2015年、UKのナイトライフは陰鬱な真実を突きつけられた。The Association of Licensed Multiple Retailers（編注：営業許可取得済み小売業者団体）の報告によると、UKのナイトクラブの数はここ10年で半減しており、Music Venue Trust（編注：UKで草の根的な音楽活動を行っている音楽ヴェニューの保護を目的とする団体）は、2007年以降、ロンドンの草の根的な音楽活動を行うヴェニューの35％が閉店したと報告した。また、スコットランドのThe Archesの閉店は怒りと悲しみを呼び込んだ他、ロンドンのPlastic PeopleやPower Lunchesなどの小箱も閉店し、リヴァプールのThe Kazimierも2016年初頭に閉店し、フラットへその土地を明け渡した。多くの人たちは、厳格な地方議会と無慈悲なデベロッパーたちがかつて栄華を誇ったナイトライフカルチャーの首を絞めているように感じている。

しかし、2015年は同時にプロモーターやパーティファンたちの抵抗も見られた。5月には「ナイトライフ業界の声を届ける存在になる」という目標を掲げてNight Time Industries Association（NTIA）が発足し、ロンドンではfabricがイズリントン地方議会との法廷闘争に勝利した。また、イーストロンドンでは草の根活動によって、物議を醸し出した2016年施行予定の営業許可の改正案をハックニー地方議会が保留することになり、サウスロンドンのペッカムでは住民の反対運動によってBussey Buildingの隣に予定されていた高級マンションの建設計画が白紙に戻った。更に、ロンドンでは、市内に「nighttime champion」の役職の設置などを提案するレポートと共にMayor’s Music Venues Taskforce（ロンドン市による音楽ヴェニューの現状を把握して将来を考える委員会）も設置された。nighttime championとは、ナイトライフ業界と行政の間に立つ存在で、今回の座談会に出席したMirik Milanがアムステルダムで務めている役職に近い。

2016年もロンドンにおけるその勢いは維持されており、4月から不動産業者から既存の音楽ヴェニューを守る法律が施行されるというニュースが届いている他、ロンドンのナイトライフをいかに守り、いかに管理するかについて半年間調査するための機関、Night Time Commissionの設置案と前述のnighttime championの役割についてロンドン市長Boris Johnsonからの公式な説明もあった。アムステルダムとベルリンのクラブシーンは、このnighttime championと似た、ナイトタイム業界と政府側の意見交換の間に入る役職を設けることで恩恵を受けてきた。アムステルダムでは、レストラン、カフェ、イベントスペースが併設されているDe Schoolのようなヴェニューには24時間の営業許可が与えられており、市からバックアップされている。また、ベルリンではテクノツーリズムが何百億ユーロ規模の業界に成長を果たした（2015年で市内に1泊以上した旅行者の数を3000万人と発表したベルリンは、近年ヨーロッパトップクラスの観光都市に数えられている）。2016年もUKのナイトライフを守る戦いにとって大事な1年になることが予想される中、今回はアムステルダムのNight Time Mayorを務めるMirik Milan、Berlin Club CommissionのLutz Leichsenring、NTIAのAlan Miller、そしてロンドンのヴェニュー、Dance TunnelとDalston Superstoreのオーナーを務めるDan Beaumontに集まってもらった。Aaron Coultateが話を聞いた。

Mirik Milan, Alan Miller, Lutz Leichsenring, Dan Beaumont

Alanさんは、Mayor’s Music Venues Taskforceのレポートに記されている最も重要な提案は “nighttime champion”だと発言しましたが、その理由を教えてください。

Alan Miller: ロンドンではこの業界、特に個人行動に関係する、制限や所有権が非常に厄介です。悪質な犯罪が減少し、安全への意識が高まる風潮のUKとロンドンにおいて、世間はナイトライフのメリットではなくデメリットだけに目を向けるようになっています。営業許可を受けているバーやナイトクラブの中で、個人が違法、または愚かな行動を取ると、他の10万人の人間が問題ない行動を取っていたとしても、そのバーやナイトクラブが責任を取らされるシステムになっています。“nighttime champion” はその微妙な部分を理解してくれる存在になるはずです。彼らは周辺の住宅や交通機関、警察などと協力体制を取り、そのような機関や団体を上手く導いて、ナイトライフ経済を活性化し、ロンドンを24時間体制のグローバルな都市にしてくれるでしょう。

Mirikさん、あなたはアムステルダムで “nighttime champion” に似た役職に就いています。その役職がアムステルダムにもたらした大きな違いは何でしょうか？

Mirik Milan: 私たちはアムステルダム市、行政、ビジネスオーナー、ナイトクラブ、市民の間に存在する溝を埋めてきました。同じような話し合いがロンドンで起きつつあるのは大きな意味があると思います。ナイトライフというのは市議会まで話を通すのが難しいカルチャーです。そして、彼らにしてみれば、一切理解していないカルチャーは守りようがありません。ナイトライフというカルチャーは、都市に社会的、そして経済的に大きな影響を与える存在です。今はそれを誰もが理解しています。もちろん、そこには良い面もあれば悪い面もありますが、ロンドンはその悪い面だけに目を向けている。そこを変える必要がありますね。

私はアムステルダム市長と個人的に話をする機会を年に2、3回設けています。先導役として、ふたつの異なる団体の会話のきっかけを作っていきます。私たちの最大の功績は、24時間の営業許可の導入です。これによって、ナイトクラブの営業時間が拡大できるようになりました。アムステルダムは非常に強力なフェスティバルシーンを擁していますが、クラブシーンも力を持つ必要があります。これはTrouwの最後の2年間を見れば分かるかと思います。あのヴェニューは24時間の営業許可によって多大な恩恵を受けました。許可を得るヴェニューの増加によって世界的な知名度を誇るヴェニューの数が増加し、自動的にアムステルダムのナイトクラブシーン全体に力がついて、ベターなクラブカルチャーに育っていくというわけです。ですが、当然ながら私の仕事は両方通行です。たとえば、アムステルダム市議会側で何かが決まると、「これは頂けない」という意見がナイトライフ側から生まれます。これは極めてノーマルな反応です。ですので、私はそのような新たに施行される法律をプロモーターやフェスティバルのオーガーナイザーに説明する役目も担っています。そうすることで彼らは自分たちのメリットを理解できるようになるのです。

Mirik Milan with Amsterdam's Mayor Eberhard van der Laan and Olaf Boswijk from Trouw

Lutzさん、ベルリンはいかがでしょう？　Berlin Club Commissionが2001年に立ち上がってから、ベルリンには何がもたされたのでしょうか？

Lutz Leichsenring: Club Commissionは最初の10年間でベルリン市においてクラブが非常に重要な存在であるという意識付けを行っていきました。そして今や、クラブはベルリンを訪れる理由のトップ3に入っています。クラブカルチャーは、ITのスタートアップシーンからも認知され、その価値を見出されていますし、ファッション業界、映画業界、都市開発業界からも認知されています。不動産業界さえも、クラブシーンが建物の価値を高める可能性があることに気付いています。

ですので、今度はこちら側が恩返しをされる番だと考えています。2015年、Club Commissionはベルリン市から初めて税金を分配してもらいました。ベルリンを訪れる旅行者は市税を払うわけですが、その一部を私たちが受け取ったのです。ベルリンは物価が上昇しているので、自己表現できる自由な空間を確保するためには政治的な支援が必要になっています。お金に縛られてしまえば、実験性が失われてしまいます。我々が一番望んでいないのは、ベルリンが一般的な大都市になってしまうことです。ですので、ベルリンにはクリエイティブな人材が必要なのです。私たちはそのような人材をこの都市に維持するために、彼らに適した環境を用意する必要があります。私たちの大きな功績は、ヴェニューがすべて記されたマップを行政側に用意させたことです。このマップの存在によって、クラブに隣接する建物を新たに建造する場合は、防音設備や防音窓などを新しい建物の施工者が用意しなければならなくなりました。法を正しく整備して、こちら側にも何かしらのメリットがあるようにしなければなりません。あちら側はクラブカルチャーによって多大な恩恵を受けているわけですから。

ベルリンのマップの話が出ましたが、UKにも「the agent of change」（主体の変更）が存在します。これは既に存在するヴェニューではなく、建造業者側が防音対策を行う責任があるという内容です。Alanさんに伺いますが、この「the agent of change」もレポートにおける重要な提案でしたよね？

Alan Miller: レポートには素晴らしい提案がいくつか書かれていました。そのひとつが、「the agent of change」です。開発業者、都市計画業者、建設業者による話し合いによって、ナイトライフカルチャーの価値が認識されることになります。NTIAの来年の計画のひとつは、ロンドンとUKの将来的な都市計画の中心に「the agent of change」を組み込むことです。また、家賃の固定化などについても話を進めなければなりません。

30年前の暴動後にブリクストンに住み、この街の改善に力を貸した人は、改善後の地価の高騰で追い出されるべきではありません。このような統制が行われてしまっているのは、大規模な商業を成立させたいという理由だけではないのかも知れませんが、建設業者、都市開発業者、開発業者を交えて、整合性のある話し合いをする必要があります。24時間の営業許可があれば、人々は様々な時間に訪れるようになります。Night Tube（24時間営業の地下鉄）もスタートしますし、人々は様々なインフラが整う中で非常に豊かな体験ができるようになるはずです。私たちが取り組むべき課題は、将来的な都市計画の中心にナイトライフを組み込み、建設業者、都市計画業者、開発業者たちと協力して、そこに住む人たちが開発成功後に追い出されないようにするということです。お互いにメリットを見出せるはずです。

DanさんとAlanさんに伺いますが、ロンドンはアムステルダムとベルリンから何を学ぶべきだと思いますか？

Dan Beaumont: アムステルダムとベルリンの最もパワフルな部分は、ナイトライフ側を代表する人物が存在する、つまり、行政側に話を伝える人物が存在することだと思います。歴史的に見て、ロンドンのナイトライフシーンは逼迫した、脆弱なビジネスの集まりです。ですので、地元の行政や市議会がナイトライフ側の代表と話をしたいと思っても、そのような人物を見つけることができませんでした。行政側にナイトライフについて話せる人物を提供する機関を生み出す − AlanはNTIAを通じてここに取り組んできました。これが両都市から学ぶべき第一歩ですね。

Alan Miller: 両都市とロンドンの間には大きな差があります。ベルリンとの差は特に大きいと思っています。UKはこの国特有の問題に対応しなければなりません。2003年に立案された免許法（Licensing Act 2003）が2005年に成立して10年が経ちましたが、24時間営業の許可が出された件数はゼロに等しい状態です。当時は24時間営業によって暴飲や犯罪が多発し、制御不能になると考える人がいましたが、数字を見れば、今では犯罪数は減少し、救急外来にかかる人数も安定していることが分かります。ですが、依然として、携帯電話の盗難など、重犯罪に繋がる可能性がある部分が注目され続けているというのが現状です。また、ロンドンはとにかく規約が厳しい都市です。免許偏重で条件も非常に細かく、ヴェニューへの負担が多い。

ですので、UK、特にロンドンでは、ナイトライフが与える恩恵についてはまともに話がされてきませんでした。ナイトライフ業界に関わる複雑な問題が大量に存在しているのです。UKの警察は自分たちの財力や人材について心配しているので、ナイトライフを経済、雇用、カルチャーに恩恵をもたらす存在として考えていません。ナイトライフに労力を割けば、その分だけ出費になると考えているのです。私たちは、世間が価値を見出してもらえないので苦労しています。ベルリンとアムステルダムはそこに価値を見出していますし、共にナイトライフで人を惹きつけています。ベルリンにはクラビングを目的とした旅行者が数多く訪れていますし、アムステルダムも音楽やイベントを楽しむ都市として驚くほどの変化を遂げました。Amsterdam Dance Event（ADE）開催期間にスキポール空港を訪れると、周りの人たちから「ADEへようこそ」と声をかけられます。ヒースロー空港やガトウィック空港やマンチェスター空港でこのようなもてなしを受ける自分を想像できますか？

UKでは、ひとつにまとまろうという全体の意識が必要ですね。ナイトクラブだけではなく、ジム、サロン、レストラン、保育所など、24時間営業の業種すべてが横に繋がる必要があります。その時に必要となってくるのが “nighttime champion” の存在です。

NTIAは2015年5月に発足しましたが、現状について説明してもらえますか？

Alan Miller: かつて、期間限定のアートフェスティバルが出した正午から午後6時までの一時的な興業許可の申請が、「非社会的活動が行われる可能性がある」という理由で拒否されたことから出発しました。NTIA発足にはこのような背景があったのです。まずは、世間のイメージを、非社会的行動や犯罪の温床というものから、カルチャーへの貢献度や経済再生能力の高さを誇る存在へ変えようとするところから始まりました。それができれば、営業許可におけるすべての状況が変わるはずだと考えたのです。

Dan Beaumont: ベルリンを引き合いに出すと、ロンドンで夜遊びをするよりも、ベルリンへ飛んでクラブで門前払いを食らう方がまだましだと考えてしまう状況と言えます。

Alan Miller: UKは経済的、心理的に疲弊しています。そしてそれをひたすらネガティブに書き立てるメディアもいます。ですが、実情は違います。DanやNTIAのメンバーのような起業家精神に溢れる優秀な人たちがロンドン、そしてUK全土に存在しているのです。彼らはダイナミックで革新的でクリエイティブな人たちで、若い世代を雇用しながら、新しい音楽のための新しい空間を作っています。彼らは新しいものを生み出しているのです。

Dan Beaumont: ロンドンのナイトクラブの多くは、他のジャンルのアートとは異なり、政府からの助成金を必要としていません。私たちはオペラやバレエのような、存続するためだけにさえ助成金を必要とするような立場とは違うのです。ナイトクラブは自立したスモールビジネスなのです。政府はこちらに一切投資をしていません。

ロンドンではジェントリフィケーション（編注：低所得のクリエイターやアーティストたちが住んでいた地価の安い地域が注目され、そこに中産階級以上が流入することで地価や物価が高騰し、元から住んでいた人たちが外側へ追い出されていく現象）が深刻な問題ですが、高騰が続く不動産とジェントリフィケーションはナイトライフにどのように影響すると思いますか？

Dan Beaumont: ロンドンが今直面している問題は、不動産価格の不愉快なほどの高騰によって、クリエイティブな活動がほとんど行えなくなっているという点です。これは深刻な問題で、近年のロンドン生活のすべての側面に影響を与えています。世間は意味不明とも言える物価に対応しなければなりません。また、ジェントリフィケーションは「ハックニーでフラットホワイトを買える」という意味ではありません。「ハックニーに生まれた人たちがそこに住むことさえできない」という意味です。ジェントリフィケーションの問題は、これをテーマにした議論がヒップスターやヒゲ面の人たちについての議論へ頻繁にすげ替えられてしまう点にあると思います。ステレオタイプについての会話になってしまうのです。

Lutz Leichsenring: ジェントリフィケーションは、たとえば、子供が安全に外で遊べるようになったり、住居が美しくなったりと、最初はポジティブな変化が起きます。ですが、あるステージを過ぎるとネガティブな変化が起き、単一の価値観が支配するエリアになってしまいます。これはすべての政治家が目を向けるべき問題だと思います。なぜなら、何かが変わる時に… 

Dan Beaumont: 間に入るべき存在が彼らだからです。

Lutz Leichsenring: その通りです。より良い社会のためには “ミックス” が必要です。“ミックス” された状態がなくなれば、ゲットーが生まれます。近代都市はこのような形で発展すべきではありません。ドイツ西部のケルン近郊に面白い開発業者がいます。彼らは荒廃した工業地帯にクリエイティブな人材を育てる小さなエリアを開発したのです。住居の契約期間は長く、カフェや劇場もあり、その他のビジネスが周辺に生まれています。

Mirik Milan: 市はそのようなクリエイティブなスペースを保護すべきです。なぜなら、彼らが多様性を生み出してくれるからです。クリエイティブな業界はUKの経済のエンジンでもありますし、ロンドンの行政側も彼らを求めているように思えます。ですが、クリエイティブな人材やビジネスを本当に手に入れたいのであれば、自ら立ち上がって保護しなければなりません。

Alan Miller: 住宅事情における大きな問題は、現在のUKでは本格的な住宅建設事業を求める動きがないことです。これは若い世代がロンドンに住めるかどうかに関わってくる問題です。シンガポールやマンハッタンのように、若い世代が締め出されています。

Mayor’s Music Task Forceのレポートには、音楽ヴェニューへのシンパシーが感じられますが、ナイトクラブは、Ministry Of Soundを除いて一切触れられていません。レポートには「草の根の音楽ヴェニューには、ステージがなければならない」という基準が記されています。Danさんの所有するクラブ、Dance TunnelとDalston Superstoreにはステージがありません。ですが、言うまでもなく、両クラブはナイトライフカルチャーに多大な貢献をしていますね。

Dan Beaumont: UKにおけるナイトクラブの文化的正当性は大きく見過ごされています。経済的正当性も同様です。ナイトクラブは基本的には小さなビジネススクールのようなものです。ナイトクラブにプロモーターやバーテンダーとして関わることで、起業の基本が学べます。すべてがそこにあるのです。

ハックニーを例に取りましょう。過去25年におけるハックニーの歴史は、アシッドハウスの歴史であり、ナイトクラブの歴史でもあります。ナイトクラブ抜きにハックニーの歴史は語れません。そのようなナイトクラブは非常に重要で、才能やアイディアを育む場所です。私が言っているのは、アンダーグラウンドテクノだけではありません。現在世界で最も売れているAdeleも当てはまります。彼女はXL Recordingsに所属していますが、XL Recordingsも元々はハードコアなアンダーグラウンドレーベルとしてスタートしました。

私たちはロンドンにおける「深夜の禁忌」というイメージを取り除く必要があります。もう一度、私たちは寛容になる必要があります。私たちは寛容になる方法を忘れてしまっています。また、私たちが投資をしなければ、これまでのUKにおける文化的な蓄積は消えてしまうでしょう。私はChapter Tenというパーティを主催しています。そのひとつをハックニー・ウィック（ハックニー東部）で開催した時がありましたが、夜が明け、日が昇り始めると、窓の外にオリンピックスタジアムが見えました。すると、ある人が私のところへやってきて、「ベルリンみたいだね」と言ったのです。私は「何を言ってるんだ、ここはロンドンだ！」と返しました。私たちには25年の歴史があるんです。それを忘れてしまっているだけなんです。これこそロンドンが取り組むべき課題です。自分たちでもできるんだということを人々に思い出させる必要があります。ですが、行政側には深夜営業の許可を出すことを心底怖がっている、神経過敏な人たちが存在します。私たちは彼らにこの営業許可は非常に大きな意味を持っているということを伝える必要があります。許可が下りなければ、世間は馬鹿げた違法な行動に出るでしょうね。

違法なパーティが増えるということですね？

Dan Beaumont: そのようなパーティはランベス、ハックニー、そしてニューオックスフォード・ストリートの郵便集配センターで実際に起きています。私が言いたいのは、朝までダンスすることは今に始まったことではなく、ましてやアシッドハウスによって生み出されたものでもないということです。それよりもずっと前から行われてきたことなのです。ですので、もっと簡単にできるようにする必要があると思います。

Alan Miller: NTIAを発足させたのは、このテーマについて誰も話していなかったからです。世間は「プロモーター、オーナー、クラブスタッフを一同に集めることは不可能だ」と言っていましたが、実際は非常に上手くいきました。レポートはある程度期待できる内容でしたし、こちら側もしっかりと調べ、色々な情報を提供しましたが、レポートの中にはいくつかの制限がありました。Music Venue Trustは、現在UKには草の根的なライブヴェニューが350存在すると報告していますが、そこにはバーやナイトクラブは含まれていません。NTIAはナイトクラブ、バー、フェスティバル、そしてナイトライフ業界の複雑な構造とその経済を代表する存在です。ですので、私たちは、収容人数150人～200人規模の深夜3時までの営業許可を取っている小さなバーは、録音された音楽をその場でプレイしている自分たちもカルチャーに貢献している草の根的なヴェニューだと言うはずだと、Mayor’s Music Task Force側に伝えました。このようなヴェニューは種を蒔き、若い才能を育て、輩出する場所です。

Lutz Leichsenring: 営業許可の問題は、時間がかかるという点に集約されると思います。Club Commissionも発足から15年が経って、ようやく行政側と公園内の違法なパーティについて話し合えるようになりました。このようなパーティはベルリンにおいて非常に重要ですので、正式な営業許可を取得して問題なくオーガナイズできるようになれば、市にとっても利益になります。

Mirik Milan: どの都市も、程度の差こそあれ、そこに住む人たちが求めるものは基本的に同じですよね。

Alan Miller: これまでの歴史の中で、営業許可法は一般市民を対象にしてきました。会員制のクラブへ行けば、24時間飲めました。そして、アシッドハウスが誕生すると、行政側がこれを問題として、クリミナル・ジャスティス・アクトを施行し、クラブへ人を流れるように仕向けました。当時は当然ながら非難されましたが、それでも施行されたのです。

今、UKのストリートでは、公的空間保護法（public space protection order）など、誰も話題にしていない法規制が行われています。公的空間保護法は、ホームレスの人たちから罰金を取るという法律で、ハックニーでは大きな反感が生まれました。誰かが話す内容、身にまとっている服が気に入らない、またはフライヤーの配布行為が気に入らない時は、その人たちをその場所から移動させる、またはその場で逮捕できるというわけです。この法律を適用させれば、クラブの閉鎖も可能なのです。人が集まれば問題が起きるという考え方は、個人的には真実を捉えていると思っていません。Burning Manへ行った経験がありますが、あそこでは、自分で自分の面倒を見ることを怠って死に至った場合は本人が責任を取るという誓約書にサインをします。また、自分が自由を得る代わりに、他人の自由も認めなければならないという概念もあります。「自分たちは大人なんだ」という考えです。

過剰な規制には問題があります。これはナイトライフ業界だけではなく、全体の問題です。We Love Hackneyというキャンペーン（編注：ハックニーの行政側へ住民から営業許可の見直しを嘆願するキャンペーン）では、地域住民全体の意思表示として「住民は辟易している」という意見が出されましたが、私たちは「どの住民を指しているんだ？」という気持ちでした。その会話に自分たちも含まれているのであれば、違った印象を持つでしょうね。音楽業界をそこにもっと参加させる必要があります。レコードレーベル、パブリッシャー、エージェント、グラフィックデザイナー、アーティスト、この経済システムを理解している全員を明確に前に進めなければならないのです。

Alanさんの話は、世間が望むものは必ずしも地方議会が望むものとは一致しないという考えに触れるものだと思いますが、そのひとつの例が、SPA（Special Policy Area：特別地区）の設定です。これは、公聴会に参加した地元住民の実に84％が反対意見を示したにも関わらず、2013年に実施されました。

Dan Beaumont: 基本的にSPAは深夜営業許可の取得を非常に難しくするものです。深夜営業許可を取っている店舗数が既に飽和状態だから実施されたのだと考えられてしまいます。SPAの問題は、行政とヴェニューの間に太い線を引いてしまうことにあります。そうなればヴェニュー自体が問題だと見なされるようになってしまいます。住民もヴェニューも、顧客も、警察も基本的には同じものを求めているということを忘れるべきではありません。つまり、安全な地域社会、成長を続けるコミュニティとビジネス環境を求めているということ、厄介な揉め事をなくし、犯罪を止めるために全力を尽くしたいということです。ですが、ヴェニューだけが問題だ、または問題の一部だと思われてしまう時があります。

ハックニーにおいては、私たちは住民としても、ビジネスメンバーとしても利害に直接関係する存在です。行政側に対して私たちが同意できる部分も沢山ありますし、解決に向けて力を貸したいと考えています。ですが、SPAはクラブを弱体化させてしまいます。顧客や地元住民の力になれる権利がヴェニュー側に与えられれば嬉しいのですが。私たちもコミュニティのメンバーとして物事を考え、一緒に問題を解決すべきなのです。問題があると言って、ひたすらナイトクラブを閉鎖するのはやめるべきです。実際、夜遊びをしたい人は沢山います。夜遊びは都市生活の一部ですし、クラブはクリエイティブなコミュニティの一部なのです。Temporary Event Notice（編注：イングランド及びウェールズで酒類などを販売するイベントを営業許可が下りていない場所で開催する場合に提出する申請書）には、ある種の抜け穴があって、レイブやフェスティバルの開催に使用できるのですが、ハックニーからの提出件数は国内2位なのです。これはハックニーの営業許可に対して、これまでとは違うアプローチが必要だということを明確に示しています。

自分たちが含まれていないように感じたという2015年のWe Love Hackneyのキャンペーンですが、結果的にハックニーが抱える問題に光を当て、より大きなクラブコミュニティを動かしていくことになりました。現時点において、ハックニーが前進するための理想のシナリオを教えてください。

Alan Miller: 私たちは、We Love Hackneyキャンペーンをサポートすることで、騒音と迷惑行為に関する話し合いを、文化的、経済的貢献についての話し合いに変えようとしました。蓋を開けてみると、選挙では投票に行かないような多くの若者たちがこのキャンペーンに参加したことが分かりました。このような動きはロンドン市内の33の行政区すべてで広まる必要があります。夜遊びしたいという理由から、若い世代が選挙に参加して自分たちの意見を言いたいと感じるようになる可能性があります。

ハックニーの理想は、ロンドン、そしてUKの理想でもあります。24時間の営業許可という法的に特に問題がないものを、堂々と先へ進めていくこと、そして正しい判断を下して、プロフェッショナルなオーナーや経営者がロンドン市内とUK国内に多数存在するようになること。すべてのヴェニューが24時間営業になる必要はありませんが、そうなって然るべきヴェニューに対しては許可を出す。これが理想です。

ロンドンはグローバルな都市ですし、多種多様な価値観が共存できる場所であるべきです。広告代理店やメディアに勤めている人たちが午前3時に仕事を終えても、ダンスできたり、食事ができたり、ジムに通えたりする。ローラーディスコでもミュージアムでもギャラリーでも構いません。自由に何かができる選択肢があることが重要です。アジアではこのようなケースはよく見られます。また、街の灯りが増えれば、安全性も高まりますし、活気も生まれます。

昨年のThe Archesの閉店は、UKのカルチャー施設が警察や行政によってどう扱われているかを示していた最悪の例だったように思えます。

Alan Miller: スコットランドは多くの問題を抱えています。スコットランド警察はストリートの人たち、クラブに並ぶ人たちを、犯罪者のように扱って一掃しようとしています。The Archesの閉店は酷い茶番でした。あそこは本当に意味がある場所でしたし、手本でした。125人もの人たちが働く素晴らしいカルチャー施設でした。あの閉店は他の地域でもよく見られる動きです。広い視野で物事を見ることができない人たちによる典型的な動きでした。

ロンドンとUKでは、優秀な経営者とオーナーたちが手がける24時間のヴェニューの数を更に増やせると思います。言わせてもらえば、近年において、このような場所は学校や病院より安全とも言えます。プロフェッショナルなオペレーションですし、誰もが楽しい時間を過ごすことで、世界中で話題になっています。また、ある程度の人数を一カ所に収容することでストリートが野放し状態になりません。安全性が高まるのです。ハックニーの行政側は営業許可の制限に関する決定を1年間延期することを約束しましたので、今後もナイトライフ経済についての議論を重ねることができます。そして、この議論はUK全土に広がっています。警察とヴェニューが協力体制を取っているマンチェスターのような良い例もあります。そのマンチェスターでThe Warehouse ProjectをまとめるSacha Lord-MarchionneもNTIAに参加しています。

ナイトクラブの問題のひとつは、これは特にUKの問題ですが、社会的なイメージがドラッグに結びつけられているという点です。このテーマをヒステリックに扱わず、責任の所在が明確な解決志向の対話に導くにはどうしたら良いでしょうか？　アムステルダムからは何を学べるでしょうか？

Dan Beaumont: あらゆる業界のいかなる問題と同じように、ひとつの場所に集まって、成功事例を調べ、自分たちと照らし合わせながら、正直な意見を出し合って解決に向かうべきです。ドラッグに関する話し合いは避けられませんし、そこを責任感のある話し合いに持っていくべきです。どの業界も固有の問題を抱えていますし、それを分別のある、問題解決型の話し合いで修正していく必要があります。

Mirik Milan: オランダはそのような問題についてかなり先進的な取り組みをしています。オランダにおいて、ドラッグは不可避な存在として扱われています。ですので、注意して摂取しなければならないというアプローチが取られています。違法なドラッグの摂取も、1日にビールを15杯飲むのも、1日にハンバーガーを5個食べるのも並列で考えています。人体にどんな影響があるのかという視点から考える必要があります。また、世間に現状をしっかりと説明することも必要です。現在のオランダのシステムは非常に上手く機能していると思います。ドラッグを検査にかけられますので、自分たちが何を摂取しているのかが把握できますし、その結果、世間は用心するようになっています。

オランダでは、エクスタシー1錠を所有していても重罪にはなりません。違法ですので、もちろんクラブへは持ち込めませんが、所有によって逮捕されたり、前科がついたりすることはありません。所有している数が多ければ、前科がつきますが。もうひとつ良い点と言えるのが、オランダ政府はアムステルダムのドラッグマーケットについてしっかりと把握しているという点です。ですので、質の悪いドラッグが出回っていれば、注意を喚起するシステムが採用されています。たしか、昨年イングランドではスーパーマンピル（編注：スーパーマンのマークが刻印されたドラッグ）で数人が死亡しましたよね？

その通りです。

Mirik Milan: あのピルはオランダの検査機関に持ち込まれ、自分のドラッグを匿名でテストできるオランダ国内に設置された25の施設に警告が出されました。それで死者が出なかったのです。警告が出されると、そのような悪質なドラッグはすぐにマーケットから消えます。売り捌けなくなるからです。国民の安全を守るためのシステムと言えます。

個人的には、ドラッグは犯罪ではなく、健康問題として考えられるべきだと思います。2014年のAmsterdam Dance Event（ADE）で3人の死者が出てしまったあと、私たちはCelebrate Safeという名前のキャンペーンをスタートしました。あらゆる大手プロモーターとナイトクラブが協力してこのキャンペーンをサポートしました。また、アムステルダム市、薬物乱用防止委員会、検査機関などが2015年のADEの期間中にこのキャンペーンをバックアップし、アムステルダムにおける薬物のルールを説明する映像を公開しました。この映像は大きな反響を呼びました。世界各地から「薬物のガイドラインはこうあるべきだ」という意見をもらいました。アムステルダムでもドラッグは違法だということを通知する必要があります。さもないと…

何でもありだと思われてしまう。

Mirik Milan: その通りです。それを知らなければ、自分が楽しみにしていたDJを聴いて良い思い出と共に帰る代わりに、前科がついて帰ることになってしまいます。これを望んでいる人はいないはずです。

ドラッグはfabricの営業許可の見直しの際にも結びつけられて考えられていました。fabric側には落ち度がないという結果に落ち着きましたが、fabricが位置するイズリントンの行政側は麻薬犬を常時配備しようとしていましたね。

Alan Miller: ドラッグはナイトクラブやバーだけの問題ではありません。地下鉄やバスの中でも飲酒やドラッグで倒れてしまう人がいますが、いちいち閉鎖するべきでありませんよね。これは良いアイディアとは言えません。住民がオーバードーズになったという理由で、アパートやマンションを閉鎖するつもりなのでしょうか？　自宅でドラッグを摂取してからクラブに向かう人がいる中で、麻薬犬は役に立ちません。

これは業界の責任、個人の責任についての考え方を示していると思います。UKの法律では、自分の行動には本人が責任を負うことになっています。法を犯せば、それは自分の責任だというわけです。これをベースに考えれば、私個人のドラッグへの見解はさておき、ドラッグはモラルの問題になると思うのですが、現状では法律の問題として扱われています。私たちは既にかなり多くの安全予防策を展開していますし、そこにはかなり細かな条件が設けられています。最近は安全について過剰に反応していると思います。The Archesも、ドラッグを提供した責任は彼らにあると見なされたため、閉店に追い込まれたのです。

Mirik Milan: それは酷いですね。

Alan Miller: UKでは、ドラッグについて非常に間違った考え方が存在していますし、解決に向けたアプローチも間違っています。ですが、ドラッグが大きな問題だった時代に育った私には、最近はアルコールも大きな問題になってきているように思えます。近年はアルコールもターゲットにされていて、地元のパブが警察と集まる会合のPubWatchでは、警察は必ずアルコールがもたらす害だけについて話をします。2000年以上に渡る私たちの文明、つまり、誕生日や結婚のお祝いにおけるアルコールの役割や意味について話す人はいません。彼らは非社会的行動や暴力だけに焦点を当てているのです。ですが、実際はそのような問題は減少傾向にあります。これまで以上に良い状態にあるのです。

私が若かった頃は、週末の夜になると必ず誰かが路上でケンカをしていましたが、今の人たちはマナーが悪いと非難されています。しかし、実際は人種差別やジェンダーへの問題、不良たちの縄張り争いなどに取り組み、UKをひとつにまとめようとしているのです。fabricに関しても、多くの人たちはあの場所で正しく行動し、素晴らしい時間を過ごしています。恋をしたり、インスピレーションを得たり、人脈を作ったりしているだけです。間違った行動をしているのはたったひとりなのです。