たったひとつのツイートでひとりのキャリアが台無しになるということが、ここ数年で日常茶飯事になってきた。誰かが何らかの問題発言をし、SNSで批判の声が殺到し、憤怒が衝撃波のように伝播し、その人物は雪崩のように押し寄せる非難に埋もれる。今やこれがあまりに日常的な光景になっているため、去年Slateは2014年を「Year of Outrage」（炎上の年）とし、世の中が激怒したニュースを365日分集めた特集を公開した。

2015年はその炎上文化がダンス・ミュージック界を席巻した年だった。最大のニュースは、人気リトアニア人アーティストTen Wallsが、6月にFacebookで同性愛者を侮辱する卑劣なコメントをポストし、炎上したことでエージェンシーに解雇され、出演が決まっていたフェスから一斉にキャンセルを喰らった事例だろう。その件ほどの規模でないものも多数起きており、どんな知名度のアーティストであってもこういった炎上の被害を受ける可能性があることが明確になった1年であった。しかし、シーン内に存在する醜い思想と向き合おうとしているダンス・コミュニティーにとって、こういった動きはポジティブなことだと捉えることが可能だ。だが、気をつけないと炎上はただの鈍器になってしまうため、もし建設的な形で使用するならば上手く扱う必要がある。

5月にはUKのプロデューサーBoddikaが、「UKの店やレストランで働いていて英語が喋れないやつは失せろ！」とツイート。その数週間後、Noisey UKに掲載されたイベントレビュー記事にて、PC Music所属のアーティストGFOTYがマリ共和国の2人組Toumani & Sidiki Diabatéを、「Bombay Bicycle Clubの黒人バージョン」と表現（その後訂正）。Wolf + Lamb所属のTanner Rossは、RAのAndrew Ryceに対して反同性愛者的中傷ツイートを送信し攻撃。Berceuse Heroique主宰GizmoはSNSでセクハラ・コメントをし、批判の的は彼のレーベルがファシズムのイメージをアートワークに使用している点にまで及んだ。彼らは全員非難の嵐を受け、その後SNSにて謝罪コメントを発表している。11月には、パリでのテロ事件を受けてLevon VincentがFacebookの7万3千人のファンに向けて、「常に武器を持ち歩くべきだ」と発言し、似た結果を招いた。

しかしダンス・ミュージックにとって2015年を「炎上の年」とするならば、いささか世の中に遅れをとっていると言える。Ten Wallsの件が起こるずっと前から、この流れは「辱め」であると主張する声が挙がっており、炎上に対する世論が揺れていた。3月に発売された書籍『So You've Been Publicly Shamed』にて、著者Jon Ronsonは最近のネット上の公共制裁を、東ドイツの恐怖に根ざした監視社会と比較した。同月、Monica LewinskyはTEDのスピーチでそういった風潮を「残酷なスポーツ」と形容した。4月にはThe Atlanticにて『Ending The Internet Outrage Cycle』（ネット炎上の周期を断つ）という記事が掲載され、記事内では筆者が「皆もう少し落ち着いたらいいのではないか」と提案していた。

これを「辱め」であると分析する人達は、こういった事例は衆愚政治の一例であるとする。彼らが犯した過ちは本当にそれほど厳しい制裁に値するものなのか改めて見直すべきだ、というのが主たる意見である。しかしRonsonの本に登場する事例では、職を失い何ヶ月も世間の目から隠れて生活する羽目になった人物が多く、比較するとダンス界での「辱め」は軽度なものだといえる。キャリアが相当な痛手を負うことになったのはTen Wallsぐらいであり（それだけのことはしたが）、彼でさえ今では戦略的にカムバックを目論んでおり、まるで新作リリースのアナウンスのように謝罪文を公開するメディアを吟味していた。

そして、これをただの「辱め」であると捉えると、炎上の建設的な側面を完全に無視することになってしまう。もしかしたらスポーツ感覚でバッシングしている部分もあるのかもしれないが、それよりも、皆が同意できる倫理観を共有しようとしている向きのほうが強いだろう。差別的な思想、特に、アーティストがときにこぼしてしまう遠回しだが有害な言葉は、しっかりと指摘する必要がある。

Levon Vincentのケースは少々異なっており、炎上が起こりやすい現状に潜む落とし穴を露呈した。11月13日のパリのテロ事件を受けて、Vincentは「武器を持ち歩くべきだ。銃が嫌なら、あなたの政府が許可している最大の長さのナイフを忍ばせておけ」と発言した。その後、すぐにFacebookの投稿は削除されたが、すでに物議を醸していたため、2日後には「周りの反対を押し切って」追加コメントを2度投稿していた。彼は批判者に譲歩しようとする姿勢を見せ、なぜかポケットナイフを持ち歩くのをやめるという不思議な妥協を宣言したが、当初のコメントを取り消すことはしなかった。それらの投稿は現在全て削除されている。

何万人ものファンに武器を持ち歩くよう呼びかけるのは無責任であったが、Vincentの失言は思慮に欠けるとはいえ善意からくるものであり、BoddikaやTanner Ross、GFOTYらの愚かな差別発言とは一線を画す。Vincentの発言はTen Wallsと同類だとする声もあったが、それは前者にとって不公平であり、後者の愚行を平凡化してしまうことだ。

激怒が適切である場合とそうでない場合を判断する権利は誰にも無い。どのケースでも、議論の中心にあるのはとてつもなくデリケートな問題であり、現実世界で傷ついている人々がいる。しかし怒りは状態をエスカレートさせてしまう危険性を孕む。行動への非難（「あなたは差別的発言をした」）が、立証できない人格否定へと変わってしまう（「あなたは差別主義者だ」）。具体的な事例から、会話は曖昧な領域へと広がってしまい、発言者は必死に自身を肯定しようとし、「〜ではない！」と抗議する。Boddikaのツイートに関する議論はすぐに彼がレイシストかそうでないかという要点にのみ集約してしまった。そのほんの数週間前の総選挙では、外国人嫌いの右翼政党、UKIP（イギリス独立党）が優勢であった点も踏まえて、イギリスの政治風土についてもっと議論すべきことはあっただろう。そういった会話であったら、Boddikaを援護していた人達も気づくことはあったかもしれない。

批判がただの人格否定になってしまうと、標的となった人は自身の行動を見直そうとするよりも反発する可能性が非常に高くなる。彼らにとって発言の訂正はもはや選択肢ではなくなり（何しろ、すでに差別主義者に認定されてしまっているため）、代わりに不正義の標的になったと被害者意識を持つ。例えばGizmoは、とてつもなく曖昧な謝罪しかせず、その後一件のことをただの「スキャンダル」と呼び、笑い話にしている。そして、きっと自身の過ちに気がつくことができたであろうVincentは、「テロリストに思いっきり750ユーロのiPhoneを投げつけろ！」と皮肉めいたことを発言していた。結局、嵐が去ったあとは何も残らず、毎回何も変わっていないと感じずにはいられないのだ。

SNSを使いこなせていないアーティストが多いことは明確だ。炎上してからVincentが最初にとった行動は批判的なコメントを削除するというものであり、その後、遠回しな反論を含んだ追加コメントを発表し、ただの失言が大失態へと激化してしまった。Tanner Rossは何度か謝罪文を投稿してはすぐに削除するということを繰り返したのち、ようやく本人が満足のいく謝罪コメントをポストしていた。Thumpの元編集者Lauren Martinに対して、「魔女狩り」を扇動したと責め立てるため（実際彼女はそんなことをしていない）、Gizmoが公開したスクリーンショットには「スクリーンショットの撮り方」というブラウザータブが見えていた。どのケースにおいても、アーティストたちの不器用な対応が状態を悪化させていた。

Vincentは、「俺はいつのまにかポップ・カルチャーの一員の公人にさせられてしまっているようだ。俺はミュージシャンであり、自身のネットワークのなかで独立して活動し、ファンたちと直接やりとりをしているべきなんだ」と、自身の置かれている立場に驚きが隠せない様子を露にしている。その後、彼はSNSアカウントを削除することを発表し、「ネット上で個人的に交流をしたいと思っていたら追従しないといけない偽りのしきたり」を否定すると説明した。

実のところ、このソーシャル・メディア時代にもはや「公」や「ポップ」と、「インディペンデント」をはっきりと分け隔てているものは存在しない。Vincentが切望する居心地の良い環境とは、昔、サブカルチャーが閉鎖的なコミュニティーであり、異論を唱える者の声は掻き消されることが多かった時代に存在していたものだ。前述のアーティストたちは皆、送信をクリックしたとき、こういった心地良い閉じられた空間のなかにいると勘違いしていたのだ。自身の言葉が誰かを傷つけてしまう可能性があるという責任をしっかりと認識する必要が彼らにはあり、彼らのコミュニティーはアーティストがそういった発言をした際、今後の被害を最小限に抑えるにはどう対応すべきかと考えなくてはいけないのだ。