Top 10 compilations

コンピレーションと一口に言っても、様々な種類の作品が存在する。過去作を振り返り、グレイテスト・ヒッツとして楽曲を集めたものもあれば、無名に近いアーティストの埋もれた作品をコンパイルした楽曲集もある。リミックス集もあれば、一貫したテーマがあるものもあり、レーベルやクルーの多様な作品をショーケースする類もある。既発表曲を集めたものもあれば、新曲、未発表曲のみの作品もある。その中でもベストと言える優れたコンピレーションは、何か新しいものを、あるいはすでに親しみのあるものを新しい視点から紹介するものであり、それが以下に選ばれた10作品に共通する点である。

- 10.
- Vangelis Katsoulis
  The Sleeping Beauties
  Into The Light Records
  
  アナログ愛好家のIlias Pitsios（Echovolt）とTako Reynega（Redlight Records）は、2012年に『Into the Light: A Journey into Greek Electronic Music, Classics & Rarities (1978-1991)』というコンピレーションを発表し、奇妙で魅惑的なギリシャのエレクトロニック・ミュージックの世界を紹介してくれた。今年の『The Sleeping Beauties』では、前述のコンピレーションに収録されていたアーティストVangelis Katsoulisの楽曲にのみフォーカスしており、1980年代に制作された時から現代も輝きが衰えていないアンビエント〜ニューエイジ作品をハイライトしている。
- 9.
- Various
  Brothers & Sisters
  Mister Saturday Night Records
  
  Justin CarterとEamon HarkinのDJを聴いて土曜日や日曜日を踊り明かした経験があるなら、そしてそれが特に彼らの地元であるブルックリンであったなら、彼らがスペシャルなDJデュオであることはもう解っているだろう。そして『Brothers & Sisters』は、彼らがA&Rとしても優れていることを証明している。Archie Pelagoのジャジーな広がりのあるサウンドから、Keita Sanoのレイヴィーで混沌とした世界、そしてAnthony Naplesの初期作品のクラシック感などをはっきりと線で結ぶのは難しいが、2枚のディスクを通してこれら多様な楽曲を順に追っていくのは、ワクワクさせられる。
- 8.
- Various
  Acid Arab
  Versatile Records
  
  今年、Guido MiniskyとHervé Carvalhoは彼らのAcid Arabプロジェクトの集大成となる作品をリリースした。収録された13曲は、北アフリカや中東の民族音楽からインスピレーションを受けたダンス・トラックであり、楽曲はMiniskyとCarvalho本人に加え、I:Cube、Etienne Jaumet、Pilooskiなどパリのアーティストらが手がけている。集まった楽曲群は、2014年の最も新鮮で個性的なクラブ・チューンばかりであった。
- 7.
- Robert Hood
  M-Print: 20 Years Of M-Plant
  M-Plant
  
  この3枚組コンピレーションは、Robert Hoodがいまもテクノのトップに君臨しているひとりであることを再確認させてくれる1枚だ。彼の様々な名義の楽曲33曲が、ミックスされていない、聴きやすい状態で収録されている。"The Grey Area"、"Minus"、"Untitled 1"といったクラシックであれ、"Alpha"、"We Magnify His Name"、"Baby, Baby"といった比較的新しい曲であれ、『20 Years Of M-Plant Music』は、Robert Hoodの音楽がいつまでも色褪せないことを明確にしている。
- 6.
- DJ Koze
  Reincarnations Part 2
  Pampa
  
  DJ Kozeのリミックスを"Reincarnations"（＝再生）と呼ぶのは腑に落ちる。なにしろ、Stefan Kozallaの場合はただ曲をリミックスするのではなく、全く新しい何かを作り出しているからだ。『Reincarnations Pt.2』はDJ Kozeらしいウィット、驚き、そして品格に富んでいる。同作にはRAの2013年のナンバーワン・トラックに輝いたHerbertの"It's Only"のリミックスに加え、今年のビッグヒットとなったリミックス（Moderatの"Bad Kingdom"）から、それほど知られていない良曲まで14曲収録されている。
- 5.
- Teklife
  Next Life
  Hyperdub
  
  『Next Life』は、売上の全てがDJ Rashadの息子に寄付されるという、賞賛すべきチャリティ・コンピレーション企画だが、感情に訴えかける部分を除外しても、同作はフットワークの進化と拡大が見て取れる良作品になっている。『Next Life』には世界規模で発展しているTeklifeの多様な所属アーティストが参加しており、音楽性も多様化している。8-bitなトラックもあり、スペーシーなインタールードもあり、ドラム＆ベース・スタイルのマシーン・ファンクもある『Next Life』は、フットワークの枠組みの中でも可能性は無限であることを伝えており、そのアチチュードはそのままRashadのレガシーにも言えることである。
- 4.
- Various
  5oFoF
  Friends of Friends
  
  LAはここ5年間で様々な様相を呈しており、Friends Of Friendsの5周年を記念した同作はこの変貌を的確に捉えている。Shlohmo、the LOL Boys、Salva、Daedelusなど重要なLAアーティストに焦点を定めた『5oFoF』は、埋もれた名曲よりはグレイテスト・ヒッツを集めており、このシーンに精通しているリスナーにとっては想い出の曲集となり、初心者にはアメリカのエレクトロニック・ミュージック界の鬼才たちの作品の良き入門編として機能する。
- 3.
- Various
  Livity Sound Remixes
  Livity Sound
  
  Livity Soundはここ最近、特に創意に富んだダンス・トラックをリリースしてきた。次のステップは何だろうか？ダンス・ミュージック界隈の指折りの独創的なアーティストたちに楽曲を再構築してもらう、というのもひとつの手だろう。テクノ界の古株（Surgeon）から若手（Pangaea）、L.I.E.S.（Ghost-202）やAcidoからベルリンのパーティー好き（MMMとNick Höppner）まで、『Livity Sound Remixes』には幅広いアーティストたちが参加している。"Velez"のリミックスを2曲提供したA Made Up Soundは、オリジナルと同等に形容しがたい作品を生んでいる。
- 2.
- Various
  Hyperdub 10.1 – 10.4
  Hyperdub
  
  Hyperdubほどクリエイティブなレーベルであっても、この10周年を記念したコンピレーション・シリーズはいつになく野心的であった。4部作で構成された同作は計6枚のディスク、全98曲にまで及び、収録された楽曲の約半分は新曲であったこと（同レーベルの最も人気なアーティスト、Burialの曲も含まれていた）、そして『10.3』は同レーベルが過去に少し手を出しただけであったアンビエントというスタイルを取り上げていた点も、特筆に値する。この冒険的な企画が見事に成立した事実は、Hyperdubがここ10年間、いかに頭ひとつ抜きん出たレーベルであったかの証拠だ（そういった証拠が必要だったとしたら）。
- 1.

Various
My Love Is Underground
Favorite Recordings

Jeremy Underground Parisによる、広範囲に渡る、感心させられるほど多様な楽曲集には新しいものはない。中には何十年も前に作られたものもある。にも関わらず、『My Love Is Underground』に収録された楽曲はなぜだか新鮮であり、今の時代に合致しているように聞こえる。この新鮮さは、どの曲も比較的知られていない点と、Jeremyの抜群な選曲センスによるものだろう。まだ記憶にない想い出を懐かしむような感覚だ。DiscogsやYouTubeで簡単に“ディギング”ができてしまう昨今、こういった知られていない名曲を見つけ出すことは以前よりは簡単になったが、こういったレコードのオリジナル盤を見つけ出すこと（そして高いお金を払うことの正当性を見出すこと）は今まで以上に難しい。夜遅くにパソコンの画面を食い入るように見つめ、DiscogsのWant Listをいじっている自分の存在意義を自問した経験がある人なら、きっと『My Love Is Underground』は手放せなくなることだろう。また、ただハウス・ミュージックが好きなだけという人でも、いままで聴いたことのないハウスの解釈を集めた重要な記録として楽しめる1枚である。

Top 10 online mixes

オンライン・ミックスやポッドキャストはコーヒーのように習慣的に（そしてどんどんと）消費しがちだ。そのため、今年消費したものから10本だけハイライトを選ぶのは容易なことではない。そしてこのカテゴリーにはラジオ番組からライブ・レコーディング、DJセットなど、様々な形態のものが含まれることも、より選別を難しくしている。だがその中でも、他とは一線を画すミックスがある。新進気鋭のDJの輝かしいプレイ（第1位）もあれば、キャリア随一の素晴らしさのフェスティバル・パフォーマンス（第2位）もあるが、こういったミックスは何度も再生を押してしまう。

- 10.
- Cashmere Cat
  Pitchfork // MoMA PS1 Warm Up Mix
  
  MoMA PS1のWarm Upの開催に合わせてPitchforkにて公開されたミックスにおいて、Cashmere Catはクラブ・ミュージックの境界線をなくすことで新鮮でワクワクするような対話が生まれることを見せてくれた。この若いノルウェー人アーティストがニューヨークの名高い美術館のイベントのために制作した40曲、60分間のミックスは、至る所から異なる要素を寄せ集めている。大陸を越えたジャージー・クラブ解釈があれば、オーストラリア人によるロンドン・グライムもあり、ヨーロピアン・アーティストがメインストリームUSヒップホップに挑戦したものもあった。挙げればキリがない。このミックスの最大の魅力は、Cashmere Catがこれほど多様なサウンドを集めたにも関わらず、全てが同じ言語を話していることだ。
- 9.
- Traumprinz
  Giegling Mix 05: This Is Not...
  
  Traumprinz（別名Prince Of Denmark、あるいはDJ Metatron）がヴァイマルの霧から現れ、アルバム、12インチ、ポッドキャストなど音楽をリリースするとなると、人は興奮する。彼の『This Is Not…』は2013年のTraumprinzのRAポッドキャストの続編に近いものであった。Gieglingのサイトで5月に公開された同ミックスは、Traumprinzのセットの特徴である、タフな部分も、メロディアスな部分も内包したものになっており、Gieglingの秘密ではない秘密兵器としての地位を再度確立した。
- 8.
- A Made Up Sound
  Clash DJ Mix
  
  このミックスのトラックリストには"forthcoming"（＝近日発売予定）という言葉が頻出する。Dave Huismans、別名2562、A Made Up Soundはただ良い曲を盛り込むのではなくて、新しく、刺激的で人を興奮させるサウンドをミックスに入れることを心がけているDJだ。毎回、このオランダ人DJのセットでは驚くほど新しいものを聴くことができ、昨今のダンス・ミュージックであまりない気分を味わわせてくれる。
- 7.
- Leif and Joe Ellis
  Hessle Audio Rinse FM Podcast - UntilMyHeartStops
  
  Ben UFOがLeifとJoe EllisにHessle Audioのラジオ番組を一晩独占させた理由は明確だ。UntilMyHeartStopsのふたりはナイトクラブではなく、“ヘッズ”しか来ないようなウェールズの森のレイヴやハウス・パーティーで培った、とてつもなくディープなDJスタイルを誰よりも上手くこなす。色鮮やかで、トリッピーで、モダンであり、揺れるリズムと豊潤なビートレス・セクションに溢れた同ミックスは、夢幻的ダンス・ミュージックの最高峰だ。
- 6.
- DJ Tennis
  Robot Heart - Burning Man
  
  一体感、スピリット・アニマル、快楽主義といったワードが飛び交うあまり、Burning Manに実際に音楽目当てで行く人も沢山いることを忘れてしまいがちだ。DJ Tennisが同フェスのRobot Heartステージで行ったセットは、そういった客層の存在を思い出させてくれる。Cobblestone Jazz、DJ Koze、Roman Flügelといったビッグネームの曲が投下されるこのミックスは、人が忙しなく動き続ける場所には最適なセットになっており、文脈を越えて楽しめるという事実がいかに強力なプレイだったかを物語っている。
- 5.
- Leon Vynehall
  FACT mix 429
  
  今年ブレイクを果たしたLeon Vynehallの1年を振り返ると、3つのハイライトが思い浮かぶ。「Music For The Uninvited」、「Butterflies」、そして『FACT 429』だ。2枚のEPよりも先に出たこのミックスこそが、この若いイギリス人に注目が集まったきっかけであり、DJとしての彼の多様な嗜好をショーケースした（Pépé Bradock、Steve Reich、Talking Heads）上、彼の制作スキル（"Butterflies"、"It's Just (House Of Dupree)"）を提示した。Vynehallはヘッズにもカジュアル・クラバーにも好まれる珍しい才能であり、このミックスが多くの人に支持されたのがその証拠だ。
- 4.
- The Black Madonna
  Beats In Space 745
  
  今年公開されたThe Black Madonnaの特集記事の中で、彼女がどんな作品を作ろうとそれは常に「ディスコの一種」になると本人が言っていた。それはBeats In Spaceのポッドキャストでも同じであり、彼女のテイストと技術が良く解る、ディスコを多角的に捉えた万華鏡のような内容になっている。ソウルフルな楽曲から、イタロ調のナンバー、直球なハウスもの（最後のほうのピアノのブレイク部分は要注目）をライトなタッチで紡いでおり、まるでレコードが勝手に流れ出しているかのような繊細さがある。
- 3.
- Joy Orbison
  Essential Mix
  
  想像通り、Joy Orbisonの『Essential Mix』は、Pearson SoundやJames Blakeといった彼の著名な友人たちの未発表曲を盛り込んだミックスに仕上がっている。だがこのロンドン拠点のDJはレコードバッグから珠玉のレコードも引っぱり出しており、2時間に及ぶミックスは80年代のオーストラリアのエクスペリメンタル・ミュージックで幕を開け、Smith & Hackの2007年の壮大な"Falling Stars"で締めくくられている。ハイライトは、Barntの"Under His Own Name But Also As Sir"と"Chappell"のワンツー・コンボであり、今年のベスト・ダンスフロア・レコードを一足先に味見することができた。
- 2.
- Objekt
  Live at Freerotation 2014
  
  今年のウェールズのFreerotationフェスティバルにて、DJを開始してから1時間ほど経ったころ、TJ Hertzはそれまでの半分ほどのBPMへとテンポを落とした。カーペットが敷かれた舞踏場の「Room 2」は我慢できないほどの暑さであったが、オーディエンスは彼がかけるビート全てに身を任せていた。そのうち低音が切られ、駆け上がっていく音が曝け出された。その下からHertzは素晴らしいエレクトロ・トラックを徐々に前面に出した。これは後に彼の"Ganzfeld"であることが解る。そしてついにキックが現れ、フロアはカオスに。早いBPMの近未来的なテクノ、エレクトロそしてIDMを混ぜ合わせ、Objektらしい世界を作り出す彼の手腕を象徴したプレイであった。
- 1.

Mike Servito
No Way Back

No Way Backは、過去には「米国中西部の深夜DJの失われた美学を祝福する」イベントだと言われていたが、5月に開催されたMovementのアフターパーティーもまさにその形容に合う夜であった。史上初のテクノ・クラブと言われれるThe Music Instituteの跡地である、1515 Broadwayにて開催された同イベントには、Carlos Souffront、Patrick Russell、BMGらデトロイトの陰のヒーローたちが出演し、暑い、暗い、狭い部屋を、デトロイトのような街で長年活動してきたからこそできるセットで満たした。この晩回したDJは全員素晴らしかったが、特に注目を集めたのはMike Servitoであった。

BMGはServitoのセットを「思いっきり平手打ちを喰らったよう」と表現するが、この晩の録音を聴くとその言葉の意味が解る。彼の酩酊的かつ、盛り上がる選曲は終始完璧であり、素早くカッティングするミックス・スタイルは観客を暴れさせるが、一番の魅力は彼のタイミングと構成力ではないか。ミックスを通して、16小節後にはまた爆発的なサビが待ち構えているような気がしてならない。そしてKiNKの"Existenz"のような爆弾から、Talking Headsの"Girlfriend Is Better"という変化球へと繋がるような展開は、普段聴くことがあるろうか？失われた美学とは、このことである。

Top 10 official mixes

今年公開された特集記事で掘り下げた通り、ミックスCDにとってどんどんと過酷な世の中になっている。毎年、作品の選択肢が減っていることは否めない。しかしひとつ解ったことは、続けたがっている人達は何があろうと続けようとすることだ。ミックスCDをコンスタントにリリースしている者達にとっては良い年となり（fabric）、ちょっと変わったことをやった者達もいれば（Optimo）、新しくシーンに参戦した者達もいた（Beats In Space、Mister Saturday Night）。

しかし今年最も注目を集めたミックスは、フィジカルというフォーマットを捨て、“オフィシャル”ミックスという言葉の意味を広げ、ミックスCDの未来を示唆した斬新な作品であった。

- 10.
- Tim Sweeney
  Beats In Space 15th Anniversary
  Beats in Space Records
  
  Beats In Spaceはもともとゲスト目当てで聴き始めるかもしれないが、一旦Tim Sweeneyの魅力に引き込まれたら、彼目的で聴き続けるだろう。『Beats In Space 15th Anniversary Mix』は、彼のラジオ番組の前半でゲストがスピンした後、SweeneyがDJをし、時にはゲストをも凌駕したプレイを見せる番組の後半をミックス化したもの。Tensnakeの"In The End (I Want You To Cry)"などクラシックを完璧にミックスしたDisc 2には、Timの重要曲を選別するセンスが溢れている。しかしDisc 1に収録された新曲は、15年経った今も彼の耳が劣っていないことを解らせてくれる。
- 9.
- Rebolledo
  Momento Drive
  Kompakt
  
  DJ、そしてプロデューサーとして、Rebolledoは前へと進む勢いを大事にしている。「トラックが人にどういう反応をさせるのか想像するようにしているんだ」と、彼は今年行ったインタビューで言っていた。「俺にとってそれは、常に動いているような感覚、逃避、音楽に我を失っているような気分なんだ」。これは、彼がKompaktのために仕上げた『Momento Drive』でも良く現れている特徴だ。彼はこのスタイルにおいては遅咲きだが、この躍動感はコンテンポラリー・ダンス・ミュージックよりはクラウトロックに近いムードによって作り出されている。異世界のような音景色が広がり、暗いが希望のあるムードが漂い、そしてその下で、ドラムが躍進を続ける…
- 8.
- Pangaea
  Fabriclive 73
  Fabric Records
  
  テクノはシリアスなジャンルだ。気難しそうなプロデューサーたちの白黒写真や、鬱々としたトラック・タイトルを見なくても、それは一目瞭然だろう。そんなテクノというジャンルがどれほど楽しい音楽になるのか、部外者だからこそ見せられるのかもしれない。Hessle Audio設立者のひとり、Kevin McAuleyの大注目作となった『Fabriclive 73』において、彼はシリアスな音楽を遊び心満載で提示した。ラフでダークなテクノのなかに、彼はサビやバウンスを見出し、原曲が解らなくなりそうなほど素早く繋げ、テクノにひねりを加えたのだ。
- 7.
- Will Saul
  DJ-Kicks
  !K7
  
  「経験を元に書きなさい」という古い格言があるが、Will Saulはこの考え方をどうやらDJ-Kicksのミックスにて実現しているようだ。収録された21曲は主に自身のレーベルSimpleとAusからの曲と、彼の周辺にいるプロデューサーの作品で構成されている。このアプローチによって同ミックスには素晴らしい一貫性が生まれているが、それはSaulが元の楽曲に親しみを抱いているからだろう。Saulはこのミックスをクラブでのパフォーマンスに近いものにしたかったと語っていたが、沸き立つシンセ、色褪せたパッドと丁寧に並べられたパーカッションのおかげで夢見心地な雰囲気が漂っている同作は、自宅でゆっくりと鑑賞することにも最適である。
- 6.
- Prosumer
  fabric 79
  Fabric Records
  
  Andrew RyceはProsumerの前回のミックス、『Panorama Bar 03』を「楽しく聴ける作品」と評価した。『fabric 79』でも同じことが言える。同作はクラシック・ハウス、荒削りなテクノ、ファンクやディスコを巧みに、そしてとてつもなくダンサブルに繋げている。パーティー・ミックスであると同時に、レコード・ディガーが羨ましくてしょうがなくなる楽曲も飛び出す。しかし、それがAchim Brandenburgの魅力だと言える。頭、心、そして腰を同じぐらい刺激する音楽をプレイするのが得意なのだ。
- 5.
- Optimo (Espacio)
  Dark Was The Night
  Endless Flight
  
  暗い冬の夜。これがJonnie WilkesとKeith McIvorがEndless Flightのために制作したミックスのインスピレーションであった。1927年のブルース・ナンバー、"Dark Was The Night, Cold Was The Ground"をモチーフにした同作は、Grouper、Terrence Dixon、Silent Servant、Nurse With Woundなど冷たいミニマリズムやポスト・パンクを展開しており、Angel Corpus ChristiによるSuicideの"Dream Baby Dream"のカバーで締めくくられている。彼らが手がけてきた中でもベストミックスと言えるかもしれない。
- 4.
- Prins Thomas
  Rainbow Disco Club Vol.1
  Endless Flight
  
  いまどき、“ディスコ”というワードは、他の言葉で説明できないほど多様なセットを展開するDJなら誰にでも使われてしまう傾向にある。『Rainbow Disco Vol.1』で解る通り、Prins Thomasはその代表例だ。同作の仕上がりはこのノルウェー人DJらしい清々しいものになっているが、選曲そのものは非常にバラバラであり、Surgeon、Bee Mask、Skatebård、Shed、Floating Pointsといった幅広いアーティストを線で結んでいる。ディスコであろうがなかろうが、紛れも無く非凡なDJの腕前がしっかり現れた作品になっている。
- 3.
- Pinch & Mumdance
  Pinch B2B Mumdance
  Tectonic Recordings
  
  Pinchは、新しい境地へと進むことに固執している音楽シーンのゴッドファーザーだ。彼の後輩Mumdanceと一騎打ちを行った同作で、彼はUKダンス・ミュージックを、もはや原型を留めていないほど、未来の領域へと押し進めている。ドラムはカオスに飛び跳ね回り、どこからともなくベース音が轟き、メロディーはといえば…そんなものは存在しない。ダークで、容赦なく、時に耳を疑う『Pinch B2B Mumdance』は、２人の夢想家たちが、型を破るどころか爆破した音を収めている。
- 2.
- Marcel Dettmann
  fabric 77
  Fabric Records
  
  Marcel DettmannがDJミックス道を極めたことは以前から周知の通りだ。彼の最新のミックスがこれまでの作品と何ら変わらないものであっても問題はなく、伝統的なテクノ中毒者としての評判をさらに確固たるものにしただろう。『fabric 77』もそういった聴き方は可能だが、それだけでなく、この1枚は彼の違う面を明るみに出した。新曲を探究する彼だ。未発表曲で溢れたこのミックスは、テクノの真髄を見せるというよりは、進化の過程を記録したものになっている。埃まみれの箱をディグするのではなく、USBのファイルの中から、この音楽スタイルの未来を探し出したような作品だ。
- 1.

Ryan Elliot
Panorama Bar 06
Ostgut Ton

Ryan ElliottのPanorama Barミックスは2つの理由で重大であった。第一に、達人DJが自身のホームクラブの雰囲気を的確に表す素晴らしい楽曲をミックスしているという解りやすい理由がひとつ。Newworldaquarium、Deadbeat、Nick Höppnerらの新曲から、皆が大好きな定番曲まで、熟練の腕前で様々なスタイルの楽曲を優雅に繋いでいる。そして35曲収録、再生時間90分に及ぶ内容は、通常のミックスCDよりもボリュームがあった。それが、2つ目の理由に関連している。『Panorama Bar 06』は、Ostgut Tonが初めてCDではなくデジタルで発表したミックス作品になる。フリーダウンロードで配信された同作は、ただのポッドキャストとは違い、写真やライナーノーツ、詳細なクレジットが記載されたハイクオリティなデジタル・ブックレット付きであった。同作で彼らはプラスチックの円盤はなくとも、人気ミックスCDシリーズと同等の質のキュレーションを行うことは可能であることを証明した。『Panorama Bar 06』が今後のミックスCD業界にどういった影響を及ぼすかはまだ定かではないが、すくなくとも、Ostgut Tonが2014年に変革をもたらせたことは確かだ。

この結果は、RAのスタッフとコントリビューターの投票により決まりました。