ピアノ、ヴァイオリン、トランペットなどを演奏する人ならば、タイミングと音程に合わせて演奏できるようになるために、必ず基礎を学ぶはずです。しかし、エレクトロニック・ミュージックのプロデューサーはそのような基礎は関係なく、ノートをステップ入力したり、メトロノームを遅くして好きなスピードでレコーディングしたりすることが可能です。また生楽器を演奏するミュージシャンたちと違い、間違ったピッチやタイミングを修正できるというセーフティネットも用意されています。

その上、テンポに合わせて演奏する場合、私たちの制作環境は不可能を可能にさえしてくれます。つまり「完ぺきなテンポ」です。クォンタイズを使用すればシーケンス内のどんなノートも正確な位置に配置し、完ぺきなリズムを得ることができるのです。音楽のジャンルによってはこのようなメトロノームのような正確な演奏が求められますが、ジャンルによっては、同じテクノロジーを使用するにも関わらず、リズムに微妙な変化を加えた方が良い場合があります。ストレートなリズムではなく、ファンキーでグルーヴィーなリズムにする訳です。しかし、この「グルーヴ」とは一体何なのでしょうか？　どのようなリズムパターンが私たちの身体にフィットし、私たちを躍らせるのでしょうか？　今回の特集では、リズムに焦点をあて、グルーヴとは何か、そしてどのパラメーターがストレート／スウィングなどを生み出すのかを細部まで見ていきます。

グルーヴを理解するためには、リズムの基本を理解する必要があります。まずは音楽におけるテンポの取り方です。ダンスミュージックの大半は4分の4拍子（4/4）で、これは1小節を4つの拍（ビート）で区切るということを意味します（4/4のフロア向けのパターンを制作している時は、キックが各拍で鳴りますので、意味が理解してもらえると思います）。その1拍分を使う音符が4分音符（1/4）と呼ばれています。1拍は更に細かく分けることが可能で、例えば1/4拍を更に半分にした8分音符（1/8）、そしてその更に半分の16分音符（1/16）があります。

シンプルなリズムパターン：このサンプルでは各音符がどのように組み合わさっているかが確認できます。キックは1/4で各拍の頭で鳴り、スネアは2拍目と4拍目（この位置をバックビートと呼ぶ場合もあります）で鳴っています。そしてクローズドハイハットが1/16で鳴っています。

進化させたパターン：他のサウンドを足し、ハイハットの数を減らして少し鳴りを落ち着かせた、洗練されたリズムパターンを作ってみましょう。ここではハットのパターンが変えられている他、キックとスネアに加え、パーカッションが1/16のタイミングでスネアの直前と間に追加されています。

この新しいサウンドは、「シンコペーション」というリズムアレンジが用いられています。シンコペーションが行われているノートとは、意図的にメインのリズムパターンに対応する他のパターンを加えることでメインパターンの強拍の位置をずらし、全体のリズムに緊張感を生み出す手法です。この場合、キックとスネアのパターンとは違うパーカッションのパターンが、メインのリズムに対してのシンコペーションとなっており、他のサウンドとぶつかることなく、パターンの中を動いています。とは言え、このパターンはすべてのノートが1/16のグリッド上にジャストでロックされているため、全体のリズムはストレートのままです。ここに他のスウィング系クォンタイズを加えると、グルーヴが生まれるようになります。

「スウィング」は非常に有名なリズムアレンジで、隣り合ったノートの後ろ側のノートを後ろにずらします。例えば1/16のスウィングクォンタイズを選択してみます。これを選択すると、1/16のノートの2つ目と4つ目が後ろにずれますが、1つ目と3つ目のノートは1/16のグリッド上にジャストで乗ったままでキープされます。このようなノートのずらしがスウィングです。設定するスウィングの値が大きければ大きいほど、1/16ノートの2つ目と4つ目が遅れ、より明確にスウィングの効果が現れるようになります。

スウィングのパターン：ここでは最初のリズムパターンに強めのスウィングを適用させています。

1/16の偶数に相当するノートだけが後ろへずれているのが分かると思います。言い換えれば、キックとスネアはストレートのままで、スウィングのクォンタイズは適用されていないということになります。ハイハットに関しても各拍の1つ目と3つ目はずれていません。尚、スウィングクォンタイズは1/8に適用させることも可能です。この場合、1/8の偶数に相当するノートが後ろへずれます。

ジャズのスウィング：ジャズでは1/8のノートを使ったスウィングが非常に有名で、それだけでひとつのジャンルが成立している程です。今回のクリップではジャズドラムのキットを使い、最初はストレート、次に1/8のスウィングクォンタイズを2パターンプレイしています。ここでも変化が加えられているのは1/8ノートのオフビート、つまり各拍の後半に相当する部分だけが後ろへずれています。

トラディショナルなロックンロールバンドのリズムには、ドラムだけでなく、ドラム、ベース、リズムギターの関係性も関わってきます。これらの楽器群すべてが楽曲のリズムのフィーリングやグルーヴに責任を負ってくるので、お互いのパフォーマンスをぶつかり合わせる代わりに、個々が同じグルーヴを追うようにしなければいけません。この重要性はディスコが台頭した時に顕著になりました。Nile Rogersの率いたChicなどのライブディスコバンドの演奏を聴けば、ドラム、ベース、ギターが共にスウィング／グルーヴしているのが分かると思います。

ストレートなベースとビート：ですので、スウィングを楽曲に持ち込みたい時には上記の点に注意してください。ベースとリズムを使用して見ていきましょう。このクリップでは両方共1/16のストレートのままになっています。

ビート（スウィング）とベース（ストレート）：ここではドラムに1/16のスウィングクォンタイズを適用してグルーヴを生み出していますが、ベースは1/16のストレートなので、タイトにまとまる代わりにお互いがぶつかってしまっています。各小節の2拍目、４拍目で少し音がぶつかっているのが分かるかと思います。

ビート（スウィング）とベース（スウィング）：しかし、ベースにも同じ1/16のスウィングクォンタイズを適用すると、サウンドはかなり向上します。

スウィングなしのシーケンス／スタブ：新たなパートを加えてみれば、他のパートにも同じスウィングを適用することでいかにグルーヴが向上するかが理解できるでしょう。ここでは1/16のシーケンスパートとシンコペーションのシンセスタブ（ヒット）を入れています。ここでは両パート共にストレートのままになっています。

スウィングしたシーケンス／スタブ：ここではビートとベースと同じクォンタイズを適用しています。

しかし、スウィングを適用しても生演奏のような自然なフィーリングは生まれません。寸部も狂わないストレートなリズムを生み出せるミュージシャンが存在しないように、打ち込まれたグルーヴ通りのスウィングパターンを生み出せるミュージシャンもいないのです。自然なタイミングでの演奏は、リズムを自然に感じさせる上で非常に重要ですので、マシーンリズムのようなグルーヴを避けたい場合は、この点に留意しておくべきでしょう。ビート及びベースのプログラミングではついついステップのグリッド上にジャストでノートを並べたり、逆にクォンタイズを多用したりして、自然なタイミングの良さを消してしまいがちです。リアルタイムレコーディングをした時に、ずれていると思うタイミングの修正を控えれば、自分らしいグルーヴをトラックに持ち込めるようになります。

クォンタイズなしのビート：リアルタイムでレコーディングし、クォンタイズを適用していないビートです。

聴けば分かりますが、ここではベロシティの修正も行っていないので、ある程度自然なダイナミクスが保たれています。画面右側のList Editorで各ノートのポジションを見てみると、大半のノートが早かったり、遅かったりしているのが理解できるはずです。

クォンタイズなしのベース：次にベースを足してみましょう。ここでもクォンタイズとベロシティの調整は行っていません。

パートに分けて処理したドラム：次にドラムだけを取り出して、修正を加えていきます。キック、スネア、ハットは個々のトラック上で修正していくので、クォンタイズを適用する場合は、全体をクォンタイズするのではなく、各パートで異なったクォンタイズが適用できます。このようにドラムを各パートに分ければ、それぞれに異なったエフェクトをかけることも可能になります。では、キックにはリミッターをかけ、スネアにはコンプレッサーとトランジェントをかけ、ハットにはEQ処理を行ってみましょう。

まとめられたビート：直前のクリップでは、リズムがバラバラでふらついていましたが、実はこのバラつきがこのビートをユニークな存在にしています。何故なら誰もこのようなレコーディングをわざわざしないからです。ですので、1/16のクォンタイズを適用してその個性を消してしまうのは少し待ちましょう。クォンタイズは次のクリップで行います。

クォンタイズ（50％）：独自のパフォーマンスをなるべくキープしておきたいところですが、ライブレコーディングした素材がややルーズ過ぎる感は否めません。ですので、クォンタイズのオプション機能を使ってクォンタイズの強さ（Quantize Strength）を50％に調整します。このように調整すれば、100％クォンタイズした時のポジションと実際にレコーディングしたポジションの中間地点にノートがずれます。

多様なクォンタイズ：これでリズムの不安定さが前よりも小さくなりましたが、同時に微妙に予想不可能な、言い換えれば独自のフィーリングも残されています。各パートを分けてあるので、タイミングの修正が必要なパートだけに様々な調整が適用できる状態にあります。キックとベースラインのタイミングをロックしてリズムをタイトにした方が良いですが、ハットとスネアはそこまでタイトにする必要はありません。ですので、キックとベースのクォンタイズの強さを70％に引き上げ、ハットとスネアは50％のままにしておきます。

ディレイの追加：他の楽器やテンポ系エフェクトなどによってクォンタイズの程度が決まってくる場合もあります。ここではベースのクォンタイズを外し、ライブパフォーマンスのフィーリングに戻すと同時に、SoundToysのEchoBoyでディレイを加えてみましょう。すると、問題だったタイミングのずれが悪化しているように聴こえます。ディレイがリズムのずれを明確にしているのです。

自然なディレイ：だからと言って、ベースのクォンタイズの強さを100％にしなければならないという訳ではありません。70％を適用すれば、ディレイがグルーヴを嫌味なく表現してくれます。

パッドの追加：このようなリズムパターンは、あなたの脳をより一層リズムに引き込んでいきます。というのは、これまでのパターンは短いノートを使った尖ったパーカッションサウンドで、リズムが強調されていたからです。ですが、そこにサスティンした長めのフレーズを追加すれば、リズム以外の要素に感覚が引き込まれるので、リズムの強さが和らぎます。その例がこのクリップです。

ループの使用：当然ながら、プログラミングしたサウンドとオーディオループ（全体のループまたはチョップ）を組み合わせてリズムを組み立てるプロデューサーも数多くいます。この手法も全体のクォンタイズを使わずに、リズムに個性を持ち込みたい場合には効果的です。このクリップでは独自のタイミングで鳴っているオーディオループを追加しています。

グルーヴテンプレート：直前のクリップで追加したオーディオループはサウンド全体のクオリティを高めてはいるものの、リズムの助けにはなっていません。パーカッションのパターンはプログラムされていたビートと噛み合っていません。この問題を解消するには、ループをチョップしてプログラムされたビートにより近いポジションに配置するか、プログラムしたビートからグルーヴテンプレートを作成し、それをループに適用させる必要があります。DAWソフトウェアによって手順は異なりますが、今回はLogic Pro Xでハットをガイドにしたグルーヴテンプレートの作成を行います。その後でオーディオループに適用すれば、ハイハットとぶつかっているループ上のノートが自動的にグルーヴテンプレートを追従して後ろへずれます。

ループのチョップ：これはぶつかり合っているノート同士には上手く働きますが、ハットのパターンにはギャップがあるため、そのギャップのタイミングで鳴っているオーディオループはガイドがないために、どの程度ずらせば良いのか判断できていない状態です。スクリーンショットを確認すれば分かりますが、オーディオループの青い部分はグルーヴテンプレートに沿って鳴っていますが、白い部分はオリジナルのままです。しかし、クリップを注意深く聴いてみれば、ループがリズムと一番噛み合っているのは、最初の1小節、つまりスクリーンショットの2小節目だということが分かります。ですので、この部分のオーディオループをチョップして、この小節だけを繰り返すようにしてみましょう。

そうすると、このループがトラックにぴったりと合うように聴こえます。しかし、他の小節のリムショットはフレーズの終わりにかけて正しく鳴っていない「ずれ」を感じます。ですので、この部分のループをチョップして削除すればすべてが上手くいき、全体のフィーリングにつんのめるような感覚が加わります。

パーカッシブなサウンドを扱う場合は、それがプログラミングしたものだろうと、オーディオファイルだろうと、常にクリエイティブな制作を心がけるようにしましょう。オートクォンタイズを避けるようにすれば、自分だけの自然なグルーヴが制作に持ち込めるようになり、制作意欲も向上するはずです。自分が作っている音楽が正確なクォンタイズを求めている場合は、ビートを配置する場所を考えるなど、別の方法で自分の個性を加えるようにしましょう。スウィングクォンタイズを試したり、シンコペーションを賢く使ったりするのは、グルーヴ探求における良いスタート地点になるはずです。