オンラインラジオ局NTSでWorkshopの特番が放送された昨年11月の午後。その日のロンドンは暖かく、ジレットスクエアは活気だっていた。低い縁石でグラインドをメイクするスケーター。いかがわしいほど低価格で自転車を売る人。秋の空気にはエチオピア料理の香りがスカンクの匂いと入り混じっていた。NTSのスタジオである白色の小屋の中では、Even Tuellとして知られるアーティストPaul David RollmannがWorkshopのステッカーを持ってドアの前でうずくまっていた。「これを貼る場所を探しているんだよ」と言いながら、目の前に埋め尽くされた大量のレーベルステッカーを眺めて顔をしかめる彼に対し、眠たげな目をしたNTSのエンジニアが、室内の隅に置かれたコンピューター越しに一言。「他のステッカーの上に貼って大丈夫だろう」。するとRollmannは立ち上がり、少し皮肉交じりに次のように応えた。「僕はベジタリアンじゃないし、それほど他人の目を気にしているわけじゃないけど、それだけは絶対にやらない」

そのときDJをしていたのはKassem MosseことGunnar Wendelだった。Rollmannの他にその日のショーケース番組へ出演したWorkshipのアーティストは最終的に彼だけだった。移動トラブルや体調不良という理由で、WillowやIbrahim Alfa、そして、レーベル設立者のひとりLowtecが参加できなくなったのだ。しかし、その状況は何故か意外な気がしなかった。10年前の始動以来、Workshopの運営はとらえどころのないものだった。発表される異質な作品にタイトルが付けられることはほとんどなく、所属アーティストたちがギグに出演する機会は比較的少ない。レーベルの主要人物がインタビューを受けることも非常に稀で、みんなが揃ってひとつの場所に居合わせるなどあり得なかった。その日のラジオ番組は、同日の夜にCorsica Studiosで開催されたイベントと共に、そうしたあり得ない機会になるはずだった。イベントの方は引き続き予定通り行われるようだったが、ラジオ番組はEven TuellとKassem Mosseのみで行わなければならなくなった。

この状況にWendelはピリピリと気を張り詰めていた。「そんなにDJの準備をしてこなかったんだよなぁ。このUSBには適当に選んだ音楽しか入っていないよ」と話す彼がスクロールするCDJの画面には"KASSEM_MOSSE_PRESS_SHOTS"（プレス用写真）という文字が流れていた。しかし、ほどなくして彼はグルーヴを掴み取り、Pearson Soundの"Raindrops"や"ナイジェリアのブラスバンドObadikahのMark Ernestusによるリミックスをプレイしながら、スペーシーな雰囲気と微細に変化するリズムの隙間をかいくぐるようなDJを披露した。Rollmannが自分のレコードをかける準備をすると、Wendelは地味なトラックを少しの間かけ続けてもいいかと彼に尋ねた。するとRollmannは「ここでは完全に何をやってもいいんだよ！」と大げさなしぐさでWendelを促した。

日が落ち、小屋の外は暗くなっていた。顔を窓に押し当てて小屋の中を覗き込む通行人がいたが、ふたりのDJが目の前にいることに気付くとびっくりして窓から離れていた。ドアが開くとスケートボードの擦れる音が聞こえ、広場の匂いが漂ってきた。そして登場したのが、Resom名義で活動するDJであり、WorkshopのメンバーをブッキングしたNadine Moserだった。続いて、Jimmy Asquithが数人の関係者や友人と一緒に入ってきた。彼はLobster Thereminの設立者であり、Corsica Studiosで同日行われるイベントのホストを務めていた。みんなは室内を灯すDJブースの周りへちょっとしたオーディエンスのように群がった。Rollmannは人気の高いWorkshopのトラックをプレイすると（Even TuellとMidnightoperaによる限定12インチ「Workshop Special 02」のB2に収録されたタイトルなしのトラック）、Wendelは何故か乾いた笑みを浮かべていたが、Moserは目を閉じてトラックのグルーヴに浸りながら「名曲だね！」と叫んだ。

Kuhnは空港から直行でスタジオに向かったが、到着した頃は既にスタジオを離れなければいけない時間になっていた。NTS後に多忙なスケジュールが控えていたのだ。まず、Rollmannはトートバッグの共同制作を計画しているブランドとビジネスミーティングを行うことになっていた。彼はWorkshopの業務に加えてAirbag Craftworksというアパレルブランドを運営している。Corsica Studiosでは簡単なサウンドチェックがあり、その後、RollmannとKuhnはみんなと別れてMamuśkaで夕食を取ることになった。Corsica Studiosの近くにあるポーランド料理レストランMamuśkaをお勧めされたのだが、店内は少し騒がしく混み合っており、いわゆる"ロンドンの金曜日の夜"っぽく、酔っぱらった客が大声で語り合っていた。メガネをかけた40代のドイツ人ふたりが近所のクラブに出演するDJだとは、どこからどうみても思えなかっただろう。ふたりはビールを頼み、レストランの隅に腰かけ、Workshop設立当初のことを語ってくれた。

「すっごく昔のことだなぁ・・・」と話すRollmann。彼の言う「昔」とは正確に言えば、90年代初頭にあたる。ヒップホップ、エレクトロ、実姉の交際相手から借りたミックステープなど、彼は「自分がブレイクダンスできるものならなんでも」好きだったという。一方、KuhnはJoy DivisionとDepeche Modeを聴き込んでいた。その後、ベルリンの壁崩壊が起こり、レイヴミュージックが流行した。地方のレイブスポットとしてライプツィヒは盛り上がり、その勢いはふたりが住んでいた付近の村にまでやってきたそうだ（彼らは今もライプツィヒで暮らしている）。

「地元には面白いものがあったよ」と話すRollmannは、元養鶏場に入ったレコード店などを例に挙げてくれた。「あの時期のライプツィヒのシーンはすごくよかった。いろんなことが起こっていたし、とても活気のあるシーンだった。熱意や勢いがあったんだけど、その場その場で考えてやっていて、商業的に作られたパーティーとは違っていた」

Kuhnは次のように語る。「いい感じのクラブもたくさんあったよ。すごくいいDJもいた。パーティーに人がくることはそんなになかったけど、それがよかったんだよね」

「コネヴィッツに架かる橋の下で行われたパーティーがあって」と回想するのはRollmannだ。「そこではDJ Tillがプレイしていた。DJ Babnもいたね。みんなが自分の思いや祝祭への欲求をそういうパーティーで表していて、勢いが生まれていた」

田舎の若い人たちは毎週末のように4～5時間かけてドライブしてベルリンやフランクフルトのパーティーへ出かけていき、そのときに味わった体験を地元のシーンに持ち帰っていたのだという。数年の間はそれでよかったものの、しばらくすると別の衝動が生じることになった。Kuhnは次のように語る。「あるとき、消費するだけじゃなくて自分たちのものを打ち出していこうと思ったんだ」

「僕たちはすごく若かった」とRollmannが語る。「18歳か19歳。何か違うものを探し求めていたんだよ。特別な瞬間。特別な雰囲気をね。そういう要素があるものだったら何だって試してみた。パーティーを企画して、僕たちの好きな音楽を制作したり、プレイしたりする人たちを集めようとしたね。自分たちが楽しめるものを作ろうと積極的に行動していると『これで間違いない』っていう気持ちになる」

Kuhnは仲間と一緒にR.A.N.D. Musikを設立した。United States Of Mars、Science City、3B、そして、Kuhn自身によるレーベルOut To Lunchを含む複数のレーベルの母体となる組織がR.A.N.D. Musikだ。さらに彼は友人のMarvin Dashと共にLowtecとして音楽制作を始めた（Lowtecは後にKuhnのソロプロジェクトとなる）。当初からKuhnの音楽制作は、控えめな性格の彼からは想像もできないほど型破りなものだった。Lowtecのファーストアルバム『The Early Portrait』は、発表から20年が経った今も大胆な印象であり続ける強烈な作品だ。彼のソロ作品はどれも予測不可能なものばかりで、"Elephant Running"のように太く重々しいトラックがあれば、「Workshop 06」の"B2"のようにほとんど気配を感じさせない微かなトラックもある。

Kuhnがプロデューサー／レーベルマネジャーとして新たな一歩を踏み出した際、同時に彼は技術者になるための勉強をしていた（Lowtecの処女作が発表されたのは、彼が大学に通っているときだ）。一方、RollmannはAirbag Craftworksを軌道に乗せ始めていた。同ブランド初めて発表したアイテムは廃棄されたエアーベッドから作ったDJバッグだった。

「ドイツの人は年に2回、古い家具を捨てるんだよ」とKuhnが説明する。「自宅前の歩道に置いておけば、金属とか木片とか必要なものを探している通行人が持っていく。Paul David Rollmannにとって必要だったのはエアーベッドだったってこと。90年代中盤、エアーベッドはいたるところに捨てられていたからね。今じゃあり得ないけど」

年月の経過とともにAirbag Craftworksはアパレルブランドへと拡大していった（後にWorkshopを象徴するTシャツを手掛けるようになった他、「vinyl kills the mp3 industry」や「good music I dance. no good music I not dance」というプリントは一部で話題になっている）。しかし、ビジネスの主軸は今でもDJバッグだ。エレガントなミニマルデザインのバッグChateau Vinylがその要となっている。

KuhnとRollmannが生涯のキャリアとなるものを築き上げていくにつれ、ふたりは個別に音楽業界との関係を保ちながら、いつか一緒にレーベルをやろうと話し合っていた。そのチャンスが訪れるのに時間はかからなかった。

「R.A.N.D.のレーベルが徐々に無くなっていって、僕が全面的にサポートできるレーベルをひとつ作ってみてもいいかもって思うようになった」とKuhnが語る。そうして彼は気負うことのないサイドプロジェクトとしてWorkshopを始動した。最初のEPで彼らはレーベルの方向性を見事に提示してみせた。活き活きとしたトリッピーなハウストラック3曲。Lowtecが全曲プロデュースし、トラックタイトルはつけられておらず、盤にはニューヨークの信号機サインに似た人物のスタンプが押されている。作品の流通手段がなかった彼は、自分を奮い立たせてHard Waxに連絡をしたそうだ。

「Torsten（Hard Waxのバイヤー）に新しいレーベルの流通をやりたいかどうか聞いてみたんだ。そうしたらTorstenに『無理ですね。うちの流通は新たにレーベルを増やしていなくて、少数の身内でやっているから』って言われたよ。でも『分かりました。いずれにせよトラックを聞いてもらいたいので送ります』って言ってTorstenにトラックを送ったら、『300枚買います』とだけ書かれた短いメールが返ってきたんだ。すぐに売り切れになったから、さらに300枚をオーダーして、また売り切れてさらにオーダーして、っていう状態が続いたよ。だから、結構偶然に近い感じでレーベルが動きだしたんだ」

それから少し時間が経ってからRollmannとKuhnは手を組むことになり、Workshopの大まかなプランを一緒に考えたという。Rollmannは次のように語る。「ふたりで『自分がクラブでかけたくなるダンストラックをどのレコードにも収録したほうがいい』って話し合ったのを覚えている。でもそれだと変わった音楽ってことになるんだけどね。僕らふたりは普通とは違うクラブ体験やレイヴ体験をしたと思っていて、例えば、フランクフルトのXSっていうクラブでClaude Youngがパワフルなセッション系のディープハウスをかけていて、フロアには50～60人くらいいたのかな。みんなで狂った猿みたいに跳ね回っていたよ」

さらにKuhnが次のように加える。「2週間前もそうだったよ。一緒に出演していたDJ Sprinklesが自分のトラックをものすごく遅いスピードでプレイして観客を虜にしていた。すごく雰囲気があって素晴らしかった」

ふたりにとっていわゆるクラブトラックとは、例えばfabricやPanorama Barのようなクラブのフロアというよりも、こうした特異な状況に触発されたものになるのだろう。Rollmannは次のように語る。「僕らは単にピークタイムのトラックを生み出そうとしているわけじゃない。僕らが一番好きなのは、パーティーの序盤や終盤にかけられる音楽なんだ。あと、いろんな状況の中間地点で使える音楽がいい。いろんなことが起こりうる可能性があって、そこからいろんな展開をつけていける場面があるでしょ。そういう中間地点が一番面白い」

「Workshop 02」を例に挙げてみよう。同EPを手掛けたのはKuhnと旧知の仲であるMove DことDavid Moufangだ。90年代にMoufangが運営していたSource RecordsはLowtecの1枚目と2枚目のアルバムをリリースしている。「Workshop 02」でMoufangは、頻繁にコラボレーションを行っているひとりThomas Meineckeと制作を行った（MeineckeはDJ Latéという名前を使っている）。ふたりが世に送り出したのは変化球のクラブトラック2曲と、現在もWorkshop屈指のトラックであり続けている"Computer Flop"だ。クワイエットストーム的なハウストラックである"Computer Flop"がしっくりくるレーベルはWorkshop以外には存在しないだろう。

続くレコードを手掛けたのはGunnar Wendelだった。当時から10年前にKuhnは前述したコネヴィッツの橋の下で行われたイベントで彼と知り合っていたが、ふたりが関係を深めたのはWendelがAirbag Craftworksのコンピレーション用にデモを送ってきてからだった。Wendelにとって初めてのソロ作品となった「Workshop 03」は終末後の澱んだ雰囲気が漂うハウストラック3曲により、レーベルのサウンドのダークな一面を拡張した。そのうちの2曲はBPM110を下回り、残りの1曲は途中で突然アンビエントへと消滅していく殺伐と荒廃のダンストラックだ。

そこからWorkshopのサウンドは有機的に拡張していった。ReagenzやMagic Mountain HighといったMoufangのサイドプロジェクトによるLPをリリースした他、様々な音楽要素を含んだミニコンピレーションでは、WillowやTapesといった無名だったアーティストのキャッチーなボーカルハウスやレゲエクラシック"Somebodies Baby"のディストーション・カバーなどがひとつのパッケージにまとめられた。熱心なファンたちが増え続け、スタンプを押されたレコードが世界へ送り出されるとファンたちは即座に飛びついた。

その間、KuhnとRollmannはマイペースを貫いていた。彼らが自分から音源を探すようなことは一度もなく、友人たちを通じて彼らのもとに音源が届けられていた。新作リリースは年に1～2回。これについてRollmannは次のように語る。「そのくらいのペースでレコードを出すのがちょうどいいと思っていた。どのリリースも間隔を空けておいたほうがいい」。しかし、そこには現実的な理由も関係していた。KuhnとRollmannは日中の仕事を続けており、ふたりともその状況を変えるつもりは無かったのだ。

「これにはいくつか理由があるんだ」とKuhnは体を筆者の方に乗り出すようにして話す。Mamuśkaにいた団体客が「ハッピーバースデー」と大きな声で合唱し始めたためだ。「まず、僕は今の仕事を気に入っている。僕は自動車開発企業の技術者だし、普通に生活をしていて、平日はまったく時間がない」

「このビール、めちゃくちゃキツいんだけど。飲めないよ！」と会話に割り込んできたRollmannはビールグラスをテーブルに突き出した。

Kuhnは続ける。「ふたつ目は、僕は音楽で稼いで生活したくないってこと。クラブでプレイするために毎週末移動しないといけなくなるだろ。それは嫌だ。友達と一緒のパーティーとか、自分の好きなクラブのパーティーだけがいい。出演料だけでやっていこうとしたら、1年中ギグに出演しないといけない。それでも上手くいくかもしれないけど、本当にいいギグって全体の3割なんじゃないかな。僕らがやっていることは音楽的にすごくニッチだし、僕らに適したイベントってそんなに無い。それに、ギグを得るためにレーベルを利用していたら、レーベルから出す音楽に影響を与えることになってしまう。たとえば、Willowのレコードみたいなものは出さなくなるかもしれない。クラブで確実に機能するトラックは1曲しかあのレコードに入っていないからね」

Rollmannは次のように語る。「掛け持ちだと、上手くバランスを取りながらやっていくことになる。昼間にやっているデザインの仕事では集中力やすごく技術的なことが求められる場合もある。その引き換えに週末は完全に音楽をやっていられるし、昔の友達に会ったり、素敵なところへ行ったり、すごくインスピレーションを得たりすることができる。そうやって得たエネルギーを日常に還元するんだ。音楽をすることやいろんなところへ行くことはすごく刺激的だよ」

Kuhnは次のように語る。「僕らふたりにとって音楽はとても有意義でポジティブなものなのかも。音楽をやっていて、『ああ、もう二度とごめんだ』って思ったり、イライラしたことなんて一度もない。自分を追い込んで音楽をやるくらいなら、すべてを無かったことにした方がいい。僕らのやり方は無理に加速し過ぎないようにするって感じかな」。これを言い換えるなら、疲弊して燃え尽きないようにするということになるだろう。

Rollmannは少し考えてから次のように語る。「音楽を心から好きと思える状態でいたいだけ。ひとりの音楽ファンでいなきゃ。90年代、僕たちは音楽ファンだった。今でもそう。単に音楽が好きなんだよ」

Kuhnはとても嬉しそうな雰囲気で次のように語る。「僕はHard Waxでレコードを買っているんだけど、注文したものとは別にHard Waxのオススメのレコードを一緒に送ってくれるんだ。送られてきたレコードを受けとって開封するときは、すごくワクワクする」

「クリスマスみたいにね」

「20年前と同じように」

「今も昔も全然変わっていない。新しいレコードをターンテーブルに乗せるときのあの暖かい感覚には今でもワクワクする。ということは、音楽制作やDJで僕らは今も自分たちに響くサウンドを探し続けているのかも。DJや音楽制作をしているときに追い求めているものがあるんだと思う。感動するんだけど、その理由を言葉で上手く表せないことってあるでしょ。その感覚を味わえるものっていうか」

Kuhnは次のように語る。「誰かが定義できるようなものじゃないよ」

「それに、僕らはファストフードみたいな作品でよく使われているような安直な音やエフェクトをすべて取り除こうとしている。ものすごく機能的なパーティートラックのアレンジを楽しめるときもあるし、レイヴィーなサウンドを聞きたいときもあるけど、中には気持ちいいと思えなくて受け入れられない周波数や音があるんだ。僕らがそういうものをプレイすることはない。そもそも買わない」

Kuhnは次のように続ける。「100%素晴らしいと思えるレコード以外は絶対にクラブへ持っていかない」

Rollmannは顔をしかめて次のように語る。「99%ってことにしておこうよ」

このやり取りからWorkshopの「定義できない感覚」が読み取れる。良いも悪いも含めて多くのレーベルは主宰するアーティストのキャリア形成の一部になっているところがあり、往々にして、ブッキング増加につながるプロモーション手段として業界を意識した戦略的要因からリリースが決定されるものだ。Workshopにはそうした要素が一切含まれない。設立者たちがレーベルを何かの手段として考えているわけではないため、あらゆることが可能になる。好きなものであれば、自分たちの音楽キャリアへ及ぶ影響や作品への反応などを気にすることなくリリースする。彼らが音楽をキャリアとして考えることなどないのだ。むしろボーナス的なものとして、リスクの少ないアプローチを取ることで音楽業界の需要に応えるために自分たちの音楽的嗜好を歪めなくてすんでいる。そもそも彼らは音楽業界の中心ではなく、その周辺で活動してきたにすぎない。

Kuhnの予想した約3割のパーティーでしか機能しないサウンドをプッシュしていくには、もちろん不利な点もある。Corsica Studiosでのイベントがそのことを裏付けているように思う。メインルームでオープニングを務めたのは、Workshopと無関係のDJであるLock Eyesだった。オープン直後から彼はフロアが満員であるかのようなプレイをしたため、Lowtecのセットは柄にもなく速いテンポで仰々しく感じられるものになってしまった。セカンドルームではRollmannが抑制の効いたグルーヴで素晴らしいセットを展開し、ぽつぽつと観客が入ってきていた。しかし、観客は若く、そして、酔っぱらっており、静かな展開になったときに「これじゃ寝ちゃう！」と叫ぶ人がいた。そこでRollmannはすぐにSoundstreamの"Live Goes On"をかけて少し勢いをつけると、歓声があがり、Shazamで曲を調べる人がいた。ところが、Rollmannに続いたIbrahim Alfaはセカンドルームから観客を一掃することになった。そこにいた多くの人にとって彼のセットはあまりにも粗削りで高速過ぎたのだ。最終的にパーティーが軌道に乗り出したのは、WillowやResom、そしてKassem Mosseが活性の高いフロアに対して楽しげにパフォーマンスを披露してからだった。しかし、上手く盛り上がったイベントであったとしても、Workshopのバイブスはやはり捉えどころのないものだった。

それにもかかわらず、照明が点くと、最後まで残っていた熱心なファンたちの全員が笑顔を見せ、この次はどこへ行こうかとフロアを歩き回っていた。Kuhn、Rollmann、そして、Wendelはフロア後方に立ち、Moserは自分のレコードを片付けていた。その日の午前中に彼らはブリストルへ飛び、LowtecとKassem Mosseは初めて一緒にライブをすることになっていた。数週間後、Moserがそのギグの様子について教えてくれた。

「異世界だった。80人くらいしかいなかったんじゃないかな。会場がすごく小さかったから。でもすごく楽しくて、ふたりの生み出す音楽に感謝した瞬間だった。私はWorkshopが大好きだから、これまでの姿勢を変えないで欲しい！」そう思っているのは彼女だけではないだろう。

Label of the month mix

未発表音源、最近のお気に入り、さらに、フィールドレコーディングをミックス。Lowtecが体現するWorkshopサウンド。

Tracklist /
Interlude - unreleased
David Moufang & Thomas Meinecke - Houston - Forthcoming on Ominira
Willow - A1 - Workshop
Interlude - Forthcoming on Workshop
Field Recording Manchester Cab
Kassem Mosse - Forthcoming on Out To Lunch
Field Recording Melbourne Traffic Lights
D Man - Cream Test - Unreleased
D Man - Trail - Unreleased
Ibrahim Alfa - We Can Never Go Home... - Workshop
Intermezzo - Unreleased
Positronic Dreams - Forthcoming on Workshop
Km And Lt - Jam - Unreleased
Even Tuell - They Call Me Raver - Unreleased