ミュンヘンを拠点とするPublic PossessionのFacebookページでは、レーベルの活動を「エネルギー / 公益事業」として投稿している。このレーベルがどのような存在なのかを調べるにあたって、そんなことは些細なことに思えるかもしれない。しかし実際は、旧知の仲であるMarvinとValentinoが舵を取る、多角的かつ多忙な音楽活動に対して非常に多くのことを語っている言葉だ。入念にストックされた彼らのレコード・ショップは、まさに公益事業案の1つであるし、加えて、レーベル・キュレーション、プロダクション、DJ、そしてグラフィック・デザインと疲れ知らずの活動を通じて、彼らは自分たちの世界を表現している。それ以外にも、MarvinとValentinoが展開する多くの試みからは、2人が共有する大胆不敵なユーモアを感じ取ることが出来る。

着実に増加している地元のお客やオンラインでのお客だけでなく、MarvinとValentinoの存在を知ったのは、彼らがBeni Bartellow（ソロとしても同様に忙しく、様々なレーベルからリリースしている）と共に繰り広げる制作プロジェクトTambienを通じて、という人も多い。Tambien名義として3人は、Public PossesionとESP Instituteの両レーベルから少量ながらも重要作を発表してきている。もともと、MarvinとValentinoは学校を卒業後、DJにおける共通の価値観を通じ友好を深め、ValentinoとBeniは同じジャズ・バンドにて、それぞれバイオリンとギターを担当していた。彼らは連絡と取り続けていたものの、トラックを一緒に制作するようになるまで数年の月日を要したようだ。

「俺たちの中で共通している最も重要なルーツの1つはミュンヘンのディスコ・シーンだ」とBeniが説明する。「異なる背景を持つアーティストとコラボレートするのはいつだって楽しいよ。DJは音楽制作のことになると、たくさん意見を言うだろ」

MarvinとValentinoの2人は、制作過程にBeniが加わることの重要さを熱く語ってくれた。彼らが制作するトラックは全て環境の整ったBeniのスタジオにて行われているのだ。音楽に捧げてきた人生を通じて、Beniは新旧の機材コレクションを構築し、Tambienのエッジの際立ったラフなサウンドを育んできた。「あのサウンドはBeniとBeniが持っているセット無しではあり得ないですね」とValentinoがスカイプ越しに話してくれた。

3人にとって初となるリリースは自分たちだけで発表したホワイト盤だった。ディスコと呼ぶには程遠いジャンル分け不可能なトラックを鮮烈にエディットした3曲がフィーチャーされ、そこでは、アフリカン・パーカッションへの愛着が伸び伸びと表現されている他、隙間を十分に取ったプロダクションや、フリーキーな感覚がふんだんに収められている。このホワイト盤は、Public Possessionの1枚目となる12インチとしてパッケージを新たに発表されたが、その後、2回もリプレスしたものの、瞬く間に売り切れ、現在では、中古市場で入手希望が殺到し、高額の値段が付いたままとなっている。対照的に、TambienがESP Instituteから初めてリリースしたタイトルでは、粒立ちの荒いスロー・テクノ"Drogato"や、ブレイクビーツが刻まれる"Dois"など、マシーン・グルーヴが顕著になっている。ミュンヘン内で彼らが携わっている業務が他にもあるため、Tambienが制作のために割ける時間は不規則で、週に2回、集中的に作業にあたるときもあれば、3ヶ月間、全く活動をしないときもある。

「仕事上の関係で、すごくたくさんの音楽が耳に入ってくるから、スタジオに行ったらやってみたいと思うアイデアが浮かぶんだ」と話すのはMarvinだ。

「ほとんどの場合、全く異なる結果になることばかりですけどね」とValentinoが加える。「スタジオに3人居るじゃないですか。だからよく議論になりますね」

Tambienは広範なスタイルの価値観を持っており、この点はPublic Possessionから発表しているアーティストの幅広さにも反映されている。今までのところ、レーベルのアーティストの中に知れ渡っている名前がいるとは到底言えないが、Bell TowersことRohan Bruce Bell-Towersは、InternasjonalやRuf Kutzにもその姿を現している他、言うまでもなく Public Possessionからリリースしてきた3枚のレコードを通じて、徐々に評価を獲得しつつある。Matthew BrownやObalski、そしてレーベルからまもなくリリース予定のAnton KlintといったPublic Possessionのアーティストたちと深くつながりあえているのは、 MarvinとValentinoの2人がレーベル以前から彼らと交友していたからだ。

「俺たちは自分たちに境界を設けることはしない。でもレーベルの周りにはちょっとした仲間がいて、友達が遊びに来てくれる、っていうのをいつも目指していた」とMarvinが話す。「だから、Public Possessionのアーティストっていうのを作っていきたかったんだ」。Public Possessionの6枚目にあたるKlintの作品は、EBMのエッセンスに遊び心溢れるサンプル・トリックを加えたトラックと、バレアリックな捻りが効いたプログレ感のあるビート、この間を行き来するアイデアをワイルドな2つのバリエーションで表現したものだ。Klintはスウェーデン出身だが、MarvinやValentinoと何年も一緒にDJをしてきた彼が、Public Possessionから最初のソロ作品を発表することは自然な流れだと言えるだろう。

MarvinとValentinoが冗談めかして「レーベルの優良資産だ」と形容するBell Towersは、タフでエッジの効いたリズムを自身の音楽に持ち込んでいる。Valentinoが彼と出会ったのは、Valentinoがオーストラリアで2ヶ月間、DJ旅行をして過ごしたときのことだ。現在はタスマニアで生活をしているMatthew Brownと共に、ValentinoはPublic Possessionのオーストラリア・コネクションを形成したのだ。「何でこんな風になったのか分からないよ！」とは、南半球とのつながりについて語った際のMarvinの言葉だ。「本当に不思議なんですよね」とValentinoも認める。「実はオーストラリアには、たくさんレコードを送っていて、僕らのウェブサイトで買い物をしてくれる人の多くはオーストラリア人なんですよ。ヨーロッパ圏以外からのオーダーが90%で、その90%の内、70%がオーストラリアだと思います」

Public Possessionのショップはオープンからまだ1年半しか経っていない。MarvinもValentinoもそれ以前にレコードを販売した経験は全くない。実店舗の運営を続けるという仕事はタフなものであろう。しかし控えめな規模で手がける店舗がどのように機能しているのか、この点について話す2人の語り口は軽快だ。「何が上手くいって何が上手くいかないのか、ってことが分かるまでには時間がかかったよ」とMarvinが話す。「ミュンヘンみたいな街では特にね。もちろん、正しいやり方に気付くまでには多くの失敗もあったけど、今までのところ、なかなか全てが順調だよ」

Marvinが「ミュンヘンみたいな街」について話すとき、ドイツの他の都市と比べて、新しく登場してくるDJの数が限られていることや、彼らの店と同じテイストを持った客が少ないことについて言及している。レーベルや自身のプロダクション同様、店のレコード・セレクションもMarvinとValentinoの独特の指向性を反映したものだ。「当初から、自分たちのテイストに特化して、ここで売っているものにもそのテイストを流し込もうと思っていた」とMarvinが話す。「ビジネスの側面だけからオーダーしたレコードは一切ない。俺たち側から選んだものには100%の確信があるんだ」

「確実に街で一番の店だ」と主張するのはBeniだ。「素晴らしいセレクションが揃ってるしね。いつも結構なディスカウントをしてくれるんだけど、それでもかなり金を使ってしまうって分かってるから、この場所に足を踏み入れるのが怖いんだよ！」

彼らがレコード・ショップとして台頭していく中で、もう1つ大事な要素となっているのが、友人や店を訪れるDJたちがプレイするインストア・ライブを取り組んでいるということだ。Public Possessionの膨大なSoundCloudページ少し見ただけでも、SeverinoやOptimo Espacioといった要注目ゲストによるミックスが飛び込んでくる。彼らのショップ・サイトやソーシャル・メディアをチェックすれば、一貫して解像度の荒いプリント・スタイルや、延々と表示される会社の喧伝が、Public Possessionのビジュアル観を形成していることが目に見えて分かる。ビジネス志向のマニフェストを宣伝文句として使っている点から、架空のケータリング会社の体裁をとったグラフィック・デザインまで、彼らの活動を提示するこうしたやり方こそ、MarvinとValentinoのユーモアが輝きを放つ場所だろう。そして、今回の特集記事に付随する彼らのミックスにはスピーチをメインにしたインタールードの場面がある。ランチ・ミーティングでの会話が交じる粗野で芸術的な締めくくり方からも、Public Possessionが一貫性のある個性を持つ存在であることが、お分かりいただけるだろう。

「僕らにとってPublic Possessionは単にレーベルと店っていうだけではないんです」とValentinoが話す。「やっていて楽しいことや、デザインしていて楽しいことがまとまったものと言った方が近くて、レーベルのビジュアル面も、それ以外の部分と等しく大事なものなんですよ。Public Possessionワールドというのを作ってみたいんだと思います」

「他の人にはユーモアと思ってもらえないんじゃないかって、時々心配になるよ」と Marvin。「みんなが『うわ、何なのあれ』って思うんじゃないのかって」

"Ugli Elevator"でのドタバタ・アニメのサウンド・エフェクトのように、Tambienの音楽においても冗談めいた性分がにじみ出ているし、同様に、彼らがレーベル・アーティストの1人であるObalskiについて話すときは「我が社の株主」と呼んでいる。

「世界中のありとあらゆる組織団体に対する2人のポテンシャルと協調性について理解していますよ」とObalskiは2人のCEOに対し応酬する。「Valentinoにいたっては動物と話すことさえ出来ますからね」

ボーリング場を改装したミュンヘンのナイトスポットCharlieに貼られたホーム感溢れる彼らのマンスリー・パーティーや、急成長を遂げているDJブッキング部門の紹介文から感じられるのは、真面目に捉えることを拒否するようなヘタウマな魅力だ。この魅力について、Public Possessionはカルト・レーベルになりそうな匂いがする、と彼らに伝えると「その発言は、たぶん相当正しいと思うけど、計画的にやったことでは全く無いんだよね」とMarvinが主張した。「他と違っていたいとか、具体的に何かやりたいことがあって、やってるわけじゃないんだ。単に俺たちは色々異なるものに興味があって、そうした興味がレーベルの中でぶつかり合ってるってだけなんだよ」

Public Possessionが短い期間でここまで好感される魅力を持つようになったのは、差し詰め、見せ掛けではないこうした姿勢によるものなのだろう。エキサイティングで驚きに満ちた、瞭然たるダンス・ミュージックに対する鋭い聴覚をMarvinとValentinoが持っているということが最も重要なことなのだ。もしも生真面目な考えをもとに彼らが活動していたとしたら、決して同じサウンドにはならないだろう。「すごく人気のある音楽かどうかだとか、誰も知らない音楽かもしれないとか、そんなことは大事じゃないんだ」とMarvinがレコード・ショップの在庫について話す。「音楽がよければ、全てよし。俺らは別に" あのディガーが取り揃えたスーパー・レコード店"、みたいになろうとしているわけじゃない。レーベルも同じだよ。プレイすることが出来ない音楽とか、5人しか好きな人がいなそうな音楽のリリースを狙っているわけじゃないんだ」

Public Possessionは、これまでの経験を頼りにしたワイルドで冒険的な精神のもと成り立っている。どんな活動をしていたとしても、そんな彼らが大衆に歩み寄ろうとする姿を想像するのは難しい。しかし、脈々と続く彼らの活動にかけるエネルギーをもってすれば、Public Possessionが世界で関心を集め、ハウス・テクノ界にはびこる現状に甘んじたセレブたちに衝撃を与えるのも、そう遠くはないかもしれない。

Public Possession label of the month mix
MarvinとValentinoが、レーベルを象徴するような17曲をセレクトしてくれた。

Download: Public Possession mix

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Filesize: 104.7 MB
Length: 00.54:31

Intro
Henry Gilles - Exploring 0° S, 102° O (Public Possession)
Bell Towers - Territory (Samo DJ Disko Mix) (Public Possession / Under The Influence)
Matthew Brown - Headly Foot (Public Possession)
Interlude 01
Tamas Jones & Hysteric - Arabian Song Edit (Public Possession / Under The Influence)
Tambien - Sexalität (Public Possession)
Obalski - Lobo’s Bells (Public Possession)
Interlude 02
Anton Klint - Spritzer Part 01 (Public Possession)
Interlude 03
Bell Towers - Territory (Public Possession)
Interlude 04
Samo DJ & Kool DJ Dust - Acid Rasta (Public Possession)
Interlude 05
Henry Gilles - Instrumental (Public Possession)
Outro