Chapter

01

In Residence

Macarena Club, Barcelona

世界12カ所でのベスト・ダンスフロアーでの祝祭

2016年に始動したIn Residenceシリーズは、1年間を通して世界12カ所のベスト・クラブを巡りながら各地でそれぞれ1ヶ月間にわたってパーティを開催し、クラブカルチャーを讃えようという企画である。クラブという空間は、日々脈動するダンスミュージックにとっての心臓部といってよく、今年我々が巡る12カ所のクラブは各地のシーンを盛り上げつづけている重要なヴェニューである。週末が訪れるたびにクラブのドアは開き、その中ではわたしたちの愛する音楽がプレイされている。

各地のクラブへそれぞれ1ヶ月間にわたって滞在するにあたり、我々はそれに連動した特集記事を展開していく。さまざまなメディアを組み合わせながら、これらの象徴的なクラブの全貌を捉えていこうと思う。

8月にRA In Residenceが滞在するのは、バルセロナのMacarena Club。ダンスミュージック界でも珍しい最小規模のフロアーを持つこのクラブで、我々は1ヶ月計4回のオールナイトDJセットを企画した。バルセロナのゴシック地区の中心にある定員わずか81名のこのクラブには、この都市が育んできたナイトライフの歴史が凝縮されている。Macarenaという店名のルーツは1920年代にまで遡り、現在でもその店名は変わっていない。1920年代当初、この場所はフラメンコのタブラオ（訳注：フラメンコのための舞踏場）として営業されていたという。今日では世界で最もユニークなクラブとして名を馳せているMacarena Clubは、素晴らしいサウンドシステムを有し、なおかつ他のどのクラブでも体験できない濃密なアトモスフィアが充満している。

Aug 03 RA In Residence, Macarena Club, Barcelona feat. Joey Anderson

Aug 10 RA In Residence, Macarena Club, Barcelona feat. Midland

Aug 17 RA In Residence, Macarena Club, Barcelona feat. Vera

Aug 31 RA In Residence, Macarena Club, Barcelona feat. tINI

Chapter

02

主要情報

Macarenaの概要

01
所在地
Carrer Nou De Sant Francesc 5, 08002, Barcelona
02
ビル建築年
1900
03
クラブオープン
2001
04
サウンドシステム
Funktion-One
05
キャパシティ
81
06
レジデントDJ
Idriss D, Cipy, ISAbella, Guim Lebowsky, Anika Kunst, Kristina, Kanedo, Haiku575, Patrick Zigon, Pablo Bolivar, Funk D'Void, System Of Survival, Nomada Groove
07
ミュージック・ポリシー
音楽こそがすべてをつなぐ

Chapter

03

歴史

濃密なフロアー

もしMacarena Clubへ向かう途中で道に迷ったなら、辺りに長い行列がないか探してみるといい。大抵の夜、このクラブ前にはオープンを待ちわびる人々がサン・フランチェスカの狭いストリートに集まり、その中には国外からの観光客や物売りの姿もちらほら見られる。クラブのオープン前にこうした行列が見られることはバルセロナはもとより他のスペインの都市でも異例である。スペインの人々はたいてい、夜中の1時か2時ごろにクラブへ向かうのが普通だからだ。しかし、他の多くのクラブとは異なり、Macarenaはオープン後すぐに満員となってしまう。しかも、このクラブの最大収容人数はたった81人に定められているのだ。

面積にしてわずか37㎡の広さしか持たないMacarenaは、世界的に見ても最も小規模なクラブの部類に入るだろう。このクラブと深い結びつきを持っている2人のDJ、Gui BorattoとFunk D'Voidは「ここでプレイしていると、誰かのリビングルームでDJしている気分になる」と筆者に語ってくれた。このクラブにはダンスフロアーがひとつ、バーがひとつ、そしてDJブースがひとつあるだけだが、DJブースはフロアーより1段下がった場所に位置している。したがってDJたちはクラウドを見下ろすのではなく見上げるようなかたちでプレイすることになる。高い天井からは7個のミラーボールが吊り下げられていて、反射する細かな光の破片が2台のFunktion-Oneスピーカーの表面を跳ね回っている。部屋の片側には短い階段があり、その先にはトイレとクロークルームがある。このクラブには屋外テラスやセカンドルーム、そして当然ながらVIPエリアなども存在しない。Macarenaへ来たら、することはひとつ。つまり、ダンスするだけだ。

そのサイズやバルセロナ市街地中心部に位置するロケーションのため、Macarenaは年間を通じて毎日営業しており、月曜から日曜までハウスやテクノのパーティが組まれている。このクラブが過去15年間にわたって築き上げてきた高い評価は、ひとえにそのクオリティと一貫性のたまものだ。一年中どんな時に足を運んでも、このクラブではいつでも素晴らしい音楽とムードを楽しむことができる。MacarenaのレジデントDJのひとりでありアーティストとしても活動するKristinaことDesirée Gameroはこう切り出す。「クラウドは、みんな良い音楽とダンスを求めてここにやってくるの。DJにも決まったルールはないわ。クラウドは目を閉じて腕を上げてダンスし、DJのリードに喜んで従ってくれるの。ここに来る人たちは、お喋りをするために来ているわけではないのよね」

クラブのヘッド・バウンサーを務めるウルグアイ人、Marcos SantosはMacarenaのダンスフロアーは半分が観光客で、残り半分が地元の住民（バルセロナ市民）だと明かす。この地区での他の多くのビジネスの例に漏れず、このクラブもまた売り上げの大半を年間通してバルセロナを訪れる観光客に頼っているという。だがその一方で、クラブのブッキングを担当する共同経営者のGustavo Ferrerは彼ら観光客が単なる物見遊山でやってくる人々ではないということを指摘する。「Macarenaにやってくる観光客は、単に国外からやってきたお客というだけに限らない。彼らの多くは、以前もMacarenaへ遊びにきたことがあるリピーターなんだ。ただの通りすがりの観光客とは違うのさ。いわば、あらかじめ目的をもってここへやってくる『ダンスミュージック・ツーリスト』なのさ」

この事実は、クラブがオープンした2001年以来変わらない。Ferrer、そしてGabi SarcomaniとIvan Domingoの3人がクラブの経営および運営に参画するようになったのは2007年のことだった。それまでこのクラブを運営していたのはSarcomaniとOriol Casalsというバルセロナの地元DJ2人だった。彼ら2人は、ミレニアムの代わり目の時期に自らの手で遊び場を作りたいと考えてMacarenaをオープンさせた。1920年代に建てられた古いフラメンコ用のダンスホールが売りに出されていると知った彼らは、さっそくその物件を押さえ、改装作業にとりかかった。1920年代当時と今もまったく変わらないのは、入り口にある看板だ。黒い長方形の脇に2人のフラメンコ・ダンサーの姿が踊るその真ん中には、大きく赤い字で『LA MACARENA』という店名が誇らしげに書かれている（セビリアにあるマカレナ地区にある同名のカトリック兄弟会との混同を避けるため、SarcomaniとCasalsは2003年にこの場所の正式名称を「Macarena Club」と改めている）。

オープン初期には過去の伝統に敬意を表してフラメンコのためのイベントも開催していたというMacarena Clubだが、基本的にはオープン当初からハウス／テクノ専門のクラブとして営業されている。このクラブがオープンしたのとほぼ同時期にFerrerは母国ベネズエラからバルセロナへ移住してきたばかりであった。当時の彼はエレクトロニック・ミュージックについてはほとんど何も知らなかったという。Ferrerは友人たち数人と共にマール・ベラ・ビーチでバルやチリンギート（スペイン語でレストランの意）を経営していたが、マール・ベラ・ビーチではSónar開催期間の週末にRicardo Villalobosをはじめとしたビッグネームが早朝からDJセットを披露していた。彼の店にはDJたちやプロモーターたちも数多く訪れ、Ferrer自身もしだいにクラブミュージックへ傾倒し始めたのだった。2005年、当時すでにバルセロナで最も優れたアンダーグラウンド・スポットとしての評判を確立していたMacarenaへFerrerは初めて足を運んだ。だが、彼はすぐにMacarena独特のムードに溶け込めたわけではなかった。「自分でどこかスペースを確保しなきゃ、閉所恐怖症になってしまいそうだった。それぐらいクラブの中は混雑していた。僕は一緒に行った友人に『おい、俺は先に外へ出てるよ』なんて言ってね。これが僕にとってのMacarena初体験だったのさ」と言ってFerrerは笑う。

2007年にSarcomaniとCasalsの2人はこのクラブに変化を起こすことを求めた。彼らはFerrerとその友人たちにこのクラブの経営を引き継ぐ気はないかと持ちかけたのだ。これは両者にとって絶好の機会であった。ちょうどそのころ、Ferrerたちはビーチ・バーの不安定な経営状況に負担を感じて疲弊していたため、彼らはこのオファーを受け入れた。Ferrerたちの条件は、Sarcomaniに引き続きビジネスパートナーとして経営陣に残ってもらうことであったが、Sarcomaniもこれを了承した。新たなスタッフ陣も引き入れ、既存のサウンドシステムの一新を目指したFerrerは結果的にFunktion-Oneの採用に落ち着いた（バルセロナ市内のクラブで最初にFunktion-Oneを導入したクラブはMacarenaであるとFerrerは自負している）。Ferrerはサウンドシステム以外の部分については、クラブ内の変化は最小限のものにとどめることにした。そのポリシーは現在でも変わっておらず、サウンドシステム周辺の設備面での細かなアップグレードは別にして、Macarenaの外観／内観および雰囲気は2001年のオープン当初と現在でほぼ同じ姿でありつづけている。

その一方で、音楽面では時代の変化に合わせて進化してきた。2008年頃、Ferrerはバルセロナにおけるダンスミュージックの消費スタイルに変化の匂いを感じ取った。クラウドは、クラブのネームバリューよりもそこに出演するアーティストのネームバリューを重視し始めたのだ。2001年のオープン以来、MacarenaはレジデントDJのみで十分にクラウドを集めることができたが、それから6、7年もすると同じやり方では通用しなくなっていた。「Macarenaは『そこへ行けば常に良い音楽が楽しめるクラブ』として知られてきたが、もはやそれだけでは十分ではなくなってきたんだ。世界的な経済危機が訪れた2008年あたりになると、人々はただ良い音楽があるだけでは満足しないようになりはじめていたんだ。したがって、僕らはより高いネームバリューを持つアーティストたちを呼び込む方法を模索し始め、それまでの方針を少し変化させなければならなかった」とFerrerは語る。

やがてDavide SquillaceやAudiofly、それにGet Physicalで最盛期を迎えていた時期のM.A.N.D.YといったアーティストたちがMacarenaの平日レギュラーパーティを行うようになっていった。現在でも同様に、有名アーティストたち — 今年の夏だけでもCarl Craig、Herodot、Argenis Britoらが出演した — が月曜のMemento XSや水曜のNew World DisorderおよびMistressといったパーティでプレイしている。平日にこうした著名アーティストをブックするのは、ある部分では彼らの平日のブッキング料が比較的安価であるおかげでもある。その一方で、Macarenaにおける週末のパーティは地元のDJたちをプッシュするための場でありつづけており、これはMacarenaにとっても非常に重要な基軸でありつづけている。Ferrerは「僕らは出来る限りローカルシーンを盛り上げることに力を注ぎたいんだ」と語る。

そうした彼らのポリシーが最も反映されているのが、木曜の夜にそれぞれ隔週で交互開催されているTechnologicaおよびPlasticというパーティである。前者のTechnologicaというパーティは「エレクトロニック・ミュージックにおいて女性はまだ地位が低く、偏見にさらされている」と主張し、自らの行動でその状況に変化をもたらそうとする2人のスペイン人DJ、KristinaおよびAnika Kunstによってオーガナイズされている。「わたしたちは、国外のビッグネームに頼ったパーティをしているわけではないの。むしろ、バルセロナのローカルDJやこの街に深いつながりのあるアーティストをフィーチャーしようとしているわ。この街のシーンやカルチャーに対して、ポジティブなエナジーを与える方法を知っているDJたちをね」とKristinaは語る。

もうひとつの木曜レギュラーパーティであるPlasticは、幅広い年齢層にDJやプロダクションスキルを教えるスペイン屈指の電子音楽アカデミーにそのパーティ名の由来を持つ。KanedoことMateo García CanedoはPlasticにおいて講師を務め、さらには直営のレコードショップを運営しながら隔週でパーティをオーガナイズし、同校の卒業生たちに彼と共にプレイする機会を与えている。アカデミーの生徒／元生徒の中には、このパーティで初めて人前でのDJを経験するという者も少なくない。Macarenaは同校の実習試験の場を提供しており、そこでは16歳や17歳の若者たちが一日中ターンテーブルと格闘している。このPlasticというパーティには、シーンをサポートし貢献するというMacarenaのポリシーが如実に反映されているのだ。

筆者が初めてMacarenaを訪れたのは、Onur ÖzerとFrancesco Del Gardaを招いて今年の夏の初めに開催されていたLoud-CONTACTというパーティだった。Sónarウィークエンド明けの月曜日ではあったが、ランブラス通り（訳注：バルセロナ市内のメインストリート）周辺は普段より1割増の活気を呈していた。予想通り、クラブはオープンから間もなく満員となった。ÖzerとDel Gardaの2人が、そのオブスキュアな一流の選曲と抜群のミックスでフロアーをロックするには絶好のシチュエーションが用意されたというわけだ。ある時点でÖzerが奇妙なテクノにフューチャリスティックなエレクトロをミックスすると、一気に歓喜がフロアー中に充満した。サウンドシステムは彼らの奇妙な選曲にもしっかりと反応し、普段とは違う帯域を存分に鳴らすことにスピーカー自体も興奮しているかのようだった。サウンドの音量／BPM／密度が高まるごとにクラウドのリアクションもそれに呼応し、極めて密度の高い一体感がフロアーに表出していった。そんな様子を見ていると、あたかもこの場所はリスクを恐れず新たなサウンドを試すための実験室のようにも感じられた。そういえば、月曜のレギュラーパーティMemento XSを担当するIdriss Dと筆者がイビザでコーヒーを飲みながら雑談していた際も、彼はこのクラブを「実験室」と表現していた。

Macarenaにおいてもうひとつ筆者の印象に残ったことがある。それは、DJとクラウドの距離の近さである。MacarenaにおけるDJブースはダンスフロアーよりも一段下に位置する独特の構造を持っているため、必然的にフロアーからはDJを見下ろす格好となる。クラウドはDJと非常に密接な位置関係となり、窮屈ではありながら互いのエナジーを直接感じられるようになっている。当然ながらDJのための控え室のようなものもなく、DJは持てるもの全てを振り絞ってプレイすることを求められる。「ここでプレイしていると、まるで自分もフロアの一部になったような気分になるの。たとえミックスで何かミスしたりしたとしても、みんなの視線も別に気にならなくなっちゃうのよ」と語るのはKristina。「それでいてすごく穏やかな気持ちになるの。隠さなきゃいけないようなものは何もないし、たとえミスしたり何かがうまくいかない日でもクラウドがそれを受け入れてくれているような気がするわ。そんな時でもみんなは『おいおいどうしたKristina？　気にせずどんどん続けてくれよ！』って感じなの」

こうしたクラウドとの関係性を望まないDJはいないだろう。「ここはすごくオープンな場所なの」と語るのはAnika Kunstだ。彼女は「クラウドとDJの密接さが特別なフィーリングを作り出してくれるの。フロアーはいつでも音楽を待ち望んでいるし、ダンスと楽しみを求めている。それがDJのフロウにも作用し、クラウドとのつながりを深めていくのね」と続ける。8月17日にIn Residenceプログラムの一部として再びMacarenaへ登場することになっているベルリンのDJ、Veraもまたこの意見に同意する1人だ。「クラウドのど真ん中に放り込まれて、みんなに近くで囲まれてプレイする感じはほんとうにスペシャルね。すごく密度が高くてダイレクトなの。ある意味、ベルリンのClub Der Visionäreにも近いわね。パーティの雰囲気は、そこにいる人数によって決まるものではないってことよね。小さなスペースに20人かそこらの人しかいなかったとしても、そこにナイスなヴァイブがあればOKなのよ。小さなクラブでは、ディープに行くのもアッパーに行くのも自由自在なの。大きなクラブでは試せないような実験も、小さなクラブでは試せる自由があるのよ」

Chapter

04

レジデント陣

...写真紹介

Chapter

05

重要人物

Marcos Santos

チーフ・ドアマン

Macarenaでチーフ・ドアマンを務めるMarcos Santosは、非常に目立つ風貌をしている。頭は剃り上げられ、筋骨隆々とした身体にはタトゥーが刻まれており、長く伸びた顎髭は1本に編み込まれている。一目見ただけでも、「この男とは揉め事を起こさない方がよさそうだ」と思わせる。しかしその外見に反し、実際のSantosは温厚で穏やかな男であり、Macarenaとこのクラブを愛する者たちに対して深い愛情をもって接しているのだ。彼はクラブの入り口での仕事を好み、外へ煙草を吸いに出てきた客と談笑したり、道行く人々に声をかけてクラブに呼び込んだりしている。「ほとんどの人は俺がMacarenaのセキュリティ担当だと思っているようだけど、俺はそう見られるのは好きじゃないんだ」とSantosは切り出す。「俺自身は、もっと広報的な役割だと思っているんだ。クラブにやってくる客が最初に目にするのは俺だから、俺自身がナイスなヴァイブを持っていなきゃ客も楽しめないだろ。俺は、クラブのエントランスはその中で行われているパーティのヴァイブってやつを決定づけるまさに最初の入り口だと思っているんだ」

月曜レジデントを務めるIdriss DことIdriss Dibはこう語る。「もちろん、Marcosの仕事内容にはバウンサー的な業務も含まれているけど、彼はただ威圧的に叫んでいるだけのそんじょそこらの厳ついバウンサーとは違うんだ。彼は、このクラブの非公式PRマンというべきだね。毎週月曜日、僕は自分のDJ時間以外はクラブの外でその夜の雰囲気がどんな感じか感じ取ろうとしているんだけど、そんな時にMarcosが働いている姿を観察するんだ。Macarenaを出て他のクラブへハシゴしにいこうとする客さえも彼は目ざとく見つけ、笑顔で見送ったり、ときにはハグしていたりするんだ。彼はほんとうに凄い人だよ」

Santosが母国ウルグアイからバルセロナへ移ってきたのは11年前。以来、バルセロナ市内の様々なバーやクラブなどでドアマンとして働いてきた彼は、ある夏に偶然の出会いからMacarenaで働くようになった。それから7年の月日が経った現在も、彼はMacarenaでドアマンとして働きつづけており、今ではこのクラブが持つスピリットを深く理解し、アンダーグラウンド・ミュージックに対して揺るぎない献身を見せる。「俺にとっては、クラブとそれが掲げる理想を信じ、そこへ身を捧げることがすべてさ。長い年月をかけて、Macarenaは良い方向へ変化を続けてきた。そのスピリットに対して妥協したり、見失うことなくね。これこそ、俺たちがこれからも続けていこうとしていることなのさ」

ときには、Santosはクラブにやってくる客からの奇妙なリクエストに対応することもある。これもまた彼の大事な仕事の一部分なのだ。彼は、2012年の9月にあったある出来事を懐かしそうに思い出す。「ある日曜の夜、クラブのオープン前だというのに1人の若い女の子がやってきて、俺にこう言うんだ。『今から世界で最もビッグなDJのひとりをここに連れてくるから、今夜ここでプレイさせてさせてもらえないかしら？』ってね。俺は彼女を見てこう言ったよ。『まずはうちのブッキング担当にデモを送って、その返事を待つことだな。メールアドレスを渡しておくよ』ってな。するとどうだ、彼女は『あなた分かっちゃいないわね、そのビッグなDJっていうのは今夜ここでプレイしたいって言ってるのよ』ときたもんだ。俺が『だからさっきから言ってるだろ、ここでプレイしたいならまずブッキング担当にデモを送って...』と言おうとすると、彼女は俺の話を遮り、『ほら、あそこにいるのがわたしの言ってるビッグなDJよ』と言ってドアーの方角を指差すのさ。そこにいたのはNicolas Jaarだった。彼はApoloでのプレイを終えたばかりで、その夜にDJが出来る場所を探していたってわけさ。そこでようやく状況を飲み込んだ俺は、彼らを中へ通した。俺がJaarのプレイを聴いたのはそれが最初さ。俺は今も彼に『デモを送れ』って言っているんだけど、いまだに送ってこないな」

Chapter

06

サウンドシステム紹介

Funktion-One

Macarenaのような小規模なクラブでこそ、サウンドシステムが持つクオリティの真価が問われる。その重要性を理解していたGustavo Ferrerは、2007年にこのクラブの運営を引き継いでまず最初にしたことはビジネスパートナー、そしてMacarenaの設立者のひとりでもあるGabi Sacomaniとのミーティングの機会を設けることだった。彼らはそのミーティングにおいて、当時市場に出回っている中で最高の品質を持つサウンドシステムを導入することで合意した。彼らはまず、過去にイビサのSpaceなど世界的に有名なクラブの音響設備を担当した実績を持つPro Audio Ibizaに相談を持ちかけた。そこでFunktion-Oneの導入を提案されたFerrerとSacomaniは、Funktion-Oneの当時の最新モデルが試験的に設置されていたバルセロナのランブラス通りにあるクラブ、Boulevard Culture Clubへ足を運んでみることにした。それから1ヶ月もしないうちに、MacarenaにはFunktion-Oneがインストールされた。「僕はバルセロナ市内で一番最初にFunktion-Oneを購入したクラブだと言いつづけている。僕たちこそがパイオニアなのさ」とFerrerは胸を張る。

現在、Macarenaの店内には2台のFunktion-One Resolution 2が設置されており、フロアーの対角線上に向かい合わせで置かれている。クラブの空間が狭いため、このうち1台はブース用のモニターも兼ねており、経験の少ないDJにとっては慣れるまである程度の時間が必要になる。フロアーでのサウンドはシャープさと豊かさが同居しており、その空間で見事な広がりをもって鳴らされている。なおかつ、音量は大きすぎず心地よい状態が保たれている（クラブ側はDJたちに対してリミッターの作動を避けるため、メーターの赤い部分まで点灯させないよう常にレベル調整に注意を払うことを指示している）。全体的に見ても、このシステムはクラブの空間にぴったりとフィットしており、威圧感も感じさせない。「低域が強すぎるわけでもないし、中高域も耳に痛くない。ちょうど良いバランスなんだ」と語るのはIdriss D。「良いDJの最低条件はきちんとミックスでき、正しくEQを使えて、サウンドに歪みを生じさせないこと。そうしたスキルを持ち合わせたDJならば、誰でもMacarenaのサウンドシステムを気に入るはずさ。ここは小さなクラブだから、それなりの鳴らし方ってやつがあるのさ」

Chapter

07

ミックス

Macarena Clubを象徴するサウンド

Kristina、Idriss DそしてAnikaがMacarena Club流のスタイルを披露

「このミックスは、Technologicaでの典型的なオープニングセットという感じね。ロッテルダム産のダブ・テクノに始まり、BPMが上がるごとにシャープかつアップリフティングになっていく。わたしがプレイする時のいつのもやり方よ。Polar Inertiaのようなパリ産のテクノ、それにSurgeonのフロアーキラーもミックスされているわ。ところどころにアシッドっぽさを振りまき、DMX Krewのようなエレクトロ、Kirk Degiorgioのようないかにもヨーロッパらしいテクノも含まれている。クラウドが求めるものを与えようとした結果、こういうスタイルに落ち着いているの。MacarenaでのDJは毎回独特だし、わたし自身も常に思いっきり楽しませてもらっているわ」

Tracklist /
Conforce - Dark Days
Hidhawk - Alpagain (Eduardo De La Calle Dub Remix)
Deep'a & Biri - 1406 Days
Round Three feat. Paul St.Hilsire - Acting Crazy (Instrumental)
Fred P- Unbroken Circle
Surgeon - Search
Dimi Angelis - IceBridge
Svida - Hectic (Daniel Troberg's Rytm Workout Remix)
Fred P - Slow Euphoria
Levon Vincent, Marcel Dettmann - Vengeance
DMX Krew - Dark Rider
XOX Crew - 606 Outburst
Johannes Heil - By Night (Part_Four)
Polar Inertia - Sonic Outlaws
Drew C. Mance - T4URGF
Kristina - Cosmos Bipinnatus
Kirk Degiorgio - Time Spin

「僕が毎週月曜に担当しているMemento XSでは、ラインナップのネームバリューよりも音楽そのものにこだわっているんだ。ブッキングチームはハウスやテクノに対してピュアな情熱を持っているDJたちをこの日にブッキングするようにしている。彼らは、ギグで得るギャラよりも音楽への純粋な愛ゆえにプレイしているんだ。このパーティでは1ヶ月に1度僕がオープン／ラストのDJをする週が設けられていて、このミックスは8月1日月曜日に録音されたライブミックスの一部なんだ。6時間のうちのたった1時間を切り取ったにすぎないけど、僕がどんなムードを打ち出そうとしているかは分かってもらえるんじゃないかな。すべてに通底しているのはクオリティさ。それがミニマルであろうとディープハウスであろうと、はたまたシカゴであろうと、良いトラックはそれ自体がストーリーを伝える力を持ってる。それは、プレイリストを文字上で見ているだけでは決して分からないことなのさ」

Tracklist /
Arapu - Pitfall
Unbroken Dub - Winter Deepness
Funk E - Wu Wei
Ron Trent - Kids At Play
Franco Cinelli - Soar Up
Linee & Geffen - Bx 19
Fabio Monesi - Blaxter Activity
Einzelkind - Jump N Run
Boo Williams - End Of Days
The Nighttripper - Phuture (Kevin Saunderson Remix)
Marieu - Corona
Blue Mondays - Ghost Track 2

「わたしのセットはたいていドライブ感のあるグルーヴを大事にしているけれど、もちろんそれはタイミングとムードに左右されるわね。このミックスでは、わたしたちがMacarenaでやっているパーティのヴァイブを伝えられるように意識してみたわ。とりわけ、自分が思うままにプレイしながらクラウドが暖かく反応してくれる自由さと満足感を表現できればいいなと思って。わたしはさまざまな時代／形式のテクノを織り交ぜたので、アシッドやブレイクスもあれば、ハウスも含まれているわ。Macarenaのフロアーに集まるクラウドの99%はただ踊るために来ているから、このミックスも自ずとダンスフロアーに意識を集中したものになったわね」

Tracklist /
FLUG - Mental Trip (Voice version)
Juho Kahilainen - Xemx
Dubspeeka - Northtarget
Woo York - I'm Against
Etapp Kyle - Continuum
HD Substance - Ode To Nothing (Korben Nice remix)
Deepbass - Nova (Repart remix)
Luis Flores - Negative Pressure
Fixon - Mental Planning
Heiko Laux - Fernweh (Luis Flores remix)
Markus Suckut - Untitled 1
Go Hiyama - Geometrical (Surgeon remix)

Macarena ClubのRAプロフィールページはこちら。In Residenceシリーズの詳細は、In Residenceページからチェック。

01

In Residence

Macarena Club, Barcelona

02

主要情報

Macarenaの概要

03

歴史

濃密なフロアー

04

レジデント陣

...写真紹介

05

重要人物

Marcos Santos

06

サウンドシステム紹介

Funktion-One

07

ミックス

Macarena Clubを象徴するサウンド

レジデント陣