「シカゴのラジオ番組の名前から来ているんだ。アシッド・ジャズの番組だった。当時アシッド・ジャズが大好きで、その番組の名前が『Moods & Grooves Show』だったんだ。レーベルの名前をどうしようか延々と悩んでいたときに、たまたまその番組を録音したカセットが目に入った。ピッタリだなって思ったんだ」

そう語るMike Grantは、筆者と共に、ダウンタウン・デトロイトの郊外にあるSlow's Bar BQの外で並んでいた。この日はMovementを目前にした金曜であったため、レストラン内は客でごった返しており、席に案内されるまで時間がかかりそうであった。外は気持ちの良い涼しさであり、ミシガン・アヴェニューは沈もうとしている太陽の明かりで暖色に照らされていた（角を曲がった所にある18階建ての巨大な廃墟、ミシガン・セントラル駅の駅舎は、常に影に潜んでいるようだった）。しかしこの入店までの待ち時間は、数週間前にSkypeを介して行ったインタビューで訊きそびれたことを、改めて訊く良い機会となった。数年前に一時的に休止したが、Mike Grantはこれまで15年間に渡って、Moods & Groovesというレーベル名にあまりにも相応しい作品をコンスタントにリリースし続けてきたばかりに、筆者はその名前の由来をインタビューで訊こうとも思いつかなかったのだ。

「特定のスタイルの音楽をリリースしようとは思っていなかったんだ」と彼は言う。「ときにムーディーな音楽を、ときにはグルーヴィーな音楽を出すことに集中した。だからその名前にしたんだ。そうすることで様々な雰囲気の作品を出すことができた。レーベル名のイニシャルが俺の名前と同じなのは偶然だったんだ。それが理由だって思う人もいるけど、そうではないんだ」

Grantはカジュアルだがスマートな格好をしており、いわゆるダンスミュージック・レーベルのオーナーというよりは、普通のお父さん、といった風貌だ（彼は12歳の娘とデトロイトの郊外に暮らしている）。しかしパソコンの画面ごしに彼を見たときは、自宅の事務机に座った彼の顔には明らかな疲労が見えた。インタビューを行ったのはベルリンではお昼時であったため、彼の住んでいる地域は真夜中であったことになる。テレコミュニケーションズ系の会社での仕事や娘の通学、そして軍関連の活動のことを考慮すると、彼がインタビューを行えるのはそういった時間帯のみであった。Moods & Groovesの特種な運営歴や、ダンスミュージック界においてGrantが未だに比較的アンダーグラウンドな存在である事実は、彼のこういったスケジュール上の制約が関わっている。

ダンスミュージックにおけるGrantの活動は、1980年に始まっており、米国中西部に飛んでいた内容の濃いラジオ電波による影響が大きい。彼の叔父はWKWM局のジェネラル・マネージャーであり、プロモ盤のレコードをよく彼に譲っていた。そうやって増えていった彼のレコード・コレクションに興味を持った高校の同級生が、立ち上げたばかりのDJグループにGrantを誘った。「ピッチ・コントロールのないベルトドライブのターンテーブルでDJしていたんだ。むしろ、1台のベルトドライブ・ターンテーブルと、レシーバー、6個ぐらいの家庭用スピーカーと1台のテープデッキでDJしていた」とGrantが思い出す。「それで初のパーティーをやったんだ」。そのうち、クラスメイトであったBlake Baxterのクルーに誘われ、それをきっかけに、当時芽が出始めていた同市のテクノ・シーンに関わるようになり、DJギグをもらい、Derrick Mayのラジオ番組『Street Beat』にゲスト参加し、Model 500名義で人気を博す直前のJuan Atkinsらと友情を築いた。

今こうして歴史を見てみると、Grantはそのままテクノ界で安定したキャリアを築くことになることが約束されていたかのようであるが、1985年当時、そうは思えなかったようだ。「今知っていることを、当時知っていたらなぁ」と彼は言った。「うちの両親からのプレッシャーがあったんだ。お袋は“一生DJをやってられるわけないでしょ！”って言っていたね」。当時の彼には、母親に言い返す言葉がなかった。彼は以前から軍に入隊し、その後軍から費用の支援を受けて大学に通う計画を立てていた。「そうすることで、しっかりした人生の基盤が作れることは解っていたんだ。そして、配置された場所でDJをすればいいや、と考えたんだ」。同年の年末、彼はワシントン州タコマの付近の基地Fort Lewisに配置された。

彼が飛ばされた太平洋岸北西部には当時、ハウスやテクノがまだ浸透していなかったが、東海岸から来た他の隊員にはそういった音楽に精通している者もいた。「この地域にハウス・ミュージックを浸透させようとしたんだ」と彼は言う。「なかなか大変だったよ」。彼はシカゴ出身の友人とシアトルのPenny Lane（現在ではEasy Streetと呼ばれている、シアトルの最も有名な音楽ショップのひとつ）に車で出向いては、自分たちがバイヤーに教え、入荷を薦めたレコードを購入した。Grantはさらにデトロイトの友人達に地元のレコードを送ってもらっており、そういったレコードをシアトルに持って行くこともあった。（彼のこういった個人的なプロモーション／ディストリビューション・ネットワークを通じて、間接的ではあったが、Grantは一度メインストリーム音楽界に影響を与えたことがある。Grantによると、彼は西海岸の初のヒップホップ番組の司会をやったことで知られるDJ、Nasty Nesに、Juan AtkinsのChannel One名義の「Technicolor」など、複数のレコードを渡したそうだ。Nasty NesはそのレコードをローカルMC／プロデューサーであったSir Mix-A-Lotに渡した。彼がこのレコードをサンプリングしたことで、1992年の大ヒット曲、"Baby Got Back"が生まれたのだという）

Atkins、May、Baxter、Kevin Saunderson、Eddy Fowlkesなど、Grantの友人達が、彼の両親が想像もしていなかった規模でブレイクしていた頃、彼は彼なりにダンスミュージック界で活発に活動した。「お袋に俺のレコードとか、タンテを送ってもらって、兵舎でDJしていたよ」。そして可能な限り、彼はシアトルのクラブでもDJをした。地元の人々の中には、ハウス・ミュージックの粗いヴォーカルや一定の4/4ビートを拒否する人達もいたが、夜が深くなり、客もお酒が回ってきたころに、彼はハウスをDJプレイにこっそりと忍ばせていた。

軍を去った1988年、Grantはデトロイトに戻った。自動車工場のライン作業員にだけはなりたくないと思った彼は、1年後にシカゴに移り、テレコミュニケーションズのコースを受講した。だが彼が到着したのは、シカゴにおけるハウスの第一の全盛期が過ぎていた頃であった。「WBMXがもう無かったことを知って、ショックを受けたね」と彼は思い出す。しかしGramophone Recordsに毎週土曜日通うことで、Derrick CarterとDJ Sneakといった人物と仲良くなった。「そこに通うのがルーティーンになっていたね。朝食を食べて、家の掃除をして、街に出るんだ。あの店ではシステムがあって、視聴するときは身分証を見せないといけなかった。俺はあまりにもいつもいたから、そこの店員みたいになっていたね。他の客にカートリッジを渡したり、免許証を見せてもらったりしていた」

そしてそうやって集めたレコードを、彼はシカゴやデトロイトではなく海外でのギグで最大に活用した。1992年ごろ、GrantはAtkinsに自身のエージェントを紹介してもらい、ロンドンのBrixton Academyのギグのオファーをもらった。「そのギグから帰ってくると、今後は“ナポリでギグがあるよ”と言われた。“よし！”って感じだったね」。Tresorの関係者にミックステープを渡したGrantは、今度はベルリンの同名クラブにてブッキングされた。そういったことが積み重なり、オファーがどんどんと入って来るようになった頃、Grantは正社員として働いていた。彼は海外ギグのために休暇をとり、残業をこなす代わりによりフレキシブルなスケジュールを希望した。当時彼は、例えば金曜日の仕事の後にドイツへと出発し、土曜日の夜にDJをし、そのまま空港へ向かい、日曜日に帰宅し、月曜日の朝には出勤する、といったことを頻繁に行った。中でも特に大変だったオーストラリアでのギグのことを彼はこう説明する。「たしかシドニー、パース、メルボロンの三都市に行ったんだ。帰りは30時間かかったよ。パースからシドニーで5時間、シドニーからロス、ロスからミネアポリス、ミネアポリスから家。自宅に付いたのが午前1時で、3時にベッドに入って、7時に起床して仕事に行ったんだ」

だが、会社でこつこつと働くことに不満を抱いていたGrantは、そのうち音楽に集中するため会社を去る決意をした。不満をAtkinsに明かすと、Atkinsは「こっちに戻ってMetroplexの運営をしないか？」と彼を誘った。「しばらく考えたね」とGrantは言う。「それで会社を去り、デトロイトに戻り、しばらくMetroplexの運営をやった。（Underground Resistance関連のレコードショップ／ディストリビューション・サービス／レコーディング・スタジオの）Submergeの事務所と同じ建物だったから、Mike Banksにアドバイスをもらうことができたよ」。Metroplexを運営する仕事は1996年に始まった。同レーベルから1997年に出たBlack NoiseのEP「Nature Of The Beast」は、彼にとって初のプロダクション・クレジットであった。このレーベルのマネージャー経験は、その後1999年に立ち上げるMoods & Groovesのインスピレーションとなったことは間違い無いが、ここでの経験は彼のキャリアにおいて入り口でしかなかった。すでに自身でレーベルを立ち上げられるだけのセンスとコネクションを持ち合わせていただけでなく、ビジネス系のコースを含む彼の学歴のおかげで、会社の運営に関しては他よりも知識があったのだ。

「俺のレーベルは、自分の作品を出すためのものにしたくなかった」と彼は言う。「他の人の作品を主に紹介することと、デトロイトにフォーカスすること、少なくともまずはデトロイトに集中して、そのうち視野を広げて行くことを考えていた」。1999年と2000年の2年間で、Moods & Groovesは、Alton Miller、Kenny Dixon Jr.、Rick Wade、Anthony 'Shake' Shakirといったデトロイトのアーティストの作品を始め、シカゴのBrian Harden、ロサンゼルスのJohn TejadaとArian Levisteによるコラボ作、Grant自身の初EP、そしてUKのMr. GとG. Flameによる3曲入りのEPなど、10タイトルのレコードをリリースした。2002年が終わる頃にはTheo Parrish、Andrés、Demarkus Lewisらの作品も出しており、End To EndとAfrosyntrixというサブレーベルも2つ立ち上がっていた。そしてMr. Gがほぼレーベルの専属リミキサーといった立ち位置になっていた。GrantとMr. Gの出会いはロンドンのレコード屋であり、後者が前者が着ていたMoods & Groovesのシャツについて話しかけたのがきっかけであった。「彼は、うちの作品に凄くインスピレーションを受けたと語っていた」とGrantが言う。「共通するものを感じたね」

2000年代を通して、Moods & Groovesは安定したペースで作品をリリースしていき、デトロイトのシーン内で生まれた繋がりと、新しい才能を発掘する確かな目を頼りに、新しいアクトをどんどんと契約していった。2004年には、André Lodemannの初作をリリースし、2008年にはKyle Hallの初期の名盤、「The Water Is Fine EP」を出している。ところが2011年、スコットランド人プロデューサーのBrad Petersonの「Midnight Escape」を境に、一旦リリースが止まる。「あの作品がリリースされたときは、動員令を受けて戦場にいたんだ」とGrantが説明する。彼はそれまでずっと、最初は歩兵として、その後は技術専門家として陸軍予備軍に在籍しており、アフガニスタンに配置されたのであった。

この期間、レーベルの運営はもちろんのこと、音楽活動を休止しざるをえなかったが、軍隊の行事で、デジタル環境でダウンロードしたmp3をプレイしたときの感動は忘れられないと語る。「久しぶりにDJして、音楽を聴いて、最高な気分だったね」（この期間に彼は聴力の損失を被ってしまい、現在補聴器を使用している）。だがMoods & Groovesの運営ストップはあくまで一時的なものだと彼はずっと捉えており、1年も経たぬうちに彼は帰還し、再スタートの仕方を考えていた。レーベルの廃盤作品がマーケットで高騰していることに彼は苛立ちを覚えていたが、リプレスするためのオリジナルアートワークを持っていない作品が多かった。Mr. Gと話し合った結果、レーベルのバックカタログ問題をカバーし、しかもMoods & Groovesを市場に改めて紹介することができる方法を思いついた。

それが「Moods & Grooves Classics」であり、2013年初頭に発売された第一弾は、Andrésの"You're Still The One"（この盤では、同曲のEPのタイトルであった"Out In the Open"というタイトルで表記されている）と、Mike Grantの2001年のEP「And Then It Was My Turn」収録の"The Struggle Of My People"のMr. G.によるリミックスが収録されていた。今年の3月までに、同シリーズは計5タイトル発売され、KDJ、Rick Wade、Demarkus Lewisらの旧譜や、それまでCDでのみ聴くことができた楽曲を再発した。「Classics」の第五弾はレーベルのリリース50作目でもあったため、Grantの"My Soul, My Spirit"のMr. Gバージョンと、Theo Parrishの"Chunky"をレッドヴァイナル盤に収めて発売された。

「過去の売上を見て、ベストセラーのやつから再発したんだ」と彼は説明した。「仲の良い人達で、再発しても良いと言ってくれた人達の楽曲を出した」。Grantによると、「Classics」シリーズはあまりにも人気であったため、リイシューをまたリイシューする必要があったという。「Andrésと俺の曲が入った最初のなんて、未だに売れているんだ。先週リプレスをリリースしたばかりだけど、もう“もっとありますか？”って連絡を受けているよ」。しかしGrantはただリプレスをし続けるだけのレーベルには興味を持っていない。アフガニスタンから帰還して以来、彼は地元や海外へと目を向けながら、新しい音楽を発掘し続けており、最近ではAlton Millerの新作、Dirt Crewの新名義Hidden Spheres、ルーマニア人のトリオ、Lisière Collectifなどの作品をリリースした。そしてクラシックをただ無限に出し続け、停滞することだけは避けたいと彼は考えている。それがデトロイトの現在のシーンの問題でもあると彼は指摘する。「同じものを繰り返し出しているだけなんだ」と彼は言った。

Skypeでのインタビューのときも、そしてプルドポークやバーベキューリブをほおばりながら会話をしていたときも、彼は30年続けて来たこの忙しない活動の仕方に関して葛藤を露にしていた。保守的なディストリビューターたちが、彼が最近興味を抱いている新しい才能よりも、レーベルのビッグネームの作品ばかりを求めることにフラストレーションを抱いていることも語り、DJ活動やプロデュースをまた積極的に行っていきたいとは思っているものの、そういった活動において必要不可欠なセルフ・プロモーションにそれほど興味がないと言っていた。実際、そういったことをやろうにも、いつそういったことに時間を費やせるか解らないのが現実だと言う。

「軍隊と、レーベルの運営と、仕事の合間に、どうにか娘のために時間を作っている状態なんだが、自分のための時間がほぼ無いんだ」。だが、Grantがどれほど普通の仕事をする普通の父親になることを考えても、結局は、Moods & Groovesを今後どう展開するかということに意識が向いてしまうようだ。彼の声がもっとも熱気を帯びたのは、レーベルの今後の話をしているときだった。「今後も拡大を続けようと思っているよ」と彼は言った。「それだけは言える」

Moods & Grooves LOTM mix
クラシックから、最近のリリースまで、同レーベルがこれまで世に放ってきたムードやグルーヴをMike Grantが紡ぐ。

Download: mix

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Filesize: 257.3 MB
Length: 01:47:12

Pirahana Head feat Divinit/Lisiere Collectif - Poem 4 a Lost One/E - 1208 - 13
Hidden Spheres - The Bloos
Theo Parrish - Chunky
Joe Le Bon feat Elsye – Why Dogs Sing
KDJ - Untitled 2
Mike Grant - Sunlight
Cool Peepl - Free (Andres Remix)
Kyle Hall - Tomorrow Is The Day
Abicah Soul meets GU - Negro Yosoy Peligro
Brad Peterson - Deepness Is A Way Of Life
Glenn Underground - Soft Cell
Alton Miller - Ngizo Ku Linda (Abicah Soul Deep Mix)
Black Music - Lost Of Love
Cool Peepl – Free (Mr. G remix unreleased)
Phaze Dee - Game Of Life (unreleased)
Rick Wade - Summer Nights
Digital Funk Addicts - Higher Level
Joe Le Bon - 82 Degrees
Brian Harden – Matrix
Pirahana Head feat Diviniti – Poem 4 A Lost One (Mr. G’s Brotherly Love Mix)
Mike Grant – My Soul, My Spirit (Mr. G’s Freedom Train Mix)