Top 10 compilations

世の中には膨大な量の音楽があり、常に新作も止めどなくリリースされているが、そんななか、コンピレーションは一つの重要な役割を果たす。それは、様々な素晴らしい音楽をひとつにまとめ、特定のアーティストやレーベル、シーンをより詳しく教えてくれるツアーガイドとして機能することだ。今年は日本のハウスから、ゲイポルノのサウンドトラック、80年代アヴァンギャルドまで、忘れ去られた世界を思い出させてくれるコンピレーションが目立ったが、単純に強力なクラブ・ウェポンを束ねた作品もあった。どんな内容であれ、以下に選ばれたコンピレーションはどれも聴くのが快感でしかないお宝を集めた良作ばかりである。

- 10.
- Trevor Jackson
  Presents: Science Fiction Dancehall Classics
  On-U Sound
  
  『Science Fiction Dancehall Classics』は、音楽界の重鎮ふたりの邂逅から生まれたコンピだ。Adrian Sherwoodは自身のレーベルOn-U Soundのレゲエ、パンク、インダストリアル、ヒップホップ、そして初期エレクトロニカなどのジャンルを含む過去作から、珠玉の名曲を選別してもらう役目にTrevor Jacksonを任命。JacksonはOn-U Soundの最も攻撃的で多彩な一面を引き出す選曲をした。このコンピレーションを監修することでJacksonは、とてつもない影響力を誇るも過小評価されがちなこのレーベルの作品群そのものだけでなく、イギリスの音楽史のなかでも特に実りのあった時代を深く掘り下げた。
- 9.
- Patrick Cowley
  Muscle Up
  Dark Entries
  
  Glenn Jacksonが『Muscle Up』のレビューで言っていた通り、Patrick Cowleyが手がけていた音楽の幅広さがしっかりと評価されるようになったのは、本人が他界してから30年以上経ってしまってからである。ゲイポルノ会社Fox Studioのアーカイブから発掘されたCowleyのサウンドトラック音源を集めたコンピ第二弾となる今作はダブ、サイケデリック、コズミックなシンセものなど様々なサウンドが詰まっており、2013年の『School Daze』よりも多岐に渡る。それらの楽曲に共通するのは、不穏で、素晴らしいほどに下品なムードを漂わせているCowleyの特異な音楽性だ。
- 8.
- Various
  R.I.P. 50 Weapons
  50 Weapons
  
  50 Weaponsの最終章として、Modeselektorはお馴染みの顔ぶれからニューフェイスまでを揃えた22曲入りのコンピレーションを発表し、このレーベルがいかにクラブ・ミュージック界のなかでも指折りに重要なレーベルかを見せつけた。Rødhådによる漆黒のテクノ、Bicepの美麗シンセ・ワークやMonolakeの形容しがたい曲など、ゲスト陣の楽曲も素晴らしいが、なにより輝いていたのは、Shedのキラー・リミックスとパワフルなダブ・テクノ"Trees"を提供した、ModeselektorことGernot BronsertとSebastian Szaryふたりの曲であった。
- 7.
- Various
  All
  Dial Records
  
  Dialはかれこれ15年ほどモダン・ディープ・ハウスを支えてきたレーベルだが、今年リリースされたアニバーサリー・コンピを聴けば解る通り、それはあくまでレーベルの一面でしかない。『All』ではハンブルグ拠点のこのレーベルの、フォークからインディー、アンビエント、エクスペリメンタルといったジャンルを含む幅広い音楽性の全貌が提示されている。そしてそれらのサウンドに共通するのがDialのトレードマークである温かみと品であり、そのおかげで『All』は今年出たコンピレーションのなかでも特に魅力のある1枚となった。
- 6.
- SOPHIE
  Product
  Numbers
  
  エレクトロニック・ミュージックを追っている人なら誰しもが、SOPHIEに対して何らかの意見を持っているだろう。彼の音楽には、反商業主義、歴史、真実性、自己表現など、このサブカルチャーの根幹をなす価値観に関するディスカッションを引き起こす力がある。11月に登場した『Product』は、ヘリウムを吸い込んだような、異様な活気に溢れたNumbersシングルを集めた多彩なアルバムであり、そういった議論にひとつの終止符を打った。巨大ゴムボール的"Bipp"から始まり、涙腺の緩む"Just Like We Never Said Goodbye"で締めくくられた同作で、SOPHIEは一切の妥協なしに、容赦ないほどに楽しい作品を生み出してみせた。
- 5.
- Surgeon
  Tresor '97 - '99
  Tresor
  
  90年代のUKテクノの3枚組コンピレーションと言ったら、一見敷居が高いと思うかもしれない。しかしSurgeonのトラックを集めたこのコンピでは全くそういった心配はない。『Tresor '97 - '99』は同プロデューサーの初期の楽曲を集めており、カラフルなハウス寄りのトラックから、アンビエント、そしてもちろん怒濤のテクノまで、彼の作風の驚くべき幅広さが解る。この時代にSurgeonはDynamic Tensionというレーベルを立ち上げていたが、そのレーベル名がそのまま楽曲のムードを形容していると言える。
- 4.
- Vito Ricci
  I Was Crossing A Bridge
  Music From Memory
  
  Music From Memoryはまるでトリュフ犬のように埋もれたお宝を嗅ぎ付ける。その鋭い臭覚を頼りに、名作を掘り起こすのが同レーベルの基本理念であり、素晴らしく奇妙で、奇妙なまでに素晴らしい音楽を残したVito Ricciは、作品集を出すには最適な人物である。『I Was Crossing A Bridge』はMusic From Memoryのリリース歴のなかでも上位に入るクオリティであり、同作のリリースで、なぜか当時は正当に評価されなかった才人がようやくスポットライトを浴びることとなった。
- 3.
- Various
  Vibe 3
  Future Times
  
  Future Timesのコンピレーションのタイトルは的を射ている。『Vibe』と題されたこのコンピには、Jack J、Juju & Jordash、Raica、Steve Summersや、レーベルがピックアップした新人など、一見サウンドがバラバラに見えるアーティストが多数登場するが、共通しているのがまさに「ヴァイブス」なのだ。アンビエント、ハウス、テクノなどこのレーベルがチョイスするものには全て魅惑的なまでにチルなヴァイブスが漂っており、それが最も顕著に現れているのがこの3枚組である。
- 2.
- Regis
  Manbait
  Blackest Ever Black
  
  RegisとBlackest Ever Blackは一緒になる運命だった。Sandwell Districtが終わりを告げてからというもの、Kiran Sande主宰の絶妙なまでに殺伐とした作品を繰り出すレーベルから、ポスト・パンクやインダストリアルなどの音楽性が垣間見えるようになっていたが、それは、RegisことKarl O’Connerの魂の核にいつだって存在していた要素だった。RaimeやTropic Of Cancerといったアーティストたちによるリミックスと、O’Connerの最近のプロダクションのベストを集めた『Manbait』は、テクノ界を牽引している男の絶好調の姿をとらえた、大胆で心が奪われるコンピレーションだ。
- 1.

Soichi Terada
Sounds From The Far East
Rush Hour Recordings

『Sounds From The Far East』の内容を語る前に、まずこのジャケットについて言及したい。Rush Hourから出たこのコンピレーションの表を飾った寺田創一の満面の笑みが、2015年、世界中のあらゆるレコード店を彩っていた。トレードマークの派手なシャツを着て写ってるこの古い写真は、今年最も印象的だったイメージのひとつだろう。

寺田の笑顔や、今年各地で行ったライブ・パフォーマンスもこのコンピレーションに魅力を継ぎ足しているが、『Sounds From The Far East』が今年のベスト・コンピレーションに輝いた理由はやはりその選曲にある。収録曲は寺田がFar East Recordingから出した楽曲がメインとなり（横田信一郎の曲も含まれている）、"Do It Again"や"Sun Shower"の別バージョンといった見落とされがちな名曲から、あまり知られていない曲まで集められている。その独特のメロディー感に聞き覚えがありながらも誰の曲だか知らなかった人たちは、収録された曲の多くを聴くたびに「ああ、これか！」といった反応をしていた。監修を担当したHuneeは（手柄は全て寺田にあると断固主張するが）、日本のディープ・ハウス・シーンの世界的な再評価を促し、HuneeとRush Hourのおかげで寺田創一の名前は音楽史にしっかりと刻まれた。

Top 10 online mixes

今やオンライン・ミックスはダンス・ミュージックにおいて欠かせない重要フォーマットとなった。至る所に存在し、尚かつ無料であり、尺やスタイル、内容に限界はないため、アーティスト、特にDJにとっては、自身の腕前を世界に披露する最適の手段となっている。今年選ばれたミックスは現場録音もあれば、ベッドルーム・ミックスもあり、単発ミックスもあれば丁寧にキュレーションされたシリーズの1作もある。しかしこういったミックスに共通する特長、それは、それぞれのアーティストが一番気持ち良くなっている瞬間の音が聴ける、ということだ。

- 10.
- Tako Reyenga
  Juno Plus Podcast 118
  
  最近公開された、Redlight RecordsのTako ReyengaのPlaying Favourites特集を見れば解るとおり、彼のレコードコレクションはたいていのレコードオタクが劣等感を抱いてしまうレベルである。アムステルダムを拠点にする彼は、8月にJuno Plusのポッドキャストシリーズにミックスを提供した。Reyengaの優れたセンスが現れた、奇妙で冬っぽさのある楽曲が集まった内容であったが、それ以上に、世界にはまだ素晴らしい音楽がたくさん眠っているのだということを思い出させてくれるミックスであった。
- 9.
- Derek Plaslaiko
  The Bunker Podcast 88
  
  ベルリン拠点のBunkerレジデントであるDerek Plaslaikoは今年、自宅から届けた12時間セットや、Mike Servitoとの9時間B2Bなど、長尺のプレイでインターネットを盛り上げたが、彼の無類のスタイルがベストな形で提示されていたのが、とある2時間以内のミックスであった。約1年前にOutputで録音されたThe Bunker Podcast 088は収録曲も優れていたが、トラックがどこで切り替わっているのか解らないほど完璧に繋げて行くPlaslaikoのミックス技術が、何よりも感心させられる特長であった。
- 8.
- Leif
  Truancy Volume 109
  
  揺らめくレフトフィールド・ハウスが3曲かかったと思ったら、半速のドラム＆ベース・トラックが流れを断つ。『Truancy Volume 109』のなかでPeshayの"The Real Thing (90 BPM Mix)"がわざと違うピッチで登場するこの瞬間、Leif Knowlesの器用さがよく現れている。このウェールズのアーティストがDJセットでプレイするのは、自身とJoe EllisがUntilmyheartstopsからリリースしているような、パズルのピースのように少し頭を使って当て嵌めていかないと繋がらないような変化球が多い。
- 7.
- Call Super
  Blowing Up The Workshop
  
  Blowing Up The Workshopのサイトには「ミックステープのためのサイト」と簡潔な説明文があるが、その形容の仕方は少々単純すぎるだろう。このシリーズでは過去にK. Leimerといったアヴァンギャルド・アーティストがミックスを手がけてきたが、なかでも特にベルリンのCall Superのミックスが面白かった。ダブからアフロビート、ハウス、ニューウェイヴへと、爽やかなグルーヴが滑らかに紡がれていくこのミックスは、素晴らしいレコードコレクションから厳選された楽曲が非の打ち所のない技術で結ばれていくという、ミックスに求められるもの全てを兼ね備えていた。
- 6.
- Motor City Drum Ensemble
  RA Live - Dimensions Festival, Croatia
  
  優れたライブ・レコーディングは、DJセットのオーディオをただ再現するだけに留まらない。Dimensions 2015のDanilo Plessowのクロージング・セット（Jeremy Undergroundも参加）を聴いていると、これはクロアチアでよくある普通のパーティーではなかったことがひしひしと伝わって来る。もちろん、彼らしいキラー・ディスコ・チューンがたっぷりと登場し、歓声も聞こえてくるが、それだけではなく、MCDEのエネルギッシュなミキシングに、フェスの最終夜の観客たちに限界まで挑戦することを煽るかのような鬼気迫るものを感じるのだ。
- 5.
- Peter Van Hoesen
  Labyrinth 2014 (Hybrid Dj/Live)
  
  Peter Van Hoesenは、2014年のLabyrinthで披露した4時間のDJ／ライブ融合セットのために、アルバム分ほどの新曲を用意したのだと言っていた。それだけの気合いで挑んだだけあり、素晴らしいセットであった。新潟の苗場グリーンランドにて、太陽が沈むころ、このベルギー人DJはテント小屋のなかからオーディエンスを忘れられない旅へと誘った。最高級の音質を誇る無比のシステムによって生み出されていく、天へと駆け上るような爽快感のコズミック・テクノ。家でmp3形式で聴いてもその魔法は失われていない。
- 4.
- Ben UFO
  Live at Factory, Osaka - 26.09.15
  
  ほかのDJであったら、大阪で披露されたこのセットはその後も語り継がれていく伝説のプレイとなっていたであろう。しかしBen UFOの場合、こういったプレイは日常茶飯事なのだ。Hessle Audioを代表する彼は、古い音と新しい音、スウィングする曲とストレートな曲を類を見ないレベルで、かつ楽しそうに組み合わせることができる。この3時間半に及ぶDJ音源では、Ben UFOがあくまでいつも通りプレイしている様が聴けるが、最初から最後まで素晴らしい内容だ。
- 3.
- Sassy J
  Dekmantel Podcast 028
  
  2015年はディガーDJが輝いた年であり、ベルンのコレクター、Sassy J（ことJudith Biffiger）は、ダンスフロアをしっかりと意識しながら陶酔的なプレイを展開した。Dekmantelで彼女が披露したセットは、彼女にとってはよくあるプレイスタイルだが、クラシック・ソウルとアフロビートなどと、Cloudfaceなど現代の変人の楽曲を組み合わせ、なおかつ絶妙なバランスを保つという芸当を成し遂げいていた。Twinkie Clarkのゴスペル・ディスコ、"Awake, Oh Zion"がかかるころには、Biffigerの家で行われているアットホームなアフターパーティーに来ているのではないかと錯覚してしまうほどだ。
- 2.
- Floating Points
  & Four Tet
  Final Plastic People
  
  Plastic Peopleは特別な場所だった。しかしナイトクラブにもいつか終わりがくる。そして、ロンドン有数のヴェニューであった当店の閉店を嘆き続けるか、Floating PointsとFour Tetがその店のクロージング・パーティーで披露した濃厚6時間セットを聴いて踊り明かすかを選ぶとしたら、後者だ。もちろん、聴いていて感極まる瞬間がなかったと言えば嘘になる。観客の声でさえ、後半はほろ苦く聞こえる。しかし凄まじい熱気と珠玉の選曲が収められたこのミックスは、ロンドン屈指の名店の想い出を一生心のなかに大切に仕舞っておきたい人々にとって、想い出の宝ものとなった。
- 1.

DJ Metatron
This Is Not

ポップ界随一、愉快なまでに気難しいMorrisseyは、昔、DJを吊るし上げろと歌った。「彼らがかけ続ける音楽は」と曲中で彼は歌う。「私の人生を反映しない」（註：The Smithsの”Panic”より）。ハウス・ヘッドであっても、彼の言うことには一理あると認めるだろう。確かに幸せな気持ちを与えてくれるが、クラブ・ミュージックはリスナーの気持ちを反映するというよりは、特定の気持ち（たいてい快楽）を作り出すことが基本である。しかしDJ Metatron、別名Traumprinz（別名Prince Of Denmark）は、その逆をすることで人気を博したプロデューサーだ。ドイツのGieglingの中心人物であるこの覆面アーティストは、希望、弱さ、孤独感など、ダンスフロアであまり呼び起こされることのない感情を抱かせる楽曲を制作する。

Morrisseyは同意しないかもしれないが、今年Gieglingのサイトから配信されたMetatron/Traumprinzのメガミックスである『This Is Not』には、きっと誰しもが共感する部分があるだろう。例えば前半に出て来る未発表曲、"Where Is Home"。最低限のコードとシンプルなビート、そして深みのある3つの言葉で、ホームシックな気持ち、想い出、時の流れなど、心に刺さる感情が駆け巡る。後半になると、優しい歌声が「It's too bad, too bad, too bad, baby」と元気づけてくれる。その間、激しいブレイクスからディープ・ハウス・グルーヴまで、変化し続けるリズムが踊りを誘う。デリケートかつパワフルなダンスミュージックだ。

Top 10 official mixes

CDというフォーマットがどんどんと過去のものになっていくにつれ、オフィシャル・ミックスの未来はどんどんと不明瞭になっている。しかしそれでも、いつまでも色褪せないシリーズが根強く生き延び、そういったシリーズからDJたちがいまでも強力なミックスを発表し続けていることに変わりはない。幅広いリスニング・セッション、ピークタイムのクラブ仕様、ひとりのアーティストの曲を集めたメガ・ミックスなど、伝統的なダンスミュージックのフォーマットであるオフィシャル・ミックスのなかには、2015年のベストと呼べるリスニング体験を与えてくれるものがあった。

- 10.
- Prins Thomas
  Paradise Goulash
  Eskimo Recordings
  
  グーラーシュ（註：ハンガリーのシチュー）は、ぐつぐつと煮込めば煮込む程旨味が出ると言われる。Thomas Moen Hermansenも、DJにおいては同じだ。このノルウェー人が本領を発揮するところを見たければ、最低でも3時間を与えなくてはダメだ。かけたいものをかけるという、Paradise Garageの信念をモットーに、彼が制作した最新のミックスは4時間近くに及び、彼の奥深いレコードコレクションのなかを探検する機会をリスナーに与えている。Bjørn Torske、Hieroglyphic Being、Ricardo Villalobosを混ぜ込んで、これほど美味しくすることができるDJは少ない。
- 9.
- Nina Kraviz
  DJ-Kicks
  !K7
  
  Nina KravizのTripは、2015年のテクノを代表するレーベルへと成長し、彼女の『DJ-Kicks』は同レーベルの世界観への入り口として最適だ。リスナーを催眠状態へと誘うウルトラ・ディープなテクノという、レーベルの主軸のサウンドが展開するこのミックスは、KravizのDJとしての魅力を今年最も的確な形でとらえたものでもあった。彼女は、メインステージ級のアクトでありながら、汗だくでドラッグまみれの深夜イベントのためにつくられたようなサウンドを、堂々とかけるDJなのだ。
- 8.
- Beautiful Swimmers
  Untitled
  The Trilogy Tapes
  
  ミックスされていないクラブトラックを集めたカセットというものの存在意義を問う者もいるかもしれないが、D.C.を拠点にするデュオ、Beautiful SwimmersがTTTから出したミックステープは、クールな友人にもらったプレゼントのような感覚で聴ける。Andrew Field-PickeringとAri Goldmanは、A面はフロア向け、B面はロマンチックな曲を収めるという演出で、ふたつのムードが楽しめる内容になっている。Watt Noiseの楽しいリミックス、Sadeのソカ・カバー、そしてBen Tankardのピアノ・ファンタジア、"Eden Celebration"などがハイライトだ。
- 7.
- Head High
  Home. House. Hardcore.
  Power House
  
  René PawlowitzがプロデュースしたDJツールに56分間顔面を殴られるのはどういう気分かって？最高だ。毎週末巨大サウンドシステムでDJをやっている人以外で、Pawlowitzのこういった一面を楽みたい人には、『Home.House.Hardcore』は最適な作品である。Head HighとWK7名義になっているこれらのトラックは、いったんDJバッグに入れたらもう取り出すことはないように作られており、その理由は今作を聴けばはっきり解るだろう。
- 6.
- Dub Phizix
  Fabriclive 84
  Fabric Records
  
  Dub PhizixがUKのドラム＆ベース・シーンに新しい風を吹かせているとすると、彼の『Fabriclive』は強風を巻き起こしたかのようだ。George Ovensは170 BPMという定型を、以前から違った角度から捉えていたが、このミックスはまさにそういった彼の独特な視点を表現しており、ベース・ドロップよりも幾重にもレイヤーを重ねることにフォーカスしている。『Fabriclive 84』はここ最近のFabricliveシリーズのベスト作であり、今年のドラム&ベースを代表するリリースであった。
- 5.
- Actress
  DJ-Kicks
  !K7
  
  ミックスCDという概念が失われつつあると思っている人にとって、Actressのようなアーティストの存在は救いだ。彼は使い古されたコンセプトを分解し、新しい文脈で再解釈せずにはいられない性格なのだ。彼が手がけた『DJ-Kicks』が5月に発売したとき、同作が固定観念をあまりに見事に覆しており、我々は驚かずにはいられなかった。曲は突然切り替わり、曲同士がぶつかり合い、Actressはまるで赤子のように純粋無垢にジャンルというものを無視した。意外な選曲、Darren Cunningham自身の新曲、そして実験精神まで備わったこの作品は、フィジカル・ミックスがなぜ生き残っているかを証明する良き例となった。
- 4.
- Mumdance
  Fabriclive 80
  Fabric Records
  
  Jack Adamsは習慣にただ対抗するだけではなく、跡形も無くふきとばす。ベース・ミュージックにもう革新はないだろうという考えが広まっていた矢先、彼は全く新しいサブジャンルを産んでしまうほど新鮮なミックスとアルバムを発表した。今年彼が手がけた『Fabriclive』は、「無重力」なトラックとプロト・ジャングル、グライム、そして黄金時代のハードコアを切り貼りした内容であり、Adamsがいかにコンテンポラリー・クラブ・ミュージック界における重要な勢力なのかを証明した。
- 3.
- Function
  Berghain 07
  Ostgut Ton
  
  Functionは同作が「これまでのなかで最も大変なプロジェクト」であったと言うが、聴く限りそうは聴こえない。むしろ、Berghainミックスの第7弾となる今作でFunctionは、去年のPanorama Barミックスと同様に、同クラブの雰囲気をいとも簡単にとらえてしまったように聴こえる。Abdulla Rashim、Blue Hour、Rroseなど、気鋭テクノアーティストの楽曲を中心に揃えた『Berghain 07』は、今年のなかでも特に質の高いモダンテクノ集となった。
- 2.
- Mathew Jonson
  fabric 84
  Fabric Records
  
  『fabric 84』に収まっているような素敵な時間は、そう簡単に体験できるものではない。ここに捉えられているのは、世界有数のクラブの15周年を祝う場で披露された、世界トップアーティストの珠玉の瞬間である。そして、セットの20曲全てがJonsonのオリジナル・トラックであるというところが、いかに彼が唯一無二なアーティストかを示している。
- 1.

DJ Koze
DJ-Kicks
!K7

Stefan Kozallaの『DJ-Kicks』は、ミックスされていなくても素晴らしいミックスになりうるということを思い出させてくれた。シリーズの50作目となるこの作品で、彼は原点回帰（クラブDJによる、ホームリスニングのためのCD）をし、ほぼビートマッチングをせずに、今年最も魅惑的なミックスを届けてくれた。このドイツ人セレクターは、cLOUDDEAD、Daniel Lanois、Marcel Fenglerらの楽曲を繋げ、チャーミングなメロディー、クセのあるヴォーカル、そして豊潤なストリングスなど彼の得意とする要素を詰め込んだ。同作の最も印象的な場面は、William Shatnerが登場する瞬間だ（Koze以外で、こんなことができるDJはいないだろう）。

Kozallaの『DJ-Kicks』がこれほど魅力的だったのは、彼自身の音楽の魅力でもある、皮肉たっぷりの茶目っ気と、過度なまでの感傷性がソリッドなビートで届けられている点。Kozallaの最新作（そしてキャリアベスト）の『Amygdala』と同じ天真爛漫さと色鮮やかさに溢れていた。リミックスであれDJミックスであれ、Kozallaが手がけるもの全てに一貫して現れている、まぎれも無いアーティストとしての個性が輝いていたのだ。

このPollはRAスタッフとコントリビューターの投票により決定しています。