バンクーバーは決して大きな街ではない。そのため、この街に住む人々はみんな互いに知り合いのようなところがある。誰にも気づかれずにパーティーを打ったり、レコードをリリースしたりすることは難しい。だからこそ、バンクーバーでRichard MacFarlaneという男が筆者の目と鼻の先で1080pなるテープ・レーベルを運営していたことを知った時、既に数多くの作品が発表されていたのには驚いた。筆者は彼のことを個人的には知らなかったが、レーベルを見ればどういう人柄か察しがついた。色彩豊かで冒険的なテープ作品は、ほぼ無名のアーティストに手によるもので毎週、発表されている様子だった。どのテープも新しく他とは違う驚きと喜びに満ちていたのだ。

MacFarlaneは元々ニュージーランド出身でイギリスやオーストラリアで思うような生活が出来なかった時期を過ごした後、ふとした思いつきでバンクーバーに引っ越した。ニュージーランド時代のMacFarlaneは熱心なブロガーでRose Quartzというウェブサイトを運営し、主にラウド系、DIY系の中でもキワモノな音楽に焦点を当てていた。彼がキュレーションのコツを掴んだのはこのブログを通じてのことだ。彼はNot Not Funのようなレーベルともコンタクトを取るようになったが、彼らの広範囲な音楽と頻繁なリリース・スケジュールはMacFarlaneに多大な影響を与えた。しかし、当時彼が住んでいたクライストチャーチ（ニュージーランドの都市）は物価が高いことに加え、ローカル・シーンとリアルな繋がりが全く無かったため、この場所でレーベルを始めるのは得策ではないと判断した。大陸の端に位置する中規模の街バンクーバーは、引っ越し先としては奇妙な場所かもしれない。しかし、MacFarlaneにとっては自分が生活していくには十分に素敵な場所に映ったのだ。

彼はバンクーバーへの移住を決め、ブリティッシュ・コロンビア工科大学でのウェブ開発プログラムへ通うことになったのだが、その頃彼の興味を掻き立てたのが、同時期にエレクトロニック／ダンス・ミュージックへと移行を始めていた世界のDIYシーンだ。丁度いいタイミングだったことも彼の興味を後押しした。彼がこの街に到着したのは、Mathew Jonson、The Mole、HrdvsionらWagon Repairのクルーやその後に続いて興隆を見せたダブステップが去り、ぽっかりと空いたクリエイティブ・シーンの隙間を新たな波が埋め始めていた頃だ。当時、地盤を固めつつあったのがブティック・パーティーからレーベルに転身したMood Hutで、その周辺には新たなプロデューサーたちが萌芽の時を迎えていた。それは新たな土地のことを何も知らない者にとっては幸運な状況だったのだ。

「思っていたよりも良い街だったよ」とMacFarlaneは笑いながら語る。「地理的にもバンクーバーにビーチがあるってことさえ知らなかったんだ。『OK、こいつはなかなか良さそうだな。シアトルにも近いし』って感じだった。その後、この規模の街にしてはすごく多くのことが起こっていることに気付いたよ。おそらくこの街は完璧だね。だって、全てのことの中心になっているから。多分だけど、もし俺がニューヨークに住んでいたら、多くのことが起こりすぎていて、逆に色んなことをやるのが本当に難しくなっていたと思う。バンクーバーでもたくさんのことが起こっているけど、そこから自分自身を引き離すことが出来るんだ。遊びに行きたければ遊べるし、そうじゃない時は、バンクーバーのチルアウトを楽しむことも出来るのさ」

身の回りで起こっていることから刺激を感じ、キュレーションをもう一度やってみたいと思っていたMacFarlaneは、ブロガーをやっていた時に絶賛していたレーベルに習って、自身のプロジェクトにはカセットが最も自然な選択という結論に至る。当時の彼にとって一番のモデルとなったのはOpal Tapesだった。彼と似通った考えの下、運営されているプラットフォームであり、RAでも丁度2年前に紹介している、外側の視点をダンス・ミュージックに持ち込んでいるレーベルだ。

「ある意味（Opal Tapesと同じような音楽に）興味はあったよ」とMacFarlaneは説明する。「でも、俺はもっとメロディアスで昇って行く感じのものを好む傾向にある。俺にとってはヒプナゴジック・ポップ（覚醒と睡眠の狭間にあるポップ・ミュージック）の存在がデカかったと思うな。それにダンス・ミュージックらしい要素を取り入れている人がテクスチャーやムードを重視しているのが大好きなんだ。Bobby Drainoみたいな少数の人たちがこの手の歪んだハイブリッドを作っていて、特定のジャンルに密に関わっていないのに、いくつかのジャンルを融合させているんだよ」

音楽がどのように提示され、プロモーションされ、消費されているのか—MacFalaneは音楽のあらゆる側面にこだわる類の男だ。自身のテープ・レーベルを構想していた時、彼は全タイトルをデジタルでも利用可能にするかどうかで悩んだようだ。今回のインタビューで数回、彼が口にして心配していたのが、デジタルにすることでテープでのリリースが「見せかけ」として捉えられるかもしれない、ということだった。しかし、彼にとって重要だったのは音楽を隠すことではなく、広めることだった。

「レーベルを小規模で聖なるもののように運営し続けたくなかった。もっとみんなに手に取ってもらえるものにしたかったんだ」とMacFarlaneは話す。「その点で、アート面をとても強力なものにしたことが良い方向に働いている。これだけレーベル運営でデジタルが当たり前になっているからこそ、Soundcloudでもウェブ上の投稿でも、最初に目につくのはサムネイルなんだ。サムネイルを見て、どんな音なのかイメージが沸くことが俺にとっては本当に大切なんだよ」

1080pのアートワークはバカバカしく自意識な雰囲気が出ていることが多い。MacFarlaneはリリースにあたって各アーティストと密に話し合いを持つと決めており、彼らのアイデアやどんなデザイナーと一緒にやりたいかをヒアリングするのだが、このアプローチによって一際目を引くスリーブが生まれている。OOBE『Digitalsea』　のWindows 95をモチーフにしたフューチャリズム、Via App『Dangerous Game』のカラフルな地下風景、そしてAT/NU『Psi Grove』のスピリチュアルな模様はその中でも顕著なデザインとして挙げられる。フューチャリスティックからキッチュなスタイルにまで及ぶ多様さは、一見すると際限なく様々な種類の音楽を網羅している1080pをビジュアル面で力強く代弁しており、その性格は1080pという技術フェチな名前そのものにも表れている。

Digitalisea

「2年前に任天堂で働いて、MetrotownのMetropolis MallでWiiのデモ・プレイをやっていたんだ。その時の上司が中折れのハットを被るような男で、彼は高解像度クオリティのものに夢中でさ、それで1080p（解像度を示す際に使われる言葉）のことを延々と話してた。解像度とか、この手のものって、自分の目の前に存在しているから気になっちゃうんだ。資本主義的というか何というかね。その時、俺は何かレーベルの名前を考えないといけなくてさ。1080pって名前は短くてバカっぽいけど、それほどシリアス過ぎないし、ちょっとアブストラクトというかぼんやりとしているイメージに思ってもらえるかなって」

1080pからリリースされた最初の4作品は設立から2カ月内、2013年の夏に発表され、伸び伸びと拡張していくオタクっぽい感覚をダンス・ミュージック上で露わにした。今でもなお、作品からはその重要性が決定的に感じられる。第1弾となった作品はバンクーバーを拠点とする元LOL Boys、Markus GarciaによるプロジェクトHeartbeat(s)のお披露目ともなった。そのテープ作品『Home Remedies』には、こもったサウンドを通じて表現された浮遊感のあるビートが詰まっている。

「Heartbeat(s)はインターネット・コラボレーションLOL Boysをやっていたこともあって、オンライン上やフォーラム上にだけ存在しているかのように見えたんだけど、実際、彼はバンクーバーで生活していて、この街の特殊なクラブ・シーンと繋がってるんだ」とMacFarlaneは話す。「だから、元々俺がやっていたことでもあるオンライン上のアプローチを、リアルな世界に存在するものに繋げることはすごく興味深いと感じたよ」

続く数枚のリリースで1080pは世界の隅々にまで飛び立つことになる。ブルックリンのM/Mは『Midtown Direct』でチルアウト・テクノと繋がり、ベルリンのTings & Savageは『Brain Foam』にてトランシーなトビを孕んだジャム・セッションを行った。そしてメルボルンを拠点とするAbstract Mutationは『Fake Keygen』にてベーシックで力強いテクノに手を加え進化させた。その次にバンクーバーに戻ると、Bobby DrainoがXophie Xweetlandと組んでスプリット・リリースを発表。James Ferraroの未来的なレンズを通して眺めたようなアシッド・ハウスを感じさせる眩いビートが用いられた。こうした初期のリリースを振り返ってみると、1080pには既に際立つ個性が根付いていたことは明白だ。世界を視野に入れた展望、遊び心のあるビジュアルの世界観、定義不可能なスタイル。それは同時にレーベルが持つ最も印象的で圧倒的な領域でもある。

「実験するための場所として1080pを運営したかったんだ」とMacFarlaneは説明する。「テープ・フォーマットって、有名なアーティストが変なサイド・プロジェクトをやるときに使えるものだと思う。俺はレーベルのコミュニティとしての一面に焦点を当ててるんだ。だって1度も人前でプレイしたことの無い人に最初のチャンスを与えることってなかなか難しいでしょ。たくさんのジャンルがあって、時にはバカみたいにクオリティが違うプロダクションや音楽観のものもある。自分にとって筋が通っているものから良い構成っていうのは生まれると思うんだけど、俺が一番心配しているのは、俺がどんな風にサウンドを感じているかは文脈的に他の人とは異なるかもしれないってことなんだ。信頼の置ける存在になるということはレーベルであることにおいて大事なことだよ。この信頼は、来年もっとフォーカスして築いていきたいね」

最近ではニューヨークの反逆児GobbyやMagic FadesによるサイバーネットなR&B、Babe Rainbowによるソロ・ピアノ、そしてDan Bodanの親しみの沸くベッドルーム・ポップをリリースするなど、レーベルの作風が毎回どれだけ異なっていようと、一貫性の無さということで1080pを責める者がいるとは思えない。レーベルの集中的なリリース・スケジュールはある意味では実践的であり、ある意味では世代的な姿勢の表れだと言える。このスケジュールはインターネットのペース、そしてMacFarlaneが見つけたり受け取ったりする音楽のペースに付いていこうとする彼ならではの試みなのだ。

「3タイトルを同時にリリースしようとしていて」とMacFarlaneが説明する。「アートワークもある程度整えて、全部をまとめてミズーリにあるNAC（the National Audio Company）っていう場所に送るんだ。NACはとてもキリスト教な会社で、もともと教会のテープを受け持つところから始まってるんだ。その後、2000年代になるとノイズの人たちがNACを使うようになったんだよ。だって彼らはカスタムメイドのテープを制作するのが得意だろ。Night PeopleのSean、Not Not FunのBritt、Leaving RecordsのMatthewとか、みんなNACを使っていて、みんなで得た知識を喜んで共有していたんだ。俺がやった最初の数本のテープを作るのに、リッチモンドにあるクソみたいな場所を使ったんだけど、マジで最悪だったよ」

1080pは新しいアーティストや完全に無名な人がブレイクするのをサポートすることを率先する、物好きなところがある。その中で最も大きな成功例に、うなぎ登りのカナダ人アーティスト2人がいる。『Hello World』で子供時代のノスタルジアをミックスし、就寝前に効く心地よいディープ・ハウスを生みだしたエドモントンのKhotinは、今や西カナダで最も目にすることが多いニューカマーとなっている。そして、バンクーバーのLnrdcroyだ。彼のラウンジ仕様でありながらエモーショナルな『Much Less Normal』は1080pの傑出したリリースとして最前線に躍り出ている。

「誰が最初にLnrdcroyのことを投稿したのか忘れちゃったな。たぶんMood Hutが自分たちのTumblrに書き込んだかな。Tyler FedchukかZiaだったかも。誰かがそれをFacebookに投稿していたのを見つけたんだ。それで「ワオ」って感じでさ。2年間、この街に住んだ俺にとっては、まさにバンクーバーのサウンドだったんだ。太平洋側の北西沿岸にあるこの街はもっとこういうサウンドと深く関わることが出来ると思う。このサウンドには曇った感覚があるんだ。Lnrdcroyは俺に少し古めの楽曲をまとめてくれたんだけど、カセット・フォーマットに見事にハマるなって俺は思ったんだよ。だって彼は12インチのテクノものも作ってるからね」

Lnrdcroyのテープ作品はロングラン・ヒットとなっており、じっくりとテンションを焦がしていくこのタイトルは2014年における1080pの中でもベストにあたる。そしてカセット界では滅多に無い追加発注をすることになっているだけでなく、Firecrackerからヴァイナルとして再発されることが決定している。さらに収録曲の1つであるファンキーなトラック”Sunrise Market”も、バンクーバーで話題となっているPacific Rhythmから長尺バージョンで再発された。しかし、注目を集めているテープはLnrdcroyのものだけではない。Khotinの『Hello World』がFaux Pasよりヴァイナルで再発されたばかりなのだ。

こうした最近の成長によって1080pはバンクーバーの物珍しい小さな活動から、アーティストが奇妙でエキサイティングな音楽を作る国際的なプラットフォームへと生まれ変わった。MacFarlaneもウェブサイト開発者や、コマーシャル・ドライブにあるレコード店Audiopileでのシフト勤務など、色々と変わった仕事をやっているが、現在、彼は1080pの運営で生活していくことを計画している。来年は彼にとって栄光の年になりそうな気配だ。Max McFerren、Young Braised、そして再びレーベルに帰還するLnrdcroyなど数多くのアーティストだけでなく、Friendly Chemist、Project Pablo、Moon B、Scientific Dreamz Of Uのような有望な新人のデビューが控えているのだ。最近の成功はMacFarlaneがヴァイナルの派生プロジェクトを始めることを検討するきっかけにもなった。

こうした最近の成長によって1080pはバンクーバーの物珍しい小さな活動から、アーティストが奇妙でエキサイティングな音楽を作る国際的なプラットフォームへと生まれ変わった。MacFarlaneもウェブサイト開発者や、コマーシャル・ドライブにあるレコード店Audiopileでのシフト勤務など、色々と変わった仕事をやっているが、現在、彼は1080pの運営で生活していくことを計画している。来年は彼にとって栄光の年になりそうな気配だ。Max McFerren、Young Braised、そして再びレーベルに帰還するLnrdcroyなど数多くのアーティストだけでなく、Friendly Chemist、Project Pablo、Moon B、Scientific Dreamz Of Uのような有望な新人のデビューが控えているのだ。最近の成功はMacFarlaneがヴァイナルの派生プロジェクトを始めることを検討するきっかけにもなった。

1080p LOTM mix
67分間に渡る1080pの奇妙なサウンド。その9割が新作トラックだ。

Download: mix

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Filesize: 162.8 MB
Length: 01:07:50

Neu Balance - Guu Yuu
Surfing - It Doesn't Matter
MCFERRDOG - What Up Dawgy
Friendly Chemist - Visions from Yesterday (Deep Sax Mix)
Project Pablo - Movin' Out
Khotin - Recycle (5am)
Journeymann Trax - Ice Sheets
Young Braised - Middle Class Homie Quan
LNRDCROY - Balaeic32
Daragh and Mel - Jum
Scientific Dreamz Of U - Modern Update
Perfume Advert - Death Bed
Gobby - Macalester
Via App - Sun Kissed
Mongo Skato - Turismoc
M/M - Sphere 5
OOBE - Deep Space Lovers
D. Tiffany - Far Out