Chris Clarkの作品には「多様」の一言では片付けられないほど多様性がある。たとえ彼の曲どれか1つだけを説明する場合でも、おびただしい数の言葉が必要となるだろう。さらにアルバム単位で見ても、全7枚のアルバム、及び重厚な2枚組のリミックスLPには、それぞれに異なった独自の個性と味わいがある。また、Clarkは多くのWarpのアーティストと同様、一度もWarpから離れることなく、レーベルのオープンマインドな特性を活かして、次々と自分のサウンドの実験と刷新を繰り返してきた。グリッチIDMを収めたデビュー作『Clarence Park』を発表してから15年が経ったが、その間もClarkは恍惚のアンビエンス、多幸感をもたらすベース、灼け付くようなテクノ、果てはポップまで、ほぼ全ての音楽を制作してきたのだ。

そこにきて今回のPlaying Favouritesだ。このシリーズで挙げられる音源は、いつも多岐に渡るが、上には上がいるということを筆者は思い知った。イギリス人のClarkとベルリンで会い、チャイを飲みつつ話を聞いたのだが、彼が選ぶ作品には、クールなレコードだけでなく、明らかにダサいレコードも含まれていたのだ。そうした作品を通じて、少年時代からWarpとの出会いについて彼は落ち着きなく語った。

Nirvana
Scentless Apprentice
1993

おそらくNirvanaがこのシリーズで挙がったのは初めてですね。

そういうのって楽しいよね？いや、そんなことないか。Nirvanaは素晴らしいと思うよ。みんなが初めて好きになるバンドって大抵Nirvanaだよね。Nirvanaはメタルじゃないのに、ラウドでアグレッシブなバンドだった。この曲のビートの部分を演奏しようと毎週頑張っていたな。最初の小節が最高のドラムでさ。結構テクノっぽいよ。

では、ドラム・セットを持っていたんですね？

いや、俺が参加していたオーケストラがあって、そこで毎週練習してたんだ。実は自分のドラムセットは持ってなくて、練習用のパッドを使ってた。テラスハウスに住んでいて、大きい音を出せなかったからね。

え、オーケストラでNirvanaを演奏していたんですか？

いや、ドラムはもう少し後だ。オーケストラではバイオリンを弾いていたんだけど、あんまりカッコよくないよね。それほど上手くなかったし、一度も練習しなかったね。けどドラムの練習は結構簡単だって思ったんだ。初めて時間をかけて練習した楽器がドラムだった。バイオリンは全くのめり込むことが出来なかったな。

Nirvanaの中でもどうしてこの曲を？

この曲はドラムが全てだね。実際はかなり安っぽいけど、聞いていて気持ち良いんだ。Steve Albiniが手掛けた作品だからだと思う。彼がこの曲を分厚く鮮やかなサウンドにしてるんだよ。

当時は何歳でした？

12歳かな、たぶん。

Nirvanaは初めて好きになったバンドの1つですか？

いや。全然。Nirvanaがやってること全部が好きなわけじゃないよ。でもNirvanaはメタルとは違う初めてのバンドだった。メタルを取り巻くイメージってくだらないと常々思うよ。男臭いし。でもそのイメージをカッコよくしたのがグランジだったんだと思うな。例えば、ボーカルは若干軟弱な感じがあって、歌詞はトリッピーで変でしょ。すごくアグレッシブなサウンドなんだけど、型にハマってなかったし、メタルのようにLynxのデオドラント臭がすることもなかった。

Shellac
Watch Song
2000

これはSteve Albiniがお気に入りのバンドだね。彼はNirvanaだけじゃなく何百ものバンドをプロデュースしてきたけど、彼のドラム・マイキングは素晴らしいね。とてつもなくデカイ音がするんだ。Shellacは彼のバンドで、上手く説明できないけど、良い意味で角張ったリフをShellacは使うんだよ。俺はそのリフがすごくキャッチーだと思う。”Watch Song”は「よお、ケンカしようぜ」ってSteve Albiniが叫んでるだけなんだ。

この曲は私生活を反映していますか？10代はケンカっぱやかったとか？

そうなんだよ。俺も昔はワルでさ・・・って違う違う。多分、全然ワルじゃなかったからこの曲が好きだったんだと思う。想像の世界に浸れたからね。この曲のすごくアグレッシブで反抗的なところが好きなんだ。でもそれはカタルシス的な意味で好きってことだよ。すごく歪んでいて汚い曲なんだけど、聴いててスカッとする。このプロダクションには”何か”があるんだ。どこか惹き込まれる暖かさみたいなものがさ。

Shellacはお気に入りのバンドだったりしますか？

確実にそうだね。でも、彼らの新作を聴いたらそれほど良いとは思わなかったけど。

彼らのライブを見たことはありますか？

いや、一度もない。俺はライブを見に行くことを全くしないんだ。たぶん、行くべきなんだろうけど。時間が無いんだよ。たくさん音楽は買って聴いてるよ。でもライブはなぁ。これを言うとダメなヤツだと思われるだろうけど、俺が好きなのはプロデューサーがどういう狙いで制作しているのかを聴くことなんだ。自分が知っている曲が音環境のせいで完璧の状態で演奏されていなかったり、もしくは完璧じゃないと俺が思ってしまう演奏は聴きたくない。レコードと同じクオリティのライブは今まで一度も見たことがないよ。唯一の例外は俺が若い時に見たToolだけだね。

Duran Duran
Ordinary World
1993

これはかなりセンチメンタルな曲を選びましたね。

9歳の時だったかな。この曲は俺が初めて買ったカセットシングルなんだ。色んな意味で”濃い”曲だね。アレンジは気持ち悪くなるくらい甘ったるくて、シャンプーのCMみたいなサウンドなんだよ。あ、それは良い意味でね。良いシャンプーのCM。瑞々しくて活き活きとしてるんだ。ポップの曲という点では、歌詞がすごく良いんだよ。今となっては本当に古い曲だけど。俺はまだこのカセットをどこかに持っているはずだよ。何度もカセットを再生して聴いてきたから、音がボロボロになってる。そういうのって良いよね。

今Duran Duranを聴こうとは思いませんか？

昔はこの曲を聴いていたけど、Duran Duranの他の曲はどれもそんなに好きじゃないんだ。子供の頃にThe Chart Showでこの曲がチャートに入って流れていたっていう記憶がハッキリと残ってる。

最初に好きになった音楽はポップスですか？

ああ、そうだね。Prince、Public Enemyなんかは所謂ポップスではなかったけど、彼らは今でも好きだよ。でも新しいPrinceのアルバムは全く好きになれなかったな、何故か分からないけど。ギターが多すぎたから？全小節でギターを30本使ってるようなサウンドなんだよ（笑）。

DJ Loftgroover
Dreamscape
1995

エレクトロニックミュージックを聴くようになったのは何がきっかけでしたか？

初期のレイブミュージックがきっかけだったかも。（エレクトロニックミュージックの中で）俺が初めて買ったのはWarpから出たThe Black Dogの『Bytes』なんだ。だから基本的にはWarpを聴いて。あとジャングル、ハッピーハードコア、ガバだね。DJ Loftgrooverのカセットテープ『Dreamscape』は今でも覚えてるよ。彼のテープはおかしかったな。レイブミュージック上でMCが狂ったみたいに叫んでるだけなんだ。

Nico and Fierce
Input
1996

これは強力な1枚ですね。この曲について、あとレーベルNo U-Turnのクルーについて詳しく教えてください。

彼らはEd Rushと繋がりがあった。俺が制作を始めた頃に読んだインタビューで、Nicoがパラ出しでミックスダウンするのが好きじゃないって言っていた。パラ出しだと、全部のパートを別々のチャンネルに分けている状態なんだ。彼は全部を1つのチャンネルに通して汚したサウンドにするのが好きだった。そうすればすごくグシャっとした音がするんだ。それはまさにこのトラックに当てはまっている。すごくロウなんだけど、アレンジは壮絶ですごくがっしりしてる。

このトラックはただただ躍動しているね。そして何回聴いても飽きない。俺は今朝YouTubeでこのトラックを1時間ループ再生で聴いたよ。結構ドラッギーでもあるよね。今どきのキッズがこのトラックを聞いても、あまりピンと来ないんじゃないかな。敵対心むき出しで破壊的なトラックだし、雰囲気がどこか違うんだよ。

どうやったらこんなトラックが出来るか全く分からなかった。何のサンプルが使われていたのかは分からなかったけど、これはドラムマシンの音だ、って発見して興奮したのを覚えてるよ。当時、このトラックは技術的にかなり先を行っているように思えたね。今この手のサウンドは完全に飽きられて、当たり前になってるけど、当時は違ったんだ。昔は、周りで曲を作っているのは俺ぐらいだった。友達はみんな、こういう音楽を作るのは変だと思って興味を持たなかった。

あなたが育った場所ではそういう友達の意見が一般的でしたか？

セント・オールバンズは本当に退屈で保守的な場所だよ。単なる地方都市だね。イギリスの典型的で平凡な郊外の街さ。この街にいると、何か違うことがやりたくなって我慢できなくなるよ。

このトラックについての情報はどのようにして知ったんですか？

Boxer Recordsっていうレコード屋があって、そこのDJ RicochetっていうローカルDJから聞いたんだ。彼がプレイしてるときに、俺の友達が「DJ Ricoshit（飛び散ったクソ）」って叫んでたよ（笑）。可哀そうでしょ。彼はすごくいい人だったのに。

私も以前はNo U-Turnのトラックを聴いていました。Nico & Traceのトラックで”Cells”というのがあって、それもさっき言ったようなロウファイなクオリティで、すごく特徴的でした。どこか間違っているようなサウンドなんです。

音楽で俺が気に入っているのはそういうところ。音楽が平均的で一般的な意識を超えていこうとしている時が好きなんだ。音楽っていうのは常に、頭の中にある元々のアイデアをざっくりと形にしたものなんだよ。だから、元のアイデア通りには決してならない。なんか違うな、ってもがいてるような音楽を聴くのは面白いよ。そういう音楽の方が俺にとってはエキサイティングだ。

Randomer
Real Talk
2011

これも何回も聴いてきたトラックだね。犬が怒ってるみたいなサウンドなんだ。あ、かわいい犬ね（笑）。彼の音楽はほぼ全部好きだし、全部買ってるけど、特にこのトラックはスバ抜けてるね。90年代のギャングスター映画からサンプリングしたような音なんだけど、出かけようとする時に聴きたい音楽だね。似たことはさっきのNico & Traceのトラックにも言えるね。あっちは少し汚いサウンドで、あらゆる意味で全然普通じゃないトラックだ。

個人的にこのトラックはとてもイギリスっぽいと思います。反抗的で威圧的なベースというアイデアがひしひしと伝わってきます。

威張っていて、すごくアグレッシブだよね。男性的なトラックという見方も出来るけど、俺の彼女はこのトラックが大好きなんだよ。彼女は、少し”セクシー”な雰囲気を出そうとしているキレイめなテクノよりも、こういう音楽の方が好きなんだ。なぜならそこにはすごくファンクな要素があるからだと思うんだ。それにすごく踊れるし。俺は全く踊ることをしないけど、このトラックを聞いてると踊りたくなってくるね。

Mr Oizo
Bear Biscuit
2014

このトラックは彼のニューアルバム『The Church』からのものですね。先月Brainfeederから出たアルバムですが、これを聴いていると、以前よりもアメリカらしさが増しているような印象を受けました。

でも、これまでもずっと彼はアメリカっぽい作品にしようとしていたよ。彼のトラックはどれも鼓動して呼吸しているみたいに感じるんだ。Mr Oizo、彼はリズムとファンクが何たるかを知っていると思う。そして彼のアレンジメントはいつも変だよね。彼は結構チープな音源を使っているんだ。全部ラップトップでやっていると思うんだけど、パンクっぽくていいよね。彼は機材信者じゃないし、自分のアイデアが完璧だとも思っていない。多くの人は機材やコンセプトばかりを全面に押し出すけど、彼は使えるものは何でも使って芸術にしてしまうのさ。Mr Oizoはアニメみたいな素材をサイコーにかっこよく仕上げるんだよ。

どことなくアメリカのフィルターを通過しているこのトラックを聴いて、初期のJackson & His Computer Bandを思い出しました。実を言うと私はこのトラックはそれほど好きになりませんでした。

彼のベストトラックとして選ぶには、このトラックじゃなかったかも。

どうしてこのトラックを選んだんですか？

その質問で思い出したんだけど、彼のトラックはタイトルも最高なんだ。”PEEHURTS（小便が痛い）”っていうトラックがあってさ、プログラミングが素晴らしいんだよ。これもバラバラに崩壊していきそうなトラックなんだ。

実際に彼に会ったことはありますか？

ああ、あるよ。彼は俺の音楽が好きだって、背中をバンッてやってきたんだよ。だから俺も彼の音楽が好きだって、背中をバンッてやったんだ。やり取りはそれだけだね。ちょうど彼がDJする前だったんだけど、彼ってプレイする2分前に現れて、終わったらすぐ帰るみたいなんだ。結構ボスっぽいよね。彼はパーティーに長居することなく帰るけど、俺には真似出来ないな。だって俺がプレイした後はアドレナリンが出まくってるからね。

Cristian Vogel
Spectral Transgression
2012

Cristianに最近インタビューをしたのですが、彼が厳格なスタジオアーティストだということがハッキリしました。制作について非常に正確さを求める人ですね。”Spectral Transgression”のどの部分に特に惹かれているんでしょうか？

シャッフル感がいいね。予想外にスウィング感もあるし。盛り上がる展開もあるけど、Skrillex的じゃないし。俺は音楽が自分の予想を上回るのが好きなんだ。このトラックはスタッカートみたいに跳ねた音から始まるんだ。その音がすごく好きで「これだけで十分満足だ」って思ってたら、トラックはそこから盛り上がって行って、音が重ねられて展開していくんだよね。しかも、力が抜けていて気楽な感じなんだ。このトラックには満足以上のものがあったね。

彼は結構、コンセプトありきのアーティストでもありますよね。あなた自身はどうですか？

いや、全然だね。コンセプトありきにしようと思えば出来るけど、俺はさっき言ったように予想を裏切る音楽が好きなんだ。もしコンセプトを持って制作を始めたら、そのコンセプトから外れだすと、それを失敗だと感じるかもしれないでしょ。でもある意味、俺はそういう逸脱することを成功だと捉えているんだ。もしコンセプトを持ってスタートして、結果全く異なるものが出来たとしても、それがさらに気に入る音楽だったら、俺にとってはまさに成功だと言えるね。

俺の新作なんだけど、事前に冬にリリースされることを聞いていたから、”暖かく包まる”タイプのアルバムになっている。言っていること分かるかな？でも新作について俺が言えるのはここまで。どういう音楽なのかを語るのは俺の意図に反してるからね。作品を聴いてもらって、それぞれみんなが感じたままの印象を持つことが大事なんだよ。仮に俺が何かしらコンセプトを持っていても、他の人は全く違うコンセプトで作品を捉えるかもしれない。そう考える方がある意味正しいと思う。

J Dilla
Mythsysizer
2009

彼を選ぶのは当然だね。世界中どこに言っても彼を知らない人はいない。繰り返しになるけど、彼もOizoみたいにチープなネタを使うんだ。アニメみたいなホーンのサンプルや、ホンキートンクのピアノリフとかね。でも彼の手にかかると何故かすごく新鮮になる。さらにスウィング感を生み出すことも出来る、誰にも真似できないやり方でね。彼は完璧な耳を持っていたから、すごくカラフルでバランスの取れたミックスになるんだ。彼の音楽では最小限の素材を効率的に使う工夫がなされている。俺は彼のインストトラックの方が変わっていて好きだね。

彼は5時間延々808のキックだけを聴いていたらしいよ。午後をそういう作業に費やすのは素敵だと思うね。俺も同じことをクラップでやってる。しばらく音楽を制作してないけど、それは新作アルバムのプロモーションをしているからなんだ。曲をいじれていなくて少しおかしくなりそうだよ。実はプロモーションは嫌いなんだ。ものすごく落ち着かなくなる。だからまたクラップを聴きたいよ。5時間くらいね。そうしたら俺のコンセプトアルバムが出来るね。『Journey To The Centre Of The Handclap（ハンドクラップの核心に迫る旅）』ってタイトルでさ（笑）。

今回Warpのレコードを1枚も選んでないことに驚きました。もし、1人フェイバリットアーティストを選ばないといけないとしたら、誰になりますか？

Broadcastだろうね。理由は俺がやっていることと全く違うから。つまり、エレクトロニックじゃないからだよ。エレクトロニックミュージックを聴くと、「俺ならこんなことしないのに。俺ならこれしようだなんて思わない」っていつも感じるんだ。なぜなら俺はエレクトロニックミュージックのことを理解しているし、自分の楽曲がエレクトロニックミュージックだからだね。だから「このエレクトロニックアルバムが俺のフェイバリットです」とはなかなか言えないよ。ミュージシャンっていうのはそういうもんさ。このサウンドで行くかどうか決断する、その連続なんだよ。おっと、ちょっとカッコつけ過ぎた言い方だな。でも根本的に、音楽っていうのは決断するというプロセスなんだ。何かしら音楽を聴いて「わぁ。俺も全く同じことするだろうな」って思うことなんて、全くと言っていいほど無い。だから俺は常に競い合っているように感じている。少し対抗意識を燃やしているんだ。

傍から見ていると、Warpは家族のような集まりに見えますが、あなたもそのように感じていますか？

Bibioとは親友だよ。だけど、やっている仕事は違うし、家族って感じではないなぁ。

では、どのようにして家族ではないけれどWarpの一員になったのでしょうか？

彼らにテープを送ったんだ。昔だからデモはカセットテープだよね。デモのクオリティは低かったけど、次第に良くなっていったよ。わざとクオリティを低くしていたんだ。音楽を作り始めた時、冗談でソフトポルノ的な最低な印象を出したいと思っていたんだ。安っぽいソロパートを制作するのは、すごく楽しいと思ったよ。流行りに乗った音楽は一切作りたくなかった。根本的には自分が笑えるものにしたかっただけだ。しばらくして、もっとメロディがあって、シリアスな音楽が好きになって、そういうデモをWarpに送るようになったんだ。

ファーストアルバムはすぐに出来あがったよ。たぶん3週間以内に出来たんじゃないかな。今度出る新作は制作に4カ月かかっているけどね。当時はAtariしか持っていなくて、トラックをセーブすることが出来なかった。何かしら作ったら、その時に録音してしまわないといけないんだよ。それがトラックになって、それで完成ってことになるんだ。実を言うと、制作するには最高のやり方だったね。今でも時々、そうやって制作することがあるよ。でも（セーブして）色んな方向性で制作する選択肢があるのも素晴らしいけどね。

GZA
4th Chamber
1995

友達の1人が最近結婚したんだけど、式の翌日にひどい二日酔いで、そんな時にホテルの部屋でこのトラックを6回連続で聴いたんだよね。そしたら、一気に気分が良くなってさ、薬みたいにね。このトラックはスピードを遅くしたクラウトロックのビートみたいで、怒りに満ちててすごく狂ってる。Dillaのバランスは完璧だって言ったでしょ。でもこのトラックはその正反対なんだ。壊れたおもちゃが満載って感じのサウンドだよ。

“壊れた”音楽を聴いたり、音楽をリピートで聴いたりするあなたの行動が何となく分かってきました。1回だけしか聴かないってことはないんですね。

ああ、お腹いっぱいになるまで聴くよ。俺のアルバムの場合、収録されているのは、毎日何回も聴きまくったトラックだよ。音楽を制作している時、1つのトラックにつき大体20バージョンくらい作ってるんだけど、それを全部iTunesに入れるんだ。その中から俺が一番よく聴いたバージョンをリリースすることにしてるんだよね。それでトラックが完成したら、俺は二度とそのトラックを聴かないようにしてる。俺には聞くことが出来ないんだよ。（完成したトラックを）聞く人がいるのは知ってるけど、それってすごく変だと思う。何かが完成したら、俺はそれを再び聞きたいとは思わない。それよりも俺は次に進んでいきたいね。