外部の視点から見ると、Perlonというレーベルはごく自然体で運営されているようにも見える。設立者であるZip、Markus Nikolai、そしてChris Rehberger の3人はメディアでの露出を避けるいっぽう、彼らはクラブで長年愛されるレコードの数々を残してきている。メディア露出に対してなるべく距離をおこうとする彼ら3人のスタンスには、彼ら自身がリリースする音楽そのものとの深い関係性が見えてくる。彼らはリリースやその象徴的なアートワークを含め、あらゆるプロジェクトを常に綿密な考察のもと世に送り出しており、その信念は彼らのリリースする作品全てに深く根ざしている。1997年に設立されたPerlonの作品群は、一目見てすぐにそれと分かる明確な色彩と拡大されたテキスト、そして新鮮なシンプリシティによってダンスミュージック界における最もアイコニックなアートワークにまとっている。

この象徴的なデザインは、すべてChris Rehbergerの手によるものだ。彼はベルリンのクロイツベルグ地区の奥まった場所にオフィスを構えるデザインスタジオ、Double Standardsの設立者である。彼のスタジオは過去15年来Perlonのレコードが鳴り響いてきたベルリンの名物ヴェニュー、Club Der Visionaereからも歩いてすぐの場所にある。筆者が今年初頭に初めて彼のスタジオを訪ねた際、彼が世に送り出すデザインは全てRehberger自身と深い関係性を持つものであるという事実に気付いた。彼のデザインは、ただファンキーな色使いと斬新な構図だけにフォーカスしただけのものには留まらない。彼のデザインは、パーソナルなアイディアや体験を他者に向けて広く発信するための手段でもあるのだ。

今回、Rehbergerは彼のデザインにおけるスタイル、そしてZipやMarkus Nikolaiと共に継続している共同作業について自らの言葉で語ってくれた。

何かに対する答を見つけるというより、疑問を投げかけてみたいんだ。Perlonのロゴに関して言えば、『もし建設会社のロゴを連想させるデザインをレコードスリーブに採用したらどうなるだろう？』という素朴な疑問がその出発点だった。僕にとっては、ハウスミュージックと建築には相通じるものがあるように思えてね。どっちも、反復を基調にして出来上がっているものでしょ。このロゴを使ったのは正解だったと思うよ。他のレーベルのレコードと並んでいても、『これはPerlonのレコードだ』ってすぐに分かってもらえるからね。

僕は、何かを包み隠したりカムフラージュさせるというより、むしろその本質をより剥き出しにしたいんだ。僕は薄っぺらいデザインは嫌いで、明確かつ力強いデザインが好きだね。僕がDouble Standardsと共に手掛けるカラー・スキームは常に挑戦的だ。作品の中の情報量があまりに多すぎると、その作品からはいくつかのディテールが失われてしまうと思う。これは料理を作ったり文章を書いたりする時でも同じだと思うんだけど、あまりにたくさんのアイディアを詰め込みすぎて、それらを無理に融合させようとすると、結果として本質的な魅力が失われてしまうんだ。

これまでPerlonのスリーブデザインに用いてきたカラー・コンビネーションは、すべて僕自身のインスピレーションによって生まれたものなんだ。仕立て屋のショーウィンドウで見た、さまざまな色のテキスタイルにヒントを得たこともあったね。最近までPerlonのスリーブに用いられていたライラック／オレンジ／イエローの組み合わせは、僕が見たある魚の色から着想を得たものだ。どれも、僕自身が感銘を受けた色のコンビネーションをもとに作られたってわけさ。身の回りにあるものから、いつでもインスピレーションを得られるんだ。これは僕のパーソナルな思考と体験をもとにした作品でもあり、ただのファンキーな色の組み合わせには留まらないのさ。全てのデザインは、僕らにとってそれぞれ何らかの意味を持つものであり、それらはPerlonのレコードを好きでいてくれる人たちやDouble Standardsのクライアントたちにはしっかり伝わっていると思う。

僕はシュツットガルト出身で、フランクフルトに移るまではずっとシュツットガルトで活動していたんだ。フランクフルトの後僕は妻と共にロンドンへ移り、それからベルリンへやってきたというわけさ。フランクフルトでは、「広告や雑誌デザインの仕事は二度とやるもんか」って思い知らされたよ。フリーランスとして働いていた8年間のあいだ、僕は広告代理店と沢山の仕事を担当してきた。その時代は、広告デザインという面では黄金時代といえるものだったんだ。当時、広告代理店はどんなクレイジーなグラフィックでも喜んで採用してくれていた。でも、そんな時代はすでに終わってしまった。今の広告デザインを見てみればわかるけど、スーパーが付くほど退屈きわまりないものだよね。今はDouble Standardsで自分の好きなように仕事させてもらっているから、僕は本当にハッピーだよ。

僕がフリーランスとして仕事を始めたのは'93年か'94年ごろで、Double Standardsは偶然のなりゆきから生まれたんだ。Double Standardsを立ち上げたのは、僕らがベルリンに移った2000年あたりだった。最初の1年は僕1人で切り盛りしていたけど、やがてアシスタントを1人雇うようになった。でも、その子には苦労させちゃったね。彼女はDouble Standardsで働く以前にも8年間のデザイナー実務経験があったんだけど、最初は僕の独特な仕事のペースとはまったく噛み合なかった。そんな状態が続いた3ヶ月後、彼女は怒りながら僕のところへやってきて『もし今日も私と仕事をする気がないのなら、もう辞めます！』って言われちゃってさ。そのおかげで、僕はようやく目を覚まし他者と歩調を合わせて思考やアイディアを交換する方法を学んだよ。

僕は実体のあるものにフェティシズムを感じる性質でね。ヴァイナルはそのサウンドも素晴らしいけど、物体そのものとしてもみんなに愛されているよね。デジタルで実体のないものよりも、ヴァイナルのほうがアイディアを遥かに効果的なかたちで表現できるんだ。デジタルなトラックリストを眺めているとき、そのアートワークはほとんど意味を成さない。単純に心地よさを得られないんだ。電子書籍のリストをひたすらブラウズする行為と、実際の書籍がたくさん詰まった本棚の中から自分が読みたい本を探す行為はまったく別物だよね。

PCのスクリーンでは、すべてが均質化されたルックスになってしまう。ガラスが張られたスクリーンでは、物体の質感などはまったく判断できないのさ。だが、デザインが物体となってひとたび現実世界に現れると、それが機能するか否かということはすぐに判断できるんだ。

インターネットの世界だけで存在しているものが、どれだけのインパクトを与えうるというのだろう？　たとえば、僕らのウェブサイトに完全デジタルなイメージをアップしたとして、それらはFacebookなどでシェアされて拡散することはできるだろう。でも、結局はそれだけのことさ。それらは、フィジカルな実体あるものが持ちうる効果の大きさには比べようもない。作品をデジタルな世界だけでリリースすることは、その作品の周りに繭を作って、周りの広い世界から影響を受けることを避けているようなものだと思う。

僕らが作品を創る際、そこにちょっとしたひねりを入れることで途端に面白くなることがある。時には、ある機材を間違った使用法で使ってみることもあるよ。もしくは、自分たちでシルクスクリーンを使って対象物ぎりぎりの部分まで印刷してみようとしたり。バルセロナのあるクライアントのための連作ポスターを制作したときは、合計で30種類のアートワークを用意した。僕らはすべて手刷りでポスターをプリントしたので、全500枚のうち同じものはひとつとして存在しないってわけさ。ただ、デザインの図案自体はクライアントの了承無しに勝手にアレンジすることはできない。この制限を僕なりに最大限に解釈しようとしたんだ。仮に、500枚すべてのポスターがそれぞれ違う構図とイメージを持つものだったとしても、特定の企業イメージに等しく結びつけられるものにしようという狙いがあったのさ。

もちろん、僕はこれまでPerlonからリリースされたレコードはすべて保管しているよ。そのレコードたちを改めて眺めてみると、20年間も続けてこれていることに今更ながら驚くよ。僕らの関係性は、常にのびのびとした自由なものなんだ。気持ち的には未だに26歳の時と変わらない。実際、僕らの関係は何一つ変わっていないよ。これで金儲けしてやろうという魂胆も最初から一切なかったしね。僕らの中で唯一フルタイムのミュージシャンはThomas （Franzmann、AKA Zip）だけだ。Markusはフランクフルトで眼鏡店を経営しているし、僕もデザインを仕事にしながら生活している。本当に音楽だけで生計を立てているのはThomasただ1人だけなのさ。この各人のバランスが非常に重要なんだと思う。僕らと同じ時期に生まれたレーベルはたくさん存在したけど、彼らの中にはあまりにも急速に成長しすぎたレーベルもあれば、ヴァイナル市場の不況の煽りを受けてそのまま消えていったレーベルもある。

僕らのバックカタログのリプレスは、スリーブデザインもあえてブートレッグのようにしているのは知っているだろ？　あれは、オリジナル・プレスと並べたときに一目で区別できるようにするためさ。リプレス用のスリーブは、まるで何度もコピーを繰り返して劣化したようなモノトーン印刷になっている。レコードのレーベル面も同様さ。昔よくあった粗悪なブートレッグ盤を思わせるような質感にしてある。僕らは、自分たち自身をブートレッグ化しているって感じだね。ヴァイナル自体は同じマザー盤から起こされたオリジナルと同一のものだけど、オリジナルとリプレスの外観をはっきり区別させておこうと思ったのさ。オリジナルを元々持っていてリプレスも買ってくれた人や、リプレスを手に入れた後で高い金額を払ってオリジナルを手に入れた人も、それぞれのレコード棚でしっかりと区別できるようにね。

音楽のためにデザインするのも、クライアントのためにデザインするのも、どちらも僕は区別していない。この2つを区別して考えることはないね。たとえば、Fumiya Tanakaのアルバムのために僕は非常に熟考してデザイン作業を行った。まるで、展覧会に出展する作品を作るときと同じ気持ちでね。僕にとっては、作品づくりに対するアプローチは常にひとつなんだ。どちらにせよ、まずアイディアありきなんだ。アイディアがなければ、それはデザインとは言えない。『この部分のカラーを変更して、フォントを置き換えて引き伸ばせばクールでファンキーなイメージの出来上がり』だなんて、それはあまりにもお手軽すぎるよ。

ファッショナブルなものに対してあまりに寄り添い過ぎると、厄介なことになりかねない。だからこそ、自分の身の回りで起きていることに対して常に注意を払いつづける必要があるんだ。そうやって常に注意力を保っておけば、トレンドの傾向はすぐに見えてくる。みんなが似たようなフォントを、似たような方法でアレンジしていることがね。もちろん、僕もデザイナーとして駆け出しの頃は流行を追っていたよ。でも、ある時点から『そんなことをやっていても無駄だな』って気付いたんだ。じっくりと自分自身と向き合いながら『デザインという行為が意味するところは一体何だろう？　デザインの本質とは？』ということを考え抜いてみる時間は、デザイナーにとって絶対に必要だ。ただトレンドの尻尾を追いかけているだけでは、本当に自分らしいスタイルというものは決して手に入れることはできないよ。