日本のジューク/フットワークのキーマンとして知られるDJ Fulltonoは、関西を拠点に活動するDJ/トラックメイカーであり、レーベルBooty Tuneの創設者だ。2013年に発行されたHuckに彼はこう記した。「日本独自のスタイルのジュークを世界に伝えていく事が使命だと感じています。模倣したものではなく、日本オリジナルのジュークを確立していきたいですね」。シカゴの南部、西部がルーツのこのサウンドは、日本においてこと盛り上がりを見せている。数多くのプロデューサー、DJ、ダンサーが繋がり、日本のジューク/フットワークシーンを形成してきたのだ。またそこには、テクノ、ヒップホップ、エクスペリメンタルなど多様なバックグラウンドを持ったアーティストが、彼らの熱狂するジューク/フットワークを共通項として、新たな視点を生み出そうと集まってきているのだ。

私自身このシーンを知ったのが遅かったため、今までいかにディープな世界が形成されてきたかに驚いた。DJ FulltonoとDJ Aprilによって運営されているBooty Tuneは2008年にスタートしており、世界で初めてフットワークをリリースしたレーベルといっても過言ではないだろう（フットワークを世に知らしめたPlanet Muからのコンピレーションアルバム『Bangs & Works』は2010年のリリースだ）。そして今日において、Booty Tuneや、Trekkie Trax、Бｈ○§†、Shinkaronといったレーベルは新しい日本のジューク/フットワークサウンドを世界に向けて発信し続けている。Бｈ○§†の創設者であるKent Alexanderは、3人組のグループPaisley Parksの1人として、シカゴのフットワークの重鎮TraxmanとEPをリリースした。また彼は日本初のフットワーク・バトル・トーナメントBattle Train Tokyoを主催し、サウンドと共にフットワークのダンスカルチャーを瞬く間に日本に広めた。

このシーンは、陳腐なトラックから好意的に真似たもの、深い感銘を受ける作品まで様々あるが、その中で違う次元にいるアーティストがいる。樋口貴英による、食品まつり a.k.a foodmanだ。彼は高校生の頃から音楽を作り始め、現在は30代半ば、横浜在住のアーティストだ。2011年からこのシーンに関わりはじめ、Бｈ○§†やJapanese Mutation Bootyism、アメリカのレーベルDigitalis Limited、Orange Milk、Noumenal Loomから楽曲をリリースしている。彼はフットワークについてこう語った。

「最初にフットワークを聴いた時に、昔初めてサンプラーを買ってカセットに録音した音と似た物を感じました。初めて機材を触って音遊びをした時の、キラキラした楽しさを思い出したんです。私はフットワークをダブやパンクと同じように捉えています。ダブやパンクが手法、ジャンル、スタイルを超えて、色々なジャンルと融合して表現の形を生み出していったように、フットワークにも似た物を感じています。」

Foodman

ジャンルを超越しようとすればするほど、そのジャンルに分類されてしまいがちな昨今において、彼が目を引く存在なのには理由がある。それは彼がこのシーンにいる他の多くと違って、単純にサウンドを切り貼りするだけのアーティストではないからだ。彼が持つ非凡な世界観では、例えフットワーク、ハウス、テクノ、ポップ、アンビエントの形式で曲を作ろうとも、結局は彼独自のサウンドになる。彼のトーンも非常に重要なポイントだ。それらの曲はハイブリッドなクラブミュージックのディストピアではなく、虹のようにカラフルな、イマジネーションに満ちた世界なのだ。これは、彼が好むゲームのBGMの幻想的な世界観から強い影響を受けているのであろう（『ファイナルファンタジー』と『クロノ・トリガー』が特にお気に入りだそうだ）。「音楽制作時の瞬間のフィーリングや勢いを重要視していて、制作には長い時間をかけないようにする」と彼は答えてくれた。

今回はメールでインタビューを行ったのだが、もともとメールインタビューは難しく、言語の壁があると尚更だ。文章よりも、彼の曲を聞いてストーリーを感じ取ってもらう方が良いと感じた。下記の15曲は、食品まつり a.k.a foodmanのfoodman SoundCloudページから選んだ個人的に好きな曲だ。ぜひ、彼のテイストを聞いてみてほしい。

“Fan Fan”は2013年のアルバム『ARE KORE』収録のトラック。鋭さと激しいポリリズムが混ざり合った曲だ。

“Uho Uho Story”は「DOGUU EP」に収録されたDJ Fulltonoとのコラボレーション楽曲。シンプルだが心揺さぶるメロディーからは、彼の趣向が伺える。

“Shiro Wine”は『ARE KORE』収録の別のトラック。foodmanはサンプラーや自身で叩いた生ドラムサウンドを使う事も多く、この曲ではその両方がキーエレメントになっている。

“YUME OI HITO”は約1週間前にポストされたばかりの曲。狂気を伴うビートレスな作風は彼の典型的なスタイルと言える。無音がきわめて重要な要素を占めている。

“Crow&Sparrow”は2013年のコンピレーション『World Wide Juke Volume Twelve』から。タイトルにあるとおり鳥の鳴き声をサンプリングしたトラックだが、少し奇抜という以上に、心の底からの自己表現にも聞こえなくもない。

これはfoodmanが手がける美しいアンビエント・トラックのうち1つ。『FOGPAK #8』に収録。

昨年Patient Sounds Intlからカセットアルバム『Hot Rice』をリリースしているが、その中から“Ikitomari”をフィーチャー。この曲は”テクノ”とタグ付されているが、 “デンボウ”と言っても良いだろう。

“MAX OYAJI”もまた「DOGUU EP」に収録のトラック。散りばめられたパーカッションとリッチな世界観が特徴だ。

“Kitekudasai”は125 BPMのハウストラックだが、このテンポのトラックではあまり見かけない、自由な形式で作られている。

LEF!!! CREW!!!のCD『THIS IS HARDCORE』に収録された“Kakiage”は、彼がジュークに回帰した1曲。

“mori he go(森へGO) “は2014年にシングルとしてセルフリリースされたフットワークトラック。

2013年に作られた“Awa buro”は、アートワークにある夜明けを連想させる眩惑的な1曲。

まもなくOrange Milk Recordsからリリース予定のアルバム『EZ MINZOKU』のリードトラック。Bo NingenのTaigen Kawabeをフィーチャーした、狂った一曲。

ゴツゴツしたテクノ。Tiny Mix Tapesの批評から広まった曲。面白いアートワークだ。

Foodmanはロボット音やビデオゲームの音に深みを感じている。斬新な音の組み合わせが素晴らしい。