Fumiya Tanakaが日本で主催しているパーティーChaosへ筆者が初めて参加したのは、10年以上も前のことになる。1999年から始まったChaosは、時代の変遷と共にヴェニューを変えながら、2011年に彼が日本からドイツへ拠点を移して以降もなお東京・大阪で開催されている現在進行形のパーティーだ。パーティーのオープニングと最後は多くの場合彼がDJをするのだが、とりわけ序盤の禁欲的とも言える抑制された展開から、ドライブ感を効かせた大胆なグルーヴへと次第にギアを切り替えていくプレイスタイルが醍醐味と言える。彼が手がける作品にもどこか共通する、哀愁を帯びたメロディや渋さ際立つボイスがアクセントとなった独特の情景を描いたり、ユーモラスな曲でフロアを一気にクレイジーにさせてみたりもする。だが彼のDJ全体から垣間見える特徴は、いずれかのパートを切り取って聴いた場合に、易々と掴めるような明白な特色が音に内包されているというよりは、むしろ長い時間軸で味わってこそ徐々に輪郭が明らかになってくるような、不定形なイメージと鋭さの共存関係とすることができるのではないだろうか。真っ暗なフロアに、時折差し込む繊細なライティング、男の吠える低い声や、甲高い煽り声がここぞというタイミングで轟く––その名のとおり、”混沌”とした至極の世界をこれまで筆者は個人的に幾度となく体験してきた。このパーティーを通して学んできたことは数限りなくあるが、その一つは、これまでDJや作品を介して見えてきた、Fumiya Tanakaというアーティストの生き方だったのかもしれない。

90年代のはじめ、彼は日本のダンスミュージックの黎明期に立ち会うなかで、大阪でテクノDJとして頭角を現にしていく。21歳でTorema Recordsを設立すると同時に、自身のどこか荒削りで、勢いに満ち溢れたフロア直系のレコードを相次ぎリリース。その頃から日本のメジャーレコード会社とも近い距離で仕事をし、彼のカリスマ性も相まって、ダンスミュージック / DJカルチャーの日本における普及に大きく貢献した。やがて本名名義のテクノに専念した活動と並行して、彼の自由で、直感に抗わない音楽との向き合い方と、それを作品として形にしようとする意欲をリスナーに提示する複数のプロジェクトをはじめる。そのひとつがKarafuto名義で、作る曲・DJにおいても、ミニマルなテクノから爽やかなハウス、アンビエントなどの幅広いスタイルを見せ、一方のIndividual Orchestra名義では生楽器のセッションを取り入れた、感傷的で美しいジャズ寄りの作品を残した。

00年代半ばからは、音楽家であり現在は映画監督としての活動にフォーカスする半野喜弘と共にレーベルop.discをスタートし、主にミニマルなテクノ・ハウスを中心とした日本のプロデューサーの作品を世に送りだす一方で、同時期に立ち上げたSundanceからは自身のレコードをはじめ、Ricardo VillalobosやThomas Melchiorとの共作を発表。近年はPerlonからも傑作をリリースし、次第に現在のハウスグルーヴを伴った有機的ミニマルと言うべきスタイルと地続きになった固有の作家性へと昇華されている。さまざまな音楽的変遷を辿り今に至る本人は「自然な流れだった」と語るが、そこには自身の中で起こるさまざまな変化を素直に受け入れていくという姿勢と、時に勇気を必要とする決断が基盤となっている。Chaos開催のために日本へ帰国していた彼に会いインタビューを試みたのだが、求道的でありながらも変化を恐れない柔軟性を備えた彼の人となりが浮き彫りになった内容となった。

Chaosは東京だとContactで開催していますが、なぜこのヴェニューで開催することを選んだのでしょうか？

ChaosはオーガナイズはTaroがやっていて、彼の判断でヴェニュー選びは決まっていて、彼の意向が働いてるのが一つ。あとは、Contactの連中は元elevenのスタッフで、元elevenのスタッフは元々Yellow (Space Lab Yellow) のスタッフで。Yellowの時からの付き合いがあって、そうした信頼関係の中で続けてこれている。Contactの前はLiquidroomでパーティーやったりもしてたけど、LiquidroomはLiquidroomの方向性があって。そこが今は合っていて、Contactでやるという選択になっている。Contactは前回（2018年12月28日）からようやく、まぁ、最低限の出音のレベルに到達できてホッともしていて。

具体的にサウンドシステムのどういったところが変わったのでしょうか？

元々はフロアをより広く使いたいから、リアのスピーカーを今の位置よりももっと壁側にぴたっとつけて、フロントのスピーカーもDJブース側につけてたから、音が一番良く鳴って聞こえるフロアのスペースが限られたスペースしかなかったんやけど、PAの子たちがちょっとでも音が良く鳴るようにいろいろ試行錯誤していて、それの解決策の一つに、リアのスピーカーをもう少し前にもってきてフロントスピーカーと近づければ、気持ちよく音が鳴って踊れるスペースが広がるというのをテストして、実際成果としてあって。あと、ニードルをPAの子が持ってるカスタムのニードルに変えて、それがさらに音が良く鳴るスパイスの一つやって。

Contactはオーナーがサウンドシステムを変える変えないという最終決定権を持っていて、サウンドエンジニアにはないという諸事情があって。彼らがずっとアプローチしていて、オーナーがじゃぁやってみようって、ようやく。3年経つかな。始めた当初は音に対して全然満足してなかったんやけど、彼らも急ごしらえで店をオープンして、店を開けながら少しずつ変えていくっていう話は最初聞かされてたし、そこも待ちながら、彼らもようやく音の方に力を入れられるようになってきて。ここでやるって決めたからには、一応3年は目安としてやってみて、そこで判断して。

クラブの大事な要素のひとつに音のクオリティがどうかというのがあると思っていて。音に対してケアをちゃんと忘れてない、向き合っているかどうかという。それが当然プログラミングにも反映してくることで、音にこだわるってことはつまり、音の内容にもこだわるってことだから。幅広いジャンルやバンドとか色々やるのはそれは店の意向で結構だと思うけど、ベースの音に対して自覚的に取り組むことは最低限必要なところ。

音のクオリティが重要だという点について同感です。

クラブやそれ以外のこともそうだけど、自分の好みとか思い入れの先入観で見てしまうとその見方しかできなくなるから。同じ箱で違うジャンルをやっていても、それはそれとして。先入観を捨てて真っさらの状態で見たら、普通に楽しめたりするものもあるから。やっぱりたくさんの音楽を聴いてきてるから、自分の中で好みがはっきりしてきてて、自分の中で自然に分別というか、これは違う、これは好きって分けちゃってるところが自覚的にも無自覚的にもあって。こだわりがあるのはすごく大事なことだけど、それが頑固になったり、でもそれって柔軟性がないってところにもつながるから、自分で意識して。柔軟性がないと視野を狭めると思うから。

フミヤさんのDJは、時に挑戦的な選曲や、いきなり変化をつけるダイナミックなミックススタイルが印象的ですが、それと同時に、ベースには忍耐を要するような、真面目な気質のようなものを感じます。

DJをやる時に大切にしてることの一つに、いかに自分の持ってる力を出し切るかを意識していて。いつやっても難しいんやけど。DJに必要な要素ってたくさんあって、センスもそうだし、体力もそうだし、アイデアやクリエイティビティもそうだし。頭の回転の良さとか、対応力、先を読む力、的確な状況判断... そうした総合的な力でDJをやって、それが全部音の中に出てくる。それぞれの力量具体が個性になって表れてるんかなと思ってるけど。

前回のChaosの時は、僕自身はあまり良くなかったというジャッジやって。調子のいい時はそのペースをつかんでやっていけるけど、調子の悪い時は調子の悪い時なりにできることがあって、何かモチベーションになるものを見つけてみたり、チャレンジしようとは心がけていて、そういうところが真面目とかっていう印象を与えるところにつながったんやとは思うけど。

正直なところ、これまで聴いてきたフミヤさんのプレイの中で、前回のChaosの時はあまり調子が良くなかったんじゃないかなと思いました。

DJをやっていて、エアーポケットみたいなところに入っちゃうと、どうやったって抜け出せれへん時があって。そういう時ってほんまに年に何回かあって、それが今回その日やって。何をやってもうまくいかないっていうか、次につながっていかないっていうか。例えばサッカーだと前半後半あって、休憩があるから修正できたりするし、テニスでも一回のブレイクで突然流れが変わったりすることもあるけど、DJってないから。それも力量やから。そういうのを改めて考えさせられた回やった。

ご自身のブログに、DJの前の選曲の仕方や、プレイ中に選曲ミスした時の対処法、ヴァイナルの組み合わせの考察など、DJにまつわる姿勢をたびたび書かれています。他にスキルを磨く上で行っていることには、どういったことがありますか？

DJをして帰ってきて、やったセットをその日のうちに開けて、検証するというのを毎回やっている。自分の中で「振り返り」って名付けてるんやけど。

録音したDJを聞き返すということでしょうか？

いや、やった内容をポイントポイントで覚えてたりする部分があるから、レコードを出してみて。例えばあるターニングポイントがいくつかあって、こっちを選んだんやけど、あっちも選べた時に、こっちを選んでいなかったらどうなっていたんだろうっていうのを基本的には振り返る。そうすると自分の中でその選択肢以外の選択肢が増えるわけだから、オプションを広げることってすごい大事なことだから。反省することもあるし、これはこれでよかったって思うこともあるし。結論付けて、それで終わり。はい、次の週っていう。そこで自分もリフレッシュしていかんと、次に新鮮な気持ちで向かっていかれへんから。前の週が良かったからそのイメージで、なんてことは全く考えていなくて。一瞬一瞬、常にその一回に向き合うというか、勝負するというか。

Chaosは私にとってとにかく安心してフロアに身を預けられる、そんなパーティーです。わざわざ遠くからこの日のために来た知人に会えた時の喜びもしかり。

世界中から人が集まってくるようなパーティーだったりフェスだったりが本当にゴロゴロあって、そういうパーティーなんかに比べると、日本の地方から遊びに来てくれてありがたいと思うけど、パーティーの持ってる力量はまだまだ足元にも及べへんと思ってる。そういう世界中から集まって来られるようなパーティーにしていければいいなとは思ってるけど。Chaosも含め、日本のクラブに関しても、志はそれぐらいのところを目指してやっていくのは大事なことなんちゃうかなーとは思ってる。

今の時代、スペシャルなことをキープしていくことは難しくて。情報ってあっという間に共有されて、回ってしまって、あっという間にバリューが薄れてしまってっていうのは全体的な流れとしてあって。スピードがある今のこの時代に安泰なことやもの、場所などないと思っていて、そういう中だからこそ、やる価値がある。続けていくこともしかりだし。途方もなく大変だからこそ、やる価値がある。そう思ってる。そのためにはいろんな人の力が必要やろうし、音楽もそうやろし。諦めないことも大事だけど、諦めることも大事。諦めないことで視野がすごい狭くなってくるから、だから一回諦めてみることで、自分が一つの見方しかできてなかったってことに気付けたりする。一番いいのは真ん中、ミドル。なんでもそうやけど、バランスよくやるっていう。そこはケースバイケースで。切り替えの早さ、判断は必要。何を判断基準として持っているかは大事なことだと思う。

音楽は開かれたもののはずだし、その可能性を少しでも開放したいと思っている。色んな音楽を可能な限りプレイしたりあらゆる音楽の良いところを自分なりに自分の音楽に取り込んで表現することで、ファンやリスナーと音楽が持つエネルギーを共有したいと思っている。

90年代からDJをされていますが、公開されているミックスを聞く限り、BPMが今よりも断然早いハードミニマルです。現在の、より有機的でハウシーなテクノのスタイルに変化していった背景とは？

元々はダンスミュージックだけに触発されて音楽を聴き始めたわけじゃなくて、ロックやったりいろんなジャンルの音楽を10代の時にクラブで聴いてたっていうのがベースとしてあって。その中で自分でDJを始めて、最初はホントいろんな音楽をかけていて。そういう中である時期にダンスミュージックを聞くきっかけがあって、それでシフトしたんやけど。インターネットがなかった時代やったから、数少ない雑誌からの情報とか、新しい音楽はレコード屋で出会うっていう。

自分がダンスミュージックを始めた時が、ちょうど日本のダンスミュージックシーンが始まる創成期のタイミングで。いい時期に音楽を始めることができたと思ってる。日本の音楽シーンは、アメリカのデトロイトだったりイギリスのものにすごい影響されて最初出来上がっていったのね。その中で自分はダンス、ジャンルとしてはテクノに思いっきり振り切って。若い時の勢いって大事で、とくに俺なんか未熟やったし生意気やったから、自分がいいと思うものは後先考えずにとにかく取り入れてDJして。それがちょうどテンポが早くて、Toremaレーベルをやってっていう時代。そうやっていく中で、そうじゃないスタイルの音楽をやってたのが、Mask (※1998年から2001年までSpace Lab Yellowで開催していたKarafuto aka Fumiya TanakaとTaroによるパーティー) だったりKarafutoだったりっていう。

テクノとそうではない音楽のパーティーや別名義のDJを全て並行してやっていた時期があったんですね。

自分のおもしろいと思うものをとにかくやってみるっていう姿勢でやっていたから。DJも違うスタイルのKarafuto名義でやっていて、結果的に長い年月を続けていくことでその垣根がなくなってきて。一つになるというか。意識したっていうよりも自然に自分の音––こういうDJがしたいとかこういう音を作りたいっていうアイデアがそうなっていって。だから何か特別な出来事があって変わったわけではなくて。十代の頃からの時間軸でみると、自分の中ではすごい自然な流れで音楽と向き合ってきてる。

僕は常に変化していきたいと思っていて。いろんなDJがいるけど、その人がどんなDJをやっているのか振り返ると、それなりにみんな指向性や好み、アイデアも含めて、微妙にアップデートしていってる。例えばだけど、50年も愛され続けてるようなお菓子でも、たぶん50年前から絶対味は変わってて、それは続けていくために必須のことだから。変化するってことは、変化しようと思うことじゃなくて、変化が自分の中であったらそれを受け入れていく。そういう姿勢は大事にしていきたいなと。そういうことを恐れないというか。もちろん今までやってきたことを捨てるわけだから当然自分でも怖いって思うし。そう思ったことは若い時にあったし。

当時そうした変化の過程で、何を捨ててきたのでしょうか？

僕らは自分一人では生きていなくて、周りがあってその中で自分がいて。若い頃はそういうことをちゃんと理解出来ていなくて自分のためにだけ自分の音楽やDJをやってきていたところがあって。自分のためにやることはすごい大事なことではあるんだけど、そっち側に振り切り過ぎるのは勢いがある分アンバランスなことでもあって。音楽は自分だけのものではない、作品やDJは作り手の手を離れて作品固有の運動をする、それが例えばその時その人それぞれの環境でもってそれぞれ誰かのものであったり、そうでなかったり、そういう価値観を獲得していく中で、それほど大切ではない自分だけの意固地な考え方や歪んだ価値観、そういうものをブラッシュアップして捨てていきながら進化していく。変わっていくことは勇気のいることでもあるけど、それを恐れていたら前に進んでいかれへんというのがあって。

一方で同じことを続けることで、未知の領域に到達できるっていうのもあるんだろうということも感覚的には理解していて、変化は常に受け入れながら自分の物差しでもってその都度その時の状況判断で続けていけたらいいなと思っていて。2009年の僕が今の2019年の状態になってるって絶対に想像できていなかったから。想像してない姿になってるっていうのは、予想もしていないことが起きてそれを受け入れていってるってことでもあるから。それって素晴らしいことなんちゃうかなと思っていて。そうあれればいいと思っていて。

もともとDJを始めた時も、たくさんの人に聞いてもらいたくて、たくさんの人と時間や作品を共有したいっていう思いがあって始めたわけで。そういうことをどこかで忘れてたってことに気づかされる大きな出来事があったわけではないけど、ヨーロッパに拠点を移して活動をしていく中で、またそういうことにも気づかされる、そういう時間があって。今もだから自分の中では少しずつ色んなことに実践していきながら成長している過程の中でもあって。

先程いろんなスタイルのDJをされていた時期の話に戻るのですが、1998年にはIndividual Orchestra名義で生楽器の演奏を取り入れた4つ打ちではないジャズ寄りの音楽を制作されています。そうした背景があり、現在フロア映えするダンストラックを作られていることは興味深いです。

自分がいわゆるダンスミュージックと言われる4つ打ちの音楽を作っているから、それだけしか興味が無いという単純なことではなくて。自分の音楽がDJやダンスミュージックに繋がっている、クラブやパーティーで聞かれるもの、または自分自身の音楽表現に適しているということは自覚しているんやけど、違うジャンルの音楽やアート、スポーツ、なんでもいいんだけど、別の世界を知ったり経験することが自分のDJや音楽制作のヒントや刺激、手がかりに繋がることがあって。1998年当時スタジオミュージシャンとして日本で活躍されていた素晴らしいプレイヤーと共に生楽器を取り入れた録音が出来た経験はプレイヤーとは何かを考えるきっかけになったし、それは今でもアコースティック録音を続ける活動に繋がっている、当時から自分の生活全てで得た経験は何かしらの形で自分の音楽に影響、内包されていると思っていて。

実際にいわゆるダンスミュージック、4つ打ちと区別されるものから外れる音楽は当時から現在に至るまでもコンスタントに作ってはいて。その中で感じることは音楽の中にルールや定義、個別の運動があるから音楽が聞かれうるものとして正常に機能するように、ルールを無視して好き勝手には音楽は作れない、結局のところある程度の括りや枠組みの中での活動になるから括りや枠組みを理解すること、そのこと自体が永遠のテーマみたいなことでもあると思っていて。

少しでも理解することで括りや枠組みから外れるもの、その外側にあるものにも目が向く、そしてその括りや枠組みの内側にあるものにも気づく、そういう拘りを超えた柔軟性の可能性を信じていて。もちろん拘りは必要だし大切なことだと自覚しているけど、20代の頃に音楽に持っていた拘りが実はとてつもなく小さくてちっぽけなものだと価値観をアップデートされる経験は未だに続くし、それはいわゆるダンスミュージック、時にはダンスミュージックと言われてない音楽に触れることで獲得してきた価値観だから。

だからこそ色んな音楽を分け隔てなく聞いたり、吸収して自分でもやってみること、それは自分が気づかなかった能力に気づかされたり、また自分が持ってる能力をどれだけ伸ばせるかの有効なアプローチのひとつだと思っていて、聞いたことのない音楽を聴いたり、触れたことのない世界を知ると楽しくて夢中になる、そういう姿勢を忘れずこれからも音楽と向き合いたいと思っていて。

昨年PerlonからリリースしたEP「A/B」「C/D」は、近年のフミヤさんのトラックにはない新しさを感じました。ベースは変わらずミニマルな展開ですが、哀愁あって、けれどポジティブで、どこか記憶に残るメロディが特徴的です。それまではもっとリズムに特化した、どちらかというと内向きな曲の印象ですが、解放に向いているというか。今の話を聞いて、"変化"という点で重なる部分がありました。

その作品に関しては、2016年に一区切りあって。それまで作ってた音楽と変わったっていう印象が与えられたんやったら、うまくいってるんやろうと思うし、自分のアプローチしていってる方法が間違ってなかったのかもしれない。ただまぁやってる音楽はアンダーグラウンドでニッチな音楽だって自覚してるから、もちろんよりたくさんの人に知ってもらいたいって思うけど、共感してもらったり共有してもらわれへんかったら、それはそれでしょうがないと思えるようにはなっていて。若い頃は全員の人に理解してもらいたいっていう未熟な子供だった。ただその時から変わらず思うことは自分の作品がより遠くに届いて、どう届けるか、それが一人でもたくさんの人が音楽を聞くことの出来るフィールドで、良いものも悪いものも含めた何かフィードバックがあって、役に立つことがあるとしたら自分としては嬉しい。

前述のEPや、Tofu Production名義の新作もそうですが、トラックの多くにボイスを取り入れられていますよね。それが共通する渋さを醸し出している一つの要素だと思います。実際に誰かが話したりしている声をレコーディングしているのですか？ご自身では声をどのようなポイントとして用いていますか。

ボイスサンプルの扱いはその他の音と同様に音のひとつという認識で、トーン、強さ、長さに注意して、他の音とのハーモニーやバランスで位置やトーン、強さ、長さを微調整している。ボイスは自分の声、他人の声、映画、ドキュメンタリー、ラジオなど多岐にわたっていて。

沢山の人が静かに佇んでいるところでいきなり一人が大声で話し始めたら全ての人の注意力がその人に向かうことから分かるように、人間が肉体を使って発する音は強い、声は人間が肉体を使って発する音だから、強さの加減には特に注意しているよ。強すぎると曲全体を支配してしまうし、その音に電子音が太刀打ちするのは容易ではない、他の音とどうやって共存するか、そのバランスには特に注意していて。ボイスは同時に意味を持つから、その点にも気を配ります。

ボイスサンプルを使う際、ボイスによる明快なメッセージがない限り、使用を避けるアプローチと、ボイスによる明快なメッセージがある場合あえて使用するアプローチの2通りを実践していて、また今後はメロディーをボイスに置き換える作業、ボイスをメロディに置き換える作業に更に意識的に取り組みたいと思っている。

去年ドイツのマガジンで受けられたインタビューを読みました。日本にいた頃のスタジオ環境の話や、機材や制作について語られている内容を目にするのは初めてのことで新鮮でした。

日本で音楽作ってDJやっていくってことの難しさは、自分でもやってきたからすごいわかる。大都市でそれだけでやっていくっていうのは、ものすごい大変なことで、まずそういう環境を手に入れる難しさ、そこで生活していく、サラリーを手にする難しさ、あとはパーティーでもって定期的に自分のDJだったりを発表する場所を確保していく難しさ、いろんなことがあって。日本でDJやったり作品作ったりしていってる人たちは、その大変さがわかるだけにその人なりに解決策を見つけて続けていってもらいたいと思う。地方都市ならまた特有の難しさがあると思う。一方でギブアップして作れなくなったりDJやめていったりっていうことも、残念なことやけど、それに対しての理解ももちろんできるし。だからそういった意味で僕はそうではない別の環境でやらしてもらっていて、だからこそ諦めた人達がいることも憶えておきたいと思うし、自分が経験したことは自分の音楽やDJでまた表現し続けたいと思うし。

自分の音楽を極めていって、より遠くに届けられるようになればいいなと思っていて。僕の場合は活動出来る場所を求めて日本の生活をある意味全て捨てて向こうに引っ越してっていう決断があって、それは自分にとっては大きな決断でもあったけど、日本に住みながら音楽を続けていく難しさに限界も感じていて、かといってヨーロッパに引っ越したからといって音楽を作れる保証があるわけではなく、ただがむしゃらに自分の音楽と向き合い続けられる環境を獲得出来たことは、たくさんのものを捨てて来たからたくさんのものを得られたということでもあると思っていて。友達の手助けや家族の協力もあるし、何かを捨てていかないと何も得られない、何かを得る為とまでは言わないけど捨てていくことの必要性、ただなかなかそういうことは簡単には全ての人が出来るのかというと、それは全員ができないだろうとも思うし。

今心に抱いてる変化はありますか？

DJに関してはこれまで通り。ここ数年はとくにスタジオでこういう音楽作ってみようっていうのが明確にあって。より新しいことにチャレンジしてみようとか。ただ変化していいところと、絶対変えてはいけないところのベースは必ずあって。そこは常に見極めながらやらないと、目的地があそこやったのに全然違うところに行ってたっていうことがあるから、それだけは誤らないように進んでいく必要があると思ってる。自分らしくあるということ、自分の物差しで選択し判断しながら、かといって意固地にそれに拘らず、膨大にあるやり方や音楽の中から自分がいいと思うものを自分なりに取り入れて成長していければと思っている。

経験を重ねていくと冷静になっていくっていうか、いろんなことに免疫がつくでしょ。もちろん初体験することも減ってくるわけだから、感動も減ってくるわけで。その分結果的に冷静になるっていうか。そういうところは年齢を重ねる上でのプラス面でもあるし、マイナス面でもあるし。

変化の度合いは、その時々の状況判断。ただこの早い世の中で、どこまで柔軟に対応していけるかなと。だから、自分の価値観みたいな絶対やと思っていることは常に考え直していかないかんやろなとは常に思っていて。そこが凝り固まっちゃうとそっからしか物事を見られへんようになるから。それって簡単なことじゃないけど、意識的になっておくって大事なことで。そういうことを考えるようになったのも変化なんかもわからへんし。

実際は普段の日常の積み重ねが結果的におっきなことにつながるから。1992年にDJを始めて1993年にレーベルを始めて25年ぐらい続けてきた中で、そういう価値観になっていった。これが更に成長していければいいと思っているし、音楽を作るときだけってことではなくて、日常を音楽をやっている時みたいにして生きていくっていうか。ミュージシャンやDJってどこかで音楽のことがずっと頭やカラダのどこかにあって、その垣根がないっていえばないんやろうし、音楽と共に生きていくというか。

ここまで話を聞いていて、何か共通している、そのフミヤさんの価値観の変化の根本にあるものはどこから来ているのかなぁと、ピンと来ない部分があったのですが、もしかして家族や子供の存在ですか？

やっぱり家族ができて、まったく新しい人生が始まったのは間違いない。子供を見てても、やりたいことをやってるだけだから、ひたすら遊んでるし、食べたいものがあったら食べたいものを食べる、飲みたいものを飲む、寝たい時に寝る、シンプルだよね。こっちが学ぶもんねぇ。余計なこと一切考えてないからね。最近はとくに全てのことに対してこれは何でなのか、これは何なのか、っていうことをとにかく聞いてくるから、そういう質問の中でハッとさせられることは日常茶飯事で。

でも自分もそういう時が実はあって、4歳とか5歳とかの子供の時は無邪気に過ごしてた時があって。そういうことを思うと、そういうことをどっかで忘れて生きてきてってことだろうから、逆に映し鏡じゃないけど、考えさせられる。フィードバックじゃないけど。っていうのは間違いなく影響していて。だから本当に自分にとってはポジティブなこと。家族の存在っていうのは大きいです。日常だからね。いろんなところへDJに行ったりする日常もあるし、家族で過ごす日常もあるし。その中の大きな部分を占めてるわけだから、当然影響はあって。2歳も3歳も二度とないし、ちゃんと覚えておかないかんなぁっていうか、成長の過程を見てると感じたりするよね。その一瞬しかないから。記憶にとどめていけたらいいなと思ってる。

腑に落ちました。

ほんまにシンプルに生きてるからね。ほんまに。