去年の大晦日の2日前、私は3人の友人と車に乗り込んでメキシコ・シティを出発し、10時間かけてオアハカ州プエルト・エスコンディードにたどり着いた。米国人のサーファーたちがバカンスに訪れ、日に焼けた年配のヒッピーたちが切り盛りするホステルが沢山ある、小さなリゾート・タウンだ。夜中の12時ごろに町に到着すると、シーフード・レストランやカフェ、ビーチ・バーが立ち並ぶ大通りは旅行シーズンのピークを楽しむ観光客で賑わっていた。路上のココナッツ売りの声に混ざって、ナイトクラブや屋上テラスからレゲトンや大箱ハウスが響いた。

この小さな楽園が、NAAFIの頭領Tomás Davoの地元であり、彼のレーベルが初めて主催したミニフェス、Club De Playaの開催地でもあった。イベントが開催されたのは、その観光地から離れ、海岸沿いを数マイルくだり、曲がりくねった未舗装の道路を通ってヤシの木の林を通り抜けたところに広がる、プライベート・ビーチだ。ロサンゼルスのレーベル、Fade To Mind所属のKingdom、L-Vis 1990、Massacooramaanらがアメリカから訪れ、ヘッドライナーとして出演した。彼らはギャラをもらわず、航空券も各自の負担であったが、代わりにDavoはビーチから車で少し行ったところにある両親の邸宅に無料で泊めさせ、一週間の南国バカンスを彼らにプレゼントした。

「大晦日のパーティーはヤバかったね」と、彼はメキシコ・シティのアパートで、コーヒーテーブルに乗り出しながら、興奮気味にそう言った。どういった内容になるか解らないパーティーのために、あれだけの多くの友人、ファン、そして赤の他人が国を横断してあの辺ぴな所に集まったことに、彼は未だに驚きを隠せない様子だ。「どうやってこんなラインナップが揃ったのか、自分でもワケが解らなかったよ。集まってくれたDJたちは世界的に活躍しているし、大晦日のパーティーなら多額のギャラを求める。なのに、こっちに来てくれたんだ。うちはカネなんてないから、なぜ来てくれたのかまったく解らんよ」

Davoは神経質なまでにとことんこだわり尽くす男であり、そんな彼の献身的な努力を買い、出演者たちは初めて開催されるこのフェスに賭けてみることにしたのだろう。このプロジェクトのビジュアル面やコンセプト面を担当したのは、Mexican Jihad名義で活動するDJであり、Davo、Lauro Robles、Paul Marmotaと共に2010年にNAAFIを設立したひとりである、マーケティングの才人、Alberto Bustamanteだ。彼の指揮のもと、NAAFIの文字がスクリーンプリントされたビーチパラソルや、ロゴ入りのタオルが作られ、ドローンに取り付けられたカメラで開催地を撮影した動画がプロモーション用に公開され、プエルト・エスコンディードのいたるところに、イベントの詳細を記したカラフルな巨大壁画が描かれた。

フェスの3日目にして最終日だった日曜日、黒く広がる太平洋の向こうから朝日が顔をのぞかせ始めた頃、Kingdomがインストのグライムをミックスしているのを聴きながら、私自身も、地球の最果てにこうやって皆で集まることができたことを不思議に感じた。

Davoはイベントをやるごとに、よりビッグに、より良いものをやろうという強い意志があるため、NAAFIは次々と発想豊かなコンセプトのパーティーを開催することができている（今年、彼らはメキシコ・シティの最重要現代美術館、Museo Jumexにて6ヶ月間のDJレジデンシーを開始した）。この、貪欲なまでに斬新で異質なものに執着する姿勢は、レーベルのサウンドにも現れており、形容しがたいNAAFIらしいエネルギーをキープしながらも、作風はどんどんと変貌してきた。これまでグライム、ジャージー・クラブ、クドゥーロ、ボールルーム・ハウスといったサウンドがレーベルから届けられてきたが、それは全て、分解されたクラブ・リズムと、ヘヴィーで地獄的なアンビエンスという、レーベル・サウンドの骨組みのに根ざしていた。

「新しいものは、何だって、ワクワクするんだ」と、Davoは言いながら、ひざの上に寝ていたオレンジ色の猫を抱き上げた。彼はスナップバックをかぶり、べっ甲フレームの眼鏡をかけており、彼の周りには、彼らのアパートで彼女が運営している店から持って来た、透明のメスカル酒で溢れたガラスのジョッキがあった。バルコニーの引き戸は開いており、メキシコ・シティの夏であったため、10月まで毎日、機械のように正確に、午後6時から10時まで激しい雨が降っていた。アパートの前の道は緑が生い茂っており、静かだが、数ブロック先の大通りからクラクションや車の「キー！」という音が聞こえていた。

NAAFIの面々は、世界中の地方で鳴っているパーティー・サウンドに一時的にハマっては、次のサウンドに移る、ということを繰り返してきた。7月には、今夏のレゲトンやラップ・ヒット曲をLotic、Nigga Fox、Rabitといったプロデューサーたちがブートレグ・リミックスした、ミックステープ・スタイルのコンピレーション『Pirata 2』をリリースした。「だからといって、レゲトンばかり今後やっていくつもりはない。むしろ、このリリースが最後になるかもしれない」と、Davoは興奮気味に説明する。「俺たちは1年ぐらいひとつのサウンドに夢中になっているかもしれないけど、その次の年には、“何じゃこりゃ？”ってなるものを大抵見つけるんだ。例えばトライバル。一時期はすごく夢中になっていて、今では俺たちの血肉となっているけど、じゃあNAAFIが今後トライバル・パーティーをやるかって言ったら、ないだろうね」

Davoが言うトライバル（彼はトリーバルと発音する）とは、昔のSteve Lawler作品やDanny Tenagliaなどと関連付けられるトライバル・ハウスのことではない。彼が言っているのは、低予算の機材で制作された、甘いシンセとゆらめく三連符リズムが特徴的な、メキシコのティーンの間で人気を博した騒がしいパーティー・ジャンルのことだ。NAAFIは春に、3つの土着的サブスタイルを3人のDJがキュレーションし、3枚のディスクに収めたコンピレーション『TRIBAL』をリリースしている。「トライバルを世界的勢力図にちゃんと乗せようとか、研究しようという人がいなかったから、すぐに勢いは衰えてしまった」と、DavoはRBMAでのインタビューで語っていた。このムーヴメントをドキュメントした唯一の作品である同コンピレーションは、その無視されてきた歴史を正しく記録することを目的としていた。「トライバルはただの珍しい変わり種として見られるようになって、すぐに消えてしまった」とDavoは言った。

NAAFIの非公式スローガンと言える、「新しいものは何でもワクワクする」という信念は、音楽にのみ適用される考え方ではない。8月に、彼らはニューヨークのヴォーグ／ボールルーム・カルチャーを初めてメキシコ・シティに持ち込んだ。ダウンタウン郊外の古びた2階建てスポーツ・バーにて、House Of Machos、House Of Shiva、そしてHouse Of Apocalipstickが初めて対面し、舞台を歩いて競うヴォーグ・バトルが行われた（Houseとは、ダンサーたちのグループのことであり、映画『Paris Is Burning』に出て来るHouse Of LaBeijaなどが有名）。LGBTコミュニティを超えて世界的な人気を博しているボールルームDJ、Mike Qと、NYCの伝説的パーティー、Ghe20Goth1kの首謀者、Venus Xらがスピンし、カテゴリー別にダンサーたちが優勝を狙って競い合った。「最初はボール（舞踏会）をやりたくはなかったんだ」とDavoは言う。「俺たちはニューヨーク出身じゃないし、そのカルチャーに関わっていない。しかし、Franka PolariとPepe Romeroに話しかけられて、“ボールをやりたいんだ。ちょっとしたのをやってはいるんだが、ちゃんとオーガナイズしたものをやってみたい”って言われたんだ」。これは、メキシコにおける初のヴォーグ・ボールであったと言われている。

NAAFIの嗜好の流動性は批判の的にもなってきた。流行を追いかけているだけだと言う者もいれば、外国の音楽に喰らいつき、新しい要素を追加することなく、パッケージし直しているだけだと言う者までいた。しかし、外国のアンダーグラウンドで鳴っている新しい音を取り入れて、メキシコのシーンに持ち込み、話題に浮上させることができているのが、このコレクティブの凄さでもある。「メキシコって、食べ物以外で今風なものって、全て“malinchista”（外国かぶれ）的だと言える。なぜなら、皆外国を参考にするからだ」とDavoは、自身の文化を尊重するよりも先進国を愛するメキシコ人を揶揄する言葉を使って、説明した。

Alberto Bustamante, Paul Marmota and Tomás Davó.

RAで公開されたドキュメンタリー、『Real Scenes: Mexico City』では、"malinchismo"（売国奴）という単語が頻出する。この言葉は、16世紀のメキシコ先住民ナワ族の女性であり、同胞を裏切り、エルナン・コルテス率いるスペイン人征服者たちをアステカ帝国の首都へ導いたとして知られるLa Malincheの名前から来る。メキシコ人としての自尊心を持たず、植民地支配的な論理が染み付いているがあまり、圧制的な価値観を持ち続けてしまっている人々に向けて使われる、辛辣な侮辱の言葉である。「植民地化は今も続いているし、西洋の国ではないものの、西洋化されている国として、メキシコは自信や自尊心に欠けるんだ」と、Davoは説明した。

「メキシコの正式名称は、メキシコ合衆国だ」と、Davoが言う。「メキシコの憲法はアメリカ合衆国憲法の影響が強い。ラ・ロマ（高級化が進む歴史的な町）はフランスに似た景観になるよう作られたんだ」。メキシコのあらゆるアートや音楽シーンで常々語られているテーマでもある、この自尊心の欠落が、西洋文化を崇拝する風潮を作っており、メキシカン・アーティストには自国よりも他国の人々に受け入れられようとする傾向がある。「みんなこう言う。“俺たちは征服なんてされてない”と」と、DJ／プロデューサーのFigは、『Real Scenes: Mexico City』で言っていた。「でもイギリス人のアーティストが来たら、上手いとされるのはそっちだ。ドイツ人のアーティストが一番高いギャラをもらっていたりする」

とはいえ、メキシコのアーティストに、目の前にあるものだけに集中するべきだと主張するのは、創造力を制限するだけでなく、不公平だ。なぜ、ブルックリンのキッズが90年代のデトロイト・テクノに憧れても、自己嫌悪しているセルアウトだと批判されないのに、メキシコ人が音楽活動の拠点をベルリンに移したら裏切り者と言われてしまうのか？NAAFIのプロデューサーたちは、世界規模で行われている文化交流に堂々と参加する権利を主張すると同時に、独自の視点での表現に重点を置くことで、このジレンマに対抗している。「メキシコ・シティでクラブ・イベントをやるとしたら外タレを呼ばないといけないなんて、馬鹿げてる」と、Alberto Bustamante別名Mexican Jihadは、i-Dのインタビューで語っていた。「俺たちの周りにあるものを俺たちがサポートしないとダメだ。俺たちが生きているこのコンテクストへのレスポンスなわけだから」

「NAAFIがやること全てには、強い自我やアイデンティティといったものを感じる」と、LoticことJ'Kerian Morganがメールで教えてくれた。エクスペリメンタルなクラブ・ミュージックのコレクティヴ、Janusに関わっているMorganは、インタビューやSNSにて、「どこから来ているのか解らない」ような音楽は信用しないと、幾度となく語って来た。NAAFIの音楽は、その歴史や文脈が聴いて取れる。ただダンスフロアを湧かすために組まれたリズム・アレンジメントではなく、明確で巧みなビジョンがあり、意図されたメッセージ性を孕んでいる。

「クラブ音楽界、あと音楽ファン全体が、アイデンティティのない音楽に飽きてきていると思うんだ」と、Loticが言う。そして、どこにも根ざしていない音楽の増殖は、「クラブが閉店に追いやられたり、厳しい規制下に置かれていることが多くなっていること、そしてその結果クラブ・ミュージックがどんどんと抽象的で実体のないものになってきていること」に起因すると指摘している。そういった潮流に逆らっているNAAFIの美学を、Loticは「紛れもなくメキシコ人的であり、自信に満ち溢れている」と言い表した。

NAAFIの独自性の高いサウンドは、設立メンバーのひとり、Paul MarmotaのおかげだとDavoは言う。彼は28歳のチリ人であり、2010年にメキシコ・シティに引っ越し、NAAFIの初期の小さなクラブ・イベントのオーガナイズを手伝い、現在ではレーベルのA&Rを務めている。「俺は素直でオリジナリティのある音楽に惹かれるね。影響を受けたものに反応していながらも、王道をただパクるわけではない音楽」と、Marmotaはメキシコ・シティの自宅からメールで答えてくれた。「NAAFIのメンバーは長年の友人ばかりで、皆同じ視点を持ってるんだ。新しいメンバーを入れるときは、共通する何かをもっている人だけだ」

MarmotaとNAAFI所属のプロデューサー、Espectralとのコラボレーション曲"Danza De Los Diablos" ("悪魔の踊り")が今後リリースされる予定だが、この曲は同名の儀式を録音した、フィールド・レコーディングをもとに作られている。この伝統的な儀式は、メキシコの海岸沿いのゲレーロ州やオアハカ州のアフリカの子孫のコミュニティの間で行われており、黒くて長いヒゲのついた仮面を被った男性たちが、鞭をもった先導者に導かれて群衆のなかを行進するパレードであり、祝日である死者の日の前夜祭として10月31日に行われる。

「"Danza de Los Diablos"は、アフロ・メキシカンの村の音楽をクラブ・ミュージックの文脈で再解釈するという発想から生まれたんだ」と、Marmotaは言う。大西洋と太平洋両側にて盛んだった奴隷売買から生まれたアフリカン・ディアスポラ文化は、メキシコ史において無視される傾向があると、彼は説明する。「国が認識しようとしない、“第三のルーツ”と呼ばれる黒人の音楽的、文化的影響を認めることは、俺たちにとってとてつもなく大切なことなんだ」

5月には、Marmotaはもうひとりの設立メンバー、LaoことLauro Roblesと共に初のNAAFIヨーロッパ・ツアーに参加した。このツアーで彼らは、世界の実験的クラブ・ミュージック・プロデューサーたちのコミュニティのなかで彼らがどういう立ち位置なのかを認識することができた。「頭の中のマップが拡大された気がしたよ」と、Marmotaは言う。「歓迎されて、新しい友人も増えたし、面白いコレクティヴに沢山出会った。才能豊かで活発なシーンを見てきた」。グローバル・ネットワークのなかで特に目立つクルーとしては、彼は南アフリカのダーバンのgqomムーヴメントに関わるRudeboyz、スペインのPoor Gang、Night SlugsのNeanaが立ち上げたロンドンの Gang Fatale、アメリカのLit City TraxやThe Astral Plane、そしてM.E.S.H.、Kablam、Loticらが所属するベルリン拠点のコレクティヴ、Janusといった名前を挙げた。

NAAFIは世界的に活躍するチャンスをついに掴み、しかもそれを彼らなりのやり方で実現させた。「ラテン・アメリカのエレクトロニック・ミュージックの歴史において、これまで登場してきたアーティストは、ラテン感を前面に出さないとリアルとして受け入れられなかった」とDavoは言う。「NortecとかZZKといったコレクティヴはエキゾチックさを最大限に表現しないといけなかった。でも今時、俺たちはそんなことする必要ないと思うんだ」。異国情緒を売りにするワールド・ミュージック・マーケットにすり寄ることなく、彼らの作品は今日のネットワーク時代の複雑さを反映している。メキシコの伝統的な音楽やローカル・カルチャーの要素を取り入れた作品もリリースしているものの、例えばSmurphyのアルバム『Geminiss』といった作品は、地球のものとは思えないほど未来的だ。

「クラブ・ミュージックでスペイン語を聴いたときは興奮したわ。なぜなら、それまではR&Bやグライム、ラップの英語の声ネタを引っ張って来るのが当たり前だったから」と話すのは、ニューヨークのラティーノ文化ブログ、Remezclaの元編集者、Sara Skolnick。彼女はRiobambaという名前でDJ活動も行っており、ボストンやブルックリンのクラブでPico Picanteというイベントを主宰している。Skolnickは、NAAFIの音楽と出会うきっかけとなった、Siete CatorceのEPを最初に聴いたときのことをこう思い出す。「その頃トライバルがクロスオーバー的に人気を博していた。彼はトライバルのリズムを活用しながらも、それを分解して、この世の終わりみたいな世界観を提示していた。他のアーティストがポップ路線に走っていた頃、彼の初期のEPはその逆を向き、堂々とダーク路線を突っ走っていた」

「ラテン・アメリカで鳴っている音楽を単一的に捉えないことはとても重要なことだと思う」と、彼女は言う。「パーティー・ヴァイブと同じくらいに、苦しみ、暴力といったダークなものを表現している音楽について語ることができる状態、そしてこういった様々な感情がクラブ・ミュージックという文脈で表現できることが大切だわ」。NAAFIは、幾重にもなっている複雑な自分たちの物語を、他人が書いた筋書き通りではなく、自分たちなりに忍耐強く伝え続けている。「俺たちは、そういったネガティブ・イメージを壊すことができたと思うんだ」と、Davoは安心させてくれる言葉をくれた。「ラテンであることは間違いない。でも、もう着飾る必要はないんだ」

NAAFI LOTM mix
NAAFIのA&R、Paul Marmotaが、Espectral、Imaabs、Omaar、ZutZutといったレーベルのコア・アーティストと、4大陸からのハイブリッドなクラブ・トラックを詰め込んだ35分間のミックスで、レーベルの信念を簡潔にまとめあげた。

Download: mix

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Filesize: 82.4 MB
Length: 00:34:19

Malibu - Te Deceo
Air Max '97 - Engaged
Lechuga Zafiro - Fauxless Passinho
Lao - Psicoqinesis
Audioboyz - Maximum Energy
Miss Modular - 2 Five Rivers
Jam City - The Raven (Air Dj Dale Dub)
Paul Marmota - Registro
Zutzut - Doce Horas
Kid Antoine - Dungeon
Imaabs - Clinamen
Alfonso Luna - Grito Ansestral
Espectral - 2
Omaar - Blackoutfit
Paul Marmota X Espectral - Danza De Los Diablos