さて、結論が出た。fabricは閉店となった。17年に渡る無数のパーティと数百人のスタッフによるこれまでの努力はほんのいくつかの悲劇によって霧散した。先日、イズリントン行政区の営業許可小委員会は、fabricの営業継続を認めないことを決定。同小委員会の委員長Flora Williamsonは最終結論の中で、その理由について「fabricには経営側が対処できないドラッグの問題が存在している」と述べた。

我々のカルチャーにとって最悪の時が訪れている。しかし、“クラブランド” の住民として、我々はいくつかの点をしっかりと理解しておく必要がある。

まず、他の世界と同様、我々が住む世界も閉鎖的になりかねないということだ。様々なメディアで言われている、「我々の音楽やカルチャーは世界にとってポジティブな存在だ」、「ダンスミュージックはアートフォームとして見なされるべきだ」、「ドラッグによる健康被害はクラブ遊びについてまわる対価だ」、「ハーム・リダクションは教育と軽度検査の一部だ」などの意見について、我々全員は簡単に同意するだろう。また、ある厚顔無恥の議員のような、クラブでプレイされる音楽のBPMを遅くすればドラッグ摂取量は減少すると考えている人を冷笑するのも簡単だ。

しかし、このような考えは社会のすべての人たちが理解できるものではない。グロースティックを知らない、またはベルリンで一番人気のDJが誰なのかを知らない人たちにとって、ダンスフロアは異世界であり、更に言ってしまえば、そこは敵対する世界なのだ。クラブミュージックに関する知識がゼロだが、ストリートでドラッグを摂取してハウスミュージックを大音量で鳴らしているティーンエイジャーの姿を頻繁に見かけている人や、隣家で開催されるアフターパーティで睡眠を妨げられている人、または年頃の自分の息子や娘を取り巻くあらゆる環境に恐怖心を持っている人などを想像してみれば分かるだろう。

公的機関が何かしらの行動を起こす時は、たったひとりの人間やひとつのアイディアがきっかけになることはまずない。地方自治体、警察、メディアなどは個人の集合体だ。仕事ができる人からできない人までが含まれており、社会に対しての考え方もそれぞれ異なっている。そして、その多くは、睡眠不足やプライベートな心配事などを抱えた一般人であり、最小限のトラブルで1日を終えたいと思っている。

彼らはクラブミュージックで一度もポジティブな経験をすることなく、ネガティブな経験だけを重ねてきたのかも知れない。クラブシーンに相反するような生真面目な信念を持っているのかも知れない。また、同じ考えを持つ人たちを代表するのが自分たちの義務だと感じているのかも知れない。そして、ナイトクラブではドラッグが摂取されており、若者が死んでいる。彼らには、このような問題に何かしらの対抗策を講じなければならないというプレッシャーが大きくのしかかっているのだ。つまり、彼らが今回のような行動を起こすためにわざわざ潔癖主義や陰謀論を持ち出す必要はない。今回の行動に関わった多くの人たちは、自分たちが正しい理由で正しいことをやっていると信じている。

とはいえ、今回の決定からは酷い悪臭が放たれている。

今回の決定がどうにも納得できない理由は、今回の決定よって人の命が救われるわけではないという点にある。これはイズリントン区に限った話ではなく、世界のどこであっても同じだ。いつの時代も、世界の若者は酩酊と社交を求めている。そのための場所をひとつ取り除いたところで、彼らは別の場所へ向かうだけだ。よって、fabric以外の場所、fabricよりも危険で管理されていない場所、救急用施設や親切なスタッフが用意されていない場所で、多くの若者は引き続きドラッグを摂取することになる。また、コカイン、セクシャルハラスメント、暴力がはびこる、英国の夜遊びの定番“アルコール教ハイストリート寺院” で酒に身を捧げる若者も出てくるだろう。

fabricでこれまでに起きた6人の死亡事故は許容範囲だと考えている人はひとりもいないが、広い視野で見れば、fabricはその長い歴史を通じて600万もの人が訪れてきたクラブだ。fabricでパーティを楽しむことが何らかの恐ろしいリスクを孕んでいると考えるのは、すべてを根元からひっくり返してしまうことになる。英国内の他の種類の娯楽施設におけるアルコール絡みの健康被害や暴力の毎晩の発生率を考えれば、ダンスクラブへ出掛けることに危険が含まれているという考えは間違いだ。

しかし、緊縮経済政策によって毎年予算が削減され、夜の秩序を守る能力が限界に達しつつある警察と地方自治体は、fabricのような施設を格好の的として考えている。彼らは、クラブシーン、そしてクラブとドラッグの関係は、恐ろしい異世界のものなのだという世間の恐怖心を利用し、子供たちの心配をする親の気持ちから悪魔を生み出し、悪いイメージを徹底的に膨らませながら、シーンの看板ブランドを取り締まることで「何か手を打つ必要がある！」という世間の声に応えているようなイメージを作り出している。

そして、そのやり口も怪しい。警察が提出した証言や、彼らがメディアに向けて発表した声明の多くには、ただの雑談や噂レベルのものや脅し戦略が含まれている。「店内は非常に暗い」、「シャツを脱いだ男がうろついている」などの表現や、目が赤いという理由だけでエクスタシーでハイになっていると見なす発言、映画『Reefer Madness』的なモラルの危機を煽るプロパガンダなどが含まれているのだ。また、警察がメディアに発表した「18歳の目撃者の証言」は、我々が知っている普通の18歳の言葉には思えない。「体の大きな男の人たちがやったんです。そして逃げていきました」は、警察に逮捕される恐怖に晒され、警察が望む通りに言っているようにしか聞こえない。

fabricが営業許可小委員会の聴取を受ける当日に、『Evening Standard』紙が2016年夏に亡くなった2人の少年の写真を掲載したのには心底驚かされた。これは最低最悪の精神的脅迫であり、この記事が同紙（編注：『Evening Standard』紙はタブロイド紙）のウェブサイトがたまに掲載する「残虐な殺傷事件の一部始終を収録！」とタイトルが付けられた映像のように、道義的な意味合いからではなく、単なるクリックベイト（釣り）として掲載されたという事実は、すべてをより酷くシニカルなものにしている。

また、最後になるが、fabricだけが狙われてきたという点も怪しい。fabricはアンダーグラウンドな音楽が好きな人なら誰でも気に入るヴェニューではないが、オープン当初からクラブミュージックとクラブカルチャーを愛する人たちによる愛する人たちのためのクラブだったことに間違いはない。そして、レコードレーベルを含むfabricチームはその造詣の深さと、クラブシーンの中で最も健全で温厚な存在として知られてきた。しかし、その全員が職を失ってしまった。

また、彼らの提供するプログラムも、エゴの塊のようなアーティストたちが生み出す最小公倍数的なコマーシャルなサウンドに走ることはなく、インターナショナルな歴史とネットワークを誇るサウンドにフォーカスを当てていた。fabricはインターナショナルなミュージックファミリーの一部なのだ。fabricはロンドンと英国の若い才能をサポートしながら、クリエイティブなアーティストたちに様々なチャンスを提供してきた。また、先日の公聴会の最中にファンたちがTwitterへ投稿したメッセージを見れば、彼らがこのクラブへ通っていた理由がそこにあったことが理解できる。ファンたちは自分たちが愛するクラブへの処分に憤りを感じながらも、知性、ウィット、友情、そして他の音楽ジャンルよりも大きなコミュニティ感をユニバーサルな形で示していた。

「fabric閉店決定」が発するメッセージは恐ろしい。この決定はクラブが何からも守られていないことを意味している。自分たちをフレンドリーで安全な場所にするために長年に渡り多大な努力を重ね、上段に書かれているようなコミュニティ感を生み出そうとしてきたヴェニューがこのような形で狙われるのであれば、善良な一般市民がナイトライフを楽しむためのモチベーションがなくなってしまう。確かに、fabricはクラブシーンの中でも最も厳しいセキュリティのひとつを誇りながらも、ドラッグが店内に入り込むのを防ぐことはできなかった。しかし、英国内でドラッグが存在しないエリアはない。X線機器や無作為の身体検査が行われるロンドン市内のすべての刑務所の中でさえもドラッグが持ち込まれる中、数百人のスタッフしかいないナイトクラブが阻止するのは難しい。

誤解してはいけない。ロンドンのカルチャーの中核をなし、誰からも愛されていた施設への見せしめ的な今回の攻撃は、解決ではなく問題をもたらすだけだ。ドラッグによる死亡事故はこれからも続くだろう。しかし、それはイリーガルなパーティ、メインストリームなクラブ、またはストリートなど、より悪質で、より規制が緩い、より暴力的な空間で起きるはずだ。また、今回の決定を受けて、警察や市議会が心の底から市民を心配していると思う若者もいないだろう。決定直後の彼らのリアクションの多くは、今回の決定は権力側に対して反抗的と見なされてきたクラブへの復讐、またはデベロッパーたちがスミスフィールド（fabric周辺のエリア）一帯を高級フラットやオフィス街に変えることで、活気あるロンドンを平坦で味気ないものに変えるための組織的な行動の一部だという内容だった。今回の決定で、ドラッグ使用に対する権力側の行動をリスペクトするようになる若者はひとりもいないだろう。若者はひとりも守られない。

この先一体どうなるのだろうか？　もちろん、放っておくことはできない。今回の決定に異議を唱えることができる方法がひとつでもあるならば、それは必ず唱えられることになるだろう。しかし、今回の決定が覆されないのであれば、fabricチームは自分たちがこれまで築きあげてきた音楽・カルチャーの歴史が無駄にならないような新しいビジネスを展開するだろう。そして、もちろん、我々はそれが何であろうと全力でサポートするだろう。しかし、それよりも重要なのは、我々、つまり、存続の嘆願書にサインをした14万人以上のファン、fabricを一度でも楽しんだことがある数百万人、そしてこの場所から生まれた音楽が、諦めずに歩み続けられるかどうかだ。

fabricに今後何が起きようと、閉店を防ぐ戦いに注がれたエナジーは、今回の攻撃が根本的・本質的・倫理的に間違っていることを世界に知らせる行動に上手く引き継がれる必要がある。我々コミュニティは、今回の決定に繋がった世間の恐怖を認め、理解する必要がある。また、良心からか悪意からかは別として、その恐怖を周囲に拡散した人たちと会話をする必要がある。ドラッグ使用におけるハーム・リダクションの成功例を集め、自分たちのカルチャーがロンドン、そして英国の生活と個性において重要なものであることを改めて称賛する必要がある。fabricの戦いは敗戦に終わったのかも知れないが、無知との戦いは始まったばかりだ。