エレクトロニック・ミュージック史において、個性的な音楽機材は幾度と無く音楽ジャンルを創出してきた。いくつか例をあげていこう。TR-909のキックによってハウスやテクノの統一感が生まれ、TB-303のベースがなければアシッドハウスの酩酊感は普及しなかったはずだ。また初期ヒップホップでは、SP-1200のザラついた質感でなければ成立しなかったトラックは数々あるだろうし、マイアミベースから近年のトラップに至るまでの強烈なベースはTR-808の重厚な音色あってのこと。このように名機は、音楽ジャンルを変革するための必要不可欠な要因だ。現在はPC上のソフトウェアでシンセサイザーのエミュレーションや気軽なサンプリングが可能になったとはいえ、実機からの音質には代え難いと考える人は多い。そのため、TR-909、TB-303などのいちジャンルを作り上げた機材は中古市場で高値で出回る。そういった貴重な機材を流通させる店舗として、国内外で名高い店舗が、東京にあるシンセサイザー専門店Five G。ビンテージシンセとモジュラーシンセを中心に取り扱う老舗だ。

若者で賑わう原宿駅竹下通りの入り口。その向かいの雑居ビルの4階にて、Five Gは営業中だ。店内に入ってまず驚くのが、壁のように積まれたモジュラーシンセ群。まるでSF映画の宇宙船のようなツマミの数。奥にはビンテージシンセが並び、レアなサンプラーやテープエコーなどのエフェクト類を含めた実機の量に圧倒される。KORG Mono/Polyや、SH-101のグリップ付きなど、生ではなかなか見かけない機材の美品が並び、その多くが通電され、その場で音が鳴らせるのだ。リズムマシンや新作シンセサイザー、録音関係のマイクプリアンプも同様に陳列されている。直接目で見て試せることが店舗ならではの魅力だ。現在どのような品揃えであるかはウェブサイト上から確認できる他、「Five G Vintage Synthesizer ミュージアム」のコーナーでは今まで取り扱ってきた中古品の足跡を辿ることができる。そして販売した機材はリペアが行われ、ユーザーの手に届いてからもアフターケアを行う。音の出る状態を保ち続けようとする点もこの店ならでは。Instagramのアカウントでは実機を鳴らす簡単な動画が日々アップロードされ、そこに著名なアーティストの来店写真も混ざる。「The Labyrinth 2015」出演のため来日したMathew Jonson、「Exhibitionist 2」のライヴのために来たJeff Mills、イタリアのトラックメーカーDusty Kid、ロックバンドのOK GoのDamian Kulashらの写真が掲載されている。他には海外からHardfloorやDaft Punkも来たという、日本公演の際に立ち寄ることの多い店だ。

今回の取材では、Five Gの創業者である鈴木社長に、バックグラウンドを含めた歴史を聞いた。そしてこの店には、UKのHyperdubからリリースしたことでも知られる日本人トラックメイカーQuarta330こと国府田が店員として勤めている。店の看板としての顔をも持つ彼、2人にインタビューを行った。物腰の柔らかい鈴木社長は、現在58歳になる。音楽との出会いは高校の頃ロックから始まり、最初に演奏した楽器はキーボードではなくギター。エレキギターをやりながらエレクトロニクスにも興味があり当時からエフェクターを自分で作っていたという。「エフェクターを接続することで原音がどんどん変わりますよね。その仕組みがどうなっているのかを知りたかったのと自作すると安く作れたのでディストーションからBBDコーラス、テープエコー、アンプなどいろいろ作りました。またその頃、KORGからX911というギター・シンセサイザーの廉価版が出たんです。音をあんまり作れないし今にして思うと大したことないんですけれど、その体験から電子楽器にさらに惹かれていったんです」

そこからシンセサイザーに興味を持つようになる。「当時、高田馬場にエレクトロニック・アートセンターという非営利の団体があり、遊びに行っていました。そこには、BuchlaやEMS、そうそうたるシンセサイザーを持ち込む人たちが集っていて貴重な体験をさせてもらったのも大きかった。ちなみに主宰者は先日ご退職なされたそうですが大阪芸術大学の上原和夫教授でした」。大学では英語とドイツ語を学び、当時から海外へ行くことが好きだったという鈴木社長は、「ある時、外国を放浪して日本に帰る時に、当時30歳くらいだったんですけど、そのぐらいの年齢になるとアルバイトニュースを見ても仕事がなくなってくるので、何か自分で起こそうと思って。音楽、楽器、外国語、旅、エレクトロニクス、物作りなど自分が好きなものを一緒くたにしたのが今の仕事です。自分の趣味を仕事にした感じですね」と、Five Gの成り立ちを教えてくれた。

当初の1988～89年頃は親から借金をして、アメリカからエレキギターやギター・アンプを輸入して、店舗を持たずにさまざまな楽器店に委託販売をしていた。真空管のアンペグ、マーシャルやフェンダーなどギターアンプを修理、改造して販売。事業を始めてから、ギターショップが多いため競争が激しいことに気付いた。「シンセサイザーも好きだったし、シンセサイザーのショップが少なかったことから自分で専門店を作ろうと思い立ちました。そして半年ほどかけてヨーロッパとアメリカを旅し、数百件の楽器店を巡ってシンセサイザーを大量に買ってきたんです」

ちょうどその当時はDX-7が発売されて以来デジタルシンセサイザーが人気を博していた頃で、デジタルシンセの需要が増えてアナログシンセの値段が下落していた。「それで買いやすいというのもあったし、デジタルシンセだと自分で修理、改造できることが限られてくるのに対しアナログシンセは自由度が高い。それで自然とアナログになっていきましたね。実際、たくさんのアナログシンセを修理し、MIDI対応の改造などをしました。それとやっぱり最初に触れたのが、BuchlaやEMSとかだったのも大きな理由です。当時学生だったから買えなかった憧れの機材を店内に置きたかったんですよ」。そこから26年が経つ現在、店頭で取り扱っているものの95％がアナログ機材だ。

まさにここにしかない店を、どういった精神を持って営業を続けられているのかを伺うと照れ隠しなのか、「良くも悪くもバカの一つ覚えですね（笑）。ホントそれだけですよ。26年前からアナログベースのビンテージシンセを売ってきた訳ですが、そういうものって修理とかアフターケアが大切じゃないですか。だからうちでお求めいただいたお客様のことを考えると辞めるわけにはいかないし、自分たちが1台1台にキャラクターがあるビンテージシンセサイザーが好きなので絶やしたくないという思いもある。あとはビジネス的なことですが競合があまりない。そう儲かるものではないので、大手も参入したくないでしょう（笑）。とても手間がかかるので。ただ、やっぱり特化したところで勝負したい。うちぐらいの規模ですと、なんでもかんでものデパートみたいにしたら勝てないし。このフィールドだといけるという部分で世界に勝負した方がいいじゃないですか」と、はにかみながら経験から得られた返答が戻ってきた。

希少な機材を取り扱うスタッフは少数先鋭。創業者の鈴木社長自身も修理はできるが、普段は系列会社で輸入代理店の福産起業が輸入する機材を生産する外国のメーカーと交渉することがメインだ。次に長いのは23年勤めるリペア／メンテナンス専門の技術者、吉田。アナログとデジタルどちらも対応でき、忙しくなる前はメモリの増設など様々な改造もしていた。また、買い取りの値段と売値の設定を行っているのも彼だ。動作はもちろん、タバコのヤニの汚れや、外傷など、中古ならではの状態とその価値を一番理解している目利きでもある。そして、Quarta330こと国府田は大学で英語学科だったこともあり、独自に輸入している機材のマニュアルの翻訳などを受け持つ。鈴木社長は、「彼はアーティストで機材が大好きなんです。中学生の頃からうちに来ていて、2、3時間ずっと店の中にいるんですよ。『あの子まだいるよ』みたいな。一回アルバイトにきて『こいつ本当に好きなんだな、こういうのが』ってすごく感じて。今は社員です。一般の機材にも精通していますし、うちで輸入してる機材の生き字引的な存在。外国に行って演奏もするので、諸外国のいろいろな情報が入ってきたり、繋がりができたり。そういう意味で欠かせないスタッフですね」とQuarta330についてこう語る。そして店頭業務とウェブ関係を任されている三代澤。国府田とクラブで知り合って入社したという。働き始めて３ヶ月の平井も彼らとクラブで知り合って入社。それと非常勤でウェブや販売業務をサポートする田島は20年前にアルバイトとして数年間働いていたのが縁という。

この店の方針は「楽器として末永く扱えるものを扱いたい」という意向があり、個人やスタジオから買い取った機材を完動するようにリペアして販売。そして販売した機材は故障した際、修理まで行う。店内奥の修理スペースには潤沢に機材のパーツのストックがあり（何百キロにも及ぶという）、約40年前のシンセでもフルメンテナンスできることが強みだ。「うちでビンテージ・シンセサイザーをお求めになったお客様は機材が万が一壊れた場合の修理を期待している。それに答えないといけないので」と鈴木社長はいう。この手厚いアフターケアのおかげで、付き合いの長い顧客も生まれ、電気グルーヴの石野卓球、アニメ系は岩崎琢など、多岐にわたるアーティストとも信頼関係を結んでいる。

中古の買い取りの歴史も長いため、これまでに様々な機材が入荷されては、送り出されていった。すごく珍しい機材では、生産台数が40台しかないEMSのSynthi100が入ってきたこと。20年ぐらい前にデンマークの放送施設から輸入したそうだ。「EMSにはSynthi100の1台、1台の納品先や修理の履歴などが書かれたカルテがあるんですよ。福産起業がEMSの輸入代理店をしている関係もあってシリアルナンバーを伝えたら情報を教えてくれました。正にレアモノですね」鈴木社長は続ける。「なんだろうこれっていうのもいっぱいあるんですけど、でもSynthi100がサイズもインパクトも一番大きかったかな」。他には旧東ドイツ製やソ連製のシンセサイザー、ARPの小さなモジュール、おもちゃのレゴと同じ発想のガチャガチャくっつけるタイプのスウェーデン製のシンセなど。また違った意味でのレアモノも入る。シリアルナンバー1のARP ODYSSEYを輸入。Korgに問い合わせたら最初の一台だったというMS-20。縁起の良いものでは、Prophet 5のシリアルナンバー5がFive Gへ。しかし、これだけ長年営業をしていても店に入荷しない機材をネットで見かけるという。シンセサイザーの世界は思っている以上に奥が深い。

ここ数年のビンテージシンセの値段の高騰は顕著だ。TB-303は店頭で24万円。TB-303を模したクローンの機材は他メーカーから多数リリースさているが、実機には代え難い。「303はシーケンサーが使いづらいけれど出音に味があって、ビンテージはその雑さがいいんですよね」と国府田はいう。TR-808は10年前に8万円だったが、30万近くまで上がった。逆に値段が下がった機材はサンプラーなどのテクノロジーの進化の影響を受けやすいもの。ちなみに取材時に店舗にあった一番高価な機材は、1975年発売のRolandの大型モジュラーシンセ、System700。次に滅多に見かけることのないアナログシンセEMS polysynthiが100万以上するという。車が一台買えるほどの文化的な価値を背負った価格となっている。

この背景には、ビンテージシンセの人気向上が影響していると言えるが、その点について鈴木社長は、「最近のブームはここ3、4年。楽器の普及としては、エレキギターの方が古いじゃないですか。アナログシンセサイザーの大量生産って70年代初期からかな。エレキギターではビンテージというカテゴリーが随分前にできましたが、遅れてシンセサイザーもそれを獲得しつつあるのだと思います。だから最近は昔のシンセサイザーメーカーのリバイバルが多いのでしょう。好きなアーティストと同じ音を出したい、好きな音楽で使われていた憧れの機材は若い時には買えなかったけど歳を重ねて買えるようになった、また単純に音が良いとか、ソフトシンセをマウスでカチカチやっていても面白くないとか、いろいろあるでしょう。一時期はテクノロジーの進歩で『もうリアルなものは要らないのかな、ヴァーチャルなソフトだけでもいけるのかな』って思ったこともありましたが、未だにそこまで行きませんね」

約10年勤続をしてこれまで2000台以上の機材の買取時の動作確認を行い、多くの機材に触れてきた国府田は、良い機材に対してこう考えている。「良い機材は小細工をしなくても『ああ、これでいい』って思える説得力があって面白いです。エフェクターを乗せずに鳴らして満足するのはありますね。潔くていい。とはいえ、実際に曲にするとしたら、エフェクターとかそれなりにかけてあげないと、やっぱり音の密度が如実に出ますね」。個人的なお気に入りの機材は、Studio ElectronicsのBoomstarと楽しげに語る。「ここ最近のシンセで面白い。良さはスペック的なところではなく感覚的なものだったり。あとはProphet-6、OB-6とかもいいですね」。ここで彼に、プロデューサーQuarta330としての制作活動に、機材屋として毎日機材と向き合うことがどのように影響しているのか気になり聞いた。「仕事で『これはこういうものだ』と仕組みをわかっていないといけない。理解ができてしまうので、偶発性で面白い音が生まれることは僕にはそれほどなくなってしまいました。ただ、楽器なので音を出してみて、『ああ、いいなあ』というのはもちろんありますよ。ジレンマがありますね」。才気際立つ楽曲をリリースをしてきたQuarta330は、こういうった特殊な環境から生まれる葛藤を背負ったことが才能の一因だったことに気付かされた。

一方でビンテージシンセの国内の中古事情としては、日本から中古機材が出て行ってしまっている印象があるという。そしてビンテージは確固たる価値ができあがって値段が高騰し、今は逆に新品のシンセサイザーの売れ行きが好調だそうだ。鈴木社長曰く、「僕の知り合いのビンテージカメラの仕事をしている人が言うには、ライカなど銘機がその当時の通貨が強い国に流れていってしまう。残念ながら今の日本円は元気がないので海外に流れていますね」というように、世界的な機材は為替レートの影響も大きい。Five Gも開店当初は外国から買う側だったが、今は外国へ売ることが多くなり、希少な機材を見る機会が減っているという。この価格の変化はebayなどオークションサイトの影響も大きい。ネットで値段があがると、店頭での値段も上がる。

この店でビンテージシンセと対を成す看板となる商品が、新製品のモジュラーシンセ。音を生成させる装置や加工させる装置などの目的ごとに制作されたモジュール（構成要素）を、ケーブルで繋いで組み合わせて音作りをする機材だ。近年は老舗Rolandもモジュラー関連のリリースを立て続けに行うなどその人気は顕著だ。Five Gは国内代理店として海外のモジュラーシンセも入荷。英文のマニュアルを和訳して販売する力の入れ具合だ。今はMutable InstrumentsとMake Noiseが人気だという。輸入した機材は卸も行っている。「最近はだんだんモジュラーが増えてきていますね。うちが付き合ってきていたメーカーがこぞって出し始めている。かつ、新しいモジュラーだけのメーカーも。今後もまだ増えそうな感じがしますね」と鈴木社長。

近年のモジュラーシンセは、ビンテージの過去の技術を現代の解釈でリファインして機能を追加したものもある。例えば、70年代のBuchlaを作りなおしたMake Noiseというブランドは、リプロダクトではなくアイデアを継承してアレンジしている。昔の自作楽器はアナログ回路の電気的な知識がないと作れなかったが、現在作られているアルドゥイーノベースで作られた機材は、コードによって音響的な処理が行われ、プログラマー的な知識を応用したものが増えた。この進化は、年々PCの処理速度が早くなりハードウェアとの組み合わせが容易になったことや、Doepfer社によるユーロラックというコンパクトなサイズの規格が浸透したこと、Elektron社によるOverbridgeという規格ができてよりシームレスにPC上で連携をしやすくなったという背景がある。こういった進化もあって、多くのメーカーが参入してモジュラーシンセが多く生産され、ムーブメントの一役を買ってる。

このムーブメントには、どういったユーザーが多いのか。モジュラーシンセ・シーンの印象を国府田に聞いたところ、一昔前のオンラインでコードを共有しあう文化の影響が大きいようだ。「ユーザー同士の結びつきの強いシーンで、知識をお互いに共有しあう姿勢がプログラムやコードを公開する（ソフトウェアの）Max MSPのシーンに似ているんですよね。コードとはベクトルは違うけれど、オンラインで動画をシェアすることで同じようなユーザー同士で仲良くなったり、テクニックや知識の共有がされるのがモジュラーは顕著。最近のモジュラーシンセだけでなく、過去のビンテージシンセも動画を見て欲しくなるケースも多い。（楽曲自体は）モジュラーシンセの中での世界を完結させたい、モジュラー単体で表現するっていう人が多いですね」

鈴木社長にも単刀直入にモジュラーシンセの魅力について聞いた。「何が一番好きかって聞かれると、基本的にモジュラーシンセなんですよ。自由度が高い。パッチングでいかなる接続もできる。そこですよね。ゼロから自分で作れる。でもモジュラーシンセもずっとやっていると、だんだん音を創っていくパッチの仕方が固定化されて、けっきょく普通のポリフォニックシンセサイザーと同じような構成、原点に戻ってくるのかな…という気もします」

では、パッチの組み合わせにも限界があるのか？　多くの機材に触れてきた鈴木社長の意見は気になるところ。「限界があるとは思わないんですけれど…。どうなんですかね。もともとモジュラーってシンセサイザーを構成するオシレーターとかフィルターとかエンベローブジェネレーターとかがブロック化されて自由に入出力ができるようになっているのですが最近のモジュールって、それが統合されて、幾つかのブロックが組み合わされたものも多い。また特にデジタルで構成されアナログでは考えられない動作をするものが増えています。これまでのモジュラーとは違った展開になるんでしょうね。自由度というか選択肢は過去とは比べものにならないくらい広がっています。それは間違いないですよね」

インディペンデントで会社を作ってモジュラーシンセを作る人が増えたおかげで、多種多様なモジュラーシンセが出てきている。過去との違いは、やはり低価格で高性能なPCの普及とインターネットの影響が色濃く、さまざまな工程が簡単になった事が多い。例を挙げると、プログラムで音が作れる、CADでハードウェアの設計ができる、プログラムもネット上で共有できる、資金がなくでもKickstarterなどのクラウドファンドで資金を募集できる、販売もネットを使えばPayPalで決済できるなど。そういった意味で、作る側の都合として便利な世の中になったといえるだろう。ハードルが低くて参入しやすくなったのだ。

良いことばかりでもない。参入障壁が低くいため、大手メーカーと違ってインディペンデントのメーカーはピンキリで玉石混交。今まで楽器産業の中にいなかった人が急にきているので、ビジネス面で常識やマナーがわかっていない人が多いと鈴木社長はいう。「例えば、うちがディーラーとして、日本国内で売るじゃないですか。その場合にメーカーが日本国内のエンドユーザーに直接売るのは、普通はやっちゃけないことなんですよ。あと保守の面。基板の設計や販売後の修理のことをまったく考えていなかったり。まあ、そういうのはビギナーだからしょうがないですよ。だんだん覚えていく。現在、200以上のモジュラーのメーカーがあるらしいんですけど、ここ数年で淘汰される部分があるでしょうね。ビジネス的に続けられなくなるメーカーも出るでしょう」と、このシーンの行く末を温かい目で見ている言葉が出てきた。そういった要因もあって、売るためのプロと作るプロでは、まったく違う。

またモジュラーメーカーは玉石混交である中、Five G（福産起業）ではピックアップしたメーカーだけ集めている。その理由は、過去に苦い経験をしたからと鈴木社長は思い出すように語った。「始めたらそこの会社と長くやりたい。そういう意味では、実力がないと長く続かない。最初からある程度ハードルをクリアしているメーカーの方がこちらもやりやすいし、長く付き合えるんじゃないかな。今のところそれは外れていない気がしますね」

約四半世紀、アナログシンセサイザーと向き合ってきた鈴木社長に、音の魅力について伺うと「不思議ですけれど、どうしても（デジタルでは）平面的な感じになって、奥行き感が無かったりして音の存在感が違いますよね。照明の電球も、昔ながらのフィラメントとLEDって違いません？　僕はLEDはお化けのような実態のない光のような気がする時があるんです。フィラメントの方が温度も伝わってくる感じがする。見慣れているのもあるんですけれど、質感が違うじゃないですか。ましてや火を焚いて松明を付けている明かりとも違うし」という。こういった音の温かさや存在感を愛する姿勢が、Five Gという店の根底にあるのだ。また、アフターメンテナンスから得られる機材や人との長い付き合いが、この店が長く続く理由の一部だろう。愛機と呼べる機材と出会う場として今後も機能し続けるだろう。