOvertoneは、倍音を完全5度まで変化させることが可能だ。Steiner-Parker製フィルター（Synthaconで高名な）はハイパス、バンドパス、ローパスから選択可能で、Brutefactorノブを使用すれば、スピーカーを飛ばしてしまうような強烈なブーストとディストーションをサウンドに加えられる。また、MicroBruteには32ステップのステップシーケンサーが付いており、8つの上書き可能なプリセットも備わっている。更にUSBで接続すれば、本体には表示されていない機能へのアクセスやシーケンスパターンのセーブが専用ソフトウェア経由で可能になる。素晴らしいサウンドと高い携行性、そして349ドルという低価格はアナログシンセシーンの可能性に挑んでいる機材と言えるだろう。

TB-3 / Roland / $299

エレクトロニック・ミュージックファンにとって、最もエキサイティングなRolandからのプレスリリースのひとつが、このAIRAシリーズの発表だった。このシリーズは現在TR-8、TB-3を含む4機種が発売されている。名前から分かる通り、TR-8は名機TR-808とTR-909を再現したドラムマシンで、TB-3はTB-303を再現したアシッドシンセだが、TB-3のサウンドはフルデジタルで、光り輝く感圧センサー内蔵のタッチ・パッド、内蔵エフェクト、カットオフ、レゾナンス、アクセントをエディットできる134個のプリセットが備わっている他、各32ステップまで記録できるユーザーパターンも64個備わっており、あらゆる面で「正確なクローン」とは違う。とはいえ、オリジナルのTB-303のアシッドサウンドを求めている人のためのサウンドも数種類プリセットの中に用意されている。そのサウンドはオリジナルにかなり近く、多少処理してミックスに落としこんでしまえばオリジナルかどうか判断するのは難しいだろう。尚、新しいサウンドも追加されているが、どれもオリジナルのスピリットに忠実に表現されている。また、バックパネルにはMIDI IN／OUTとUSBが備わっており、オーディオとMIDIの送受信が可能になっている。

Rocket / Waldorf / $349.99

Rocketはデジタルオシレーター1基とアナログフィルターが備わったシンプルなデスクトップモジュール型のモノシンセだが、オシレーター（特にノコギリ波）は非常に豊かなサウンドが生み出せる。オシレーターのノブを12時より右に回していくと、最大8個までノコギリ波が追加され、ポリサウンドが生成されていく他、最大8音を同時に鳴らせるユニークなユニゾンモードも搭載されている（このモードの場合、フィルターとエンベロープは機能しない）。尚、矩形波には、パルス幅を面白く変化させられる機能が備わっている。Rocketは一見シンプルだが、非常に幅広い使い方が可能なシンセと言えるだろう。VCFはローパス・バンドパス・ハイパスから選択可能で、強力なレゾナンスはワイルドな発振やパーカッションサウンドの生成が可能だ。またブーストスイッチは信号にサチュレーションを与えてくれる。エンベロープはシンプルな構成で、サスティンとリリースはスイッチ式、ディケイはノブ式となっている。尚、「Launch」ボタンを押せば、キーボードが接続されていなくてもサウンドを鳴らせるようになっている。LFOの機能はやや制限されており、アサインできるのはオシレーターかフィルターだけで、アルペジエーターとの同時使用は不可能だ。尚、PCやMacとの接続には対応していないが、iPad専用アプリRocket Control経由でパッチ生成や演奏を行える。

Bass Station 2 / Novation / $499

近年、Novationと言えばバーチャルアナログシンセとハイクオリティなコントローラーだったが、この1990年代を代表する機材のリメイク版はオールアナログだ。オシレーター2基、サブオシレーター1基、ノイズジェネレーター1基が2オクターブのキーボードのボディの中に搭載されており、太いサウンドをバラエティ豊かに生み出すことが可能だ。旧モデルよりもサウンドデザイン能力が向上しており、2個のノブが配置されたエフェクト部にはディストーションとフィルターモジュレーションコントロールが備わっている。個人的にはBass Station 2はミックスの中に埋もれないような力強いリードサウンドの生成が得意だと感じた。尚、フィルターはローパス／バンドパス／ハイパスフィルターが切り替え可能な他、更にスロープ切り替えとRoland TB-303に似たサウンドが生成できるAcidフィルターが追加されている。また各セクションにルーティング可能なLFO2基とADSRが2基備わっており、多様なモジュレーションも楽しめる。コンパクトなボディのため、いくつかのノブは複数の機能を担っているが、パネル上部には独立したステップシーケンサーとアルペジエーターが配置されている他、背面には外部入力端子やUSBからの電源供給が備わっている。尚、ソフトウェアを使えば2基のLFO同士の同期など、様々な追加機能の操作が可能だ。また、この価格帯の他のモノシンセと違い、Bass Statin 2には64個のプリセットと64個のユーザープログラムが本体内に用意されている。

MS-20 mini / Korg / $719.99

eBay上で3000ドル程度の価格で取引されていたMS-20のオリジナルモデル（1978年発売）は多くの人たちにとっては高嶺の花だった。よって、数年前にコントローラーを使ったソフトウェアバージョンもリリースされていたが、オリジナルと同等でむしろノイズが軽減されたVCAを内蔵し、市場価格が700ドル程度という安価でリリースされたこのハードウェア版リメイクは多くの人の興味を引いた。MS-20の特徴は野太いサウンド、ハイパスフィルター、ローパスフィルター、そしてパネル右側のセミモジュラーパッチなどにある。オシレーター2基にはリングモジュレーション、ノイズ、モジュレーターが備わっており、それだけでも多様なサウンドが生み出せるが、外部入力が備わっているセミモジュラーパッチを併用すれば、トリガーやモジュレーションなどが無限に行え、通常は他のシンセで到達できない新しい世界を切り開いてくれる。MS-20 miniのサウンドはそのオリジナルの特徴そのままと言って問題はない。唯一の欠点は小さな鍵盤と1/8インチケーブル、そして安っぽいプラスティックのボディだろう。しかし、低価格とMIDI／USB対応を考えれば、その価値が下がることはない。尚、フルサイズのMS-20が欲しいという人のために、ハンダ付け不要なフルスケールの自作キットが発売されている。

Mono Lancet / Vermona / $619

Vermonaはパワフルなアナログ機材の制作で定評があるメーカーだ。よって、Mono Lancetも小さなボディのシンセモジュールだがそのサウンドは強力で、太いベースサウンド、ワイルドなレゾナンス、パーカッションサウンドなどが生み出せる。オシレーターは2基で、VCO1は三角波、ノコギリ波、矩形波から選べ、VCO2は三角波の代わりにノイズが加えられており、VCO1よりも1オクターブ高いチューニングが可能になっている。24dB／オクターブのVCF（ローパス）は自ら発振可能で、MIDIでベロシティとアフタータッチがコントロール可能だ。また、LFOとADSRはオシレーターとフィルターにアサインできる。尚、LFOはサンプル&ホールドに対応しているため、ワイルドなサウンドが生み出せ、モジュレーションホイールを使用すれば、両オシレーターのパルス幅を変化させることも可能だ。更にモジュラーシンセを使用している人のためにDB-25コネクタが付属しており、 CV、ゲートやその他のノブを変化させる専用ドック（Mono Lancet Modular Dock）に接続可能だ。パワフルなサウンドを求めている人に向けて、Mono Lancetを4台繋げたPERfourMER MKIIも発売されている。

Sub Phatty / Moog / $1.099

Phattyシリーズの第2弾となるSub Phattyは前機種とは違う形でMoogの低価格帯を支えている機材だ。クラシックなMoogのルックスとフィーリングを提供するSub Phattyは一度触れれば一生物だと感じられるだろう。オシレーター2基の波形はバリエーション豊かで、三角波からノコギリ波、矩形波、パルス波をノブでスムースに変化させられる。また矩形波のサブオシレーターはオシレーター1よりも1オクターブ下にチューニングされており、Phattyシリーズの名に恥じない「ファット」なサウンドが生み出せる。ミキサーセクションでは3基のオシレーターとピンクノイズのコントロールが可能で、Moogの誇るローパスラダーフィルターを経由すれば素晴らしいディストーションが加えられるが、フィルターセクションの後方に配置されているマルチドライブディストーションを使えば、サウンドに更なる荒さを加えられる。また、LFOとフィルターのADSRは波形の変化、オシレーターのチューニング、フィルターカットオフにアサイン可能だ。パネル左部の8個のボタンは16個のプリセットを呼び出せるが、その時のノブの位置によってサウンドが左右されるクラシックなアナログシンセスタイルにも対応している。尚、実際は16個以上のサウンドのセーブが可能で、USB経由で無料のエディターとライブラリを使用すればパッチを無限にセーブ／呼び出せる他、VST/AU/RTASプラグインとして使用すれば、様々な追加機能に加え、すべてのフロントパネルのコントロールがMIDIでコントロールできる。また、サイドパネルにはモノラル入出力、MIDIイン/アウト、4系統のCV/Gateジャックが配置されている。ちなみにSub Phattyに鍵盤1オクターブとアルペジエーター／シーケンサー、そしてパラフォニックモード（オシレーターごとに異なったノートを鳴らせる機能）を追加したSub 37が近日発売される予定だ。