過去を振り返るのもいいが、未来に目を向けるのもいいものだ。そこで今回、RAエディターチームが2016年に対して抱く期待、楽しみ、不安をまとめた。

2015年、DJ pollに変化の風が吹いたと言っても過言ではないだろう。しかし少なくとも、そこには心地よい新鮮な風も吹いていた。RAは近年起こっている「ローカルヒーローたち」の台頭について何度も話題にしてきたが、それによりダンスミュージックのコミュニティは、世界的に張り巡らされたレーダー網に捉えられることなく飛行してきたDJたちを発見し、彼らの地位向上に重点を置くようになった。Mike Servito、Enzo Siragusa、Helena Hauff、Jeremy Underground、Sonja Moonear、Black Coffee、The Black Madonna、HuneeといったRA Poll: Top DJsに新しくランクインしたDJについて考えてみよう。その誰もがもう何年もギグに出演し続けている。彼らの中には音楽を制作する者もいれば、そうでない者もいるが、何よりもまずDJとして知られている者ばかりだ。彼らには熱心なファンが局地的に存在している他、にわかに集まる注目にも落ち着いて対処するだけの経験が備わっている。

彼らの中でトップ20に食い込んだDJはいないが、今年はランク上位の部分も若干異なる様相を呈していた。2年前までランク上位を占めていたのは決まったタイプのアーティストだった。つまり、大バコのウィークリーレジデントになり、イビザのような場所でトップに君臨する「ポスト・スーパースター系DJ」だ。誰が見てもとても才能に恵まれ成功しているDJを悪く言おうとしているのではない。単にそういうDJが多くいたということだ。ところが2015年のトップ20には、Four Tet、Laurent Garnier、Bicep、Motor City Drum Ensemble、Ben UFOなど、様々なスタイルや状況を象徴するDJたちがランクインし、よりバランスが取れているように感じられた。ここまで書いてまだ「2016年」のことに一切触れていないが、こうしたトレンドはゆっくりと構築されてきているものなので、次の1年でさらに発展していけば素晴らしいと思う。

最近、あらゆるクラブミュージックの地盤が崩れてきていることについて話した。その話題で僕は楽観的な意見を多く話したけれど、懐疑的な意見も口にした。混沌とした模索時期では、様々な音に拡張していくことが大切だ。それは明らかなのだが、2016年の内にある程度収縮してほしいとも思う。Janus、NAAFI、Fade To Mind、Gang Fatale、The Astral Plane、#KUNQといった数え切れないほどのレーベル／クルーが自身の音楽やDJセットを通じておびただしい量のアイデアを生み出している。しかし心配なのは、革新性が重要視され過ぎると、全く新しいジャンルへと発展しそうなサウンドの種が撒かれていても、それに気付かないかもしれないことだ。例えば、特定のリズムパターンが息をして芽を出すまで待つとしよう。そうすれば、より深く根を張った音楽が生まれるのではないだろうか。もしかしたら、そういう見方はもう古いのかもしれない。みんなの意識がクラブ版Snapchatみたいなアプリになっていて、サウンドやアイデアは少しの時間だけ存在した後、次のものに置き換えられていくのかもしれない。2016年は以前にも増してこの点に取り組んでいきたい。

Junior Boys、Kyle Hall、Roly Porter、Bill Converse、Secret Boyfriendによる新作アルバムは2016年にとって幸先のいいスタートになると思う。Andrew Weatherall、Chromatics、Radiohead、Kelela、Omar-S、Matmosらが予定しているアルバムを聞きたくてワクワクしている。あと、僕の「今年アルバムをリリースしてほしい人リスト」には、Jassy Lanza、Powell、Forest Swords、DJ Koze、Shackleton、Dean Bluntが入っているよ。

去年の1月、ミニマル（この言葉が最近何を意味するのかはともかく）にとって大きな1年が訪れてほしいと思っていた。そして、実際に訪れた。ランキングってそんなに好きじゃないんだけど（ここに挙げているアーティストたちもそうだと思うけど）、RA Poll: Top DJsの22位にRareshがランクインしたのは素晴らしかった。最近、主張の強い色んなダンスミュージックに注目が集まっているけど、彼がランクインしたことで多くの人は繊細なサウンドを求めていることが改めて明らかになった。

現在、才能あるDJやプロデューサーたちの大きな潮流が気付かないところで広範なハウス／テクノ・コミュニティの注目を集めている気がするー昨年、Nicolas Lutzのポッドキャストが好評だったことは、その一例だ。彼らの多くはルーマニア人だが、8年前の[a:rpia:r]による国際的ブレイク後、多くのDJがプッシュするようになった、いわゆるルーマニアサウンドのモノトーンな路線とは異なる道を歩んできた。新たな地盤を築いているプロデューサーの中には、Barac、Melodie、Suciu、Vincentlulian、Dan Andrei、Cristi Cons、Vlad Caia、Prikuなどがいるが、2016年はさらに多くのプロデューサーが現れると思っていい。どのアーティストもハイクオリティな音楽を何年も制作し続けていて、彼らの経験が何か違うことをしようという気持ちに結びつくと、素晴らしい結果になることが多い。

ベルリンに触れずしてミニマルの状況を語るのは不可能だ。あいにくベルリンで起こっていることの多くはミニマルと呼べるものではない。ミニマルシーンから現在のキーパーソンとなった人たちの一部は、もうミニマルをプレイしていない。ミニマルという言葉は音そのものを表すよりもグループ分けとして有効になっている。Slow Lifeはそれが特に当てはまる。スペイン人とイタリア人による、ポテンシャルを大いに秘めたコレクティヴだ。6人からなる同コレクティヴには、絶大な評価を集めるDJのLaurine、DJ Tree、Cecilioや、S. Moreira（彼の作品をよく知らない人は傑作”Late Dawn”をチェックしてみてほしい）が含まれる。彼らは『Chromophore』というヴァイナル2枚組コンピレーションの発表を控えている。今年のハイライトのひとつになるタイトルとして期待していい。

さらにSlow Lifeは、ますます一般的になっている活動形態を代表している。彼らは忘れ去られたダンスミュージックを求めて何年も夢中になってレコード掘りをしているDJとプロデューサーたちだ。そして、近年ブレイクした多くのアーティストとは異なる価値観を携えてシーンに登場している。去年のSome Thoughts on 2015で、Will LynchがL.I.E.S.やFuture Timesを例に挙げながら称賛していたのは、「レイヴ・パーティーでの経験にインスパイアされていない」音楽をリリースするアーティストの作品だった。Slow Life、Binh、Nicolas Lutz、Andrew James Gustav、Francesco Del Gardaを含むプロデューサーやDJの新たな波は、異なるアプローチと共にやって来ている。彼らはヴァイナルをとても大事に思っており、自宅で友人と一緒にヴァイナルをミックスしたり、トラックIDを探し出したり、パーティーに遊びに行ったりしている。2012年と2013年は、アウトサイダーなハウスがひとり勝ちの状況だった。できれば2016年はインサイダーなハウスの年になってほしい。

大荒れの2015年を経た今年はイギリスのナイトライフにとって重要な1年になろうとしている。グラスゴーの破産申請したThe Arches、国内にあった小規模会場の終焉、ロンドンの夜間地下鉄の遅延など、昨年は数えきれないくらい悲観的な出来事があったと言えるが、ナイトライフに携わる人々によって設立されたNTIA、イスリントン市議会との法廷闘争に勝利したfabric、南ロンドンで土地開発の脅威に堂々と立ち向かったBussey Buildingなど、建設的な出来事もいくつかあった。しかし、そうした一筋の光さえも闇に包みこまれているように感じられた。1年がかりの計画を要したfabricの法廷闘争には間違いなく膨大な費用がかかっただろう。再開発の脅威が現れる前にBussey Buildingは自らを文化的拠点として確立しなければならないが、時間がほとんど残されていない状況であり、予断は許されない。今年は状況が好転してほしいところだ。アムステルダムからは学ぶべきことがある。同市のRadionや新しくオープンしたDe School（レストラン、カフェ、展示スペースも備えている）には24時間の営業許可が与えられ、繁盛する余地がある。

稀少なレコードを掘り出すため、常に熾烈な競争が繰り広げられてきた。2015年、マニアたちのレコード争いが再発盤文化を後押しし、新たな盛り上がりにまで導いた。現在、一連の優良レーベルが存在し、スタイルを問わず、これまで見逃されていた奇妙で素晴らしい音楽を世界中から探し出すために懸命に活動している。年を追うごとに、この分野の敷居は低くなっている。先日のCritics RoundtableでRAスタッフが指摘したように、この5年間はどの年をとっても間違いなく「再発盤の年」として考えられる。Mariah、Patrick Cowley、Vito Ricciのように、活動当時はおそらく異質過ぎたが、今聞くと素晴らしいアーティストやバンドの作品が2015年に再発された。

Dark Entries、Music From Memory、Palto Flats他、多くのレーベルが昔のヴァイナルを発掘することで僕たちの音楽観を広げてくれた。しかし同時に、そういったレーベルが新作をリリースしていることも注目に値する。その点を踏まえて2016年は、Gigi Masin、Young Marco、Jonny NashをフィーチャーしたGaussian Curveのプロジェクトのように、再発盤文化によって発展していく世代間を超えた新鮮なコラボレーションを見てみたい。

2016年にJon Hassellの新作が出ることを祈っている。Omar-SとMax Dのアルバム、日本人プロデューサーのPowder、Music From MemoryからのDip In The Poolによる12インチ、Vladimir IvkovicによるOffen MusicとLovefingersによるESP Instituteの全作品が楽しみだ。チルアウトしたいと思っている人に今年ぜひとも浸ってもらいたいのは、傑作ミックスシリーズLullabies For Insomniacsだ。

私は今まで自分を女性ライターだと思ったことは本当に一度もなく、単にライターだと思っていた。去年の前半、Pitchfork Reviewの元チーフエディターJessica Hopperが、20年間に渡って音楽ジャーナリズムに努めてきた自身の全集『The First Collection Of Criticism By A Living Female Rock Critic』を出版したとき、女性批評家に関する議論が話題になった。同書がきっかけになり、このテーマについて次々とインターネット上で解説記事や反論が飛び交った。もちろん2015年には他にも女性に関する議論があったが、同書の影響力は大きかった。当時、そんなことを私はほとんど気にかけていなかったけれど、とりあえず女性だからという理由でお呼びがかかるようになってからは、私も意識するようになった。乗り気ではなかったが、私は思いもよらない議論に巻き込まれるようになった。そして今、私はここで同じテーマについて意見を述べている。2016年にこんなことをしているなんて、自分では予想だにしなかった。

私からしてみれば、芸術に性別はほとんど関係ないと思う。批評家として芸術的価値を第一に考えて、アーティストをピックアップしていくようにしたい。アーティスト、ライター、もしくは音楽業界に携わっている人なら誰でも、そうすることがみんなを突き動かす情熱になっているはずだ。「どうして音楽シーンにもっと女性がいないの？」という視点にこだわることが、2016年の音楽シーンにおけるジェンダー問題にアプローチする正しい方法だとは思わない。既にシーンで活動している女性たちを称えて、人目に触れる機会が少ない人たちを見つけて支える取り組みを懸命に行うなど、もっと前向きな展望を持ち始めるときだ。その意味で、シーンで働く女性にスポットライトをあてることを目的に、ベルリンで全性別対象の交流会として登場してきたSalt + Sassのようなイベントをもっと見てみたい。あと、シーンに加わろうとしている人たちが集うプラットフォームを準備したいと思う。

音楽面で2015年は、かつての情熱に火が点いている自分がいた。7年ぶりにBangfaceに行った他、再びPlanet Muが自分のお気に入りレーベルになった。去年はアニバーサリーの年でもあった。DMZとTectonicが10周年、そしてPlanet Muが20周年を迎えた他、TempaとBangfaceはそれぞれリリース数と開催数が100に到達した。どれも私個人の成長の中で重要な部分を形成してくれた。シーンの動向や気まぐれに対応する彼らの力には称賛の言葉しかない。彼らがそうすることができたのは、現在と未来を見つめると同時に過去を祝福しているからだと思う。王道的なサウンドを支持するアーティストがいる一方で、次に向かって進む新しい才能が加わる場所も残されている。この象徴的な関係性がこれからの1年でさらに深く実のあるものになっていってほしいと思う。

最後になったが、Visionist、Herva、Lotic、Rabitのような、完全に独自の道へ外れていった異端アーティストが今年はさらに登場して、私たちが理解するかどうかなんて気にせず、未知なる奇妙な領域を探求してほしいと思う。他人がどう思うかではなく、自分が何をするのかを気にかける人や、リスクを冒す人が私たちには必要。個人的に、2015年のベストアルバム（言い換えるなら、すぐには好きになれなそうなアルバム）にはそういうアーティストが作ったものがあった。再び気持ちがかき立てられるのを楽しみにしている。

00年代のダンスミュージックシーンは着々とバブルが膨れ上がっているかのようだった。DJの出演料の高騰、隆盛する定期的なフェスティバル、そして、企業から流れ出る資金によって、無限に成長していくような印象が作り出された。今ここに書いたことはヨーロッパの話だ。アメリカではEDMの爆発的人気によってエレクトロニックミュージックの広大な地平が新たに切り開かれた。それに不満を言うつもりはない。その結果、巨大組織からベッドルームで機材をいじる無名の人まで、あらゆるレベルで音楽活動が盛んになった。しかしたった1年で、18歳の若者たちがThe Beatlesを再発見したり、すべてが崩壊を迎えたりするんじゃないかと僕は心配している。2016年がその年にならないことを祈る。

昨年、僕が最も深く感動した音楽体験は、前述した隆盛期に対して両面性のある関係を持つ組織によるものだった。FreerotationやUnsoundといったフェスティバルや、Berghainといったクラブで味わえる魔法のような体験の大部分は、親密さと分かち合いという感覚から生まれている。高まる人気を前にして、彼らはその感覚を保つために懸命に取り組んできた。昨年、クラクフで行われたUnsoundの通し券は数分で完売。Freerotationは限られた人だけが知るメンバーシップ制度を採用。そして、Berghainのエントランスは今もベルリンで最も冷徹な場所であり続けている。ニューヨークに会員限定スポットがあった70年代以降、包括性と排他性の間にある緊張感がダンスミュージックの在り方を保ち続けてきた。次の1年はその緊張感がさらにハッキリとしてくるだろう。会場に誰が入れて誰が入れないのか？　どの時点でコミュニティ精神がエリート意識に変わるのか？　そこで投げかけられる問題はますます重要になってくるだろう。

2015年、必要不可欠な文化スペースとしてクラブやイベント会場をサポートすることで、初期ダンスミュージックの「みんなで一緒に」という根本精神に立ち戻ることになった。このシーンの誕生を最初に後押しした同性愛者たちのエネルギーに今年は回帰していきそうだ。アメリカでは、同性愛者たち（そして、同性愛者たちのパーティー）が再び脚光を浴びる年になるかもしれない。Mike ServitoやCarlos Souffrontなど、相応な評価を受け始めたばかりのベテランDJたちは、地元のゲイシーンに欠かせない存在として何年も活動してきた。他にもシーンを牽引している集団としてサンフランシスコのHoney Soundsystemが挙げられる。Smart Barのようなクラブでレジデントを務めていることで、彼らの評判は高まるばかりだ。Honey SoundsystemのJosh Cheonが手掛けるDark Entriesは過去の音源を発掘するレーベルとしてますます人気を集めながら、時折ゲイカルチャーの最も深く暗い部分に光を当てている。例えば、Patrick Cowleyによるポルノサウンドトラックのコレクションは非同性愛者と同性愛者の心を同時に捉えている。Honey SoundsystemとDark Entriesはエレクトロニックミュージックがゲイカルチャーと根幹部分で深く繋がり合っていることを思い出させてくれる。

そうした認識は高まりつつある。ホモフォビアの噴出に対してダンスミュージックコミュニティが取った反応の仕方からも、そのことが示された。自分たちが信じるものを守るために立ち上がろうとする情熱は、今年も決して収まっていくとは思わない。僕が初めてシーンと関わりを持つようになって驚いたのは（そして、失望したのは）、すべてが、そして、みんなが、とても保守的に見えたことだった。特に立場が上の人たちに対して、そして、特に北アメリカでそれを感じた。でもその感覚はもう過去のものだ。Cocktail D'Amore、Men's Room、Dickslap、Honcho、Wrecked、Spotlightなど、同性愛者の著名なDJやパーティーが世界中で情熱を燃やし続ければ、2016年のダンスミュージックシーンはさらに活気づいていくと思う。

新たなクラブスタイルが包括的に混ざり合うことで、ある特定のDJが台頭してきている。中でもTotal Freedom、Rizzla、Juliana Huxtableは顕著な例だ。彼らが取っているアプローチは、妥協が無く恐れ知らずで、しばしば作為的な難解さがあり、賛否両論を巻き起こしている。Arca、Elysia Crampton、Rabitといったアーティストも同様の制作アプローチを取っていて、あらゆるジャンルのアイデアを独自の魅惑的な音楽に変換している。こうしたアーティストに共通するものは何なのか？　彼らは同性愛者であり、そのことに関してあけすけに語る。2016年、僕が最も楽しみにしているのは、エレクトロニックミュージックが次第に社会的な意見交換の場へ変わっていきそうな点だ。現実に目を向け、その環境に自分の身を置くことを恐れないアーティストがいれば、このシーンは自己表現や広範な文化的変化にとって欠かせないプラットフォームになるかもしれない。

去年、僕が味わった素晴らしいダンスミュージック体験のほとんどは、BPMが140を突破したときのものだ。ハウス／テクノの倦怠感を経験している人にとって、テンポの速い音楽が持つ可能性は停滞を防ぐ手段になり得る。それにより、エレクトロ、ジャングル、ドラム&ベース、デジタルダンスホール、ダブステップ、IDM、その他多くのサウンドが突如としてミックスの対象になるからだ。程よく平均的なテンポが幅を利かせているベルリンで、こういったミックス感覚を定期的に味わうのは難しいだろう。しかし、ハメ路線ではなく、変化を取り入れて驚かそうとするDJがいるようなニッチな場所を見つけていきたい。

DJ Stingrayの新作を聞けると個人的には嬉しい。彼は人々に刺激を与え続けている。特に先日Lower Partsから発表されたEPがそうだった。Hidden Hawaiiにはもっとリリースが控えていることを期待する。ドラム&ベースのテンポにテクノ的な空気を融合させた彼らのサウンドに魅了されて、Enaの他、Samurai Musicのアーティストの作品も聞いた。45Seven（ドイツでテンポの速い音楽を発表しているAlphacutのサブレーベル）に現れる一連の7インチは、クラシックなダブのサンプル、的確なアレンジ、そして、7インチだけが成し得る素晴らしいコンプレッションを融合してきた。7インチと言えば、日本の再発盤レーベルDub Storeには膨大な数の傑作デジタルダブを、とりわけ、Jammyが手掛けた歯切れのいいヴァージョンを引き続き期待している。そして、高望みかもしれないが、Torsten Pröfrock（aka T++）の新作が出るなら大歓迎だ。

先日、僕はRAのテックエディターを務めたJordan Rothleinから役職を引き継いだ。音楽ファンの立場から見て、テクノロジーの世界も同じく興味深くて不可解だ。そこはDIYの情熱が多国籍企業と重なり合う素晴らしい場所であり、製品の売り出され方が往々にして僕たちの知る音楽の歴史や文化とは一致しない場所でもある。20世紀の音楽制作における重要な変化を生んだのは、メーカー側の意図とは異なる方法で独自に機材を使った人々だ（初期のロックンロールを形作ったディストーション、ダンスミュージックに影響を与えたTB-303、ヒップホップのひな型を作ったターンテーブリズム、ダブ旋風を巻き起こしたジャマイカ人プロデューサーたちが音声を振り切れるまで入力したレコーダーなど）。2016年に音楽制作を始める人には、善意のあるウェブサイトやメーカーがルールに沿った「正しい」情報を律儀に教えてくれるだろう。知識や技に関する情報がオンライン上に蓄積されることで最適な在り方が画一化すると、そこには音楽的発展につながっていきそうなエラーが発生する余地が生まれる。そして画一化しているため、理論上その音楽はより一貫したものになる。2016年には、凡庸なダンスミュージックが過剰にリリースされそうだと僕たちは考えているので、これまでとは違う、とんでもない使い方で機材を使う人たちに光を当てていきたいと思う。

既にRyanが話したとおり、2015年で素晴らしかったのは、Carlos Souffront、The Black Madonna、Mike Servito、Solarなど、これまで話題にされてこなかったアメリカのベテラン勢が各地を飛び回ったことだ。世界の舞台に登場する前、彼らはそれぞれの地元で何十年も地道な活動を続けてきた。彼らの成功は熟練の技を持つローカルヒーローたちがさらに登場する契機となっていくかもしれない。2016年にもっと輝きを放ちそうなDJ中のDJとして思いつくのは、テキサスのDJ／プロデューサーBill Converse、他のNo Way Backメンバー、そして、Jason Kendigだ。彼らが全員デトロイトで経験を積んできたことは決して偶然などではない。デトロイトと言えば、Kyle Hallがセカンドアルバム『From Joy』で2015年を締めくくったのは素晴らしかった。今年は僕もOmar-S、Andrés、Marcellus Pittmanにアルバムを期待している。

2015年はディガーDJの年だった。9月に開催される1500人規模のフェスティバルDekmantel Selectorsの公式発表がそれをしっかりと物語っている。Organic MusicのChee Shimizu、マンチェスターのDJ Jon K、アムステルダムのOrpheu The Wizardらのミックスを聴いて、僕はいつも多くのことを学んでいる。Orpheuが行動を共にしているのは、2016年に至るまで変わったポップスを再発してきた優良レーベルMusic From Memoryのメンバーたちだ。彼らがMichal Turtle、Dip In The Poolといったアーティストたちによる無名の傑作を掘り出し続けるなら、僕も彼らに金を払い続けるだろう。現在におけるレーベル運営の在り方の好例として、Cómemeには感動させられっぱなしだ。彼らはレコードをプレスするだけでなく、オンラインラジオ局やツアー拠点としての役割も担っている。ヴァイナルでもフリーフォームなラジオ番組でもいいので、レーベルアーティストのLena Willikens、Borusiade、Inga Mauerの作品を今すぐにでもたくさん聞きたい。

地元の話になるが（地元といってもアメリカにある僕の地元のことだが）、2015年のMax DはFuture Timesの運営に励んだ。彼の新作アルバム『Boost』はもちろん、このレーベルからリリース予定のものなら何でも楽しみだ。地元から海岸沿いを北上しよう。バンクーバーの少しサイケデリックなハウスレーベルMood Hutは引き続き見逃せない。今年は彼らに3枚以上のレコードを出してもらいたいところだ。FIT Soundとサンフランシスコで活発に動き回っているDark Entriesは僕にとって即買レーベルであり続けるだろうね。同じことはDDS（Demdike Stare Records）、Sacred Summits、PLO ManのActing Pressにも言える。細かいものまで含めると、近年、成功への足掛かりを得た素晴らしいレーベル、DJ、クラブがたくさん存在していて、その中から良いものを見つけ出すという、圧倒されそうになるけどエキサイティングな仕事が待ち構えている。

社会問題の観点からすると、2015年はダンスミュージックの魂を探す1年だったように思う。見方によっては産みの苦しみを味わう1年だったとも言える。今では広く知られるようになったホモフォビアという言葉と、依然として変わらないジェンダーの不均衡（例えば、年末のPollにランクインする面々など）には、まだまだゴールまでの道のりが長いことを思い知らされる。しかし、これらを含む様々な問題に取り組む中で僕たちは、Angus Finlaysonが意見記事で語った「皆が同意できる倫理観」に向かって非常にゆっくりとした足取りで近づいていった。自由で包括的な文化として、今年もダンスミュージックシーンには自らを引き続き再確認していってもらいたい。そしてこれは欲張り過ぎかもしれないが、その過程から生じる騒動（キャリアの崩壊、オンライン上の暴言、ソーシャルメディア上を巡るゴシップ）が少しでも減ってくれるとありがたい。総じて言えば、今年はソーシャルメディアのゴタゴタがエレクトロニックミュージックの中でマイナーな話題になっていってほしい。

クラブ面では、ベルリンに住んでいる身として、ちょっと変わった場所から新しいクラブやパーティーが生まれてほしい。良いレジデントがいて、誰がプレイしているのか知らなくても遊びに行けるような場所が特に欲しい。ベルリンに引っ越したとき、クラビングのそうした一面がすごくいいと思ったけど、今はそういうクラブが以前に比べて一般的ではなくなっている気がする。Tresorと同じ建物にある一室の小部屋OHMにも引き続き好調でいてもらいたい。ここ数年、ベースミュージックやエクスペリメンタルミュージックなど、クラブミュージックの隙間に挟まって行き場をなくした人たちが増えていて、OHMはそういう人たちにとって小さな避難場所になっている。最近、僕はOHMで素晴らしい夜を過ごしている。遠く離れた場所に目を向けるなら、ベオグラードとトビリシに生まれているシーンのことをもっと知って、できればそこにあるクラブやアーティストと親しくなっていきたいと思っている。

もちろん、楽しみにしている音楽もたくさんある。現在、SUED、Workshop、Aniara、Gieglingはどれも僕にとって即買レーベルだから、彼らがどんなものを出しても僕は受け入れるよ。今年、Sex Tags一派から届けられるであろう数多くのレコードをふるいにかけていくことも楽しみだ。もしOmar-Sのニューアルバムが『Thank You For Letting Me Be Myself』並みの出来栄えになれば、すごく嬉しいことだ。Leifがどんな作品を出しても、ほぼ確実に僕は満喫するだろうね。それにもちろん、現時点で僕がまったく知らないような素晴らしい音楽とも遭遇するはずだ。例年どおり、それが一番の楽しみだね。