比較的新しいハウス／エレクトロニック・ミュージックの多様性をキーワードとした独自のラインナップで定評のあるRainbow Disco Club。2010年より、毎年5月に晴海客船ターミナルにてオープンエア・イベントとして開催されてきたが、今年は伊豆・稲取高原にある「東伊豆クロスカントリーコース」にて5月2日～4日の3daysキャンプイン・スタイルという大胆な路線変更を伴って開催された。正直、筆者はキャンプインでの開催アナウンスを聞いた際には一抹の不安を感じた。と言うのも、RDCは都心近郊での1dayイベントという足の運びやすさが魅力であったし、その気軽な環境に慣れているRDCのファンが、3日間のキャンプのために大きなザックとテントを持参して伊豆まで来るのだろうか？　だが、蓋を開けてみれば、おおむね天候にも恵まれ、RDCらしい選りすぐりのアーティストの共演を、5月の風薫る空気とともに堪能できた素晴らしい3日間となった。今回はキャンプインスタイルになって初開催であるため、読者にとっても知りたいことは多いはず。ということで、肝心のサウンドはもちろん、ロケーション／オーディエンスについても詳しくレポートしていこう。

全面芝生の好ロケーション

開催地となった東伊豆クロスカントリーコースへのアクセスは都内より車で3時間程度という距離。開催初日はGWウィーク初日と重なったため、遅めの時間に車で都内を出発した来場者は大渋滞に巻き込まれるというハプニングもあったよう。会場で会ったアーティストやDJ、友人などに話を聞くと電車でのアクセスが便利だったようで、伊豆稲取駅より会場まではタクシーで10分程度。来年以降、RDCが同会場で開催されるのであれば、電車でのアクセスもオススメだ。同会場はメインとなるオープンエアのRDCフロアから出店エリア、キャンプエリアまで一面が芝生というグッド・ロケーション。ハンモック・エリアも設営されており、芝生に寝そべったり、ハンモックに揺られながら音を聴いたりと、終始リラックスした雰囲気を感じた。出店エリアには多くの飲食ブースが揃っていたので食事に飽きることもなかった。また飲食以外にも洋服やレコードなどのブース、ワークショップなども開催されており、フェスティバルらしいお祭り感覚があったことも記しておきたい。フロアは先述したRDCフロアに加えて、Red Bull Music Academyがプロデュースする室内フロアという2ステージ構成。フロア間の移動は徒歩3分程度というアクセスの良さで、お目当てのアーティストを逃すということもなかった。要となるサウンドシステムはRDCフロアはFunktion-One、RBMAフロアはPioneerの最新PAシステムを導入。2014年のRDCはメインフロアのサウンドに物足りなさを感じたが、今回はその点は大幅に改善されていた。野外（特に下が地面の場合）でのFunktion-Oneのサウンドはやはり格別で、室内フロアのPioneerのスピーカーも低音の鳴り方がすこぶる良く、いずれのフロアでも音にしっかりと浸って踊ることができた。オーディエンスは昨年までのRDCをイメージするような客層で、フロアにはシンプルに着飾ったスタイリッシュな女の子も多く、華やかな印象を受けた。日本のダンスミュージック系のキャンプイン・イベントはレイブ色のあるものが多いが、今回のRDCからはそういった匂いは感じなかったのも印象的だった。21時にぴったりと音が止まるタイムテーブルに加えて、キッズスペースや出店ブースのセレクション、充実したバーメニューなどからも、大人がゆったりと遊べる空間作りを意識されており、その意味でもRDCが都心型フェスで培った洗練感をそのまま野外へと持ち込んだとも言えるだろう。そのおかげもあって何の不自由もなく3日間を過ごすことができた。

こだわりぬかれた3日間のラインナップ
　
ロケーションの良さもさることながら、やはり今回のRDCの目玉はアーティスト・ラインナップだ。開催日のアナウンス時は「3日間ディスコってどうなの？」とも思っていたが、発表されたタイムテーブルを見ると、ディスコやハウスはもちろん、ミニマルからイタロ・ディスコ、ダブ、ロック・バンドと多種多様のアーティストが各日にラインナップされ、たとえ1日だけ遊びに来ても、充分に楽しめるような配慮を感じ取れた。1日目は新作『Integritithm』のセールスも好調なSo Inagawaが華麗なライブセットを披露したほか、RBMAステージではEnaがエキセントリックなべースサウンドで、Rebel Familiaが重厚なダブで、Pioneerのスピーカーを鳴らしきっていた。Deadbeat & TikimanからModean Deep Left Quartetというエレクトリックな流れもスタイリッシュでRDCらしさを感じられた。2日目は、昼下がりの爽やかな五月晴れの下で聴いたKenji Takimiの温故知新なディスコセットは格別だったし、Session Victimの熱のこもったライブセットも見応えのあるものだった。だが、何と言ってもこの日のメイン・アクトはTodd Terjeのライブセット。Nord Leadをはじめとした数台のシンセサイザーを用いて自身の曲を披露していくが、緩急を付け方が巧みで、ライヴ・アーティストとしての実力の高さを遺憾なく発揮。メランコリックでアーバンな世界観をしっかりと提示したパフォーマンスは、今回のRDCにとって最高潮の盛り上がりとなった。同日のRBMAステージではBlack Devil Disco Clubがいぶし銀のイタロ・ディスコを披露したほか、John Talabotのテクノよりなハウスセットはミニマルに淡々とつないでいくミキシングが絶妙で、結果としてXDBを見逃してしまうほどに踊らされてしまった。3日目はRush Hour All Starsが縦横無尽なディスコ／ハウスセットでハウス・ミュージックの解釈の広さを打ち出し、大いに盛り上げてくれたほか、Ataの徹底したミニマル美学に基づく繊細なハウスセットは、マニアックなダンスミュージック・ファンにとって忘れられない時間となったはずだ。このようにマニアな目線でもライト目線でもしっかりと楽しませてくれるラインナップからも、RDCの選択眼の鋭さと柔軟なセンスを十二分に感じ取ることができた。

変化とその成果

昨年までの都心でのワンデイ・イベントから、野外での3日間キャンプインのスタイルへと移行したRDCのチャレンジは大成功と言えるだろう。昨年までの気軽にアクセスできるスタイルも魅力的だったが、東伊豆の優れたロケーションはもちろんのこと、これまで以上に多様なダンスミュージックを3日間にわたり綿密にオーガナイズされたラインナップにより、RDCが提示する世界観をさらに濃密に堪能することができた。これによって来場者のRDCに対する評価もさらに高まったはずだ。開催期間中に満杯になったキャンプサイトを見れば、RDCが選んだこの変化はファンにとっても多いに受け入れられたのは事実であったし、記事内の写真を見れば今回のフェスがいかに素晴らしいものであったは分かると思う。しかし一方でこれだけ優れたラインナップであれば、もう少し動員が増えても良いのになとは思ったが、良いフェスは必ず口コミで成長していくものなので、何の心配も要らないだろう。なぜなら快適な季節である5月に、気鋭のハウス／ディスコ系のサウンドを野外で十二分に堪能できるフェスはRDC以外にはないのだから。3日間のキャンプイン・スタイルへと成長を遂げたRDC、早くも来年の展開が待ち遠しいと思えるほどに充実した3日間だった。