So Inagawaというアーティストは、実に飄々とした魅力を持った男だ。ハイプやフェイクなものに対してはひたすら容赦なく毒づくのだが、その一見ドライで不遜とさえ捉えられかねない態度の根底にはしかし、彼自身の作品や活動における自負と謙虚さがきちんと存在する。2005年にパリのTelegraphからリリースされたコンピレーションEP「Too Cool for School vol.1」において”Cabaret”というトラック（そう、彼がこの15年間関わり続けているパーティ名と同じタイトルだ）を提供したことから始まったアーティストとしての彼のキャリアは、いま10年の歳月を経てひとつの成果を見ようとしている。

'00年頃にSo InagawaとSackraiの2人が名古屋のクラブJB'sで始めたパーティ、Cabaretは当時名古屋のクラブ・シーンの主流であったNYハウスやトランス、そしてシリアスなハード・テクノに対するカウンター的な性質をスタート当初から持ち合わせていたという。彼らが標榜したサウンドはごく分かりやすく言えばつまり、シンプルなグルーヴを主体としたミニマルなテクノ／ハウスであったのだが、そこにはLosoulやFarben、初期Kompakt、そして彼らCabaretクルーが今なお最大限の敬意を払うDaniel BellことDBXの影響も大きかったはずだ。当初はSo InagawaとSackraiの2人にKeisuke Kondoを加えて地道にパーティを展開していたCabaretだが、そこにやがてyone-koやdj masdaといった同志が合流し、その繋がりは名古屋〜静岡を軸として着実に広がっていくことになる。

パーティ、そして共に信じる音楽によって自然に結びついた信頼と友情は強い。'00年代中盤ごろにそれぞれ相次いで東京へと拠点を移したSo Inagawa、そしてdj masdaやyone-koらCabaretクルーは代官山UNITで引き続きパーティを展開し、やがてFuture Terrorの一員として千葉を中心に活動していたKabutoもCabaretのレジデントDJとして合流。Daniel Bellによるオープン〜ラストのロングセットやJan JelinekのFarben名義によるレアなLive PAなどの意欲的なブッキングをはじめ、国内外を問わず良質なゲストを交えながら彼らはその信念に対しひたすら忠実に他のどこにもないCabaretらしいパーティを続けている。

dj masdaとSo Inagawaのディレクションによって2013年に活動を開始したCabaret Recordingsは、言うまでもなくパーティとしてのCabaretからきわめて自然に派生したレーベルだ。MAA（AOKI takamasaとのハイブリッド・デザイン・プロジェクト A.M.としても活躍するグラフィック・デザイナー／DJ）の手によるシンプルかつ精緻に統一されたアートワークを纏ったCabaret Recordingsのヴァイナル・リリース群は、まさしく彼らがパーティと音楽において信じ続けてきたポリシーを一切の取りこぼしなく具現化しているといえるだろう。余計な装飾や付加価値もまったく必要ない。そこにはただ良質な音楽が存在している。

渋谷のレコードショップTechniqueが運営するEnergy Flash Distributionによる協力のもと、EU圏にも流通されているCabaret Recordingsのリリース群は海外でもすこぶる高い評価を得ている。そこにはdj masdaやyone-koのEU圏における活躍ぶりはもちろん、Daniel BellやJan Krueger、Eli Verveine、VeraなどCabaretに縁の深いDJたちが積極的にプレイサポートを行った成果もあるのだろうが、肝要であったのはやはりCabaret Recording自身のシンプルで音楽本位なポリシーと、それに相応しい作品としての質の高さがあってこそのものだと言うべきだ。なかでも、So Inagawaが手掛けた001番「Logo Queen」と002番「Sensibilia」はEUからの数度にわたるリプレス要請に応え、結果として昨今のテクノのヴァイナル市場規模を考えると驚くべき枚数を売り切ってしまう好評ぶりだったという。

So InagawaはCabaret Recordingsの立ち上げ以前から、前述のTelegraphを始めとしてRelaxineやMinimood、Luna Recordsといったレーベル群から過去10年間にわたりコンスタントに12インチでのリリースを重ねてきた。その堂々たるキャリアの長さを考えれば、10年目にしてファースト・アルバム・リリースとはいささか遅咲きと言えなくもないのだが、そんなことはこの際どうでもいい。D'Angelo and the Vanguard『Black Messiah』を例に出すまでもなく、良いアルバムというものはしかるべき時に出るべくして世に出るものなのだ。とにかく、So Inagawaのファースト・アルバム『Integritithm』はシンプルで良質なグルーヴだけがたっぷり詰まった素晴らしい作品だ。空間性を活かしミニマルに整えられたリズムと抑制されたベースライン、不可思議な美しさと奇妙さのあいだにあるギリギリの部分をなぞるかのようなフレーズの構成は、かつて彼が10代のころにOasisやJesus and the Marychain、House of Loveなどの'80-'90s UKロックを聴き漁っていた所謂Snoozer少年であったという事実からは俄に想像もできないほど枯れた味わい深さを有しているのだが、ごく限られた時間のインタビューだけで1人のアーティストの人間性や音楽的背景のすべてが分かるわけでもあるまいし、もし分かったつもりにでもなったとしたらそんなものは単なる欺瞞だろう。少なくとも、このインタビューからはSo Inagawaというアーティストの飄然たる決意が伝わるはずだ。ともあれ余計な前置きはこの辺で止めにして、この貴重なインタビューの機会にSo Inagawaの過去／現在／今後のことを訊いてみよう。

これまでのキャリアを通して、So君単独でのインタビューはこれが初めてかな？もしかしたらSo君自身もすっかり忘れてるかもしれないけど、7年くらい前にSpekとして受けたインタビューはいくつかあったよね。

インタビュー自体初だと思う。SpekのインタビューもSackraiが勝手にやったんじゃないかな？覚えてないけど。インタビューとかださいと思ってたから。ださいことやって売れるくらいなら売れない方がいいんで。

月並みだけどまずはSo君の音楽的なバックグラウンドというか、最初に音楽を作ってみようと思ったきっかけをあらためて訊きたい。テクノやハウスのような、いわゆるマシンでシークエンスされた音楽に興味が広がったきっかけは？

Sackraiにだまされた、って感じ。大学2年くらいのときにSackraiがバンドをクビになったらしく、顔面蒼白で僕のバイト先にMPC2000持って来て「これさえあればなんでもできるから２人でなんかやろう！」みたいな感じで誘われて。それまでは、OasisとPrimal ScreamとFishmansが好きな超普通のSnoozer少年だった。そっから2人でできる音楽を探しているうちに、SuicideとかDAFとかSilver ApplesとかThrobbing Gristleとか変な方に行っちゃった感じかな。その後、yone-koとの出会いで完全に道を踏み外した、と。

高校生の時はOasisとBlurがバチバチやってる時代で、UKインディーにどはまりしてた。いまだにGallagher兄弟の動向は追ってる。アメリカのオルタナよりUKの方がしっくり来てたかな。最初に誘われたバンドではStone RosesとかOasisとかJesus and the MarychainとかPrimal Screamとかのコピーをやってた気がする。そっからAphex Twin、Underworld、Andrew Weatherall経由でテクノに来た感じち。なみに、俺もテクノを作れると確信したのはTelegraphからリリースされた『Post Office』を聴いてから。マジで誰でもできるんじゃねーのって思ったよ。

『Post Office』がリリースされたのは'02年だね。あれは確実に時代の潮目というか、ターニングポイント的な作品だったよね。Daniel BellやRicardo Villalobos、Cabanne、Ben Neville、Robert Hoodっていうメンツが一堂に揃ってるっていうのは今見ても震えるもんね。あのアルバムを聴いて「俺もテクノを作れる」って確信したのは、どういう部分に触発されたんだろう？Daniel BellやCabanneのトラックのような、意味性を排除した素っ気ないグルーヴ？

これは僕の予想だけど、あのレーベルのコンセプト自体が当時隆盛していたシリアスなハードテクノへのカウンターで、音数を極限まで減らした・・・なんならちょっとコミカルというか、少し不思議なグルーヴを持った曲をリリースするっていうものだったと認識している。あと、このコンピのCD版にはDimbimanの"Do the Dimbi"も入ってるんだけど、それがこのレーベルの気概を端的に象徴していると勝手に解釈している。たぶんTelegraphのオーナーのAlexがZipのところに行って「どうしてもこの曲を収録したいんだ！」っていう劉備が諸葛亮孔明を説得したときみたいな熱いやり取りがあったんじゃないかな？Mix CDとかは別にして、Perlonの楽曲が他所のレーベルのコンピに入ってることなんか無いもんね。

藤子F不二雄先生も提言してたんだけど、このSF (SUKOSHI FUSHIGI) 感っていうのがやっぱ一番ヤバくて、Cabaretクルーにはずっと共通認識として根底にあるはず。
僕自身、作曲にもレーベルにも反映させてるつもり。ま、当時はそこまでややこしいことは考えてなかったんだけど、『Post Office』に関しては単純に音数が異常に少なくて展開も全然しないし簡単そうだなーって思っただけなんだと思う。でも超かっこいい！って思ってた。『Post Office2』の方が分かりやすいかも知れないよね。作りかけなの？ていう曲がいっぱい入ってるし。

Telegraphといえば、So君がはじめてトラックを世に出したのはここからリリースされた2005年の「Too Cool for School」だよね。しかもトラックのタイトルは”Cabaret”。この12インチって、ざっくり言うと「まだ世に出てない新人をまとめて紹介する」みたいなシリーズコンセプトだったと記憶してるんだけど、このリリースはどうやって実現したの？デビューするまでの経緯をSo君の思い出せる範囲でいいから訊いてみたい。

デビューするまではいろいろあって、まず'02年にMichael MayerをCabaretにゲストで呼んだときにdemoを渡したの。そしたら彼から「お前の曲はbombだ、すぐリリースしよう。Kompakt傘下のSub Staticっていう新しいレーベルが今勢いあるし、そこからでいい？」みたいなことを言われたわけ。当時、僕はリリースした経験もなかったし、流れとかも全く知らなかったから、その口約束の段階で名古屋中に自慢しまくちゃったんだよね。Michaelが出すって言ってんだから出るだろう、と。リリースパーティーの段取りとかも考えてた。女の子の友達とかはAfterhourz（当時名古屋にあったレコードショップ）ですでに予約とかしてて（笑）・・・で、今となってはよくあることなんだけど「やっぱ出ません」みたいな話になり・・・これはやばい、これは相当だざいぞっていうことになり、ここから死ぬ気で曲を作り出した感じかな。帳尻合わせの為に。

この事件からTelegraphからリリースが決まるまでの2年くらいが、今までの人生のなかで一番がんばった期間かな。とりあえず「ださい人」の汚名は避けたいの一心で。会社のお昼休みにタクシーで家に帰って曲作ったりしてた。タクシーの中でおにぎり食べて。で、毎週世界中のレーベルにdemo送ってて、当時データで送るとかいう手段もなかったんで毎週CD焼いては郵便局に行って、めちゃ高いEMSで送るのが習慣だった。給料は全部EMS代に消えてったなー。結局、リリースにこぎ着けるまでにTelegraphには100曲以上送ってると思う。

「音楽的なことがよくわかっていないからこそ、とにかくいろいろ試すようにはしている」

So君の作品はリズムのみを偏重せずに個々の楽曲におけるコード感をすごく大事にしている印象がある。楽曲のグルーヴをリズムの律動だけに頼らず、リズムと和声の相互的な作用で運動性を作り出しているような。じっくり聴いてみるとキックのピッチとその上に絡むフレーズやメロディがぴったり呼応してたりするし。"Logo Queen"や"Sensibilia"を例に出すまでもなく、So君の作品全体からにじみ出るエレガントなムードはそのあたりも要因にあるんじゃないかと推測してるんだけど。

うーん、実は自分自身ではよく分かってないんだよね。申し訳ないけどキックのピッチとか触ったことないっす。ちなみにリズムに音程があることを知ったのも割と最近だし・・・楽器が全く弾けないから音楽的な話はよくわからないんだよね。未だにド（C）が鍵盤のどこにあるのかもわかってないぐらいだし。鍵盤3つか4つ押せばいい感じになるって思ってる。バンドでベースやってたときもここ押さえればいいからって感じで教えてもらってた。ただ・・・だから、と言うべきか、とにかくいろいろ試すようにはしている。"Logo Queen"や"Sensibilia"にしても、それぞれ別ヴァージョンが20種類はあると思う。そのなかで一番スムースなやつ、というか一番気持ち悪くないやつをリリースした感じかな。全部聴かされてるdj masdaがかわいそうではあるんだけど。エレガントなムードは育ちの良さが出ちゃってるんだと思います。あとモテたい願望ね、これ重要、初期衝動。

そうやって小さなトライを重ねる作業って、実は誰でもできる事じゃないよね。"Logo Queen"や"Sensibilia"もそれぞれ20ヴァージョン以上作ったってことは、1曲ごとにかかる制作時間はかなり長いってこと？

B面の曲とかは早いと1, 2時間でできちゃうこともあるから、曲によりますかね。ま、基本的にはあんまり一曲に時間かけることはないかな。しばらくやってみて「これ何ともならなそう・・・」って思ったら深追いせずにすぐ次の曲にとっかかる感じ。経験上粘ってもいいことない。

あと、"Logo Queen"や"Sensibilia"が4、5年前に作ったトラックだってことを素っ気なくTwitterで明かしてしまうあたりがSo君らしいなとも思ってるんだけど、『Integritithm』に収録されたトラックも制作された時期はけっこうバラバラなの？

バラバラです。今回のアルバムでいうと完全に一から作ったのはB1、B2、あとD1かな。 "Logo Queen"や"Sensibilia"は4、5年前に作ったとは言っても最初の核となるループ（ベースと上物とキックとハットくらいのもの）を作ったのが数年前で、仕上げたのが最近っていうパターン。いつも16小節くらいのループを作りだめしてて、リリースのタイミングでどれかを仕上げるのが好きなんだよね。

"Sensibilia"でのピアノとそのブレイクは実に印象的だったけど、かといってフレーズやメロディだけが楽曲を引っ張るということもなくて、リズム自体も異様なほど緻密に練られているし、そうしたトラック総体でのバランスと完成度の高さは『Integritithm』でも引き続き際立っていた部分だと思う。このバランス感覚については制作時、もしくはアルバム収録曲をセレクトする時点などで意識していた？

リズムは綿密にやってる意識は全くない。むしろもっとがんばりたいんだけど、家のシステム上リズムを展開させるのがめんどくさいことになってるから。あんまり展開しなくても音数が少なくても耐えうるリズムの音とパターンを作ることは重視してます。このアルバムに限った話では無いんだけど、常にDaniel Bellがプレイしそうな曲を作りたいと思っているので、アルバム収録曲のセレクトもそれに従いました。

ちなみに、『Integritithm』ってタイトルは造語だよね？もしよければその意味を教えて。MAAくんにジャケットデザインを依頼するにあたって、So君自身から「こうしてほしい」っていうリクエストはあった？

よく知らないんだよね。基本的に曲名とEP名は自分で考えないから。『Integritithm』はSackraiに決めてもらったもので、特に意味とかは聞いてないです。Cabaret Recordingsのリリースに関して言えば、僕は一曲も名付けてないです。名前興味なし！いつもリリース決まったらmasdaさんかSackraiに投げて決めてもらってる。MAAくんには「渋くてモテそうなやつで！」としか言ってない。直しも特に無し。ま、みんなつきあい長いんで信頼しております。

「作りたいと思ってる曲が15年くらい変わってないから、いつもそれを目指して作り始める」

音楽を創ることにおいては喜びも大きい反面、苦しみも大きいとは良く言われることだけど、So君自身の場合はどうだろう？どうしても曲のアイデアが湧いてこないって時はある？

基本的にはつらい。ただ、レコード屋に自分のレコードが並んでるのを見るのは今でも最高。アイデアなんて基本的にはそんなに必要ではないと思ってる。もちろんあったほうがいいんだけど、とりあえず作り始めちゃえばいろいろ試してるうちに事故的にアイデアを得るときもあるし。とにかく触ってればなんか出てくる。例えば、クラブにいて「アイデア浮かんだ！」ってなっても、それはそこでかかってる曲のパクリだと思うし。僕の場合、アイデアというか作りたいと思ってる曲が15年くらいかわってないからいつもそれを目指して作り始める感じ。ちなみにその曲って言うのが、Daniel Bellがちょっとあげすぎた後、照れ隠し的にスッカスカの超不思議な曲をかけるんだけど（彼の1 setに必ず一曲は出てくる）、その曲を作りたいの。それまで超盛り上がってたフロアが一瞬「？」みたいな空気になって、一部のフリークスだけが異常に盛り上がる感じの曲なんだけど伝わるかな？

Daniel Bellの名前が出てきたついでと言ってはなんだけど、CabaretとDanielの関係は今や特別なものになってるよね。去年はDanielがCabaretでオープン～ラストを務めたりしているし。So君自身もトラックを作るにあたってやはりDanielの影響は大きい？DanielはそのトラックとDJでそれぞれ違った持ち味があるから、あの魅力をひとことで表すのは簡単ではないだろうけど。

そりゃひとことで表すのは簡単ではないよ。ざっくり言うと彼のトラック自体は彼のDJ（グルーヴ）を過剰にデフォルメしたものではあると思うんだけど、それにかぎった話ではない場合もあるし。個人的にはDanが小箱でリラックスした状態でやるときのDJがどストライク。あんまり上げない感じのときの彼のDJはやばい。

彼独特のそういう「決して浮き足立たない」スタンスはそのキャリアの長さと濃密さを考えても驚異的だと思うね。

「決して浮き足立たない」っていうとこは最もリスペクトできるところ、かつ共感させていただきたいところだね。そもそも、コンセプトが揺らぐパーティとかDJとかがまったく理解できない。「ジャンルを縦横無尽に行き来するアルバム」とかも超嫌い。DanもZipもRicardoもRichie HawtinもJ Dillaにしても、絶対ぶれないじゃん。かっこいい音楽ならなんでもかけます的なオシャレDJに「今度アパレルのパーティでミニマルセットやるからあそびにきてよっ」て言われてもさ。だったら「10年ミニマル掘ってます、友達1人もいません、レコード代が嵩んで服も買えません」的なDJがいるパーティに僕は行きたい。そっちの方がかっこいいよ。

レーベルとしてのCabaretではmasdaとSo君のあいだで何か役割分担的なものは存在するのかな？Binhのデビュー作はCabaretからだったし、近日中にもEvan BaggsのEPがリリース予定だったりと、これまでほとんどリリース実績の無いアーティストにも思い切って12インチ丸々任せるというアグレッシブな運営方針が非常に小気味いいと思ってるんだけど、Cabaretからリリースするものについては2人での合議制のもとに決めているのかな？

リリースするものやレーベルの方向性みたいなものについてはほとんど話さないかな。ま、今更音楽性の違いとかはまったくないんで、基本的にはmasdaさんに任せてる感じ。僕は人のデモ聞くの苦手なんでmasdaさんに聴いてもらってる。で、masdaさんが良いって言った曲をチェックするんだけど、ま、そりゃ良いに決まってるよね。ただ、6番のジャケットをFacebookで初めて見た時はびっくらこいたよ。「赤いんだ」って思った。一応リリース前に見たかった（笑）。あと、新人の曲集めました的なコンピは個人的に嫌い。僕のデビューがそれだったからってのもあるんだけど、やっぱEPまるまる自分の曲の方が嬉しいはず。新人だったらなおさらね。これも相談した訳ではないんだけど、リリースに関しては有名無名、性別、国籍等全く問わない、曲が良ければ出すし、良くなければ出さないってことで統一されてると思うよ。

masdaとの出会いは名古屋でやってたCabaretを通じてだったっけ？Cabaretも名古屋時代を含めるといまや10年以上続いているパーティだけど、途中でyone-koがベルリンに移住したりSackraiが東京を離れたりケースが抜けたりKabutoが加わったりとかもあって、Cabaretのそもそもの始まりから現在までを見続けてきているのはSo君だけってことになるよね。Cabaretが現在のようにパーティとしてだけではなくレーベルとしても確固とした存在になって、So君自身の感慨みたいなものはある？

masdaさんと初めて会ったのは覚えてないなー。最初に知り合った頃はmasdaさんまだ静岡にいた気がするよ。ただ、Michael MayerとかAtaとかのツアーでは東京がmule musiqの川崎さん、名古屋がCabaret、大阪がquopでやってたりしたから、'02年ぐらいにはもうすでに一緒に遊んでた。去年、Cabaret15周年だったんだけど、やっぱり感慨深すぎるでしょ。ただ、パーティの運営に関しては僕はあんまり貢献してなくて、初期はSackraiとケース、中期はyone-ko、で現在はmasdaさんの頑張りのおかげじゃないかな。あと、Cabaretを最初に名古屋で立ち上げたころに協力してくれたJB'sのバンバンにも感謝だよね。当時NYハウスとトランス全盛の時代にあって、死ぬほど地味なCabaretをグイグイ押してくれて本当に感謝しております。改めて考えると、つるむ人たちには恵まれていたなー、と。で、ある程度の規模のパーティを継続するのって本当に大変だから、オーガナイザーの皆さんには頭が上がらないです。地方のオーガナイザーは特にね。

Cabaret

So君の作る曲ってその時々のトレンドにほとんどといっていいほど色目を使わないというか、「～系」的なざっくりとしたカテゴライズを回避しつづけてきた印象があって。そのあたりはSo君自身も意識してきた部分なのかな？過去10年のあいだ、特定のカテゴリーやレーベルカラーに定着することを避け続けてきて、ようやくSo君が自分の作品のための居場所としてCabaret Recordingsに着地したことも興味深いと思ってるんだけど。

うーん、さっきも言ったとおり僕の場合は作りたい曲っていうものが明確にあって、それを目指してずっとやってるから、その時何が流行ってるとかはあんまり関係ないかな。アルバムに入ってる曲に関しても、今風にキックの音色を軽くすることもできたんだけど、まあ結局やらないんだよね。それって、別に僕が作りたいものではないから。

masdaさんとレーベルやってすげーよかったなと思うことは・・・海外のレーベルからリリースする時はいつもなにかしらの注文があって、よくあるのは「もっとハードに」とか「もっと展開を」とか言われるんだけど、Cabaret Recordingsの場合はその辺何も言われないのはいいよね。むしろmasdaさんに「展開いらなくね？」ってダメ出しされたときに「あー、いいレーベルだな」って思った。

Cabaretの面々からはヴァイナルへの愛着を感じるよね。実際、レーベルとしてのCabaretもヴァイナルでのリリースがメインだし、masdaやKabuto、yone-koのDJに関しても言わずもがなだし。So君自身もヴァイナルへのこだわりや愛着はある？

Cabaretまわりはみんなヴァイナル大好きだよね。10年くらい前yone-koが車の中にレコード入れといたら熱で曲がっちゃったことがあって、そのときの落ち込み方がすごかった。明日世界が滅亡するのかってくらい落ち込んでたな。ま、世代もあるんだろうけど、我々世代はヴァイナル買わないとDJできなかったからね。最近デジタルだけでやってるDJもよく見かけるけど、やっぱ寂しい気分にはなる。このジャンルは最近特にだけどヴァイナルオンリーのレーベルがすごく増えてるし、かっこいい曲もその中にたくさんあるわけじゃない？その辺を全部スルーしちゃってるのはどうなのよって思うところはある。そもそもPerlonとかCabaretも持ってない、ってことでしょ？

さらに言うとやっぱDJはレアな曲持っててなんぼ、っていうかっこよさもあるじゃん。最近はミュージシャン同士がリリースしてない曲を交換し合ってDJで使うのが流行ってるし、特にルーマニア周りからはめちゃくちゃそういうお誘いもくるんだけど、これってまさにレアトラック重視の典型的な例だよね。デジタルDJだと、その感覚はどうしても希薄になるよね。さらに曲作ってる側から言わせてもらうと、デジタルオンリーのリリースなんてやる気もしないですよ。やっぱ、ヴァイナルになるっていうことで最後の追い込みとか絶対違ってくる。レーベルもヴァイナルでは出せないけどデジタルでだったら出してもいいよっていう話はよくあるんだけど、それって要するにその曲が高いコストをかけてヴァイナルにするほどの価値は無いですよってことでしょ。それを踏まえると、トータル的に見てデジタルオンリーの曲はヴァイナルオンリーの曲よりクオリティーが低い！って言っちゃっていいんじゃないの。もちろん例外はあると思うが。

あと、レコード屋に行ってレコードをdigるっていう行為も大事だと思うけどね。レコード屋ってレコードを手に入れること以外にもいろんな出来事が起こる場所だから。レコ屋でオファーもらったこともあるし、敵DJと鉢合わせて喧嘩になったこともあるし。そうそう、一個思い出した！レコード買い始めた頃、名古屋のAfterhourzに大久保さんっていう店員さんがいて、その人に「とにかく渋くてSFな曲を探しています」って伝えたら、毎月在庫の中から僕が好きそうな曲を集めたmix CDを作ってくれてたんだよ。しかもクレジット付きで。今考えると、そのCDの影響も大きかったわ。こんな素敵なことも起こるかもしれないから、レコ屋に足繁く通ってみることも無駄ではないよね。やっぱり、レコード屋の店員さんは詳しいからね。僕の場合、Techniqueを使ってるんだけど、今だにネットで注文してる場合でも店頭に取りに行くようにしてて、いつも店員さんに「なんか渋いSFな曲入った？」みたいなやりとりはしている。あ、やってることが15年くらい変わってないな、僕。

ちなみにCabaret Recordingsも本当はヴァイナルオンリーなんだけど、『Integritithm』は5月に未発表曲2曲を追加して、dj masdaがmixしたCD版としてリリースします。ターンテーブル持ってない女の子の友達に「あまりに不親切すぎる！」って結構な勢いで詰め寄られたので、やむなく出してる感じです。DJで使われたくないからmix CD形式にはなってるけど。

「レコードが売れてやっと人前でプレイする権利を得たかなと思ってる」

これまではCabaretのパーティなどでもSo君は敢えて表に出ることなく、ライブもほとんど片手で足りる程度の回数しかやってこなかったよね。その辺りは何か意図があったのかな？

レコード売れるまではお外でやらないって決めてたんだよね。あと、ライブの準備が死ぬほど嫌い。穴を掘っては埋めてる気分になる。

Cabaretでさえライブをやることが稀だったSo君が、5月のRainbow Disco Clubでライブをやることになったと聞いて個人的には少し意外だったんだけど、これは「ライブをやる」ということについてSo君自身のなかで何か心境の変化があったということなのかな？

ま、レコードが売れてやっと人前でプレイする権利を得たかなと思ってる。誰だかよくわかんない素人のライブでお金取る訳にはいかないと思っていたので。 Rainbow Disco Clubでやることになったのは、去年遊びに行ってすごくいいVIBESを感じたこともあり、運営陣も信頼足り得る人たちだし、あと単純に超仲良しだから。Sisiもいるし。

nightclubber.roやplayed by、mnml.nlなんかのウェブサイトを見ても分かるとおり、Cabaretのレーベルとしての人気は現段階では日本国内よりEUでのほうが盛り上がってるし、実際にEUから東京のCabaretに遊びにくる人がいても不思議じゃないかもね。

ありがたいことに、Cabaretの1、2番を出して以降、世界3〜4周回れるくらいのオファーをいただいております。多過ぎて途中からメール全部読んでない状況です。さっきも言ったとおり、レコード売れるまではお外ではやらないって思ってたんだけど、売れちゃったからそろそろ準備しようかなと思っております。ただ、みなさんライブやりにEUに来てって言ってくるんだけど、その前におまえが日本まで見に来いよ！とも思ってる。

理想としては「日本人がベルリンまでGet Perlonizedに遊びに行ったりしてるんだから、Cabaretにドイツ人が遊びにきても良いんじゃないかな」とは思うけどね。ちょっと風呂敷でかすぎだけど、あくまでもマインドの話として。最近・・・というか、ずっとだけどミニマルのパーティって外国からゲスト呼んで日本人が前座っていうスタイルがずっと続いてるじゃん。で、ものすごくちやほやするじゃん。当然リスペクトはするべきなんだけど過剰じゃない？ちょっと文化人類学的な話になっちゃうけど、やっぱり日本人は欧米人に対してなにかしらの劣等感的なものが根底にあることも関係しているのかもしれないけど。

ただ、こないだ初めてNobuさんのFuture Terror行ったんだけど、あのパーティはそういう既成概念を覆せてるなと思った。ゲスト要らないよなって思ったもん。あーゆーパーティが増えるといいなあ。あと、CHAOSは言わずもがな。CHAOSで遊んでない人にミニマル語って欲しくないね。僕、Cabaretはちょくちょく欠席してるけどCHAOSは皆勤です。 CabaretもいつかUNITぱんぱんにして店長の東森さんに恩返ししたいです。日本もミニマルシーン盛り上がればいいのにな、っていうのは当然ある。解決策は意外とシンプルだと思っていて、単純にみんな曲作ってがんがんリリースすれば状況は好転すると思いますよ。できればヴァイナルでね。これ、僕はずっと言い続けてるんだけど・・・やっぱリリースが無いと、なにも変わらないと思う。デトロイトもベルリンもブリストルもルーマニアもまずリリースありきでしょうよ。日本からやばいヴァイナルがバシバシ出てくればEUでも「Japanese minimalやべえ」ってなって状況変わると思うけどな。だから、みんながんばってほしい。最終的に他力本願になっちゃうけど。