ベルリン在住のアーティスト、Felix Kはジャンル分けという行為を無意味にする方法を知っており、Blackest Ever Blackからリリースされた氷のように冷たく不穏なアンビエント、Dystopianからリリースされた狡猾なテクノ、そしてSamurai Horoからリリースされた知的な高速ドラムンベースなどをリリースすることでそれを証明してきた。1990年代半ばからドラムンベースの世界に身を置いてきた彼だが、その作品群は枠内に収まることをアーティストに強いるこのジャンルの狭義に制限されていない。また、BPMこそ様々だが、特徴的なスタイルは明確だ。Felix Kはジャンルを分ける要素ではなく、ジャンルを結びつける要素に焦点を当てている。

長年に渡り意識的にスポットライトから距離を置いてきたFelix KはHard Waxからホワイトレーベルのリリースを重ねてきた。今回のインタビューのためにベルリン東部フリードリッヒシャインのFelix Kのスタジオを訪れると、本人は旧友DB1（今回のインタビューでも数回意見を述べている）とジャムセッションを行っているところだったが、インタビューを進めていくと、筆者の質問に対する彼の回答は非常に冷静で、音楽をテーマにした会話は主観的にならざるを得ないという本質を痛いほど理解しているように感じられた。しかし、Felix Kは無表情なテクノアーティストとは違う。彼はElektron、Moog、Vermonaを中心とした機材群で作り出すジャンル分け不可能な自分の音楽が秘める可能性を前向きに捉えており、そこにはポジティブなエナジーが感じられる。

そのポジティブなエネジーはFelix Kの制作手法と、テクノ、ドラムンベース、アンビエントが共有する音楽の楽しさという本質的な部分に焦点を当てている自身のレーベルHidden Hawaiiからリリースされる多種多様な作品群にも明確に表現されており、その柔軟性は、ターンテーブルの45回転でも33回転でもプレイ可能であるレコード群、そしてユークリッド幾何学をベースにした複雑なアルゴリズムでリズムが組まれた本人の作品群などの難解なアプローチにも見受けられるが、このレーベルの音楽は、慣習を否定するという目的が先行してしまっているわけではない。Felix Kのこの流動的なアプローチは、単純に多くのプロデューサーたちがこれまで取り組まなかった「ジャンル間に存在するグレーエリア」における長年の研究の結果に過ぎないのだ。

ドラムンベースは、プログラミングの複雑さとミックスダウンの重要性においてBPMが遅いジャンルよりも高いレベルのテクニックが求められるという考えには基本的には賛成でしょうか？

ドラムンベースのプロデューサーは周波数帯域をフルで使ってラウドなミックスダウンをする傾向があるから、波形は上から下までギッチリ詰まったブロックのような形になるし、彼らの方が他のプロデューサーたちよりもミックスダウンに力を入れているのかも知れない。これは必ずしも良いとは言えないけどね。僕は別にテクノやハウスのプロデューサーのミックスダウンが劣っているって言いたいわけじゃない。彼らは彼らのアプローチがあるわけだし、彼らのトラックの方がヘッドルームに余裕がある。それでも、ドラムンベースの方が難しいと思う。なぜなら、情報量が多いからね。テンポは速いし、色々な音が入っている。たとえば、ドラムマシン1台じゃなくて、サンプルを何層にも重ねているんだ。昔のジャングルやドラムンベースのトラックには様々なアイディアやニュアンスが詰まっているから、トラックのどの部分もディテールが細かい。

僕はこれを一般的な意見として言うつもりはない。なぜなら、ルールがあれば必ず例外があるのと一緒で、ラウドでテクニックも完ぺきなミックスダウンができるハウスのプロデューサーもいるし、ジャンルを問わずどんな音楽でもラウドなら正解なのかというとそれも違うし、ヘッドルームに余裕があって、耳の真横で大声で叫ばれているような感じがしない素晴らしいドラムンベースも沢山あるからね。

ドラムンベースの制作で細かな微調整が行われるようになった理由は何だと思いますか？　たとえばハウスではなぜその方向に進まなかったのでしょう？

これはあくまで僕の推測に過ぎないけど、テクノやハウス、レゲエにはそのサウンドのフォーマットを作り上げてきた長い歴史がある。一方で、ドラムンベースの歴史は比較的短い。初期ハードコアとジャングルのサウンドは流動的で、これという決まったサウンドはなかった。ドラムンベースのプロデューサーは、たとえば1980年代のクラシックなマシンやシンセから必要なサウンドをすべて得られるハウスのプロデューサーと比べて、サンプラーを重用する傾向があった。あとは、ドラムンベースはサウンドシステムカルチャーと結びついていて競争が激しいシーンだったから、その競争が様々なサウンドを生み出さなければならないという気持ちにさせたっていうのもあるね。

だから、ドラムンベースのプロデューサーは他とは違う機材の使い方をするようになっていったんだけど、時間と共にそれがフォーマットになっていって、進化が止まってしまったんだと思う。最近はテクノシーンの方が色々と進化しているように思えるね。

ドラムンベースの停滞とレベルの高い制作テクニックの間には何か繋がりがあるのではないでしょうか？　そのような制作テクニックは諸刃の剣なのではないですか？

ドラムンベースはハードコアなんだ。オープンな音楽ではないし、世間全体を取り込もうとしている音楽じゃないのさ。内輪に向けられた音楽だから、色々なルールを学ばなければならない。少しでもそこから外れればアウトなんだ。Aphex TwinやSquarepusherのようなアーティストはドラムンベースに紐付けられていたけど、彼らはそのルールを無視して、伝統を破壊した。当時、ドラムンベースDJがクラブでAphex Twinをプレイしているのを1回も聴いたことがない。僕は彼らのトラックを1回プレイしたことがあるけど、フロアは空だったから、誰も気が付かなかった。

ドラムンベースは最高のミックスダウンがゴールなんだけど、テクノとハウスはその文脈に沿えるかどうかがゴールのように思える。本物の909や303などを所有している必要があるのさ。一方、ドラムンベースのプロデューサーは特定の時代の機材やサウンドを必要としていない。テクノはルーツと言われるサウンドを手に入れようとする気持ちが強いよね。

音楽制作を始めた当時のセットアップはどのようなものでしたか？

1995年に最初のコンピュータを買ったんだ。サウンドカードが内蔵されていたから、サンプリングが可能だった。それからCubaseやトラッカープログラムを手に入れた。それだけだったね。当時の僕の音楽は酷かったけど、とにかく、どうやって制作するのか知りたかった。すべてをサンプルで作ったよ。シンセは1台も持っていなかった。

若い頃は友だちと一緒にかなりお粗末なノイエ・ドイチェ・ヴェレを作って遊んでいたんだ。部屋で友人たちと叫んだり歌ったりしていたから、隣人には嫌われていたね。あとは当時自分が聴いていた音楽の再現も試したよ。ラジオで聴いたAutechreやドラムンベースなんかをね。

1990年代にディテールの細かい音楽を制作するのはかなりの労力を要したはずです。

Felix K: サンプルを準備するまで半日かかる時もあった。そんなことをしているうちに夜中の1時になって、翌日は朝から学校っていう感じだったよ。当時はボタンを押してからロードされるまでかなり待たされたんだ。

DB1: 初期のサンプラーはブレイクビーツひとつ作るのもかなり面倒だったね。自分でチョップして、キーボードにアサインして、MIDIとシンクさせて、MIDIで再生させる。これだけで30分はかかったよ。最近のコンピュータならドラッグ＆ドロップして、ワープさせれば終わりだよね。

当時はBPMの速い作品を制作していましたか？　それとも様々なスタイルの音楽を作っていたのでしょうか？

最初は様々なスタイルを色々試していたと思う。ドラムンベースのBPMがどの位なのかも分かっていなかったくらいだからね。BPMの感覚もなかったから、たとえばジャングルのレコードのテンポを掴むのに、ビートごとに計算機の1と＋を押していった。1分間で163くらいだったね。ドラムンベースやBPMが速い音楽に夢中になっていた時期があって、6～7年このジャンルにハマっていた。そのあと、2006年くらいにもう一度オープンになって、色々制作するようになっていったんだ。

テクノ的なサウンドを作るようになったのは最近ですか？

僕がピュアなドラムンベースにハマっていた頃に作ったトラック群は1枚もリリースされていないから誰も聴いたことがないはずさ。その頃に作ったトラックが入っているハードドライブも無くしてしまった。でも、当時から「BPMは170だけど、テクノみたいに聴こえる」って友だちには言われていた。レコードを買う時も、レイヴ向きの派手なフーバーベース（Hoover Bass：掃除機の音のようなギュンギュンしたサウンドが特徴のベースサウンド）のドラムンベースよりも、テクノに影響を受けたドラムンベースの方に惹かれていた。

最近はテクノの方に多様性を感じているし、テクノパーティは4つ打ちじゃない奇妙なトラックを深い時間にプレイできるようになってるよね。それが上手く機能して、流れを作れていれば、「クールだ」って思ってもらえる。そういう音楽は多少エクスペリメンタルなのかも知れないけど、フロアを去ってDJにダメ出しをアピールするような人はいないね。もちろん、そういう音楽的なリスクを負わないテクノパーティも沢山あると思うけど。

Felix K

世間の多くはテクノについては逆の印象を持っています。そのようなギャップがあるトラック同士のミックスは簡単ですか？

BPM130から160の間ならかなり柔軟にミックスできるね。Grey AreaのトラックにはBPM128程度でミックスできるトラックがいくつかあるけど、ドラムンベースとミックスできるテンポのクロスリズムのトラックもあるんだ。あとは、プレイするドラムンベースにテクノ的な要素があれば、フロアに気付かれずにそこからテクノをミックスできる時もある。こういうリスクを負ったミックスが上手くいった時は気持ちいいね。

DJ用に持ち歩いているUSBスティックにはBPM90～170のトラックが入れてあるんだ。だからゆっくりスタートして徐々にスピードアップできるし、ビートレスな間を作ってBPMを変化させることもできる。これが今最もエキサイティングなミックステクニックだと思うよ。

ドラムンベースでの経験がテクノを別のアプローチで捉えるスキルを与えたと思いますか？

別にスキルだとは思ってないけど、DJにおける自由度の幅が広くなったとは思う。正直に言うと、僕はストレートなテクノトラックの制作方法を知らない。一度自分のスタジオの機材で試したことはあるけどね。ストレートなキックとハットを鳴らして、遊びでガツガツのテクノを作ろうとしたんだ。でも、しばらくすると色々変えたくなっちゃって、結局ストレートなテクノじゃなくなってしまった。上手く話をまとめられなかったけど、なんて言ったら良いのか分からないな。君の方が上手く言えるかもね…。

簡単にまとめて言い表すのは難しいのですが、あなたのトラックはテクノだけを作ってきた人のトラックとは違うように感じられます。テクノはひとつの音の塊として制作される傾向にありますが、BPMが速いジャンルは対立する要素を組み合わせて制作されているように思えます。

テクノDJのセットによっては、ひと晩同じトラックがプレイされているように感じるけど、まさにそこがドラムンベースとの違いなんだと思う。ドラムンベースのトラックはドロップの前に無音に近いブレイクを作る傾向がある。もちろん、EDMのそれとは完全に違うものだけど、リズムが変わる瞬間のインパクトが存在しているんだ。僕は自分のトラックにこれを取り入れたいと思っているから、それがたぶん僕のトラックに表現されているじゃないかな。

一方で、あなたはビートレスなトラックも数多く制作していますよね？　このようなアンビエント的な作品の制作にはどんな機材を使っているのでしょう？

良い質問だね。僕のアルバム『Flowers Of Destruction』はフィールドレコーディングを用いてコンピュータだけで制作したサンプルベースの作品なんだ。僕は90年代のサンプルライブラリを15年、20年経った今でも使っている。どこからそのサンプルを手に入れたのかはまったく憶えていないし、今はハードウェアをベースにしているから、使用頻度もそこまで高くないけどね。でも、まだそのフォルダを持っているし、たまに見直すんだ。

サンプルライブラリとしてはかなり長寿ですよね？

ああ、しかも別に大して内容も良くないんだ。一度も使ったことがない酷いサンプルも沢山入っているけど、そういうのも全部フォルダに入れたままなんだ。そのフォルダを崇拝しているんだよ。Octatrackにも一応入れてあるくらいさ。

最近はコンピュータを使っていないのでしょうか？

今はレコーダーに繋がっているADコンバーターに入る直前まですべてアナログだよ。でも、コンピュータを音源としてインサートできるようになっている。最近はその手法を使っていないけどね。

では、基本的には演奏をそのままレコーディングして、構成もそのまま残しているのでしょうか？

最近はまず多少ジャムをして、次に色々なパラメータを変化させながらレコーディングする。それがトラックになるんだ。コンピュータではもっと複雑なアレンジが可能だけど、最近はラフをどんどんレコーディングして、時間をかけずにトラックにすることに興味があるんだ。そういうループトラックを沢山用意したら、それらを確認しながら大きな構成を作っていくって感じかな。もっと直感的な制作にシフトしているんだ。というのも、過去の作品群は完成形を意識して作っていたからさ。偶然や予想外のことがもっと起きるようにしたいんだ。機材から予想外のサウンドや自分でやろうとしてもできなかったサウンドが生まれたりする瞬間が起きるようにしたいのさ。

コンピュータに慣れすぎてしまって、行き詰まりを感じたんだよ。コンピュータにはまだ多くの可能性が眠っていると思うけど、音楽は元々視覚じゃなくて聴覚のためのものなのに、僕はディスプレイを見すぎてしまったってわけさ。実際、音楽が面白くないと感じて、もう音楽活動を辞めようと思った時もあったけど、音楽は捨て去るには大きすぎる存在だったから、じゃあ自分に変化を加えようって思ったんだ。機材を手に入れたことで先に進むことができたね。

自分のアイディアだけでは生み出せないサウンドを得るために、あえてプロデューサーとしての自分の才能を犠牲にするような状況を生み出そうとしていると？

アート寄りの音楽の世界には、偶発性が作曲の自由度において大きな影響を及ぼす伝統的な手法（例：偶然性の音楽／不確定性の音楽）があるけど、ダンスミュージックの世界では、大半のプロデューサーは予想可能な音楽を作っている。僕は正式な音楽教育を受けたことがないけど、実験的な音楽が好きなんだ。個性が備わっている限り、どこにも当てはまらないような音楽の方を作っている方がハッピーだね。既に試されてきたものを避けようとする気持ちが強いんだ。でも、音楽を作っている人の数は本当に多いし、知らないうちに他人と同じ方向に進んでいることに気付くこともあるよ。たとえば、Samuraiのメンバーたちはドラムンベース専門レーベルから、オープンマインドで面白いレーベルに進化したんだけど、彼らには同じものを感じられるのさ。ひとりじゃないって思えるのは嬉しいよね。

最近のあなたは機材を演奏しながらトラックを制作しているわけですが、その手法で制作された作品群にも、初期作品に感じられるような細やかなニュアンスが備わっています。その細やかなニュアンスをハードウェアでも維持できているのはElektronのシーケンサーのおかげなのでしょうか？

現時点では、サウンドとシーケンスはすべてElektronから出力されている。コンピュータでやっていたような制作方法を維持したいなら、Octatrackを買う必要があるってことに気付いたんだ。結局、そのあとでAnalog FourとAnalog Rytmも手に入れたんだけど、Elektronの3台は上手く連携できている。というのも、Octatrackでマーカーをセットすれば、他の2台が追従してくれるからさ。3台の操作を習熟するのはかなり大変なんだけど、少なくとも同じ理論で作られている。まだマニュアルを読むことも多いけど、慣れてきているよ。

Elektronのサウンドをそのまま使っているのでしょうか？　スタジオ内にはアウトボードも数多く置かれています。

Felix K: Elektronの機材はフィルターやエフェクターが内蔵されているし、ドラムは何も手を加えずパッチベイからそのまま出力している。今のセットアップは将来ライブをやる可能性を考慮して組まれているんだ。Moog Sub 37はVermonaのスプリングリバーブを経由して、Meeblip Anodeに繋がっていて、パッドサウンドが出せるようになっている。MinitaurはVermona Filter Lancetを繋いであるから、コンピュータでは不可能だった方法でベースサウンドをシェイプできるようになっている。右側のラックはPultecのイコライザーにインスパイアされて組まれていて、Drawmerのコンプレッサーも置いてあるよ。すべてのサウンドはNeveのサミングミキサーに結線されているんだ。パッドやサンプルはこれを通すだけで十分だね。

サミングミキサーは出音が良すぎて、トラックを作り込む必要がないんじゃないかって思えるくらいさ。もちろん、そんなに簡単な話じゃないけど、バルブとトランジスタが素晴らしいパワーを加えてくれるんだ。かなり高価だけど、家を売り払わずに済む範囲ではこれが最高のサウンドだね。今でも買った自分をいかがなものかと思う時もあるけど、スイッチを入れれば買って良かったと思えるんだ。

DB1: ミックスダウンをしていると、インパクトと存在感を高めてくれる魔法のような機材が欲しいって思う瞬間がよくあるけど、このスタジオのEQ、コンプレッサー、サミングミキサーなら、コンピュータで何時間もかけて作ろうとするサウンドが一瞬で手に入る。価格を知った時は、「それだけの価値があるのかよ？」って思ったけど、実際にサウンドを聴いた瞬間、自分のトラックが変わったね。

それなりに力のあるプロデューサーならば、プリマスターの段階で自分のトラックにはもっとパワーが必要だということに気付くわけですが、これらはそのパワーを加えるテクニックを知らない場合に購入を考えるような機材ですよね。

確かにそうだね。でも、パワーは気にしすぎる必要はないよ。異なったアレンジとサウンドデザインを備えた面白いトラックなら、他とは違うユニークな音楽として成立するわけだから。他人と一緒のサウンドが欲しいなら、みんなと一緒のトラックを作らなければならないけどね。僕の作品の中には、そこまでヴォリュームが大きくないトラックがあるし、他人のトラックのような存在感が感じられないトラックもある。でも、特定の部分はすごくラウドなんだ。すべてがいつもラウドなわけじゃないって話さ。

インパクトとヴォリュームは常に相対的だと。

そうだね。サウンドのプロセッシングは非常に重要だけど、結局、優れたサブベースを聴いてもらいたいと思うなら、他の部分のヴォリュームは下げないといけない。そういうトラックをある程度のヴォリュームで聴きたいと思うなら、プレイバックするミキサーのヴォリュームを上げればいいんだよ。DJでプレイするようなマスタリング済みの一般的なラウドなトラックのゲインを中央に合わせておいて、もっと静かなトラックの時にゲインを稼げるようにヘッドルームを確保しておけばいいのさ。ミックスダウンのバランスが良ければそれだけで問題ない。プロセッシングでラウドにするのは構わないけど、それだと他人と同じようなトラックに聴こえるよね。

Sub

Hidden Hawaiiのトラックの多くは45回転でも33回転でもプレイできます。これは制作段階から意識しているのでしょうか？　それともテストプレスを受け取ってから両方で機能することを確認するのでしょうか？

毎回上手くいくわけじゃないんだ。たとえば、Emileの「1524403342」EPは45回転では機能しない。でも、これまでリリースした他のレコードは両方で機能するね。僕とWan.2の共作「Antitheorie」EPは33回転でも機能する。フロア用っていうか、もっとリラックスした環境で聴く感じでね。これを僕たちはやっていきたいんだ。次の3枚は両方で機能すると思うよ。ちょっとテンポが遅いトラックの場合は33回転でプレスして、45回転でもプレイできるようにする。逆に速いテンポのトラックは45回転でプレスして、33回転でもプレイできるようにする。だから、意識的にやっているわけなんだけど、中々上手くいかない。たとえば、キックを両方の回転数で同じインパクトに保つのは難しい。33回転と45回転じゃ周波数やパンチ力が大きく変わるからね。でも、いずれにせよパンチの効いたラウドなキックのトラックにはそこまで拘りはないんだ。このレーベルは8通りの聴き方ができる4トラックEPを作ろうっていうのが元々のアイディアなんだよ。テンポに柔軟性を持たせるっていうこのアプローチにはまだ可能性があると思う。

制作段階でそれを確認する方法はあるのでしょうか？　たとえばデモを書き出して、そのテンポを下げて聴いてみるとか？

もちろん、ダブプレートを作れば制作段階から確認できるけど、大抵の場合は実際のプレスが終わってから確認する感じだね。

あなたの作品の多くはライプチヒのドラムンベースのベテランLXCがカッティングを担当しています。自分の望むカッティングを得るためにはドラムンベースへの理解が重要だと考えていますか？

LXCと僕は旧知の仲なんだ。気楽な関係だから、焦ってリリースすることもない。「来月これをリリースしたいんだ」なんて頼むことはないんだ。R.A.N.D Muzik（LXCが所属するカッティングスタジオ）は忙しいし、しばらく待たなければならない時もあるけど、僕たちはビジネスだけの関係じゃない。僕がライプチヒに行った時や彼がベルリンに来た時はカフェに座ってコーヒーを飲みながら話をする仲なんだ。彼は僕たちのサウンドに良い印象を持ってくれているし、僕の作品も長年聴いてくれている。彼がしっかりと時間をかけてくれたあとはサウンドがすごく良くなる。お互いに好意を持ってリスペクトし合っているのは重要だよ。世の中には素晴らしいマスタリングエンジニアが沢山いるけど、LXCの場合はビジネスを超えた関係なんだ。

あなたの最近の作品の中には、ダウンビート（強拍）の位置が曖昧で、リスナーにその位置の判断を委ねているようなトラックがあります。こういうトラックは様々な方法でミックスできますよね。

Felix K: 僕とDB1はポリリズムの実験を重ねてきた。DB1はユークリッド幾何学も取り入れていて、どのループも最初と最後が決まっていない。Elektronの機材はインストゥルメントごとにステップの長さを変更できるから、簡単に13ステップや14ステップを重ねられる。リスナーがスタートポイントを決められるっていうアイディアを気に入っているんだ。

アルゴリズムならサウンドが独自の形で進むことができるようになる。リズムをある方法で分割すれば、異なった動きをするパターンが生まれて、同時に走るふたつの異なったテンポが生み出す感覚が得られる。キックがBPM130で鳴っていたとしても、他のパターンが他のスピードでクロスオーバーできるようになるんだ。これは多くの人たちが試そうとしているよね。最近はあらゆるインタビューで触れられているテーマだよ。

DB1: ハードウェアでジャムをしていることも助けになっていると思う。たとえばLogicやAbletonでトラックを制作すると、ディスプレイ上にグリッドが用意されているから、4/4拍子、16ステップ、32ステップなどを意識することになる。でも、ハードウェアならグリッドの存在を忘れられる。その使い方をまだ学んでいる段階なら尚更ね。

ユークリッド幾何学を用いたリズムは2006年に “発見” されたばかりですし、モジュラーシンセのシーケンスの手法としてトレンドですよね。

このアルゴリズムは数多くの伝統的なパターンから構成されているんだ。だから体が反応してしまうし、ダンスしやすい。今の段階ではまだフレッシュに感じているけど、みんながこぞってユークリッド幾何学のリズムを使い始めたら退屈に感じるかもね。「今夜はユークリッドのパーティに遊びに行くぞ！」なんて言う人が出てくるかも知れない。

僕がユークリッド幾何学を面白いと思うのは、ほとんどの音楽で見受けられる2分割可能なパターンとは違う形の構造とパターンを示してくれるからなんだ。音波っていうのは始点と終点の2点で成り立っている。2進数の1、0、1、0で説明できるし、ひとつの方向に進んでいるけど、そこに変化は存在しない。その意味では、ユークリッドの理論の方がベターなんだ。進化や変化はそこまで簡単に分割できるものじゃないからね。だから、音楽に当てはめるには面白いコンセプトなんだよ。