Frequency Responseシリーズのコンセプトは以下の通りである。3人のアーティストになんらかの刺激を与え、その反応として音楽を制作してもらう。「歴史」、「アート」、「映像」の3編から成る特集となり、その課題に対してどういった手法で作品作りを行ったか、毎回本人たちに語ってもらう。このコンセプトをどう解釈するかは、各アーティストに委ねた。唯一のルールは、4週間以内に音楽で返答をして欲しい、ということであった。

Frequency Responseの第一弾のテーマは「歴史」だが、Teufelsberg（トイフェルスベルク）という場所に足を踏み入れて感じるのは、歴史だけではない。ベルリンの最も高い地点であり、「悪魔の山」を意味する名がつけられたこの地は、第二次世界大戦の瓦礫を積み上げてできた人工的な丘。下層部には未完成であったナチスの陸軍士官学校Wehrtechnische Fakultätが埋まっている。「連合国は学校を爆破しようとしたが、あまりに建物が頑丈であったため、瓦礫で埋めることにした」とWikipediaに書いてある。なお、Teufelsbergの頂上にはNSA（アメリカ国家安全保障局）の通信傍受施設の跡地があるほか、過去には24mのスキーランプが設置されたことや、のちに白紙になったが、アパートやホテルを建設する計画もあった。

現在のTeufelsbergは、鮮烈なコントラストが味わえる場所だ。建物は基本的に原型を留めてはいるものの、荒廃しており、街を見下ろすように佇むレーダー・ドームは冷戦時代のパラノイアを象徴するように不気味。しかしそれを囲むように広がるのは、ドイツらしい美しい自然。Grunewaldの森が視界の遠くまで伸び、北東の方角でベルリンの端と繋がっている。戦争と混沌の過去を覆い隠すかのように、強烈な静謐感が漂っている。

先月のとある蒸し暑い日、Modeselektor、Laurel Halo、Loticと共に我々はTeufelsbergを訪れた。各アーティストたちは黙々とこの奇妙な空間を吸収し、ドームの中の凄まじいリバーブを録音し、楽曲制作の準備を行った。

Frequency Responseは、制限なくユニークに、アーティストのクリエイティビティを追究するシリーズである。現代のエレクトロニック・アーティストの複雑なニーズに答えたシステムである、AIAIAIのモジュラー・ヘッドフォンTMA-2 Modularもまた、同じスピリットのもと開発された。

Modeselektor

ここに来て、何が起こるかまったく予想できなかった。唯一知らされていたのは、Teufelsbergに来るという事実だけ。アメリカ軍が冷戦時代に使っていたレーダー・ステーションがある場所だ。私たちのプランとしてはここでフィールド・レコーディングを行うことだったが、予測していたこと以上のものを得ることができた。この場所にいると、最後に生き残った4人が音楽を作る、みたいな展開のSF映画のワンシーンを思い出した。

ここは過去、立ち入り禁止の軍事施設であったから、どういった場所で、どういった音響になっているのか想像もできなかった。ドームの中の中心には、小声で話していて恐ろしくなるぐらいの音響の地点があった。

膨大のフィールド・レコーディングを持ち帰った。たいてい、数秒を切り取ってループして、それでベーシックなリズムを作る。Laurel Haloなど他のミュージシャンもいたから楽しい経験となった。すこし合唱してそれも録音したんだ。全体的には、普段とは違った制作プロセスになった。やっているとある程度テクニックとかツールといったものが決まってきて、それが結果を左右するんだけど、どちらにせよ、当初予想していたものとは違うものに大抵なるんだ…

Laurel Halo

第二次世界大戦の瓦礫の上に建てられた通信傍受施設の跡地という目的地だけあってか、GPSが使い物にならない状態で、ようやく正しい角をまがり、見えてきたTeufelsbergの丘。ボロボロのレーダー・ドームが青空をバックにくっきりと浮かび上がっていた。

2階に上がり、ふたつのレーダー・ドームへ。廃れた、前世代の旧式テクノロジーの象徴は中途半端なグラフィティで埋め尽くされていた。この中で声を発すると、強烈なリバーブで恥ずかしくなるぐらい。過剰なフィードバックみたいに、自分の声がありえない音量に増幅されて、自意識過剰になるのを必死にこらえないといけなかった。

そこでしばらく録音をしたあと、最も大きく高いレーダー・ドームのある最上階へ。中に入るとすぐに陰鬱な気持ちになった。下のふたつを覆うようにそびえ立ち、ちっちゃな穴からもれる光以外に光源はない、暗い場所。殺伐としていて、小声で喋っても凄い音量になって跳ね返って来た。錆びた釘や鋭いワイヤーで怪我をしないように気をつけないといけなかった。ワイヤーにガラスを当てたり、壁を殴ったり、足を引きずったり、指を弾いたり、ラジオを流したり、喋ったり、ハミングしたりした。全ての音が優雅で、空虚で、伸びるようなリバーブを着飾っていた。輪ゴムをセッティングしてビーンと弾いて弦のような音を作ったり、皆でちょっとハーモニーを歌ったり。印象的だったのは番犬のCocoちゃん。Coco Chanelから名付けられた、にこやかなロットワイラーで、よだれをたらしながら、あえいで、リバーブの中で足を引きずっていた。

その全ての音をこのトラックで使用した。最初はある程度構成のあるトラックにしたけど、後半はもっと緩い展開にした。

Lotic

この場所をこの目で見て、吸収して、感じたことを持ち帰る、っていうことぐらいしかプランはなかった。僕の楽曲は90％が編集と考察で、10％が実行動でできているから、ここに来てもあまりやることはないと解っていた。

この場所の歴史はもちろん考えさせられたけど、それ以上に、ここからいかにベルリンが見渡せるかということに言葉を失った。人造的に作り上げられたこの街を、森の上から眺めていて、しかも今立っている山はその街の以前の姿の破片からできているなんて。現実味がないし、悲しくなるけど、最終的に自分の小ささを実感した。

ここに住み着いているCocoという犬がいて、最後にあいさつをしに来てくれた。僕はこの曲を、その犬の視点からTeufelsbergを眺めた気分になって作った。この空間を上手く自分の頭で処理できなかったから、犬に自分を投影させてみた。普段作っているものよりもちょっとライトでポジティブな、遊び心のある曲にしようとした。自分ではなく、犬がこの曲を作っているという気分で作って、それが実現したと思う。あと、とても楽しかった。

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