Jabob Martinは、少なくとも野望の1つを叶えたと言っていいだろう。Hodge名義によって、彼はUKクラブミュージックの最先端を行く中心人物となった。数年前、Punch DrunkやLivity SoundのサブレーベルDnuos Ytibilからの作品をきっかけに、彼のキャリアは軌道に乗り始め、以降、Hotline、Tempa、Berceuse Heroiqueといった高い評価を集めるレーベルからリリースを重ねてきた。「1枚リリースして、しばらく間が空いて、それから、また1枚リリースして、また間が空いてって感じだとさ、それでもいいかもしれないけど、それだと絶対に話題にならないよね」と彼は話す。「俺は話題になるっていうのが結構好きなんだ」

このインタビューを行ったのは1月の肌寒い午後のことだ。Martinは自分のベッドルームスタジオにある椅子に腰かけ、Hemlock Recordingsからリリースする2枚組タイトルについて語っていた。大きく注目を集めることになるであろうこのドラマティックなリリースが、彼にとって魅力的に映るのは決して驚きではない。インタビューが終わるまで、彼のエネルギーは際限なく溢れ、現在制作中の楽曲を筆者に聞かせてくれている間でさえ、彼は積極的に会話を続けてくれた。「少しの間、みんなの目に付く存在になりたかったんだ」とMartinは語る。「音楽には約束事があるみたいでさ、例えば、一度にたくさんの音楽をリリースしちゃダメみたいな。でも、俺は控えめに行動するタイプの人間じゃないし、リリーススケジュールも控えめにしようとは思わない」

アーティストとしてのキャリアを考えるにあたって、現在のMartinは理想的な位置にいる。彼は独自のスタイルを既に確立しており、最近の彼のリリースに共通している音楽性からは、自分自身にしっくりとくるアプローチを彼が見い出したことがうかがえる。「3曲で1つのパッケージだと考えているトラックがある」と彼は語る。「”Resolve”、”Renegades”、”Blood Moon”の3曲は、共通した方向性のサウンドを探求しているんだ」。確かに、このトラック3曲は異なるタイトルとしてリリースされているにも関わらず、ごつごつとしたリズム、しわがれた質感、そして、叫び声のようなメロディから生まれる空間の中に、どのトラックもきっちりと収めることができる。

Martinは自分のブッキング予定表を取り出しながら、にっこりと笑う。見てみると、次の3か月間、毎週末の予定がヨーロッパ中のギグで埋め尽くされていた。音楽を制作することとクラブでプレイすることのバランスを上手く取れるアーティストがいるが、ギグの予定が詰まっていることを意気揚々に話す彼は、正にそのタイプだ。「音楽をみんなに向かってプレイすることが、一番楽しいよ」と彼は力強く話す。「だって、スタジオに座って制作していたら、結構、孤独でしょ。それに、俺は興奮しやすい性格だから、ギグに行ってお客さんのリアクションを直に浴びて、その興奮をスタジオに持ち帰って制作している。フロアでの体験に影響を受けた状態で制作するんだよ」

現在、Martinに最も大きな影響を与えているのはテクノに飢えたヨーロッパのクラウドたちだ。しかし、フロアの活性が高く、そのエネルギーがどんなにすごくても、彼はDJセットのために踊りやすいトラックを大量に制作することはせず、慎重な姿勢を貫いている。「バンギンなテクノトラックを作りたいとは思うよ」と彼は語る。「バンギンなものを作ること自体は間違っているとは思わない。ちゃんと制作されたトラックでありさえすればね。もし俺が真のテクノプロデューサーになれるなら、それもいいけど、俺は違う音楽を聞きながらやってきたし、自分の音楽がテクノの方向に進んだら、そんなに面白くなくなると思う」。ガラージ、ドラム&ベース、ダブステップにルーツを持つHodgeの音楽は、UKサウンドのるつぼが生み出した産物だ。確かに、彼のほとんどの作品には、力強い4つ打ちグルーヴがあるが、激しいドラムサウンドと、はち切れんばかりに膨れ上がったベースラインを用いる彼は、広義のテクノコミュニティとは離れた場所にいる。

Hodge

Immerseからのリリース「The Fall」（英語サイト）と共にMartinがデビューした時、彼のサウンドはもっとハウシーだった。それは、彼の盟友であるブリストルのプロデューサーMatt Lambertとの共同プロジェクトOutboxxにおける心地よいハウスミュージックと並列の関係にある。そこからMartinは、Deadplate（英語サイト）やWell Rounded Housing Projectからのリリースで、よりダークで殺伐とした領域へと移行していくことになる。しかし、彼のサウンドが進化する上でターニングポイントとなったのは、12インチ「Bells」だ。Martin は以前からPeverelistことTom Fordにトラックを送り続けており、遂にFordの耳を捕えたのが、この”Bells”のオリジナルバージョンだった。Fordはこのトラックをリミックスしようと、彼に音素材を送るように連絡し、その数か月後には”Dream Sequence”バージョンが仕上がった。そして、このバージョンと比較して自分のオリジナルが物足りないと感じたMartinは、Fordと共にスタジオに入ることを決め、”System Mix”バージョンを制作したのだった。それ以降、2人は密接にコラボレーションを続けている。

「Pevと一緒に制作したことは、俺のサウンドにものすごく影響を与えたよ」とMartinは語る。「彼は制作にものすごく時間をかけるんだ。キックのパターンを作るのに3時間ぶっ通しで作業したこともあった。その光景を見ることができたのは俺にとってはすごくプラスになったよ。自分のスタジオに帰って来て、自分がやっていることをもっと考えるようになったね」

Martin曰く、Livity Soundのライブは彼の進む方向性に影響を与えたようだ。それは彼の音楽を聴くと分かる。多くのアーティストは、自分が影響を受けた物事をあからさまに見せることをしないが、Martinの場合、自分を取り巻くサウンドに彼がどのように反応しているのかを正直に表現する。「どんな人でも他人から影響を受けていると思うよ」と彼は話す。「俺がやっているような音楽をリリースするためには、たくさんの音楽を聴かないといけない気がする。俺の場合、音楽にのめり込んで勉強する必要があったんだ。そして、シーンのことや自分が何をやっているのかということを理解した時に初めて、自分がやっていることと音楽をどのように結び付けるのかが分かるんだ」

Martinが自身の音楽に影響を結び付けるものとして、ブリストルの仲間たちが作る音楽以外に、彼が長年愛し続けている映画観賞がある。そして、近年、興味を持ち始めたという小説は、さらにハッキリとしたインパクトを彼に与えている。彼は常に色んな物事に熱意と喜びを持って取り組んできたが、そんな彼が最近、情熱を注いでいるのがアメリカ系カナダ人作家William Gibsonの作品全集だ。

「俺が作る音楽はどれも、本からの影響をものすごく受けている」とMartinは語る。「30分、本を読んで、それから再び制作を始めるんだ。すごく安易なやり方に聞こえるでしょ。だけど、何かしら本を読むと、その内容が何であれ必ず脳裏に残るんだ。そうすれば、本そのものの音風景を描くことができると思う。俺はSFにハマっているけど、だからといって『俺の音楽はSFに影響されています』って言ったら、すごくありがちな発言になっちゃうよね？」

Gibsonによって切り拓かれたサイバーパンクというサブジャンルは、Martinの音楽に大きな影響を及ぼしている。彼が最近、発表したトラック”You Better Lie Down”の轟くサウンドを聴けば、陰鬱としたディストピアな未来を思い描くのは難しくない。彼が秘密裏にスタートしたプロジェクトにおいても、この影響は徐々に大きくなってきている。実はMartinは、HodgeとOutboxx以外に異なる名義でシングルとアルバムを発表しているのだ。匿名性を望む彼の姿勢には敬意を評すが、正直、彼がHodgeの名前をこのプロジェクトに使わなかったことには驚いた。もし使っていれば、彼はさらなる評価を勝ち得ていたことだろう。

「曲を作り過ぎていたからだよ！」とMartinは話す。「アルバムを作れる量の曲を作ったんだけど、HodgeやOutboxxでやろうとしていることとは異なる文脈だったから、何か違う名義をやろうって思った」

MartinはHodge名義で展開している制作に注力していながら、同時に、異なるスタイルをスタジオで模索している。彼は8小節から成るグライムのビートを筆者に聞かせようとファイルを探している時に、彼の愛用シンセKorgのTritonを使ってWiley作品でお馴染みのベースラインを容易に奏でてみせた。そして、遂にMartinが見つけたファイルを聴いてみると、それは2003年当時のグライム直径サウンドだった。

「（このビートは）すごくキャッチーなフレーズだけど、ただそれだけでしかない」とMartinは話す。「KahnとNeekがグライムをやる時、2人は自分たちが何をやっているのかをしっかり分かってやっている。2人の音楽はそういう風に聞こえるんだ。俺はそこへ入って行って似たようなことはやりたくないな」

KahnとNeekはMartinが作ったビートをダブプレートに切ったことがあるが、Martinはその音源は絶対にリリースしないと頑として言い放った。Hodge以外に彼がフォーカスしているプロジェクトがOutboxxだ。偶然始めることになったというOutboxxは、奇しくも彼の音楽制作のバランスを取る上で非常に重要な役割を担っている。

「ある方向性を見つけて、それを模索していると、行き止まりに近づいていくに従って、アイデアが全く出てこなくなる。そういう酷い状態になるんだ」とMartinは語る。「それで自分自身にストレスが溜まるでしょ。そこで俺は『よし、Outboxxをやろう！』って、ハウスを作り始めるんだ。そうするとストレスが全部無くなる。何か別のプロジェクトをやることで、自分がやっている音楽の文脈をハッキリとさせることができる。他の視点からその文脈を見ることができるんだ」

MartinとLambertが知り合ったのは共通の友人を通じてのことだった。ある夜、2人はMartinの部屋でセッションを行い、”Kate Libby”を制作した。Outboxxとして初のシングルとなるトラックだ。彼らはIdle handsからアルバムをリリースした他、同じくブリストルのレーベルFutureboogieやBRSTLからも、日差しを目いっぱいに浴び、のんびりとしたムードのトラック（Naomi Jeremyによるボーカルが頻繁にフィーチャーされている）をリリースしている。さらにMartinが新人プロデューサーFactaと共に制作した楽曲は、Tempaからリリースされることになった。「誰かとコラボすると必ず何かしらを学ぶことができる」とMartinは語る。「それは、作った曲がリリースされなかったとしても同じことだよ。これまでAlex CoultonやRhythmic Theoryとか、たくさんの人と制作してきたけど、どれもすごく楽しかった」

「Outboxxの場合は、いつもかなりダイレクトに制作が進む」とMartinは話す。「俺ら2人とも何をやりたいのか分かっているし、今でも、やりたいことをやっている。だけど、Hodgeの場合は、何をやりたいのかが分かっていなかった。それをゆっくりと時間をかけて見つけてきたんだ。今は、自分が何をやりたいのかが分かるよ」

Martinの熱意ある口ぶりからは、彼が今どれだけ自分自身と自分の作品に自信を持っているのかが伝わってくる。今回のインタビューでどんな場面においても煮え滾っていたのは、他でもない、この熱意だ。それは、彼のギグについて話し合った時や、どのようにキャリアを形成すべきか、周囲の人にアドバイスを貰ったことについて話し合った時も、同じだった。彼は人からのアドバイスに耳を傾けることのできる人物ではある。しかし、だからと言って、彼の不敵な精神が失われることはない。「どうしてみんなは、同時期に色々なタイプのサウンドをリリースしない方がいいだなんて言うんだろうね」と彼は言う。「他人のことなんかどうでもいい。俺は自分がやりたい音楽をリリースするんだ。考え過ぎることはしたくない・・・。自分がリリースしてきたものを見返した時、それが一方向にしか伸びていなかったら、つまらないよ。もっと色んなものをリリースしようよ。もうちょっと変わったことをやるんだ。安全なことばかりやってたらダメだね！」